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初めての町
しおりを挟む森の中で出会い、四人で森を歩くことおよそ一時間。兎や熊のような動物に遭遇、討伐しつつ歩き、シグマの言っていた場所に到着した。
「町…ね。とりあえずよかったけど、あれ…検問よね…?」
「検問…だな。マズイよな…?」
町が遠目に見える、初めの森の端に身を隠している私達は、様子を見るなり呟いた。
入口付近には揃いの制服を着た男が数人。その前には列が出来ていて、皆何かを話してから中に入っていく。
検問てことは…身分証、とかいるのだろう。あいにく私達はそんなもの持っていないし、エルフ、魔族、人間、人間の謎パーティー。
「んー…。二人ずつ別れて入るか…?」
小さく呟く。私とシグマ、マブキとタウチなら組み合わせ的には割と自然。とはいえ、そうすると身分証を持たない理由を二組分考えないといけない。
それに女神とやらがあの町に一番近い森に私達を送ったことから、きっとあそこはこの謎パーティーでも受け入れられる環境なのだろう。
「いいや、四人で行ってみよう」
マブキ達はまだ頭がついてきていないのか、口を挟む様子はない。シグマは地球にいた頃から、私の考えにはあまり意見しない。それが信頼である事を私は知っているし、それを受け入れることが私から彼への信頼だ。
「よし、次。………冒険者パーティー…か…?」
検問の兵士はやや眉をひそめる。長めの沈黙が彼の困惑を物語っていた。
…まあ、人間と異種族、しかもなぜか先頭は女。怪しいというより珍しいのかな。
「いえ、冒険者ではありません。二人が森で動物に襲われているのを助けたので一緒に来ました。私と彼は人間の町は初めてで、彼らは襲われた際に荷物を紛失したそうです」
順番待ちの間に、一応それっぽい言い訳を考えてみた。エルフと魔族が一緒にいること自体不思議だが、そもそもが不思議すぎてそのへんはスルーしてもらえたみたいだ。
「つまり全員身分証なしか。犯罪歴の確認と町に入るための通行証を発行しよう。手っ取り早く身分証を手に入れるには中で冒険者になるといい」
言いながら確認と発行を手早く済ませ、兵士は私達を町に入れてくれた。
「ようこそ、マーモットへ!」
ここがマーモット…。刷り込まれた知識によると、他種族が平和に暮らす町であり、冒険者ギルドとやらの本部があるらしい。
「さて、とりあえず入れたし、日が暮れる前に宿を探してゆっくり話する?」
「そうだなー。一応金も持ってるし、今後のことも色々考えたいしな」
辺りを見回しながら歩くと、宿はすぐに見つかった。
大きくはないけれど清潔な雰囲気がある。中に入ると柔和な年配の女性が声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ。お食事ですか?お泊まりですか?」
「泊まりでお願いします。えーと、二部屋で一週間、素泊まり…じゃなくて、食事なしでお願いできますか?」
「え、二部屋…?」
受付の方と話すシグマの言葉に二人が眉を寄せたことに気付き、大丈夫、と目配せする。
「わかりました。それでは二人部屋を二部屋、一週間ですね。料金が先払いで銀貨二十八枚です」
この場はシグマが払い、私達は案内されたうちの一部屋に入った。それなりに部屋の前を通ったが、人の気配はほとんどなく、静かだ。
「よし、それじゃあ…」
私はSD社の軽い説明と、シグマとの関係を伝える。この世界や今の状況については私達も彼らも似たような知識量だろうし、あとは二人の質問に答えることしか出来ない。
「まずは…二人の見た目が変わったのは?」
「ああそれは…。…私はエルフ、シグマが魔族なの。力がありすぎて人間として転生できなかったみたい。人間以外に黒髪黒目はいないからってことで、こうなったの」
「力がありすぎて、ってことは、地球にいたころからって意味だよな。動物?を簡単に倒してたし、強いのか?」
「そう、新しい力はなにももらってないからら出来ることは以前とほとんど変わってない。この世界での基準はわからないけど、強いよ。地球では異常なほどに」
「なるほど…。ちなみに、地球で一緒に菓子屋で働いてたのはなんでだ?」
「菓子屋の社長とSDの社長が古い知り合いらしくって、その関係で依頼が回ってきて。あとまあ、趣味っていうのもあったかな」
マブキは控え目に質問を始めたが、いまだに理解し難いのかタウチは何も言わない。
「タウチは?聞きたいこととか、気になってることないの?」
「えっ…じゃあ…二人は、その…付き合ってんの…?」
…ん?
「えーと、私と、シグマ?」
聞き返すとこちらを見ずに小さく頷く。
「ふっ、あはは!この状況でその質問? 私達はただの仕事のパートナー。仲は良いと思うしそうみえても仕方ないけど、そんな関係じゃないよ」
この返事に納得がいかなかったのか、タウチはちらっとシグマを見る。
「ま、今のところはな」
「…そっか…」
今のシグマの含みのある答えは置いといて…。
「他に聞いておきたいことはない?なければ今後の話をしようと思うんだけど」
言って見回すと三人とも頷くので話を続けようと思う。
「まず、私とシグマは今後も一緒に行動する。戦闘ももちろんできるし、生活費を稼ぐにも冒険者になろうと思ってる」
「ま、妥当だよな。パーティーも組めて、高ランクになると依頼報酬もかなりいいみたいだし」
「もちろん二人には一緒にいるように強要はしないし、冒険者にだって無理にならなくてもいい。ただ、町が安全なのかも、この世界の安全の基準もわからない以上、しばらくは行動を共にするのが最善だと思うんだけど…どう?」
私の言葉に驚いた表情でマブキが口を開く。
「つまり…俺たちを守ってくれるってことか?」
「うん、もちろん。…え?私変なこと言ってる?」
「いや、町に着いたら当然別行動だと思ってたから。その、邪魔じゃないか?」
…邪魔?
意味がよくわからず首を傾げて考えていると、シグマが私の話を継いで喋り始める。
「社内での立場上、戦えないやつを守るのは日常だったし問題ない。多少なりとも戦闘が出来ないとまずい世界だっていうなら訓練もしてやれる。俺達が冒険者になれば収入も安定するし、一緒にいることでそっちに不利益になることはないと思うぞ。…邪魔ってのがそういう意味ならまぁ、否定はしないけどな、俺は」
マブキとタウチは顔を見合せ…躊躇いながらも頷いた。ここにきて私だけいまいち理解出来ていないけれど…これでしばらくは四人パーティーだ。
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