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婚活、する?
誰が愛してくれるんだろう
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その日は仕事を終えるとまっすぐ家に帰った。
一人暮らしをしようと思って上京してからずっと住んでいるワンルームの狭い部屋には、当然灯りがついていなかった。
いつもの癖でただいまと言いそうになったけど、直前でやめる。上京したばかりの心細さを急に思い出した。
リビングは綺麗さっぱりと片付いていた。使っていた歯ブラシくらいは忘れていっているかなと思っていたけど、ちゃんと忘れずに持っていったようだ。いつも聞こえていたゲームの音もない。私はノロノロと、食品棚に積まれていたカップラーメンを手に取った。一人で済ませるなら、これで充分だ。私がいない昼間にヒロ君が食べるだろうと考えてストックしておいたもの。多分、自分用のだったんだって気づかなかったんだろう。持っていっていないんだから。
「……って、いくらヒロ君でもそこまでセコくないかあ」
荷物になるから置いていっただけなのかもしれない。私と同じだ。そう思うと、自然とカップを持つ手に力が入った。生き物みたいに抱きしめたくなって。
いつまでも未練残しているのは良くない。お湯を沸かしている間に、録画を溜めていた大河ドラマでも観ようとリモコンを手に取った。
ヒロ君は歴史に全く興味がなかったけど、私は歴史時代劇が好きだ。特に戦国ものと幕末ものがいい。大河ドラマも毎年どこの時代をやるんだろうと興味のアンテナを張っていた。この三年、リアルタイムで観られたことはなかったけど。
三年間溜めていた大河、楽しみ。これからは毎日誰に遠慮することもなく観られるんだ。
ワクワク――していたんだけど、録画用ハードディスクの中身はいつの間にかサッカー中継の試合に変えられていた。これには心底ガックリした。
観ていなかったんだから仕方ないか。いや、でも消す前に一言、許可を取ってもらいたかったな。
ガッカリしている間にいつの間にか五分経っていて、カップラーメンの麺は柔らかくなりすぎていた。
今日は踏んだり蹴ったりだ。
噛みごたえのないもっさりした食感のラーメンを啜らずにもぐもぐ食べていると、携帯にメールが来た。
沙羅からだ。
『これ参考にして!』というメッセージの下に動画のリンクが貼られている。そのタイトルは『可愛い大人メイクの基本』だ。
「ありがとー」
とりあえず「見たよ」っていう合図のためにスタンプを送った。
要らないお節介を焼かれたことで、分かったような気がした。
自分がどんなにヒロ君にとってうるさい存在だったのかってことが。
良かれと思って私がしていたことはきっと、全部要らないお節介だったんだ。ありがたいけど、ちょっとうるさい。ほっといてほしい。面倒くさい。
それ、違うからな。
って、思うよね、そりゃ。
仕事に就けない彼に向かって優しさっていう名の圧力かけて縛って、息ができなくさせていたのは私。何もかもやってあげてるって上から無言のマウントを取って、彼の自尊心を傷つけたんだ。
沙羅はヒロ君が全面的に悪いみたいな言い方をしていたけど、そうじゃない気がする。私だって、尽くすことでそれ相応の見返りを求めていたんだと思う。
ずっと愛していて欲しかった。嫌わないで欲しかった。それから。
――お前はただ、怒られたくなかっただけじゃないの?
ヒロ君の最後の言葉に、私は全面降伏する。
やっぱり、まだ克服してなかったことに気づいた。脳裏に母の泣き顔が浮かびそうになって、頭を激しく振る。
私は本能的に、強そうな男の人が怖い。偉そうな男の人から叱責されるのが怖い。
昼間の鷹野さんは怖かった。あの人はダメだ。身体がすくむ。
ヒロ君と一緒にいたのは、彼が私より弱そうでダメそうだったからだ。普通はそんなことで好きな人を選ばないだろうけど、私はそういう人じゃないとダメなのだ。自分が息のできる相手。自分より本能的にダメな人。ヒロ君はきっとそうやって私が心の底でヒロ君を見下しているのを感じていたに違いない。
だから、破局は彼のせいだけじゃない。
私が歪んでいる。
こんな私を、誰が愛してくれるというんだろう。
一人暮らしをしようと思って上京してからずっと住んでいるワンルームの狭い部屋には、当然灯りがついていなかった。
いつもの癖でただいまと言いそうになったけど、直前でやめる。上京したばかりの心細さを急に思い出した。
リビングは綺麗さっぱりと片付いていた。使っていた歯ブラシくらいは忘れていっているかなと思っていたけど、ちゃんと忘れずに持っていったようだ。いつも聞こえていたゲームの音もない。私はノロノロと、食品棚に積まれていたカップラーメンを手に取った。一人で済ませるなら、これで充分だ。私がいない昼間にヒロ君が食べるだろうと考えてストックしておいたもの。多分、自分用のだったんだって気づかなかったんだろう。持っていっていないんだから。
「……って、いくらヒロ君でもそこまでセコくないかあ」
荷物になるから置いていっただけなのかもしれない。私と同じだ。そう思うと、自然とカップを持つ手に力が入った。生き物みたいに抱きしめたくなって。
いつまでも未練残しているのは良くない。お湯を沸かしている間に、録画を溜めていた大河ドラマでも観ようとリモコンを手に取った。
ヒロ君は歴史に全く興味がなかったけど、私は歴史時代劇が好きだ。特に戦国ものと幕末ものがいい。大河ドラマも毎年どこの時代をやるんだろうと興味のアンテナを張っていた。この三年、リアルタイムで観られたことはなかったけど。
三年間溜めていた大河、楽しみ。これからは毎日誰に遠慮することもなく観られるんだ。
ワクワク――していたんだけど、録画用ハードディスクの中身はいつの間にかサッカー中継の試合に変えられていた。これには心底ガックリした。
観ていなかったんだから仕方ないか。いや、でも消す前に一言、許可を取ってもらいたかったな。
ガッカリしている間にいつの間にか五分経っていて、カップラーメンの麺は柔らかくなりすぎていた。
今日は踏んだり蹴ったりだ。
噛みごたえのないもっさりした食感のラーメンを啜らずにもぐもぐ食べていると、携帯にメールが来た。
沙羅からだ。
『これ参考にして!』というメッセージの下に動画のリンクが貼られている。そのタイトルは『可愛い大人メイクの基本』だ。
「ありがとー」
とりあえず「見たよ」っていう合図のためにスタンプを送った。
要らないお節介を焼かれたことで、分かったような気がした。
自分がどんなにヒロ君にとってうるさい存在だったのかってことが。
良かれと思って私がしていたことはきっと、全部要らないお節介だったんだ。ありがたいけど、ちょっとうるさい。ほっといてほしい。面倒くさい。
それ、違うからな。
って、思うよね、そりゃ。
仕事に就けない彼に向かって優しさっていう名の圧力かけて縛って、息ができなくさせていたのは私。何もかもやってあげてるって上から無言のマウントを取って、彼の自尊心を傷つけたんだ。
沙羅はヒロ君が全面的に悪いみたいな言い方をしていたけど、そうじゃない気がする。私だって、尽くすことでそれ相応の見返りを求めていたんだと思う。
ずっと愛していて欲しかった。嫌わないで欲しかった。それから。
――お前はただ、怒られたくなかっただけじゃないの?
ヒロ君の最後の言葉に、私は全面降伏する。
やっぱり、まだ克服してなかったことに気づいた。脳裏に母の泣き顔が浮かびそうになって、頭を激しく振る。
私は本能的に、強そうな男の人が怖い。偉そうな男の人から叱責されるのが怖い。
昼間の鷹野さんは怖かった。あの人はダメだ。身体がすくむ。
ヒロ君と一緒にいたのは、彼が私より弱そうでダメそうだったからだ。普通はそんなことで好きな人を選ばないだろうけど、私はそういう人じゃないとダメなのだ。自分が息のできる相手。自分より本能的にダメな人。ヒロ君はきっとそうやって私が心の底でヒロ君を見下しているのを感じていたに違いない。
だから、破局は彼のせいだけじゃない。
私が歪んでいる。
こんな私を、誰が愛してくれるというんだろう。
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