遠い記憶、遠い未来。

haco.

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或る日常

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透吾は、カレンダーを見ると「2000年1月15日」の文字に溜息をついた。
「はあ~」
「どうしたの?透吾さん。」と梨花が言った。

「毎年、年が変わるたびに溜息がでるんだよなー。シワの一つでも出来たら、歳とった感があるんだけど」と
毎年このセリフは私は言うらしい。

「まただよ。いい加減なれなよ」と向かいのテーブルに座ってる廉が言ってくる。
廉は、31歳になっていて、中学校の先生をしている。
「あっやば!7時だ!早く行かなきゃ!」
ドタバタと音をたてながら、職場に向かった。

梨花は34歳になっており、今では美術館の管理者として働いている。
知りあった頃の梨花は、あまり話すことはなかった。
中学の最後の年に、梨花は、中田夫妻が仕事の都合が合わなかったせいで、他人である私に保護者として参加したことがあった。
「うちのママとパパいつも行事の時はタイミング悪く仕事とかゆうんだよね。小学校の卒業式もそうなの」

「僕でいいの?普通、親が卒業式に顔出さないとってイメージがあるけど。」

「いいの。私、透吾さんの方が気が楽だし。ほら、うちの親、ああしなさい。こうしなさいが多いから。」

私も最近見てて中田夫妻の子供に対する接し方がそんな感じに見えた。ただ私にとっては羨ましいことだ。

この地球でたった一人で生まれて今に至るまでも自分の親なんていない。でも自分が幸せにしてきた者たちはそんな私をいつも笑顔で接してくれていた。中田夫妻と暮らし始めて私を家族のようにいつも接してくれていた。梨花と廉もそうだ。

「よし、なんか食べて帰るか。なに食べたい。」と私は言うと

「ラーメン食べたい」と梨花は言った。

他愛もない会話で、桜散る校門の下で、歩きながら
ラーメンを食べに行った。

本当の家族のように私も中田夫妻とともに、この2000年まで、歩いてきた。


いろんなことを思い出しながら、仕事に向かう梨花に
「今日も頑張ってね仕事。」と声をかけた。

「ありがとう」と言い、職場まで向かった。

「ふああ。」階段のきしむ音が聞こえながら、中田は降りてきた。

「いつも悪いね朝ごはんとか作ってもらって」
「いえいえこっちは住まわせてもらってる身ですので。」

「私は今日ねちょっと朝から打ち合わせがあるので早めに出るよ」
と中田は言いながらカジュアルな服装のまま自分の仕事場に行った。以前の探偵事務所はたたみ、今はエリート時代の知識を活かし新しいベンチャー企業を立ち上げていた。

最近はみんなが起きる時間がバラバラなのでもちろん由美子も自分の仕事を持っている。
職場はアンティークジュエリー店のオーナーをしてるので朝早く出掛けた。

私はと言うと仕事をついても年齢を伏せるのはなかなか難しい。
なので一年にバイトをしながら一年のうちに辞めてしまうことがある。中田さんには申し訳ないという日々が最近は続いている。

「今日は少し休もう」
と一言いい、深い眠りについた。。




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