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前編
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穏やかな休日の、住宅街にある比較的大きな公園。
街路樹と同じくらい背の高い樹木、球技を楽しめる広い芝生、巨大な複合アスレチック。
黒い帽子を被った彼女はそれらに目もくれず、公園の隅の人が来ない所にバッグを置いて、レジャーシートを広げた。
公園内に飛び交う子供の声をよそに、彼女はレジャーシートの上に黙々と花を並べていた。
青紫色の花は二、三本をまとめて白のサテンのリボンで結んである。
やがて彼女の視界の端に、レースの付いたスカートが目に入ってくる。
顔を上げると、幼稚園ぐらいと思しき少女がレジャーシートの端に座っていた。
「…お花は好き?」
尋ねられて、少女は彼女の方を向いて頷いた。
「公園にもお花が沢山あるよね。お父さんやお母さんは?」
「…パパと来た。かくれんぼしてるの」
彼女はふふっと笑った。
「じゃあ見つからないようにしないとね。それ、あなたの?可愛い袋ね」
少女はピンク色の手提げ袋を持っていた。
袋には小さなキャラクターが沢山描かれている。
「これ、みこちゃんの」
「あなたみこちゃんって言うのね」
少女に話し掛けつつ、バッグからティッシュ箱と、ハガキ大の段ボールを取り出した。
「…何ていうお花?」
レジャーシートの上の青紫色の花を見つめながら、みこちゃんと名乗った少女が尋ねた。
彼女はみこちゃんをちらりと見た。
「これはね、スミレの花」
みこちゃんが目をパチクリとさせて、
「えーっ…スミレ? これ違うよ」
「みこちゃんの知ってるスミレとは違うのかもね」
答えながら、段ボールにティッシュと花を乗せて、位置を慎重に調整する。
上からもう一枚の段ボールとティッシュで挟みこんで輪ゴムで留めた。
みこちゃんが面白そうに目を輝かせた。
「やってみたい?」
手提げ袋を地面に置いて、こくりと首を縦に振る。
みこちゃんが見よう見まねで押し花を作るのを、自分も作業をしつつ彼女は黒い帽子の下から見ていた。
「お手伝いしてくれてありがとうね。お花で何か作るの好き?」
「うん。ママもお花でクッキー作ってくれるもん」
みこちゃんは誇らしげに言った。
「お花のクッキーなんて凄いじゃない。お母さんお菓子作り上手なのね」
「ママとお菓子作るの好き。うちにパンジーあるから、それで作れるの」
「ふーん。パンジーもスミレの仲間なんだよ。知ってた?」
みこちゃんが首を横に振る。
段ボールで挟んだ花を見つめ、みこちゃんは彼女を上目遣いで見た。
「…やっぱり、これ持ってっちゃだめ?」
彼女は申し訳なさそうな顔をして、
「ごめんね。ちょっと訳があって、これはあげられないんだ。お家の花でお母さんと押し花作ると楽しいよ」
みこちゃんは残念そうに項垂れた。
見たことのない鮮やかな青みを帯びた紫色の花。
白いリボンが日の光を反射して眩しく輝いている。
「…でもこの花いっぱいあるよ。ちょっと欲しいな…」
「んー…お姉さんも頑張って沢山摘んだから、数も分からないくらいなんだけど、どうしても駄目なんだ。本当にごめんね」
公園内に吹いていた心地よいそよ風が、やや勢いを増して突風となった。
彼女とみこちゃんにも突風は吹き付け、足元にあった段ボールの板がバラバラと散らばって行った。
慌てて彼女は周囲を見渡して、
「あーちょっと…待って!」
どこか間の抜けた声をあげながら、コロコロと転がる段ボールを急いで追いかけていった。
飛んで行った段ボールをどうにか全て集めて、元の場所に戻ってくるとみこちゃんは居なくなっていた。
地面に置かれていた手提げ袋もない。
パパとかくれんぼをしていると言っていたが、もう帰ったのだろうか。
風のせいか少しレジャーシートから花がはみ出ている。
作りかけの押し花がシートの端に置かれていた。
彼女は拾い集めた段ボールと、ティッシュ箱をバッグにしまい、帽子を被り直した。
続いてレジャーシートの上の花の数を指さしながら数え、満足そうな顔をして畳み始めた。
街路樹と同じくらい背の高い樹木、球技を楽しめる広い芝生、巨大な複合アスレチック。
黒い帽子を被った彼女はそれらに目もくれず、公園の隅の人が来ない所にバッグを置いて、レジャーシートを広げた。
公園内に飛び交う子供の声をよそに、彼女はレジャーシートの上に黙々と花を並べていた。
青紫色の花は二、三本をまとめて白のサテンのリボンで結んである。
やがて彼女の視界の端に、レースの付いたスカートが目に入ってくる。
顔を上げると、幼稚園ぐらいと思しき少女がレジャーシートの端に座っていた。
「…お花は好き?」
尋ねられて、少女は彼女の方を向いて頷いた。
「公園にもお花が沢山あるよね。お父さんやお母さんは?」
「…パパと来た。かくれんぼしてるの」
彼女はふふっと笑った。
「じゃあ見つからないようにしないとね。それ、あなたの?可愛い袋ね」
少女はピンク色の手提げ袋を持っていた。
袋には小さなキャラクターが沢山描かれている。
「これ、みこちゃんの」
「あなたみこちゃんって言うのね」
少女に話し掛けつつ、バッグからティッシュ箱と、ハガキ大の段ボールを取り出した。
「…何ていうお花?」
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「これはね、スミレの花」
みこちゃんが目をパチクリとさせて、
「えーっ…スミレ? これ違うよ」
「みこちゃんの知ってるスミレとは違うのかもね」
答えながら、段ボールにティッシュと花を乗せて、位置を慎重に調整する。
上からもう一枚の段ボールとティッシュで挟みこんで輪ゴムで留めた。
みこちゃんが面白そうに目を輝かせた。
「やってみたい?」
手提げ袋を地面に置いて、こくりと首を縦に振る。
みこちゃんが見よう見まねで押し花を作るのを、自分も作業をしつつ彼女は黒い帽子の下から見ていた。
「お手伝いしてくれてありがとうね。お花で何か作るの好き?」
「うん。ママもお花でクッキー作ってくれるもん」
みこちゃんは誇らしげに言った。
「お花のクッキーなんて凄いじゃない。お母さんお菓子作り上手なのね」
「ママとお菓子作るの好き。うちにパンジーあるから、それで作れるの」
「ふーん。パンジーもスミレの仲間なんだよ。知ってた?」
みこちゃんが首を横に振る。
段ボールで挟んだ花を見つめ、みこちゃんは彼女を上目遣いで見た。
「…やっぱり、これ持ってっちゃだめ?」
彼女は申し訳なさそうな顔をして、
「ごめんね。ちょっと訳があって、これはあげられないんだ。お家の花でお母さんと押し花作ると楽しいよ」
みこちゃんは残念そうに項垂れた。
見たことのない鮮やかな青みを帯びた紫色の花。
白いリボンが日の光を反射して眩しく輝いている。
「…でもこの花いっぱいあるよ。ちょっと欲しいな…」
「んー…お姉さんも頑張って沢山摘んだから、数も分からないくらいなんだけど、どうしても駄目なんだ。本当にごめんね」
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