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結末
308 旅立ち 2
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それから一年の月日が流れた。
グルドラリア王城があった場所には、小さな城を建てられようとしていた。
王都だった場所は積み上がっていく城と同様に活気が戻っていく。新国家の国王と言っても名ばかりで、かつて五つあった公爵家。
この場所は六個目の公爵家という認識に近いものになっていた。
ローバン公爵家では、これまでの対応にも区切りが付き、ようやく落ち着きを取り戻していた。
「奥様?」
「セドラさん、私はそろそろ行きます」
そう言ってミーアは、あの日以来使っていなかったあのエストックを腰に下げ、装備を整えていた。
パメラとメアリは、ハルトの側室となったがただの肩書だけで、新しい学園の講師として日々を過ごしていた。しかし、ミーアだけはそれを受け入れることはなかった。
これまでの三年という月日によって、ようやく立ち直る兆しを見せたことは喜べるが、セドラとしては複雑な思いだった。
完全武装する彼女の姿に、考えてはいけないことがよぎる。
「奥様! これからどちらへ行かれるのですか」
「訓練場です。私はアレス様のように、ダンジョンと戦い。アレス様のように、民を守りたいと思います」
失われていた瞳に光が宿り、その姿はアレスの隣りに並んでいた、昔の面影が重なって見えていた。
セドラは頭を下げドアの横に立つ。ミーアに進路を譲り後ろをついて行く。
ミーアはエストックを振り回し、忘れていた感覚を思い出そうにもそう簡単に三年という月日は短いものではない。
「奥様。よろしければ私がお相手を致しますが?」
セドラは二本の木剣を持ってミーアの前に立っていた。
「セドラさん。私はそのように呼ばれるべきではないと思います」
「私はアレス様の執事。であるのならば、その奥方に対して、奥様とお呼びするのは当然のことかと」
ミーアとアレスは婚姻を結んではいない。
婚約は解消されたが、ローバン家のアレスの自室でミーアは引きこもっていた。帰ってくるはずのないアレスを待ち続けた。だから、ローバン家の使用人はそういうものだと勝手に解釈をしていた。
アレスに囚われ、この場所を……アレスの部屋から出れなかったミーアを、アレスの妻として迎え入れていた。
「奥様がなんと申されましても、私は奥様のためにこの生涯を捧げましょう」
差し出される木剣を受け取り、少し困った顔を見せるミーア。
セドラはそんなミーアに対して、容赦なく攻撃を繰り出していく。
そんな二人を見ていた、アークはホッと胸を撫で下ろしていた。
半年もすれば、ミーアはダンジョンへ向かう。
何もしていない生活ではなく、アレスと同じようにダンジョンに立ち向かいと思っていた。
理由は些細なもので、アレスが残してくれた指輪。
その指輪の効果が発現したことで、そう思わせるきっかけとなった。
「ミーア。これを持っていきなさい」
アークは剣を差し出す。
鞘で隠れていたとは言え、柄を見ただけでそれが何かを理解していた。
今も目に焼き付いて離れない光景が脳裏をよぎる。
「公爵様……それは使えません」
「やれやれ、娘にそんなことを言われると辛いな。いいから持っていきなさい、きっとアレスもそれを望んでいる」
アークが渡そうとしている剣は、アレスを殺した剣。
ミーアにとって、邪神を倒したというよりもそちらのほうが強い印象を持つ。
「アレスは、君に託したかったのかもね。今はそんな気がしてならないよ、持ってみるといいよ」
ミーアが剣を手に取ると、アレスとの辛い過去ではなく、楽しかった思い出が蘇る。
不思議と暖かさに包まれるような感覚に戸惑いながらも、ゆっくりと剣を抜く。
剣の姿を前にしたミーアは、あの記憶は思い出すことはなかった。
そして、穏やかに気持ちに包まれていた。
「ここにはいつでも帰ってくるといい」
「はい。ありがとうございます、お父様」
ミーアは、剣を背負い町の中へと消えていく。
その顔には、迷いはなく晴れ晴れとしたものだった。
* * *
「俺は確か……邪神と一緒に?」
なんで?
こんなにも見覚えのある部屋にいるんだ?
「うわっ、何だよこれ! どうしてこんな事になった?」
グルドラリア王城があった場所には、小さな城を建てられようとしていた。
王都だった場所は積み上がっていく城と同様に活気が戻っていく。新国家の国王と言っても名ばかりで、かつて五つあった公爵家。
この場所は六個目の公爵家という認識に近いものになっていた。
ローバン公爵家では、これまでの対応にも区切りが付き、ようやく落ち着きを取り戻していた。
「奥様?」
「セドラさん、私はそろそろ行きます」
そう言ってミーアは、あの日以来使っていなかったあのエストックを腰に下げ、装備を整えていた。
パメラとメアリは、ハルトの側室となったがただの肩書だけで、新しい学園の講師として日々を過ごしていた。しかし、ミーアだけはそれを受け入れることはなかった。
これまでの三年という月日によって、ようやく立ち直る兆しを見せたことは喜べるが、セドラとしては複雑な思いだった。
完全武装する彼女の姿に、考えてはいけないことがよぎる。
「奥様! これからどちらへ行かれるのですか」
「訓練場です。私はアレス様のように、ダンジョンと戦い。アレス様のように、民を守りたいと思います」
失われていた瞳に光が宿り、その姿はアレスの隣りに並んでいた、昔の面影が重なって見えていた。
セドラは頭を下げドアの横に立つ。ミーアに進路を譲り後ろをついて行く。
ミーアはエストックを振り回し、忘れていた感覚を思い出そうにもそう簡単に三年という月日は短いものではない。
「奥様。よろしければ私がお相手を致しますが?」
セドラは二本の木剣を持ってミーアの前に立っていた。
「セドラさん。私はそのように呼ばれるべきではないと思います」
「私はアレス様の執事。であるのならば、その奥方に対して、奥様とお呼びするのは当然のことかと」
ミーアとアレスは婚姻を結んではいない。
婚約は解消されたが、ローバン家のアレスの自室でミーアは引きこもっていた。帰ってくるはずのないアレスを待ち続けた。だから、ローバン家の使用人はそういうものだと勝手に解釈をしていた。
アレスに囚われ、この場所を……アレスの部屋から出れなかったミーアを、アレスの妻として迎え入れていた。
「奥様がなんと申されましても、私は奥様のためにこの生涯を捧げましょう」
差し出される木剣を受け取り、少し困った顔を見せるミーア。
セドラはそんなミーアに対して、容赦なく攻撃を繰り出していく。
そんな二人を見ていた、アークはホッと胸を撫で下ろしていた。
半年もすれば、ミーアはダンジョンへ向かう。
何もしていない生活ではなく、アレスと同じようにダンジョンに立ち向かいと思っていた。
理由は些細なもので、アレスが残してくれた指輪。
その指輪の効果が発現したことで、そう思わせるきっかけとなった。
「ミーア。これを持っていきなさい」
アークは剣を差し出す。
鞘で隠れていたとは言え、柄を見ただけでそれが何かを理解していた。
今も目に焼き付いて離れない光景が脳裏をよぎる。
「公爵様……それは使えません」
「やれやれ、娘にそんなことを言われると辛いな。いいから持っていきなさい、きっとアレスもそれを望んでいる」
アークが渡そうとしている剣は、アレスを殺した剣。
ミーアにとって、邪神を倒したというよりもそちらのほうが強い印象を持つ。
「アレスは、君に託したかったのかもね。今はそんな気がしてならないよ、持ってみるといいよ」
ミーアが剣を手に取ると、アレスとの辛い過去ではなく、楽しかった思い出が蘇る。
不思議と暖かさに包まれるような感覚に戸惑いながらも、ゆっくりと剣を抜く。
剣の姿を前にしたミーアは、あの記憶は思い出すことはなかった。
そして、穏やかに気持ちに包まれていた。
「ここにはいつでも帰ってくるといい」
「はい。ありがとうございます、お父様」
ミーアは、剣を背負い町の中へと消えていく。
その顔には、迷いはなく晴れ晴れとしたものだった。
* * *
「俺は確か……邪神と一緒に?」
なんで?
こんなにも見覚えのある部屋にいるんだ?
「うわっ、何だよこれ! どうしてこんな事になった?」
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