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前編
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〇登場人物〇
神菜 小3(語り手)女
移川 知衣 小2 女
新町 環季 小1 女
隆光 小3 男
知衣のママ
環季のパパ
「ねえ、たまちゃん遅くない?」
私は知衣ちゃんのママに言った。
「そうね、着替えに時間がかかってるかも」
そう返事をしながら、知衣ちゃんの帽子の形を整えた。
今日はハロウィン。
私は赤ずきん、知衣ちゃんは魔女のコスプレをしている。
みんなの家を回って「お菓子ちょうだい」って言った後、知衣ちゃんの家でパーティーをするんだ。
子供だけで回るのは危険だからって、同じく魔女の格好をした知衣ちゃんのママがついてくれることになった。
知衣ちゃんによると、知衣ちゃんよりもすごく張り切って魔女の服買ったんだって。
「ねーねー、キョンシーってこうやって飛ぶんだぜ」
私の背後から誰かが突っついてきた。
振り向くと顔にお札を垂らした隆光くんが、前習えみたいに手を前に突き出している。
「キョンシーって何?」
「母ちゃんが用意したから俺も良く知らねー」
手を突き出したポーズのまま足をそろえて飛んでいる。
今日はあれで移動するんだろうか。
隆光くんは後からお菓子目当てで参加してきた3年生だ。
どれ位お菓子を貰うつもりなのか、たまちゃんが屈んで入れそうな、大きいバスケットを持って来ている。
たまちゃんがパパと車で来たのは、それから間もなくだ。
「お待たせしてすみません。今日はよろしくお願いします」
そう言うとパパだけまた戻って行った。
「こんばんは、たまちゃんとっても可愛いわね」
知衣ちゃんのママが言うと、モコモコのうさぎの着ぐるみを着たたまちゃんは嬉しそうにニコニコ笑った。
始めに私の家を、次に隆光君の家を回ってから、皆バスケットを抱えて出て来た。
「……うちのママ、お菓子こんなにどうやって用意したんだろ……」
持ってきたかごに入り切らなくて、隆光君のママが私達に笑いながらバスケットを貸してくれた。
「たまちゃんの家でもお菓子出るのかな」
「俺はまだ入るぞ。お前ら今から食べれば良くね?」
「少しならいいわよ。次はたまちゃんの家。確かお父さんが人形劇をやってくれる予定だから、皆行儀よくね」
知衣ちゃんのママが言った。
たまちゃんの家に着いて、知衣ちゃんのママがインターホンを鳴らした。
「「「「「こんばんは、いたずらしに来ました!」」」」」
私達がドアに向かって叫ぶと、少し経ってドアが開いた。
「あ! たまちゃんのパパも仮装してるの!?」
知衣ちゃんが声をあげた。
ドアから出てきたたまちゃんのパパは、色とりどりの線が描かれた、高い絨毯みたいな布の服を着ていた。
首からは細いネックレスがいくつもかけられて、顔にも何か落書きがしてある。
さっきたまちゃんを車で送ってきた時とはまるで格好が違う。
「こんばんは。今日は皆仮装してるって環季から聞いて、おじさんも急いで用意してみたよ。……いやーしかし皆派手に変装したもんだね」
まじまじと目を見開きながら、たまちゃんのパパが私達を見渡した。
「おじさん、どんな劇やるの?」
隆光君が尋ねると、たまちゃんのパパは見てのお楽しみ、といった。
「大人数で押しかけてご迷惑おかけ致します。今日はよろしくお願いしますね」
知衣ちゃんのママが言うと、たまちゃんのパパが笑った。
「知衣ちゃーん、立派な挨拶して、おませさんだね。移川さん、いい娘さんですな」
そう言って知衣ちゃんの方を向いた。
「………?」
たまちゃんのパパ、知衣ちゃんと知衣ちゃんのママを間違えてる?
二人ともお揃いの魔女の衣装だけど。
案内された部屋にはステージに見立てた大きな机が置かれていて、その辺りだけが明るかった。
ーーあの上にお人形さんが出てくるのかな?
私達は机の前の大きな絨毯の上に座って、お盆に用意されたジュースを飲んだ。
知衣ちゃんのママがたまちゃんの頭を撫でながら言った。
「たまちゃんのお父さん、たまちゃんが家にいないときに人形劇の練習したんですって。大変だったと思うわよ」
たまちゃんのお家はママがいない。
2年くらい前に病気で亡くなったって聞いた。
うちのママが凄く気の毒そうに話してたのを覚えている。
私達の前ではたまちゃんはそんなに寂しそうにしてないけど、たまちゃんのパパはどうなんだろう。
やがて外国のお化けが出てきそうな、不思議な音楽が流れてきた。
続いてたまちゃんのパパの声が聞こえてきた。
「みなさーん、今日はお集まりいただいて有難うございます。短い間だけど楽しんでいってね」
するとたまちゃんが立ち上がって、お菓子をもりもり食べている隆光君の前に出ようとした。
「お、環季! 始まったらちゃんとお座りしような。そんな大きいうさぎさんに座られたら、隆光君も前が見えないぞ」
私と知衣ちゃんはちょっと笑った。
一年生のたまちゃんは私たちの中でも一番小さいからだ。
「いやあ、環季、お前そんなに大きかったか? そんなパパより大きいんじゃ、ドアから入ってくるの大変だっただろう」
一瞬私達の笑い顔が崩れた。
戸惑う私達をよそに、ステージの下からひょっこりと白いお化けが出て来た。
『やあ、こんばんはぁ。僕いたずら大好きお化けだよぉー』
たまちゃんのお父さんの声真似と共にお化けがくるくると動く。
『今日はハロウィン!だよねー。皆飴ちゃんに、チョコに、ビスケットに、羨ましいなー……僕にもお菓子ちょうだーい』
たまちゃんのパパが屈んだままステージの横から飛び出して来た。
たまちゃんのパパがあひるさんみたいな歩き方で私達のお菓子を少しずつ持ち去って行くのを見て、私も知衣ちゃん達も大笑いした。
ステージに戻った白いお化けはいつの間にか小さいかごを持っていて、中に持ち去ったお菓子が入っていた。
『皆ありがとー! お礼に魔法を見せてあげるよー』
私達の頭上から銀色に光るボールが降りてくると、パカッと二つに割れた。
キラキラ光るテープやいろんな色の紙吹雪が私達に降り注ぐ。
「わー! きれーい」
落ちてきたキラキラが私達の周りを埋め尽くして、まるで夜空にいるみたいになった。
ステージの白いお化けがゆらゆらしていたかと思うと、ぬうっと下に長くなっていった。
「お化けさーん、大きくなれるの?」
長くなったお化けがふわっとステージから飛び出して、色んな所へ飛び出した。
次から次へとお化けの分身があっちこっちに飛んでは消え、飛んでは消えていく。
やがてステージに置かれていた木の模型の下から何かがずるずると出て来た。
ーー根っこだ。
紙で出来てる筈なのに、にょきにょきと根っこが生えてきてる。
床を見ると、私達の下の絨毯の模様も何だかうねうねしている。
水面みたいに揺れる模様から、何本かの光の線が出てきて、それが私達を囲む形になってると気付く。
一体どうなってるんだろう。
たまちゃんのパパ、これどうやってるんだろう。
足に何かが当たったと思って見ると、黒いお化けが絨毯の上であっかんべーをしている。
白いお化けが呼んだのかな。
ステージの方に向き直ると、ステージの上は沢山の白いお化けでぎゅうぎゅう詰めになっている。
その隣に背の高い女の人が音もなく立っていた。
黒いワンピースを着て、腰まである黒い髪で、口紅も真っ黒だ。
目は髪で隠れて良く見えないけど、凄く大きな口を三日月みたいに開けて笑っている。
白いお化けなのに黒いお化けを呼べるんだ。
今度は何色のお化けが来るんだろう。
ああ、目まぐるしい。
本当に頭がついていかない。
神菜 小3(語り手)女
移川 知衣 小2 女
新町 環季 小1 女
隆光 小3 男
知衣のママ
環季のパパ
「ねえ、たまちゃん遅くない?」
私は知衣ちゃんのママに言った。
「そうね、着替えに時間がかかってるかも」
そう返事をしながら、知衣ちゃんの帽子の形を整えた。
今日はハロウィン。
私は赤ずきん、知衣ちゃんは魔女のコスプレをしている。
みんなの家を回って「お菓子ちょうだい」って言った後、知衣ちゃんの家でパーティーをするんだ。
子供だけで回るのは危険だからって、同じく魔女の格好をした知衣ちゃんのママがついてくれることになった。
知衣ちゃんによると、知衣ちゃんよりもすごく張り切って魔女の服買ったんだって。
「ねーねー、キョンシーってこうやって飛ぶんだぜ」
私の背後から誰かが突っついてきた。
振り向くと顔にお札を垂らした隆光くんが、前習えみたいに手を前に突き出している。
「キョンシーって何?」
「母ちゃんが用意したから俺も良く知らねー」
手を突き出したポーズのまま足をそろえて飛んでいる。
今日はあれで移動するんだろうか。
隆光くんは後からお菓子目当てで参加してきた3年生だ。
どれ位お菓子を貰うつもりなのか、たまちゃんが屈んで入れそうな、大きいバスケットを持って来ている。
たまちゃんがパパと車で来たのは、それから間もなくだ。
「お待たせしてすみません。今日はよろしくお願いします」
そう言うとパパだけまた戻って行った。
「こんばんは、たまちゃんとっても可愛いわね」
知衣ちゃんのママが言うと、モコモコのうさぎの着ぐるみを着たたまちゃんは嬉しそうにニコニコ笑った。
始めに私の家を、次に隆光君の家を回ってから、皆バスケットを抱えて出て来た。
「……うちのママ、お菓子こんなにどうやって用意したんだろ……」
持ってきたかごに入り切らなくて、隆光君のママが私達に笑いながらバスケットを貸してくれた。
「たまちゃんの家でもお菓子出るのかな」
「俺はまだ入るぞ。お前ら今から食べれば良くね?」
「少しならいいわよ。次はたまちゃんの家。確かお父さんが人形劇をやってくれる予定だから、皆行儀よくね」
知衣ちゃんのママが言った。
たまちゃんの家に着いて、知衣ちゃんのママがインターホンを鳴らした。
「「「「「こんばんは、いたずらしに来ました!」」」」」
私達がドアに向かって叫ぶと、少し経ってドアが開いた。
「あ! たまちゃんのパパも仮装してるの!?」
知衣ちゃんが声をあげた。
ドアから出てきたたまちゃんのパパは、色とりどりの線が描かれた、高い絨毯みたいな布の服を着ていた。
首からは細いネックレスがいくつもかけられて、顔にも何か落書きがしてある。
さっきたまちゃんを車で送ってきた時とはまるで格好が違う。
「こんばんは。今日は皆仮装してるって環季から聞いて、おじさんも急いで用意してみたよ。……いやーしかし皆派手に変装したもんだね」
まじまじと目を見開きながら、たまちゃんのパパが私達を見渡した。
「おじさん、どんな劇やるの?」
隆光君が尋ねると、たまちゃんのパパは見てのお楽しみ、といった。
「大人数で押しかけてご迷惑おかけ致します。今日はよろしくお願いしますね」
知衣ちゃんのママが言うと、たまちゃんのパパが笑った。
「知衣ちゃーん、立派な挨拶して、おませさんだね。移川さん、いい娘さんですな」
そう言って知衣ちゃんの方を向いた。
「………?」
たまちゃんのパパ、知衣ちゃんと知衣ちゃんのママを間違えてる?
二人ともお揃いの魔女の衣装だけど。
案内された部屋にはステージに見立てた大きな机が置かれていて、その辺りだけが明るかった。
ーーあの上にお人形さんが出てくるのかな?
私達は机の前の大きな絨毯の上に座って、お盆に用意されたジュースを飲んだ。
知衣ちゃんのママがたまちゃんの頭を撫でながら言った。
「たまちゃんのお父さん、たまちゃんが家にいないときに人形劇の練習したんですって。大変だったと思うわよ」
たまちゃんのお家はママがいない。
2年くらい前に病気で亡くなったって聞いた。
うちのママが凄く気の毒そうに話してたのを覚えている。
私達の前ではたまちゃんはそんなに寂しそうにしてないけど、たまちゃんのパパはどうなんだろう。
やがて外国のお化けが出てきそうな、不思議な音楽が流れてきた。
続いてたまちゃんのパパの声が聞こえてきた。
「みなさーん、今日はお集まりいただいて有難うございます。短い間だけど楽しんでいってね」
するとたまちゃんが立ち上がって、お菓子をもりもり食べている隆光君の前に出ようとした。
「お、環季! 始まったらちゃんとお座りしような。そんな大きいうさぎさんに座られたら、隆光君も前が見えないぞ」
私と知衣ちゃんはちょっと笑った。
一年生のたまちゃんは私たちの中でも一番小さいからだ。
「いやあ、環季、お前そんなに大きかったか? そんなパパより大きいんじゃ、ドアから入ってくるの大変だっただろう」
一瞬私達の笑い顔が崩れた。
戸惑う私達をよそに、ステージの下からひょっこりと白いお化けが出て来た。
『やあ、こんばんはぁ。僕いたずら大好きお化けだよぉー』
たまちゃんのお父さんの声真似と共にお化けがくるくると動く。
『今日はハロウィン!だよねー。皆飴ちゃんに、チョコに、ビスケットに、羨ましいなー……僕にもお菓子ちょうだーい』
たまちゃんのパパが屈んだままステージの横から飛び出して来た。
たまちゃんのパパがあひるさんみたいな歩き方で私達のお菓子を少しずつ持ち去って行くのを見て、私も知衣ちゃん達も大笑いした。
ステージに戻った白いお化けはいつの間にか小さいかごを持っていて、中に持ち去ったお菓子が入っていた。
『皆ありがとー! お礼に魔法を見せてあげるよー』
私達の頭上から銀色に光るボールが降りてくると、パカッと二つに割れた。
キラキラ光るテープやいろんな色の紙吹雪が私達に降り注ぐ。
「わー! きれーい」
落ちてきたキラキラが私達の周りを埋め尽くして、まるで夜空にいるみたいになった。
ステージの白いお化けがゆらゆらしていたかと思うと、ぬうっと下に長くなっていった。
「お化けさーん、大きくなれるの?」
長くなったお化けがふわっとステージから飛び出して、色んな所へ飛び出した。
次から次へとお化けの分身があっちこっちに飛んでは消え、飛んでは消えていく。
やがてステージに置かれていた木の模型の下から何かがずるずると出て来た。
ーー根っこだ。
紙で出来てる筈なのに、にょきにょきと根っこが生えてきてる。
床を見ると、私達の下の絨毯の模様も何だかうねうねしている。
水面みたいに揺れる模様から、何本かの光の線が出てきて、それが私達を囲む形になってると気付く。
一体どうなってるんだろう。
たまちゃんのパパ、これどうやってるんだろう。
足に何かが当たったと思って見ると、黒いお化けが絨毯の上であっかんべーをしている。
白いお化けが呼んだのかな。
ステージの方に向き直ると、ステージの上は沢山の白いお化けでぎゅうぎゅう詰めになっている。
その隣に背の高い女の人が音もなく立っていた。
黒いワンピースを着て、腰まである黒い髪で、口紅も真っ黒だ。
目は髪で隠れて良く見えないけど、凄く大きな口を三日月みたいに開けて笑っている。
白いお化けなのに黒いお化けを呼べるんだ。
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本当に頭がついていかない。
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