19 / 38
古井戸の底から現れたもの 〜薬草探索は予想外の冒険に〜
しおりを挟む
秋の気配が増していく気配が、雲渓村にも忍び寄っていた。
澄んだ空気のなか、霧雲堂では朝の一杯「温潤茶(ウンジュンチャ)」が人気となり、近頃では「風邪の予防に効く」と評判だった。
そんなある日、シュウとシャオケイは新たな薬草を探しに村の外れ、森の中へと出かけていた。
「先生、本当にこのあたりに“霊蘭”が生えてるんですか?」
「昔、山に住んでいた医仙が“月明かりの落ちる谷底の井戸”に、霊蘭の種を植えたという話があるようでして。まあ、古い伝承ですが、可能性はありますよ」
「伝承……先生って、そういう話好きですよね」
「薬草にまつわる昔話には、真実が混ざってることが多いですからね。それに周辺の植生も知ることができますから、無駄ではありませんよ」
二人は岩を伝い、苔むした小道を抜けていく。
やがて、木々の間からぽっかりと開けた空間が現れた。そこには確かに、苔に覆われた古びた井戸があった。
「うわぁ……これ、何百年前のものなんでしょう?」
「少なくとも二百年は経ってるでしょうね。井戸の構造がかなり古いですから」
シュウは石縁から井戸の中を覗いた。
「……底に、何か光ってますね。水じゃない、草の葉か?」
「まさか、霊蘭……?」
シャオケイが目を輝かせる。
「井戸に降りましょう。滑るからロープを結んでください」
「また危ないことをさらっと……!」
しばらくして。
井戸の底には、確かに白銀に光る葉を持つ草が生えていた。その名も、霊蘭(レイラン)。
寒気を取り除き、気を巡らせるとされる希少薬草だ。
「やはり、本当にありましたか……伝承も馬鹿にできませんね」
シュウが満足げに頷く。だが、彼の視線は草の奥――壁際に積まれた古い木箱へと向いた。
「ん? これは……」
木箱には錆びた錠がかかっていたが、腐食が進んでいたため、あっさり外れた。
中には巻物が三本と、砕けた陶器の破片、そして、重厚な銀の容器がひとつ。
シュウは巻物を取り出し、ざっと目を通した。
「これは……失われた“太清丹方(タイセイタンポウ)”の写し……? 中級以上の錬丹術士でも難しい古代処方ですね。しかし精妙な構成だな……」
「先生、難しい顔してるとシワ増えますよ」
「失礼な、増えてませんよ」
そんな軽口を交わしながらも、シュウの手はどこか興奮気味だった。
「この丹方……村の医療水準を底上げできる可能性があります。応用すれば、慢性的な呼吸器疾患にも対応できそうです」
「すごい……! じゃあ、これをもとにまた新しい薬茶を……!」
シャオケイの目もきらきらと輝いていた。
思わぬ発見に胸を高鳴らせながら、二人は井戸の底から戻り、霊蘭と丹方を大事そうに抱えて村への帰路についた。
その夜。
霧雲堂では、さっそく「霊蘭香茶(レイランコウチャ)」の試作が始まった。
シュウが丁寧に乾燥させた霊蘭の葉を焙じ、キンモクセイやウーロンと組み合わせて香りを調える。
「……うん、これはよく眠れる」
テーブルでは、シャオケイとリンリンがほかほかの茶を飲んで、ふぅっと息をついていた。
戸口では、またしてもカクエンが香りに釣られてふらりと現れる。
「なんじゃ、今日の茶はずいぶんと……高級な香りがするのう?」
「先生と私で見つけた新作です。霊蘭っていうすごい薬草なんですよ!」
「へぇ、そうか……おぬしら、また一歩“仙人”に近づいたな」
カクエンの笑みはいつになく穏やかで、ほんの少し寂しそうにも見えた。
霧が降り始めた夜。
霧雲堂の小さな囲炉裏には、香り高い湯気が立ち上り、秋の気配が満ちていた。
澄んだ空気のなか、霧雲堂では朝の一杯「温潤茶(ウンジュンチャ)」が人気となり、近頃では「風邪の予防に効く」と評判だった。
そんなある日、シュウとシャオケイは新たな薬草を探しに村の外れ、森の中へと出かけていた。
「先生、本当にこのあたりに“霊蘭”が生えてるんですか?」
「昔、山に住んでいた医仙が“月明かりの落ちる谷底の井戸”に、霊蘭の種を植えたという話があるようでして。まあ、古い伝承ですが、可能性はありますよ」
「伝承……先生って、そういう話好きですよね」
「薬草にまつわる昔話には、真実が混ざってることが多いですからね。それに周辺の植生も知ることができますから、無駄ではありませんよ」
二人は岩を伝い、苔むした小道を抜けていく。
やがて、木々の間からぽっかりと開けた空間が現れた。そこには確かに、苔に覆われた古びた井戸があった。
「うわぁ……これ、何百年前のものなんでしょう?」
「少なくとも二百年は経ってるでしょうね。井戸の構造がかなり古いですから」
シュウは石縁から井戸の中を覗いた。
「……底に、何か光ってますね。水じゃない、草の葉か?」
「まさか、霊蘭……?」
シャオケイが目を輝かせる。
「井戸に降りましょう。滑るからロープを結んでください」
「また危ないことをさらっと……!」
しばらくして。
井戸の底には、確かに白銀に光る葉を持つ草が生えていた。その名も、霊蘭(レイラン)。
寒気を取り除き、気を巡らせるとされる希少薬草だ。
「やはり、本当にありましたか……伝承も馬鹿にできませんね」
シュウが満足げに頷く。だが、彼の視線は草の奥――壁際に積まれた古い木箱へと向いた。
「ん? これは……」
木箱には錆びた錠がかかっていたが、腐食が進んでいたため、あっさり外れた。
中には巻物が三本と、砕けた陶器の破片、そして、重厚な銀の容器がひとつ。
シュウは巻物を取り出し、ざっと目を通した。
「これは……失われた“太清丹方(タイセイタンポウ)”の写し……? 中級以上の錬丹術士でも難しい古代処方ですね。しかし精妙な構成だな……」
「先生、難しい顔してるとシワ増えますよ」
「失礼な、増えてませんよ」
そんな軽口を交わしながらも、シュウの手はどこか興奮気味だった。
「この丹方……村の医療水準を底上げできる可能性があります。応用すれば、慢性的な呼吸器疾患にも対応できそうです」
「すごい……! じゃあ、これをもとにまた新しい薬茶を……!」
シャオケイの目もきらきらと輝いていた。
思わぬ発見に胸を高鳴らせながら、二人は井戸の底から戻り、霊蘭と丹方を大事そうに抱えて村への帰路についた。
その夜。
霧雲堂では、さっそく「霊蘭香茶(レイランコウチャ)」の試作が始まった。
シュウが丁寧に乾燥させた霊蘭の葉を焙じ、キンモクセイやウーロンと組み合わせて香りを調える。
「……うん、これはよく眠れる」
テーブルでは、シャオケイとリンリンがほかほかの茶を飲んで、ふぅっと息をついていた。
戸口では、またしてもカクエンが香りに釣られてふらりと現れる。
「なんじゃ、今日の茶はずいぶんと……高級な香りがするのう?」
「先生と私で見つけた新作です。霊蘭っていうすごい薬草なんですよ!」
「へぇ、そうか……おぬしら、また一歩“仙人”に近づいたな」
カクエンの笑みはいつになく穏やかで、ほんの少し寂しそうにも見えた。
霧が降り始めた夜。
霧雲堂の小さな囲炉裏には、香り高い湯気が立ち上り、秋の気配が満ちていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
異世界でホワイトな飲食店経営を
視世陽木
ファンタジー
定食屋チェーン店で雇われ店長をしていた飯田譲治(イイダ ジョウジ)は、気がついたら真っ白な世界に立っていた。
彼の最後の記憶は、連勤に連勤を重ねてふらふらになりながら帰宅し、赤信号に気づかずに道路に飛び出し、トラックに轢かれて亡くなったというもの。
彼が置かれた状況を説明するためにスタンバイしていた女神様を思いっきり無視しながら、1人考察を進める譲治。
しまいには女神様を泣かせてしまい、十分な説明もないままに異世界に転移させられてしまった!
ブラック企業で酷使されながら、それでも料理が大好きでいつかは自分の店を開きたいと夢見ていた彼は、はたして異世界でどんな生活を送るのか!?
異世界物のテンプレと超ご都合主義を盛り沢山に、ちょいちょい社会風刺を入れながらお送りする異世界定食屋経営物語。はたしてジョージはホワイトな飲食店を経営できるのか!?
● 異世界テンプレと超ご都合主義で話が進むので、苦手な方や飽きてきた方には合わないかもしれません。
● かつて作者もブラック飲食店で店長をしていました。
● 基本的にはおふざけ多め、たまにシリアス。
● 残酷な描写や性的な描写はほとんどありませんが、後々死者は出ます。
#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について
国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”
人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!
貞操逆転世界の「内助の功」~掃除と料理を極めた俺が、脳筋幼馴染を女王にするまで~
ありゃくね
ファンタジー
前世の記憶が目覚めたそこは、男女の貞操が逆転した異世界だった。
彼が繰り出すのは、現代知識を活かした「お掃除アイテム」、そして胃袋を掴む「絶品手料理」。 ただ快適に暮らしたいだけのマシロの行動は、男に飢えた女騎士たちを狂わせ、国の常識さえも変える一大革命へと繋がっていく。
貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!
Levi
ファンタジー
前世は日本で超絶貧乏家庭に育った美樹は、ひょんなことから異世界で覚醒。そして姫として生まれ変わっているのを知ったけど、その国は超絶貧乏王国。 美樹は貧乏生活でのノウハウで王国を救おうと心に決めた!
※エブリスタさん版をベースに、一部少し文字を足したり引いたり直したりしています
【完結】元Sランク受付嬢の、路地裏ひとり酒とまかない飯
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
ギルド受付嬢の佐倉レナ、外見はちょっと美人。仕事ぶりは真面目でテキパキ。そんなどこにでもいる女性。
でも実はその正体、数年前まで“災厄クラス”とまで噂された元Sランク冒険者。
今は戦わない。名乗らない。ひっそり事務仕事に徹してる。
なぜって、もう十分なんです。命がけで世界を救った報酬は、“おひとりさま晩酌”の幸福。
今日も定時で仕事を終え、路地裏の飯処〈モンス飯亭〉へ直行。
絶品まかないメシとよく冷えた一杯で、心と体をリセットする時間。
それが、いまのレナの“最強スタイル”。
誰にも気を使わない、誰も邪魔しない。
そんなおひとりさまグルメライフ、ここに開幕。
田舎おじさんのダンジョン民宿へようこそ!〜元社畜の俺は、民宿と配信で全国初のダンジョン観光地化を目指します!〜
咲月ねむと
ファンタジー
東京での社畜生活に心身ともに疲れ果てた主人公・田中雄介(38歳)が、故郷の北海道、留咲萌町に帰郷。両親が遺したダンジョン付きの古民家を改装し、「ダンジョン民宿」として開業。偶然訪れた人気配信者との出会いをきっかけに、最初の客を迎え、民宿経営の第一歩を踏み出す。
笑えて、心温かくなるダンジョン物語。
※この小説はフィクションです。
実在の人物、団体などとは関係ありません。
日本を舞台に繰り広げますが、架空の地名、建造物が物語には登場します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる