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弟子とふたりで厨房修行!~初めての晩ごはん当番~
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「……今日の夕飯、私とシャオケイで作ってみてもいいでしょうか?」
昼下がりの霧雲堂、客足が落ち着いたころ。
カリンが本を読みながらくつろぐ中、シャオケイが少し緊張した面持ちで提案した。
「おや、どういう風の吹き回しですか?」
薬籠の整理をしていたシュウが、少し驚いたように振り向く。
「いつも先生が全部作ってくださってるので……私、薬草の調合だけじゃなくて、料理も少し覚えたいと思いまして」
「ほほう、志が高いですね。では、今夜は厨房をお任せしましょう。私も教えはしますが、手は出しませんので」
カリンが顔を上げてニヤリと笑った。
「わたし、試食係やる!」
「……それが一番緊張します」
夕刻、厨房。
シャオケイは鉢巻を締め、まな板の前に立つ。横にはシュウが並ぶ。
「今夜の献立は、“芹と鶏の薬膳蒸し”と、“山菜と粟の滋養粥”、それに“香草茶”を合わせましょう」
「……聞くだけで難しそうです」
「大丈夫です。ひとつひとつ丁寧にやれば、料理も薬と同じですから」
まずは薬草の選別から。
香りの強いものは控えめに、体を温めるものを中心に。調合の知識があるシャオケイには、そこはお手のものだった。
「ほう。選び方に迷いがありませんね」
「薬籠の並び方、先生の癖を覚えました。よく使う薬草は、手前に寄せてあるので」
「……私の癖まで読まれていたとは」
シュウは肩をすくめて笑った。
問題は、包丁だった。
「よ、よし……鶏肉、切ります!」
意気込みはあるが、包丁の先が震えている。
「無理に力を入れず、包丁の重みを使ってください。包丁は押すのではなく、滑らせて手前に引くように」
「はい……うわっ!」
鶏肉が思い切り滑って、まな板の外に飛んだ。
「きゃっ! だ、大丈夫!?」
心配してのぞいたカリンの声に、シャオケイは真っ赤になって立ち上がった。
「だ、大丈夫です! い、今のは……風が……っ!」
「……窓、閉まってますけど?」
「ううぅ……」
それでも、何度か切り方を直されながらも、どうにか下ごしらえを終える。
次は蒸し器の準備だ。
山菜と芹を下に敷き、鶏肉を乗せて、調合した薬草をふりかける。
「時間と火加減が大切です。あとは、気持ちよく蒸されるように見守ってください」
「見守る、ですか……」
「料理も、薬も、茶も――“人の体の中に入るもの”です。最後まで、心を込めて」
その言葉に、シャオケイは静かにうなずいた。
一方、粟の粥は弱火でじっくりと。
シュウが火加減を見守る横で、シャオケイはくるくると鍋をかき混ぜる。
かすかな薬草の香りと、粟の甘さが混じり合い、厨房にやさしい香りが広がる。
「……なんだか、癒されますね」
「ええ。これは私が宮廷で初めて覚えた“夜勤明けの食事”なんですよ」
「へぇ……」
その話を聞いたカリンが、厨房の戸口から顔を出した。
「なんだか、いい雰囲気だね。わたし、こういうの好き」
「……か、カリン様、まだ入らないでください! 仕上げがありますので!」
そして夕餉の時間。
カリンの前に並べられた膳には、香り高い蒸し物と、ほかほかの粟粥、それに澄んだ茶碗の香草茶が添えられていた。
「いっただきまーす!」
一口、蒸し物を頬張ったカリンが、目を見開く。
「えっ……おいしい……ちゃんと鶏の旨味がしみてる! 山菜もシャキシャキだし……なにこれ、すごい!」
「ふふ、やりましたね」
シュウの言葉に、シャオケイはそっと胸をなでおろした。
「まだまだ先生には遠く及びませんが……でも、ちょっと自信つきました」
「それで十分ですよ。薬と同じく、料理も、学びの積み重ねですから」
夜の霧雲堂には、薬草の香りと、やわらかな湯気と、ほっこりとした満腹の空気が満ちていた。
昼下がりの霧雲堂、客足が落ち着いたころ。
カリンが本を読みながらくつろぐ中、シャオケイが少し緊張した面持ちで提案した。
「おや、どういう風の吹き回しですか?」
薬籠の整理をしていたシュウが、少し驚いたように振り向く。
「いつも先生が全部作ってくださってるので……私、薬草の調合だけじゃなくて、料理も少し覚えたいと思いまして」
「ほほう、志が高いですね。では、今夜は厨房をお任せしましょう。私も教えはしますが、手は出しませんので」
カリンが顔を上げてニヤリと笑った。
「わたし、試食係やる!」
「……それが一番緊張します」
夕刻、厨房。
シャオケイは鉢巻を締め、まな板の前に立つ。横にはシュウが並ぶ。
「今夜の献立は、“芹と鶏の薬膳蒸し”と、“山菜と粟の滋養粥”、それに“香草茶”を合わせましょう」
「……聞くだけで難しそうです」
「大丈夫です。ひとつひとつ丁寧にやれば、料理も薬と同じですから」
まずは薬草の選別から。
香りの強いものは控えめに、体を温めるものを中心に。調合の知識があるシャオケイには、そこはお手のものだった。
「ほう。選び方に迷いがありませんね」
「薬籠の並び方、先生の癖を覚えました。よく使う薬草は、手前に寄せてあるので」
「……私の癖まで読まれていたとは」
シュウは肩をすくめて笑った。
問題は、包丁だった。
「よ、よし……鶏肉、切ります!」
意気込みはあるが、包丁の先が震えている。
「無理に力を入れず、包丁の重みを使ってください。包丁は押すのではなく、滑らせて手前に引くように」
「はい……うわっ!」
鶏肉が思い切り滑って、まな板の外に飛んだ。
「きゃっ! だ、大丈夫!?」
心配してのぞいたカリンの声に、シャオケイは真っ赤になって立ち上がった。
「だ、大丈夫です! い、今のは……風が……っ!」
「……窓、閉まってますけど?」
「ううぅ……」
それでも、何度か切り方を直されながらも、どうにか下ごしらえを終える。
次は蒸し器の準備だ。
山菜と芹を下に敷き、鶏肉を乗せて、調合した薬草をふりかける。
「時間と火加減が大切です。あとは、気持ちよく蒸されるように見守ってください」
「見守る、ですか……」
「料理も、薬も、茶も――“人の体の中に入るもの”です。最後まで、心を込めて」
その言葉に、シャオケイは静かにうなずいた。
一方、粟の粥は弱火でじっくりと。
シュウが火加減を見守る横で、シャオケイはくるくると鍋をかき混ぜる。
かすかな薬草の香りと、粟の甘さが混じり合い、厨房にやさしい香りが広がる。
「……なんだか、癒されますね」
「ええ。これは私が宮廷で初めて覚えた“夜勤明けの食事”なんですよ」
「へぇ……」
その話を聞いたカリンが、厨房の戸口から顔を出した。
「なんだか、いい雰囲気だね。わたし、こういうの好き」
「……か、カリン様、まだ入らないでください! 仕上げがありますので!」
そして夕餉の時間。
カリンの前に並べられた膳には、香り高い蒸し物と、ほかほかの粟粥、それに澄んだ茶碗の香草茶が添えられていた。
「いっただきまーす!」
一口、蒸し物を頬張ったカリンが、目を見開く。
「えっ……おいしい……ちゃんと鶏の旨味がしみてる! 山菜もシャキシャキだし……なにこれ、すごい!」
「ふふ、やりましたね」
シュウの言葉に、シャオケイはそっと胸をなでおろした。
「まだまだ先生には遠く及びませんが……でも、ちょっと自信つきました」
「それで十分ですよ。薬と同じく、料理も、学びの積み重ねですから」
夜の霧雲堂には、薬草の香りと、やわらかな湯気と、ほっこりとした満腹の空気が満ちていた。
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