タマリのワダカマリ

田中 月紗

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エピローグ 追憶

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私は、母が大好きだった。

真っ赤な林檎のように艶やかな真紅の口紅がよく似合う、自慢の母だった。

父の連れ子だった血の繋がらない私を、とても愛してくれた。

私達3人は、絵に描いたように幸せな日々を過ごしていた。

けれど、それも長くは続かなかった。突然、父が家の金を持ち出して姿を消してしまったのだ。

音信不通の父の事をとても心配した母は、来る日も来る日も懸命に探し続け、やっとの思いで父を見つけた。

その時父は、全く知らない女と小さな子どもと手を繋ぎ、向日葵のような笑顔を浮かべていた。

それ見た瞬間、母は変わった。

父に似た私の顔を見る事を嫌った。

酷く醜い言葉しか伝えてくれなくなった。

私の存在を否定し始めた。

それでも、私は母が大好きだった。

私にはもう、母しか居なかったから。

母が変わってしまったのは、全部私のせい。

だから、もう一度母に愛してもらえるように必死で努力を続けた。


そんなある日、母はあの薄暗い道で貴方と出会い、一目惚れをした。

それから何度かあの道を通り、貴方の姿を見れた日、声を聞けた日は、とても嬉しそうな顔をして家に帰ってきた。

貴方に会えなかった日は、ひどくイライラした様子で、私の事を罵った。

母は、貴方の事を愛するのに一生懸命だった。

かつて私を愛してくれていた、美しくて優しい母は、とっくの昔に死んでしまったのだと、この時ようやく気付いた。

それでも諦めきれなかった。

もう一度、もう一度だけでいい。

自慢の娘だと、優しく頭を撫でてほしい。

あの温かな胸に思い切り抱かれたい。

私と過ごした時間を、少しでもいいから思い出してほしかった。

自分にとって本当に大切なものは何だったのか、改めて考えてほしかった。


私は、一歩、また一歩と階段を登り続ける。


わざわざあの裏道を何度も何度も通い続け、やっとの思いで自ら貴方に接触したのは、母の愛している男がどんな人なのかを確認したかったから。

きっと貴方は、私が貴方を殴って気絶させたとは夢にも思ってないんでしょうね。貴方にとって、私はある意味命の恩人止まり。

最初から全て、私の一人芝居だったのに。その事も気付かずに。

本当、馬鹿な男。

やはり思っていた通り、貴方のような怠惰な人間に、母の愛を受ける資格はない。

貴方を守るためとか、そんなのは初めからお伽話。私が本当に守りたかったのは、貴方なんかではなく、私自身。

ただ、誰かにご飯を用意してもらえたのは久しぶりだったから、そこは嬉しかったな。

貴方の事は大嫌いだけど、ほんの少しだけ、楽しかったよ。


登りきった階段の先には、四方に広がる黒く煌びやかな空。靴を脱ぎ揃え、目の前に広がる景色に思いきり手を伸ばす。

これで、私がずっと抱え込んでいたわだかまりは、ようやく溶けて、なくなっていく。

幼い頃に一度だけ、母と一緒に食べた綿菓子のように。
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