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結末
303 邪神復活 1
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ミーアは目を丸くするものの、そんな突拍子もない言葉に、ぎこちなく首がゆっくりと左右に揺れる。
「今日から執行される。父上達は皆承諾済みだ、ミーアがどう足掻いたとしても結果が変わることはない」
「な……なぜなのですか? どうして、アレス様が?」
ミーアはそのまましゃがみ込み、両手で耳を塞ぐ。
今俺から聞かなかったとしても、この事実は変わりようがない。
何もかも決定されている。朝になればこの屋敷に俺の居場所は無くなる。
「今までありがとう。居なくなる相手……いや、こんな俺なんかよりも、ミーアならきっと良い人は必ず見つかる」
声が届いていたのか、ミーアは何度も首を振り、俺の元へ駆けろようとするが俺が展開しているシールドによって阻まれる。
何度もシールドを叩こうとも、決して打ち破ることは出来ない。
そんなミーアの姿に目を背けることもなく、見ていることしかもう出来ない。
「どうしてなのですか! なぜアレス様がそのようなことに!」
「ミーア……さようなら。元気でな」
手をミーアに向けて、魔力糸によって自由を奪い取る。
「嫌、待ってください! アレス様。アレス様!!」
会場のドアを開いて、ミーアを床に下ろす。
俺達を見ていたクーバルさんは抱きかかえて、嫌がるミーアを連れ出していた。嫌なことをさせてしまったが、俺を見る目からは怒りを感じられなかった。
ミーアが居なくなったことで、影に隠れていたレフリアたちがやってきた。
「今のはどういうつもりなのかしら?」
「お前達は知っているんだろう? なら、あえて説明をする必要があるのか?」
「何か他に方法があったとは思わないの? これじゃミーアが可哀相だわ」
レフリアの言いたいことは分からなくはない。
しかし、現状においてベリアル程度に苦戦をするような仲間なら……ただの足手まといでしか無い。
だけど、一人だけの力はどうしても必要になる。
この中で選ばれたのが、ハルトとレフリアだった。
「お前達には悪いとは思っている。重荷になるのも分かっている、だけど……俺はハルトに託したい」
「分かった……だけど、僕はそうならないことを願っている。それだけは忘れないで欲しい。僕が何を考えているかなんて、親友のアレスなら分かっているよね?」
軽くシールドを叩く。ハルトなら、俺の胸を叩いていただろう。
しかし、そんなハルトの問に対して、答えはなく、終わりは既に決まっている。
これが今の全てにとって最善であり……俺たちだけが最悪なだけだ。
ただ、俺のせいでこうなったと言うだけだ。
「頼んだぞ、親友」
俺は一人で、逃げるように上空へ飛び立つ。
魔力を集中させ、周囲に風を巻き起こす。
やがて分厚い雲は無くなり……柔らかな光を放つ月が姿を見せる。
ここだけ開かれた空は、自分の心を現しているかのように見え、月を見ていただけなのに涙がこぼれていく。
どうしようもなく、何度拭い取っても止まることはなかった。
* * *
「アレス。気をつけて」
朝になり、父上が用意してくれた物資を収納していく。
家を追い出されるということになっているにも関わらず、この量は明らかにおかしい。
全く何処まで過保護なんだか……。
「父上、どうかお元気で。兄上、後のことはお任せします」
「ああ、分かっている」
母上は何も言わず、抱き締めてくれたので、俺も手を回す。
この人達が俺の家族で居てくれて本当に良かった。
もっと違った生活もあったと思う。
「母上、そろそろ行きます」
レフリア達と一緒に、馬車に乗り込む。
最後ぐらいはという、兄上の提案に不要だと言ったものの、最後まで聞き入れてくれることはなかった。
もしかするとという不安が、よぎってくる。
「皆、お元気で、さようなら」
馬車が動き始め、レフリア達は神妙な面持ちをしている。俺が巻き込んだのだから、最後ぐらい文句の一つがあってもおかしくはない。
それなのに、未だ会話の一つもなくただ時間が過ぎていく。
「ああ……やっぱりか」
俺がそう呟くと、少し経ってから馬車はゆっくりと止まり、扉が開かれる。
納得のできない三人は、ここで待っていたのは兄上の提案から推測していたため。索敵を展開している俺にはこうなることが予想できていた。
「早く乗りなさい」
「今日から執行される。父上達は皆承諾済みだ、ミーアがどう足掻いたとしても結果が変わることはない」
「な……なぜなのですか? どうして、アレス様が?」
ミーアはそのまましゃがみ込み、両手で耳を塞ぐ。
今俺から聞かなかったとしても、この事実は変わりようがない。
何もかも決定されている。朝になればこの屋敷に俺の居場所は無くなる。
「今までありがとう。居なくなる相手……いや、こんな俺なんかよりも、ミーアならきっと良い人は必ず見つかる」
声が届いていたのか、ミーアは何度も首を振り、俺の元へ駆けろようとするが俺が展開しているシールドによって阻まれる。
何度もシールドを叩こうとも、決して打ち破ることは出来ない。
そんなミーアの姿に目を背けることもなく、見ていることしかもう出来ない。
「どうしてなのですか! なぜアレス様がそのようなことに!」
「ミーア……さようなら。元気でな」
手をミーアに向けて、魔力糸によって自由を奪い取る。
「嫌、待ってください! アレス様。アレス様!!」
会場のドアを開いて、ミーアを床に下ろす。
俺達を見ていたクーバルさんは抱きかかえて、嫌がるミーアを連れ出していた。嫌なことをさせてしまったが、俺を見る目からは怒りを感じられなかった。
ミーアが居なくなったことで、影に隠れていたレフリアたちがやってきた。
「今のはどういうつもりなのかしら?」
「お前達は知っているんだろう? なら、あえて説明をする必要があるのか?」
「何か他に方法があったとは思わないの? これじゃミーアが可哀相だわ」
レフリアの言いたいことは分からなくはない。
しかし、現状においてベリアル程度に苦戦をするような仲間なら……ただの足手まといでしか無い。
だけど、一人だけの力はどうしても必要になる。
この中で選ばれたのが、ハルトとレフリアだった。
「お前達には悪いとは思っている。重荷になるのも分かっている、だけど……俺はハルトに託したい」
「分かった……だけど、僕はそうならないことを願っている。それだけは忘れないで欲しい。僕が何を考えているかなんて、親友のアレスなら分かっているよね?」
軽くシールドを叩く。ハルトなら、俺の胸を叩いていただろう。
しかし、そんなハルトの問に対して、答えはなく、終わりは既に決まっている。
これが今の全てにとって最善であり……俺たちだけが最悪なだけだ。
ただ、俺のせいでこうなったと言うだけだ。
「頼んだぞ、親友」
俺は一人で、逃げるように上空へ飛び立つ。
魔力を集中させ、周囲に風を巻き起こす。
やがて分厚い雲は無くなり……柔らかな光を放つ月が姿を見せる。
ここだけ開かれた空は、自分の心を現しているかのように見え、月を見ていただけなのに涙がこぼれていく。
どうしようもなく、何度拭い取っても止まることはなかった。
* * *
「アレス。気をつけて」
朝になり、父上が用意してくれた物資を収納していく。
家を追い出されるということになっているにも関わらず、この量は明らかにおかしい。
全く何処まで過保護なんだか……。
「父上、どうかお元気で。兄上、後のことはお任せします」
「ああ、分かっている」
母上は何も言わず、抱き締めてくれたので、俺も手を回す。
この人達が俺の家族で居てくれて本当に良かった。
もっと違った生活もあったと思う。
「母上、そろそろ行きます」
レフリア達と一緒に、馬車に乗り込む。
最後ぐらいはという、兄上の提案に不要だと言ったものの、最後まで聞き入れてくれることはなかった。
もしかするとという不安が、よぎってくる。
「皆、お元気で、さようなら」
馬車が動き始め、レフリア達は神妙な面持ちをしている。俺が巻き込んだのだから、最後ぐらい文句の一つがあってもおかしくはない。
それなのに、未だ会話の一つもなくただ時間が過ぎていく。
「ああ……やっぱりか」
俺がそう呟くと、少し経ってから馬車はゆっくりと止まり、扉が開かれる。
納得のできない三人は、ここで待っていたのは兄上の提案から推測していたため。索敵を展開している俺にはこうなることが予想できていた。
「早く乗りなさい」
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