SSランクの二人

りゅー

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はじまり

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「普通に…森…」
  異世界とやらに転生した私達が気が付いたのは森の中。陽の光がよく入る、わりと明るい森だ。二人とも同じ場所にとばされたらしい。
「地球の森と変わらなく見えるけどな」
  私にもそう見えるよσシグマ。でもやっぱりここは地球じゃない。何て言うか…大気の魔力量が多すぎる…。
「早く馴染まないと…酔いそう…」
「?とりあえず座って現状把握するか」
  言うなり座り込んだσシグマの隣に腰を降ろす。えっとまずは…オ、オープン…

  ピコンッ。

「おぉ…。出た」
  ゲームでよくみるあの画面。名前はシータ表記か…。種族エルフ、年齢はそのままの26。
  魔法なんかのスキルはみんな付いてるけど、これはたぶんなんでも出来る私のいままでの魔法。エルフの割には身体能力も高めだけど、不自然ってことは無さそう。
「どう?平気そう?」
  σシグマの画面を覗き込むと、やはり名前はシグマ表記。やっぱりそのまま同い年。
「コードネームじゃなくて、名前になっちまったな」
「全く馴染まない名前よりいいんじゃない?」
  言って笑い掛けたとき、気づく。
「この気配…もしかして…」
  彼女が言っていたあと二人…。同じ森にいるんだ。しかもたぶん…私の知り合いだ…!
「ちょっとあっちに挨拶しにいく!ついてこれる?」
「この場所でもお前の気配ならなんとなく分かるから後から追い付く。先行ってくれ」
「ありがとー」
  言いながら駆け出した。いくら普通に見えるとはいえ森は森。なんかの動物もいるかもしれないし、何より異世界!私達ならともかく、人間には危険な状況。本当にあの二人だったら急がないと…!
  森の中を走り出して10分ほど。ずいぶん近付いたんだけど…もう一つ近付く気配…何かはわかんない…けど、雰囲気的には動物!
  ーー間に合えっ!
「あ、ぶっ…ない!!」
  言いながら動物に蹴りを入れる。走ってそのままな分威力も強め。
「はぁ!?」
  そんな私と動物をみて呆然としている二人…
「山吹さんと舘内くん…ですよね?」
  この二人はθが働いていた菓子屋の上司と同期。どちらも仲良くしてくれていた男性社員。
「え…橘…?」
「お疲れ様です…じゃ変か、こんにちは?」
「今…アレ…」
「あの動物はとりあえずいいとして、少しお話しませんか?色々と」
  困惑したままの二人を促し、とりあえずその場から距離をとった。
「二人とも、気付いたらいきなりここですか?」
「一応なんか…声?が、異世界に、とかなんとか言ってるのを聞いたと思うけど…」
「なら、そのまま、ここは地球じゃないです。なかなか理解しにくいですけど。二人とも、ステータス見られますか?」
  訊ねるとそれぞれ画面を見始めた。その辺りは私達と同じく刷り込まれているらしい。
「お二人の名前は?」
「俺はマブキって書いてある…」
「タウチって…」
 あの女性ひとなかなかのネーミングセンスしてるな…私もともと横文字で良かった…。
「じゃあ、マブキさんとタウチくん。私のことはシータって呼んで下さい。それがここでの名前です」
「ここが店じゃなく、地球ですらないなら敬語なんか使わなくていい。友達的な感じでいこう」
「…えっと、じゃあ…遠慮なく。たぶんもうじき私の仲間がここに…あ、来た」
  茂みが揺れて、シグマが現れた。少し息がきれている。
「シータお前…思ってたより…速ぇよ…。この世界、なんとなく息苦しいし…」
「先行って良いっていったじゃない。息苦しさはそのうちなくなると思うよ。で、こっちのおっきい人がマブキ、隣がタウチ。彼はシグマよ」
  それぞれをさしながら紹介する。皆会釈程度の挨拶を交わした。頭は追い付いてなさそうだけど、いつまでも森にいるわけにはいかない。サクッと済ませて移動しないと…。
「たち…シータとシグマさん?はもともと知り合い?」
「そう。ペア組んで仕事してたの。その辺はまた落ち着いたら話しましょう。今は寝床を確保しないと」
「このまま下ってった所に人がたくさんいるよな。とりあえずそこに向かうか?」
  一方向を眺めながら言うシグマに頷く。
「野宿スタートは嫌だもんね。あ…人里行く前に見た目変えないと…」
  先ほどの画面の名前の隣に、それらしきボタンがあることに気付いていた。すぐにマブキとタウチの気配が現れてそれどころじゃなくなったんだけど。これを触れば多分…
「…変わった?」
  自分では変化がわからず思わず足をとめる。見るとつられて全員足を止めていた。
 長く揺れる髪をつかんで見ると綺麗なシルバー。
こっちにきて唯一ちょっと嬉さを感じる。
「ちゃんと希望してた色に変わってるぞ。心なしか肌も白くなった気がするけど」
「本当?この世界、鏡あるのかな。私も見たいなあ。シグマもその色似合ってる」
  ワインレッドに近い赤髪にシルバーの瞳。それ以外に大きな変化はなさそうだ。感覚的に、人間からかけ離れた様で少し複雑ではあるけれど、種族が変わったのだから当然の事として受け入れなくちゃいけない。
「えっと…お前ら、どうしたんだ…?」
「あー…っと…ひとまず宿を確保して、詳しい事情を話しましょう。それまでちょっと質問は我慢して」
  言いたいことは沢山あるだろうけれど、それに今答えている時間はない。二人もとりあえず私達について歩いてくる。
『ねぇ…会うかどうかは任せるとか言われたけど、アレ絶対会うってわかってたわよね?』
『だろうな。だからこそ見た目も後から変えられる様にしたんだろ。知り合いだとはいえ、その外見じゃあ無駄に警戒されるだろうしな』
  頭のなかでシグマに話しかけると普通に返事が返ってくる。この世界でもテレパシーは使えるみたいだ。この二人と一緒に行動しているうちは何かと便利かもな、この能力…。
  向かう先に泊まれるところがあるのか、二人に何をどう説明しようか、この先どう生活していくか…。不安は尽きないが、今はひたすら歩くだけだーー。
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