沢田くんとクリスマス

ゆづ

文字の大きさ
上 下
1 / 20

沢田くんとクリスマス目前

しおりを挟む


 秋はいつの間に通り過ぎていたんだろう。
 気づかないうちに、去年活躍したマフラーが私の首を再び暖める季節になっていた。
 沢田くんの別荘で過ごした夏の思い出はそれなりに遠くなっていて、ちょっぴり人恋しさも出てきた頃だ。
 今年ももうすぐ終わっちゃうんだなあ、なんて思うのは、いつもより活気づいて見える商店街のせいかな。クリスマスも目前となるとどこもかしこも浮かれて見えるというか……。

 えっ⁉︎ もう、クリスマスも目前⁉︎
 
 私は愕然として商店街の中心で立ち止まった。
 
 やばい、ボーッと過ごしてた。冬休みの予定も何もないし、それにクリスマスも──沢田くんと一緒に過ごしたいと思っていたのになかなか言い出せないままテスト期間に入っちゃって──何の約束もできていない!
 

 あ、いろいろと説明不足で申し訳ありません。
 私の名前は佐藤景子と言います。
 他人の心の声を聞くことができるというちょっと変な特技があること以外はごくごく普通の女子高生です。

 沢田くん──沢田空くんは、私のか、か、彼氏? みたいな存在です。お察しの通り、付き合い始めて五ヶ月にもなろうかというのに未だに初々しい感じで付き合っています。沢田くんの心が綺麗すぎて、そばにいるだけでホッコリしてしまうからかもしれません。

 でも、もうちょっとラブラブな雰囲気が欲しいとか思う今日このごろ。
 自分のことを過小評価しすぎている沢田くんが、沢田くんと付き合っている私を慈悲深い天使だと思っちゃっているところが問題だ。人間と天使ではラブラブにはなれない。
 いや、そんなこと言ったら沢田くんのことだ、

【俺のことを人間扱いしてくれるなんて……佐藤さん、女神(*´Д`*)】

 なんて、余計に私のことを崇めちゃうかもしれない。
 私にとっては沢田くんの方がもったいないオバケが出そうなくらいのもったいないイケメンなんだけどね。


 さて、そんな沢田くんと初めてのクリスマスを迎えるわけだが。


 どうしようかなあと思いながら再び歩き始めた私の前に、突然ロングコートを着た怪しいおじさんが飛び出してきた。丸サングラスにマスクにニット帽で完全に顔を隠した変質者っぽい風采の人だ。
 その人が私に向かって必死に話しかける。


「あ、あ、あ、あ、あ、あの……!」
「え? きゃあああああ~~!!」


しおりを挟む

処理中です...