追放された宮廷錬丹術士、山奥で仙人ライフ始めます 〜薬草を煎じてるだけなのに、王女や弟子が次々やってくる件〜

甘夏蜜柑

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古井戸の底から現れたもの 〜薬草探索は予想外の冒険に〜

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 秋の気配が増していく気配が、雲渓村にも忍び寄っていた。
 澄んだ空気のなか、霧雲堂では朝の一杯「温潤茶(ウンジュンチャ)」が人気となり、近頃では「風邪の予防に効く」と評判だった。

 そんなある日、シュウとシャオケイは新たな薬草を探しに村の外れ、森の中へと出かけていた。

「先生、本当にこのあたりに“霊蘭”が生えてるんですか?」

「昔、山に住んでいた医仙が“月明かりの落ちる谷底の井戸”に、霊蘭の種を植えたという話があるようでして。まあ、古い伝承ですが、可能性はありますよ」

「伝承……先生って、そういう話好きですよね」

「薬草にまつわる昔話には、真実が混ざってることが多いですからね。それに周辺の植生も知ることができますから、無駄ではありませんよ」

 二人は岩を伝い、苔むした小道を抜けていく。
 やがて、木々の間からぽっかりと開けた空間が現れた。そこには確かに、苔に覆われた古びた井戸があった。

「うわぁ……これ、何百年前のものなんでしょう?」

「少なくとも二百年は経ってるでしょうね。井戸の構造がかなり古いですから」

 シュウは石縁から井戸の中を覗いた。

「……底に、何か光ってますね。水じゃない、草の葉か?」

「まさか、霊蘭……?」

 シャオケイが目を輝かせる。

「井戸に降りましょう。滑るからロープを結んでください」

「また危ないことをさらっと……!」

 しばらくして。

 井戸の底には、確かに白銀に光る葉を持つ草が生えていた。その名も、霊蘭(レイラン)。
 寒気を取り除き、気を巡らせるとされる希少薬草だ。

「やはり、本当にありましたか……伝承も馬鹿にできませんね」

 シュウが満足げに頷く。だが、彼の視線は草の奥――壁際に積まれた古い木箱へと向いた。

「ん? これは……」

 木箱には錆びた錠がかかっていたが、腐食が進んでいたため、あっさり外れた。
 中には巻物が三本と、砕けた陶器の破片、そして、重厚な銀の容器がひとつ。

 シュウは巻物を取り出し、ざっと目を通した。

「これは……失われた“太清丹方(タイセイタンポウ)”の写し……? 中級以上の錬丹術士でも難しい古代処方ですね。しかし精妙な構成だな……」

「先生、難しい顔してるとシワ増えますよ」

「失礼な、増えてませんよ」

 そんな軽口を交わしながらも、シュウの手はどこか興奮気味だった。

「この丹方……村の医療水準を底上げできる可能性があります。応用すれば、慢性的な呼吸器疾患にも対応できそうです」

「すごい……! じゃあ、これをもとにまた新しい薬茶を……!」

 シャオケイの目もきらきらと輝いていた。
 思わぬ発見に胸を高鳴らせながら、二人は井戸の底から戻り、霊蘭と丹方を大事そうに抱えて村への帰路についた。

 その夜。

 霧雲堂では、さっそく「霊蘭香茶(レイランコウチャ)」の試作が始まった。
 シュウが丁寧に乾燥させた霊蘭の葉を焙じ、キンモクセイやウーロンと組み合わせて香りを調える。

「……うん、これはよく眠れる」

 テーブルでは、シャオケイとリンリンがほかほかの茶を飲んで、ふぅっと息をついていた。

 戸口では、またしてもカクエンが香りに釣られてふらりと現れる。

「なんじゃ、今日の茶はずいぶんと……高級な香りがするのう?」

「先生と私で見つけた新作です。霊蘭っていうすごい薬草なんですよ!」

「へぇ、そうか……おぬしら、また一歩“仙人”に近づいたな」

 カクエンの笑みはいつになく穏やかで、ほんの少し寂しそうにも見えた。

 霧が降り始めた夜。
 霧雲堂の小さな囲炉裏には、香り高い湯気が立ち上り、秋の気配が満ちていた。
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