ピラニアと山椒魚

たかつく るす

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心底 腹が立つ

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君は、好きな物はあるかい?
なくてもいい、あると仮定してほしい。

それはとても大切なんだ。生きる上で君を支えてくれて、自分が両の足で立っているために必要な物なんだ。
なくなると息が出来なくて、上も下も、右も左も分からなくなって、どこに向かうべきなのかも分からなくなる。
 そんな物だ。
愛してるっていうのか分からない。なくなることすら考えられないほど側にあって。
身近にあって、だからって無下に扱うなんてとんでもなくて。

そんなもの。

僕はね。失ったんです。去年のいつ頃だったかな。
消えるなんて思ってなかったんです。だから消えた瞬間がいつかなんて、ハッキリ覚えてないんです。悲しくて覚えてないとかじゃないんです。
 馬鹿な話、気づかなかったんです。いつもはスッと消えても帰ってくるし、側にいることが当たり前だったから、僕は待つ側だったから。だから、帰ってこないなんて思わないじゃないですか。
帰ってくるのが当たり前でしたし。

すいません。いいわけですよね。でも、言わせてくださいよ。僕はそれでも待つことしか出来ないんです。
恥ずかしい話です。僕は、あの子のよく行く場所も好きなところも、お気に入りの景色も何も知らないんです。
 今思えば、会話なんてなかったんです。僕が行きたいところにいって、その後ろには必ずあの子がいました。
行きたいとも行きたくないとも言わないんです。聞かない僕も悪いんですかね。でも言ってくれないあの子もなかなかでは、って思うんです。 だってどこに行っても必ず後ろにいたんですよ。本当に。
 振り返れば絶対目が合うんです。僕が笑えば、あの子もにこりと笑うんです。
今では、どんな声で話していたか思い出せません。声なんて数回しか聞いたことないですもん、仕方ないですよ。
仕方ないんです。
 でもね。悔しいんです。腐るほど見ていた笑顔が、この頃かすむんです。
あの子って笑うときどんな風に目が細まるんでしたっけ、とかあの子声出してまでは笑わないのに、歯は見せて笑っていた気がするって。僕ら言いますが、十年以上近く一緒にいたんですよ。
 
 うらやましいですか?うらやましがってください。そして鼻で笑ってください。
僕は僕がうらやましく思います。きっとあの子はいつかふらっと帰ってくるんでしょう。帰ってこないなんて思いません。考えたくないとか、現実逃避とかではないのです。わかるんです。だって僕は、僕だから。
あの子の僕だから。でも待つのはこの頃つらい。
 僕の行きたいところに行っても、みたいもの見ても、何やっても振り返ったら君がいないんですもん。
つらいんです。いてくださいよ。そこにいてくださいよ。
あの笑顔で、僕を見てくださいよ。君がいない背中は不安なんです。君がいなくても生きてる僕は、嫌いです。
僕が僕であるには、君がいるんです。
大好きなんです。いて当たり前のあの頃に戻りたいです。めったに聞けなかった声で、僕の名前読んでくれませんか。僕らは、二人っきりだったので。呼び合ってたのは、ねえ。とか ちょっと。でしたけど。それでいいんです。それが良いんです。君は今どこにいるんでしょうか。
生きていることは分かるんです。僕が生きてるから。どこかでぼーとしてるんでしょう。君は。
帰り道が分からないとか、笑えませんからね。
 なんだか、腹がたってきました。君がいなくなってもうすぐきっと一年になります。君と出会って、初めてのことです。

僕、実は何個か嘘をつきました。ごめんなさい。
 本当は君がいなくなってから、どこにも行ってないんです。どこにもです。いけなくなってしまったんです。身体が動かないんです。僕は、今前を向いているのか後ろなのか、座っているのか分かりません。この頃は、ご飯を食べても体重が増えないのです。君と食べていた頃は、簡単に増えてよく困っていました。君は中々増えなくて、そんな君をつれてよく運動した物です。そんな時も君は笑っていましたね。そんな僕の身体は、栄養を受け付けないのか。何を食べても太らないのです。君は笑ってくれるでしょうか。笑うでしょうね。僕は、分かるんですよ。

ね。帰ってきませんか。
そろそろ、帰ってきませんか。僕、もう涙が底をつきそうだよ。
うん。ばれるか。うそだよ。涙が枯れる分けないじゃん。泣いてるよ。いつもじゃないよ。僕だってそこまで暇じゃないもん。でもね。限界が近いよ。それは君は分かっているんだろう。だって君だもんね。君の僕だもんね。
分かってて帰ってこないの?そんなやつだったっけ?
嘘だよ。うそだよ。冗談だよ。こんな冗談言うようになっちゃったよ。
僕君がいない間に、結構変わっちゃたよ?
君もかわっちゃった?それは嫌だな。僕ね。君が好きだよ。好きなんだよ。しってる?

知らないだろうな。うん。僕ね。君がいなくなってから、気づいたんだ。
僕ね。君が好きなんだよ。好きなんだ。帰ってきたら、いってあげる。なんで上から目線っかって?


知ってるから、君が僕を好きなの。
君の笑顔、わかりやすいんだよ。僕が大好きっていつも言ってた。外れてない自信あるよ。
僕はね。そんな君の笑顔が好きなんだ。だから、だからね。

まってる。                    


                君 へ
 
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