遠い記憶、遠い未来。

haco.

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遠い記憶ー

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泣けば泣くほど涙があふれてくる。

透吾は幻でしかないの?と思っていた。

静かな夜の公園は、鈴虫と風で靡く草原しか音を立てていなかった。
この風景にどこか懐かしさがあった。
あの頃のマルデックにいた頃の父と母がいた頃のあの景色に。

遠くから、手を振る父がいて、背中越しでいつもご飯を作っている母の姿。
なぜか記憶が蘇っていた。

「この記憶は・・・彼の・・・」

静かな湖からかすかな音が聞こえてきた。

現実に戻ったセイカは湖に映し出す星空を眺めた。
静かだったはずの水面の波形が、少しづつ動き始めた。

チャプン・・・・

雫の音がこだましていた。

チャプン・・・・・・・


暗闇に佇む黒い影が湖の上に立っていた。

「誰?」

「透吾?」


黒い影は、ゆっくりと水面の上を歩いている。

「長い夢をずっとみていたよ。」影は話はじめた。

「君がここにくることをずっと夢を見ていた。」

「セイカ。やっと会えたね」


煌めく星空の下で透吾は笑顔で迎えた。


「あなたが山内透吾なのね・・・・」

やっと、やっとの思いでこの地で会えた。

「ほんとにすまないと思っている。君をここまで来させたことを。」


「やっと本当の「セイカ」に会えたよ・・・・」


透吾の言葉にどこか不思議なことに気づいた。

「え?どういうこと?」

「僕は君から生まれた。」

「よくわからないわ・・・。私はクローンとしてここに存在したのよ・・・」
「透吾がなにを考えているかわからない・・・・」

透吾は、セイカに近寄りながら、水面から地へと降りてきた。

「あなたは・・・ほんとは誰なの?ほんとうにこの地球を作った本人なの?」
セイカはさらに続けて言う。

「違う・・・」透吾は悲しい顔になった。

「セイカ・・・君は僕を分身としてこの地球の最初の目撃者としたんだ。古代から未来までずっと君を見守るためのね。そして君の記憶を持ったまま、地球で生きることになったんだ。
わかるかい?君はずっと、地球の核にいたんだ。」

透吾は地に向けて指を差していた。

「でも君は核からは、出られないでいた。そのために。僕の細胞の力で君をこの世に呼び覚ましたんだ。」

「私はずっと。そこにいたの?」

「ああ・・・でも、限界がきていた。君が核にいることに。そのための保険に自分を地球に置いたんだ。
地球に存在させるためには僕の力が必要になったんだ。」

「だから、あなたの細胞から私がこの地にきたのね・・。」

「その時に蓮見社長の意識にずっと発信させていた。最初は、クローンだったかもしれない。

でもほんとうの自分の記憶が戻った時、本当の自分に戻るんだ。 つまり、本当の身体を手に入れたんだ。この地球で」


セイカは、なにも言えないでいた。
ただ、透吾の言ってることだけを耳にして

「僕は、ただの君を生み出す存在。」

「私はずっと・・・この地にいたいと思っていた。でしょ」

「そうだ。だから地球の変化と共に君も変化を繰り返したんだ」

そしてやっと、自分の身体を手に入れた。


長い長い時代を駆け巡っていた。
そして旅の果てに透吾とやっと会えた。


「さあ、セイカ・・・もう全てを終わりに戻そう。。この世界のリセットを」

「え?」

「もう全てを終わらせよう・・・。」

「この星は、もうただの殻さ。人は人で争い事をして、星や生命の命までも消し去っていった。すべては自分たちがこの世界を創造して始まったこと」

「もう繰り返さないために・・」セイカは彼についていくことを決めていた。

「手を重ねて」透吾。

「うん・・・」セイカ。

手の平から光のエネルギーが暗闇の中を照らしていた。

光は地球のこの北海道の神居古潭から大きな光へと変化を繰り返していた。
聖夜を光包みこんでいた。

二人から放たれた光のエネルギーの中心部で
「もう心配しなくていい。」透吾はセイカに言った。

「ほんとうの君を元に戻すためのね」

「そして僕が、君の中へと戻る」

「そしたらどうなるの?」

光に包まれた空間の中の透吾はただ微笑むだけだった。


二人の「意識」は、元に戻ろうとしていた。


あの頃の、遠い記憶の頃に。


孤独な星の中、存在しない二人だけがこの世界を光らせていた。

宇宙の孤独のようにレンとセイカのように。


光のエネルギーは膨張を繰り返しながら、日本全土を飲みこんでいった。

二人の願いをのせたまま


「もう悲しまない世界を。繰り返さないで」


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