5 / 5
新しい生活
しおりを挟む
「それじゃあ、とりあえずそれぞれ部屋で少し休んで…町、歩いてみましょうか?」
「そうだな。ちょっと頭を休める時間も欲しいだろうし、二時間後に下に集合にするか」
そしてシグマと一緒に隣の部屋に移動しようとすると二人から声がかかる。
「え!?シータが一人じゃなくて?」
「二人ずつなのか?」
「え…だってこんな状況だし、こっちにシグマ置いといたら気持ちが休まらないでしょう?シグマと同じ部屋なんていつものことだし」
「シータ、先行くぞー」
「あー、うんごめん」
シグマは彼らの動揺を気にも留めず、私の荷物ももって移動した。
二人はいまだに「でも…」とか「さすがに…」とか言っているけれど、私も正直シグマと二人の方が楽。このまま押しきることにした。
「じゃあそういうことで、また二時間後にね」
言って背を向けると、諦めたのか反論はなかった。
「あいつと仲良いの?」
彼らの隣の部屋に移動した直後のシグマのセリフがこれ。地球でよくある、ベッドとデスクの殺風景な部屋。
「だからなんでそういう…。…良いか悪いかなら良いと思うけど、ただの同僚。あなた以上の付き合いの人なんていないわ」
答えながら片方のベッドに荷物を下ろした。
たしかにタウチの事はいいやつだとは思っているし、他の同僚に比べて仲はよかった。仕事とか関係なく友達に近いくらいに。
とはいえ、私の中で存在が大きいのはもちろんシグマだし、より私を理解しているのも彼よりシグマだと言いきれる。
「それより、二時間か…。なにもしないにはちょっと長いよね…」
「…なぁ…異世界、って、信じてるか?」
思ってもいなかった質問に思わず彼を見る。シグマはベッドに腰掛け、こちらに視線を向けないまま、
「全く信じてない訳じゃない。…ちょっと違うな。頭では理解したけど、納得はいってない感じか。勝手はわからないけどこの世界に不満もなければこの先への不安もない。とはいえ多分、地球への未練みたいなのもある。お前の中では、もう承知ずくか?」
私はもう一つのベッドに腰を下ろし、そのまま寝転んだ。天井を眺めたまましばらく口をつぐんでいると、シグマが私に視線を移すのを感じた。
「そうだなあ…私にとっては、『疑い様のない現実』。あの女の存在そのものもそうだけど、この世界は魔力が濃すぎる。肌に纏わりつく感じ… 。これを感じていて、地球だと思うことは出来ない。私は、未練、というより、元さんへの申し訳ない気持ちが残ってるかな」
元さんは一人きりで戦っていた私に仲間をくれた人。あの人の助けになるならと面倒な仕事も受けてきた。せめてしっかりと理由を話し、感謝を伝えてから来たかった。でも、戻れない事は伝わっているはず。それが救いになっている。
「…それに、シグマも一緒だしね…」
呟く、というより、ふいに洩れた私の声はシグマにも聞こえたと思うが、彼は反応しない。
私がSD社に入った頃、ほぼ変わらないタイミングでσも入社したらしい。実力に関係無く必ず最低ランクから始まるシステムは、私達…少なくとも私の事を苦しめた。
元さんに誘われ入社する前から、私は一人で討伐を繰り返していた。理由は単純、殺らなきゃ殺られるから。そうして生き残ってきた私は、もちろん周りより遥かに強かった。
生死をかけた戦いの経験は実力に大きく作用する。そしてできた実力差による溝は社内で私を孤立させていた。同期に妬まれ、先に入社している同ランクに疎まれ、組手の相手もろくに居らず、模擬戦すらなかなか相手をして貰えない。訓練に意味も見出だせずにいたそんな時、σに出逢った。
組を変えての訓練の日だった。普段は初めての組であろうと、噂が回っていたため私と組もうとする人はいない。でもあの日、彼は私の所にきた。一目見た時から気付いていた。彼は私と同じだとーー。
「あんたが噂の3382?」
コードネームのつかない低ランクの社員は、個人名ではなく番号で識別されていた。3382と呼ばれた私は彼を見る。
「そうよ。はじめまして。あなたは?」
「3369。よろしく」
彼との訓練は楽しかった。実力のほぼ拮抗した相手、久しぶりに身体を使っている感覚。きっとあの時感じた喜びに似た感情はσも同じだっただろう。
以来私達の申し出、そして上からの配慮のもと組替えがあり、私とσは同じ組になった。
同じ試験で上に上がり、同じ依頼を受けて過ごし、同時期にSSになったのだ。
私の唯一の戦友。きっと一番大切な人。それがσなんだと思う。
彼と出逢えた、その事でも元さんへの感謝があったーー。
「二時間…どうします?」
「敬語やめろって言っただろ。俺はもう、『マブキ』だ」
マブキの言葉に「う…」と小さく声を漏らしたタウチは、
「そんなにすぐには変えられないで…だろ…。今までずっと上の人だったんだし…」
「シータはすぐに順応してたけどな」
「それはだって…シータ…の方が要領もいいで…いいし」
「まあそうだな。仕事のスピードなんかもあいつのが良かったしな。
まあとりあえず…それぞれの今後を少し考えるか…。冒険者って、結構楽しそうだと思うんだよな」
「商売始めるのもピンとこないもんな…」
言いながらも、ようやく疲れを感じはじめたのか二人はそれぞれベッドに倒れこむ。そのまま二人が眠りにつくのにそう時間はかからなかったーー
私とシグマが部屋から出て下に着くと、あの二人の姿はまだない。
「あの二人は…まだだな」
「まだっていうか…上に居るわよね。まぁ…十中八九寝てるよ。頭が疲れるもん。こんな現状。急ぐ訳じゃないし、起きるまで待とうか。部屋で」
「じゃあとりあえず、もどるか」
そして私達は部屋に戻った。
「そうだな。ちょっと頭を休める時間も欲しいだろうし、二時間後に下に集合にするか」
そしてシグマと一緒に隣の部屋に移動しようとすると二人から声がかかる。
「え!?シータが一人じゃなくて?」
「二人ずつなのか?」
「え…だってこんな状況だし、こっちにシグマ置いといたら気持ちが休まらないでしょう?シグマと同じ部屋なんていつものことだし」
「シータ、先行くぞー」
「あー、うんごめん」
シグマは彼らの動揺を気にも留めず、私の荷物ももって移動した。
二人はいまだに「でも…」とか「さすがに…」とか言っているけれど、私も正直シグマと二人の方が楽。このまま押しきることにした。
「じゃあそういうことで、また二時間後にね」
言って背を向けると、諦めたのか反論はなかった。
「あいつと仲良いの?」
彼らの隣の部屋に移動した直後のシグマのセリフがこれ。地球でよくある、ベッドとデスクの殺風景な部屋。
「だからなんでそういう…。…良いか悪いかなら良いと思うけど、ただの同僚。あなた以上の付き合いの人なんていないわ」
答えながら片方のベッドに荷物を下ろした。
たしかにタウチの事はいいやつだとは思っているし、他の同僚に比べて仲はよかった。仕事とか関係なく友達に近いくらいに。
とはいえ、私の中で存在が大きいのはもちろんシグマだし、より私を理解しているのも彼よりシグマだと言いきれる。
「それより、二時間か…。なにもしないにはちょっと長いよね…」
「…なぁ…異世界、って、信じてるか?」
思ってもいなかった質問に思わず彼を見る。シグマはベッドに腰掛け、こちらに視線を向けないまま、
「全く信じてない訳じゃない。…ちょっと違うな。頭では理解したけど、納得はいってない感じか。勝手はわからないけどこの世界に不満もなければこの先への不安もない。とはいえ多分、地球への未練みたいなのもある。お前の中では、もう承知ずくか?」
私はもう一つのベッドに腰を下ろし、そのまま寝転んだ。天井を眺めたまましばらく口をつぐんでいると、シグマが私に視線を移すのを感じた。
「そうだなあ…私にとっては、『疑い様のない現実』。あの女の存在そのものもそうだけど、この世界は魔力が濃すぎる。肌に纏わりつく感じ… 。これを感じていて、地球だと思うことは出来ない。私は、未練、というより、元さんへの申し訳ない気持ちが残ってるかな」
元さんは一人きりで戦っていた私に仲間をくれた人。あの人の助けになるならと面倒な仕事も受けてきた。せめてしっかりと理由を話し、感謝を伝えてから来たかった。でも、戻れない事は伝わっているはず。それが救いになっている。
「…それに、シグマも一緒だしね…」
呟く、というより、ふいに洩れた私の声はシグマにも聞こえたと思うが、彼は反応しない。
私がSD社に入った頃、ほぼ変わらないタイミングでσも入社したらしい。実力に関係無く必ず最低ランクから始まるシステムは、私達…少なくとも私の事を苦しめた。
元さんに誘われ入社する前から、私は一人で討伐を繰り返していた。理由は単純、殺らなきゃ殺られるから。そうして生き残ってきた私は、もちろん周りより遥かに強かった。
生死をかけた戦いの経験は実力に大きく作用する。そしてできた実力差による溝は社内で私を孤立させていた。同期に妬まれ、先に入社している同ランクに疎まれ、組手の相手もろくに居らず、模擬戦すらなかなか相手をして貰えない。訓練に意味も見出だせずにいたそんな時、σに出逢った。
組を変えての訓練の日だった。普段は初めての組であろうと、噂が回っていたため私と組もうとする人はいない。でもあの日、彼は私の所にきた。一目見た時から気付いていた。彼は私と同じだとーー。
「あんたが噂の3382?」
コードネームのつかない低ランクの社員は、個人名ではなく番号で識別されていた。3382と呼ばれた私は彼を見る。
「そうよ。はじめまして。あなたは?」
「3369。よろしく」
彼との訓練は楽しかった。実力のほぼ拮抗した相手、久しぶりに身体を使っている感覚。きっとあの時感じた喜びに似た感情はσも同じだっただろう。
以来私達の申し出、そして上からの配慮のもと組替えがあり、私とσは同じ組になった。
同じ試験で上に上がり、同じ依頼を受けて過ごし、同時期にSSになったのだ。
私の唯一の戦友。きっと一番大切な人。それがσなんだと思う。
彼と出逢えた、その事でも元さんへの感謝があったーー。
「二時間…どうします?」
「敬語やめろって言っただろ。俺はもう、『マブキ』だ」
マブキの言葉に「う…」と小さく声を漏らしたタウチは、
「そんなにすぐには変えられないで…だろ…。今までずっと上の人だったんだし…」
「シータはすぐに順応してたけどな」
「それはだって…シータ…の方が要領もいいで…いいし」
「まあそうだな。仕事のスピードなんかもあいつのが良かったしな。
まあとりあえず…それぞれの今後を少し考えるか…。冒険者って、結構楽しそうだと思うんだよな」
「商売始めるのもピンとこないもんな…」
言いながらも、ようやく疲れを感じはじめたのか二人はそれぞれベッドに倒れこむ。そのまま二人が眠りにつくのにそう時間はかからなかったーー
私とシグマが部屋から出て下に着くと、あの二人の姿はまだない。
「あの二人は…まだだな」
「まだっていうか…上に居るわよね。まぁ…十中八九寝てるよ。頭が疲れるもん。こんな現状。急ぐ訳じゃないし、起きるまで待とうか。部屋で」
「じゃあとりあえず、もどるか」
そして私達は部屋に戻った。
0
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる