SSランクの二人

りゅー

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新しい生活

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「それじゃあ、とりあえずそれぞれ部屋で少し休んで…町、歩いてみましょうか?」
「そうだな。ちょっと頭を休める時間も欲しいだろうし、二時間後に下に集合にするか」
  そしてシグマと一緒に隣の部屋に移動しようとすると二人から声がかかる。
「え!?シータが一人じゃなくて?」
「二人ずつなのか?」
「え…だってこんな状況だし、こっちにシグマ置いといたら気持ちが休まらないでしょう?シグマと同じ部屋なんていつものことだし」
「シータ、先行くぞー」
「あー、うんごめん」
  シグマは彼らの動揺を気にも留めず、私の荷物ももって移動した。
  二人はいまだに「でも…」とか「さすがに…」とか言っているけれど、私も正直シグマと二人の方が楽。このまま押しきることにした。
「じゃあそういうことで、また二時間後にね」
  言って背を向けると、諦めたのか反論はなかった。


「あいつと仲良いの?」
  彼らの隣の部屋に移動した直後のシグマのセリフがこれ。地球でよくある、ベッドとデスクの殺風景な部屋。
「だからなんでそういう…。…良いか悪いかなら良いと思うけど、ただの同僚。あなた以上の付き合いの人なんていないわ」
  答えながら片方のベッドに荷物を下ろした。
  たしかにタウチの事はいいやつだとは思っているし、他の同僚に比べて仲はよかった。仕事とか関係なく友達に近いくらいに。 
とはいえ、私の中で存在が大きいのはもちろんシグマだし、より私を理解しているのも彼よりシグマだと言いきれる。
「それより、二時間か…。なにもしないにはちょっと長いよね…」
「…なぁ…異世界、って、信じてるか?」
  思ってもいなかった質問に思わず彼を見る。シグマはベッドに腰掛け、こちらに視線を向けないまま、
「全く信じてない訳じゃない。…ちょっと違うな。頭では理解したけど、納得はいってない感じか。勝手はわからないけどこの世界に不満もなければこの先への不安もない。とはいえ多分、地球への未練みたいなのもある。お前の中では、もう承知ずくか?」
  私はもう一つのベッドに腰を下ろし、そのまま寝転んだ。天井を眺めたまましばらく口をつぐんでいると、シグマが私に視線を移すのを感じた。
「そうだなあ…私にとっては、『疑い様のない現実』。あの女の存在そのものもそうだけど、この世界は魔力が濃すぎる。肌に纏わりつく感じ… 。これを感じていて、地球だと思うことは出来ない。私は、未練、というより、元さんへの申し訳ない気持ちが残ってるかな」
  元さんは一人きりで戦っていた私に仲間をくれた人。あの人の助けになるならと面倒な仕事も受けてきた。せめてしっかりと理由を話し、感謝を伝えてから来たかった。でも、戻れない事は伝わっているはず。それが救いになっている。
「…それに、シグマも一緒だしね…」
  呟く、というより、ふいに洩れた私の声はシグマにも聞こえたと思うが、彼は反応しない。



  私がSD社に入った頃、ほぼ変わらないタイミングでσシグマも入社したらしい。実力に関係無く必ず最低ランクから始まるシステムは、私達…少なくとも私の事を苦しめた。
  元さんに誘われ入社する前から、私は一人で討伐を繰り返していた。理由は単純、殺らなきゃ殺られるから。そうして生き残ってきた私は、もちろん周りより遥かに強かった。
  生死をかけた戦いの経験は実力に大きく作用する。そしてできた実力差による溝は社内で私を孤立させていた。同期に妬まれ、先に入社している同ランクに疎まれ、組手の相手もろくに居らず、模擬戦すらなかなか相手をして貰えない。訓練に意味も見出だせずにいたそんな時、σシグマに出逢った。
  組を変えての訓練の日だった。普段は初めての組であろうと、噂が回っていたため私と組もうとする人はいない。でもあの日、彼は私の所にきた。一目見た時から気付いていた。彼は私と同じ同類だとーー。
「あんたが噂の3382?」
  コードネームのつかない低ランクの社員は、個人名ではなく番号で識別されていた。3382と呼ばれた私は彼を見る。
「そうよ。はじめまして。あなたは?」
「3369。よろしく」
  彼との訓練は楽しかった。実力のほぼ拮抗した相手、久しぶりに身体を使っている感覚。きっとあの時感じた喜びに似た感情はσシグマも同じだっただろう。
  以来私達の申し出、そして上からの配慮のもと組替えがあり、私とσシグマは同じ組になった。
  同じ試験で上に上がり、同じ依頼を受けて過ごし、同時期にSSになったのだ。
  私の唯一の戦友。きっと一番大切な人。それがσシグマなんだと思う。
  彼と出逢えた、その事でも元さんへの感謝があったーー。


「二時間…どうします?」
「敬語やめろって言っただろ。俺はもう、『マブキ』だ」
   マブキの言葉に「う…」と小さく声を漏らしたタウチは、
「そんなにすぐには変えられないで…だろ…。今までずっと上の人だったんだし…」
「シータはすぐに順応してたけどな」
「それはだって…シータ…の方が要領もいいで…いいし」
「まあそうだな。仕事のスピードなんかもあいつのが良かったしな。
 まあとりあえず…それぞれの今後を少し考えるか…。冒険者って、結構楽しそうだと思うんだよな」
「商売始めるのもピンとこないもんな…」
  言いながらも、ようやく疲れを感じはじめたのか二人はそれぞれベッドに倒れこむ。そのまま二人が眠りにつくのにそう時間はかからなかったーー


  私とシグマが部屋から出て下に着くと、あの二人の姿はまだない。
「あの二人は…まだだな」
「まだっていうか…上に居るわよね。まぁ…十中八九寝てるよ。頭が疲れるもん。こんな現状。急ぐ訳じゃないし、起きるまで待とうか。部屋で」
「じゃあとりあえず、もどるか」
  そして私達は部屋に戻った。

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