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弟子の弟子? カリンの修業体験
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「よし、今日は山へ薬草採りに行きますよ。シャオケイ、準備はいいですか?」
「はい、先生! あ、でも……その……」
朝の霧雲堂。珍しくシャオケイが言い淀んでいた。
その隣では、にこにこ顔のカリンが腰に薬籠を巻きつけている。
「私も行くわ。フィールドワークって、基本でしょ?」
シュウが眉をしかめた。
「カリン、薬草採りは泥まみれになりますよ。王女様が遊び半分で――」
「先生。私は今、“弟子の弟子”として学びに来てるんですから」
きっぱりと答えるカリンに、シャオケイがあわててフォローを入れる。
「その、カリン様が本気でやるっていうので……今日一日、私の指導で動くってことで、お願いします!」
「……ふむ。いいでしょう。では、シャオケイ。あなたが“弟子の弟子”をきちんと指導できるか、見せてください」
「はいっ!」
こうして始まった、カリンの“修業体験”。
いつもは優雅な振る舞いを見せる王女も、この日は泥と汗まみれになって、村の山道を歩いていた。
朝の十時、村はずれの薬草採取地。
川沿いの斜面には、春の薬草がちらほらと顔を出している。
「まずは“甘草”を探します。葉が卵形で、根っこが甘いのが特徴です」
「えっと……これ? あ、違う。こっちはトリカブトね……!」
「わあ! それは危ないから抜かないで!」
シャオケイが慌てて止めに入り、カリンがバツの悪そうに手を引っ込めた。
「王宮じゃ、危険な草は“見るだけ”って教わってたから……触ったの、初めて」
「……すごいですね。私なんて、最初は皆から“毒味役”ってからかわれたのに」
二人は顔を見合わせて、くすくすと笑った。
その後も、カリンは泥に足を取られたり、手袋を片方落としたり、虫に驚いて叫んだりと大忙し。
だが、どれだけ失敗しても、決して顔をしかめず、むしろ楽しそうだった。
「王宮の中じゃ、何をしても“正しく、美しく”って言われ続けてたの」
「じゃあ、今のカリン様は?」
「泥だらけで、草の匂いまみれで、間違いだらけ。でも、すごく自由で、正しいって感じるの」
カリンは両手を広げて空を仰いだ。
「“薬草を学ぶ”って、こういうことだったのね。生きてるって感じがするわ」
昼下がり。収穫を終え、霧雲堂の庭で乾燥の作業に入る。
「わ、これは立派な“霊蘭”ですね! 大きくて香りもいい!」
「ふふ、褒められた!」
シャオケイが嬉しそうにカリンの籠を覗き込むと、そこにはしっかり採取された薬草がいくつも並んでいた。
初めてにしては上出来だ。泥まみれの手で、慎重に選んだ証拠だろう。
「……ねえ、シャオケイ」
「はい?」
「いつか、王宮でもこういう霧雲堂みたいな薬茶のお店、できるかしら?」
不意に問いかけたカリンの目は真剣だった。
「薬草を通して、人と人があったかくなれる場所。この村みたいに静かで、心が休まるお店。
それを、王都の人にも知ってもらいたいの」
「……きっとできます。今のカリン様なら、絶対に!」
シャオケイの言葉に、カリンは柔らかく微笑んだ。
「ありがとう。……師匠の弟子さんは、頼りになるわね」
「ふふ、“弟子の弟子”ですから!」
その日、シュウは二人が持ち帰った薬草の山を前に、静かにうなった。
「これは……想像以上ですね」
泥だらけのカリンの姿に、かつて王宮で見た“ガラス細工の姫君”の面影はなかった。
そこにいたのは、土に根を下ろし、真っすぐに立つ一人の“薬師の卵”だった。
「はい、先生! あ、でも……その……」
朝の霧雲堂。珍しくシャオケイが言い淀んでいた。
その隣では、にこにこ顔のカリンが腰に薬籠を巻きつけている。
「私も行くわ。フィールドワークって、基本でしょ?」
シュウが眉をしかめた。
「カリン、薬草採りは泥まみれになりますよ。王女様が遊び半分で――」
「先生。私は今、“弟子の弟子”として学びに来てるんですから」
きっぱりと答えるカリンに、シャオケイがあわててフォローを入れる。
「その、カリン様が本気でやるっていうので……今日一日、私の指導で動くってことで、お願いします!」
「……ふむ。いいでしょう。では、シャオケイ。あなたが“弟子の弟子”をきちんと指導できるか、見せてください」
「はいっ!」
こうして始まった、カリンの“修業体験”。
いつもは優雅な振る舞いを見せる王女も、この日は泥と汗まみれになって、村の山道を歩いていた。
朝の十時、村はずれの薬草採取地。
川沿いの斜面には、春の薬草がちらほらと顔を出している。
「まずは“甘草”を探します。葉が卵形で、根っこが甘いのが特徴です」
「えっと……これ? あ、違う。こっちはトリカブトね……!」
「わあ! それは危ないから抜かないで!」
シャオケイが慌てて止めに入り、カリンがバツの悪そうに手を引っ込めた。
「王宮じゃ、危険な草は“見るだけ”って教わってたから……触ったの、初めて」
「……すごいですね。私なんて、最初は皆から“毒味役”ってからかわれたのに」
二人は顔を見合わせて、くすくすと笑った。
その後も、カリンは泥に足を取られたり、手袋を片方落としたり、虫に驚いて叫んだりと大忙し。
だが、どれだけ失敗しても、決して顔をしかめず、むしろ楽しそうだった。
「王宮の中じゃ、何をしても“正しく、美しく”って言われ続けてたの」
「じゃあ、今のカリン様は?」
「泥だらけで、草の匂いまみれで、間違いだらけ。でも、すごく自由で、正しいって感じるの」
カリンは両手を広げて空を仰いだ。
「“薬草を学ぶ”って、こういうことだったのね。生きてるって感じがするわ」
昼下がり。収穫を終え、霧雲堂の庭で乾燥の作業に入る。
「わ、これは立派な“霊蘭”ですね! 大きくて香りもいい!」
「ふふ、褒められた!」
シャオケイが嬉しそうにカリンの籠を覗き込むと、そこにはしっかり採取された薬草がいくつも並んでいた。
初めてにしては上出来だ。泥まみれの手で、慎重に選んだ証拠だろう。
「……ねえ、シャオケイ」
「はい?」
「いつか、王宮でもこういう霧雲堂みたいな薬茶のお店、できるかしら?」
不意に問いかけたカリンの目は真剣だった。
「薬草を通して、人と人があったかくなれる場所。この村みたいに静かで、心が休まるお店。
それを、王都の人にも知ってもらいたいの」
「……きっとできます。今のカリン様なら、絶対に!」
シャオケイの言葉に、カリンは柔らかく微笑んだ。
「ありがとう。……師匠の弟子さんは、頼りになるわね」
「ふふ、“弟子の弟子”ですから!」
その日、シュウは二人が持ち帰った薬草の山を前に、静かにうなった。
「これは……想像以上ですね」
泥だらけのカリンの姿に、かつて王宮で見た“ガラス細工の姫君”の面影はなかった。
そこにいたのは、土に根を下ろし、真っすぐに立つ一人の“薬師の卵”だった。
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