2 / 5
白い空間
しおりを挟む360°どこを見渡してもただ広がる白。
私の意思で具現化したテーブルと椅子、ティーセットと大きな鏡。この鏡はこの白い世界を映さない。映るのは…私を神と崇める世界。その崩れていく様子だけだーー
なんとかバランスを戻さなくては…。
菓子屋の仕事のあと、一人で帰ろうと歩く。明日はどっちも休みだし、ゆっくり寝ようかな…。
私達SD社員は社内に自室をもって暮らしている。もちろんランクによって待遇は違うけど、それなりに住みやすい部屋だ。仕事であまり部屋に居ないので、荷物の量も多くはない。
『そっちの仕事、明日休みか?』
頭の中にσの声が響いた。
いわゆるテレパシーのようなもの。でもなぜかσとしか使えない、私の力の中でも謎が多い力。
『休みだけど…明日はゆっくりしようとーー』
ズキンっ…
…?…なんか…頭が…
『あしーーだかーーでーー』
σの言葉が理解できない…
そのまま私の意識は途切れた。
白い…眩しい…?
目が覚めた時に目にはいったのは白。壁が白い訳でもなく、どこをみても景色の先が白い。
「なに…ここ…」
身体に硬い感触。地面に寝転んでいる事に気付き、起き上がり呟く。
「 ん……θ…?」
振り向くとそこにσが倒れている。
仕事帰りにσと話してて…そうだ、頭が急に…。
σもゆっくりと体を起こし、頭を押さえている。私と同じく、状況が把握できないでいるらしい。
《目が覚めましたか?》
突然かかった声に前を向く。白いドレス…?見上げると淡いブロンドの髪に同色の瞳を持つ女がいた。
直後、私達は後ろに大きく跳び距離を取る。
何…この女…。
私達だから…いや、私だから判る。この女は人間じゃない。こんな気配、人間に出せる訳がない…。こんな…力の塊みたいな……
《さすが、と言うべきですね。この短時間で目を覚まし、私を理解し…何より、神域で動けるとは》
「あんたは…?」
警戒を解かずσが問いかける。女は悲しげに微笑んだ。
《私は何者でもありません。ただ世界を見守る為に具現した魔力の塊…。そして…あなたがたをこちらへ連れ出した張本人です》
私達を…連れ出した?
《ええ。私の見守る世界が今、崩れ始めています。均衡を保てなくなり、瓦解する…。それを止めてもらうため、あなたがたに介入していただきたいのです》
「当然のように心を読めるってとこはとりあえず置いといて…よくある、異世界転生、のようなことかしら?」
《その通り。地球から、私の世界への転生を》
「拒否権は…無いんだろうな。もうすでに、こんなとこに連れてきてるってことは」
《はい。本来は転生者として選ばれた者と私が直接会うことはありません。しかしあなたがたは地球人としては異例の力を持っているので、人間としてそのまま転生させることができなかったのです》
女が私達に片手をかざした途端、頭に情報が流れ込んできた。理解する、というよりはもはや、吸収したような感覚。現状を把握し、ようやく私達は警戒を緩めた。
《そのなかから種族を選んで下さい。それぞれの能力をより活かせるでしょう。また、人間以外の種族に黒髪黒目はおりません。髪と瞳の色も選んで下さい》
トントン拍子に話が進む。この状況を受け入れている私達もどうかしている。σを見ると同じように私を見ていた。肩をすくめ、選ぶしかない、と伝える。
妥当なのはエルフ…魔族…。種族による差別もなく、しがらみもない世界らしい。
《どちらかと言えば、θさんがエルフ、σさんが魔族に合う力を持ってますね。寿命はどちらも似たようなものですし、お好きな方を》
「それじゃあ私はエルフでいいわ。それと…髪はシルバーグレーのロング、瞳は深いブルーで」
「俺は魔族で。髪と目は目立たない色で任せる」
《わかりました。容姿はお二人が好きなときに変えられる様に設定しておきます。それとせめてものお詫びと感謝を込めて、この場で一つ、転生後一つ、それぞれの願いを叶えます。何を求めますか?》
願い…
「俺は何も思い付かない。俺の分もθが使えよ」
そんなのアリなの?と口にする前に頷かれる。なら…
「元さん…私達がいた会社の社長に、私達がもう戻れないって伝えて。死んだとか言っても構わない。行方不明じゃ困るの。はっきり、戻れないって伝えてほしい」
あの会社において行方不明者が見つからないなんてあり得ない。いつまでも捜されるのも、私達が抜けた穴を守られるのも困る。
「もう一つは…転生後の私達に、新たな力を付与しない、っていうのはどう?」
《新たな力…とは、戦闘に使う力のことですか?》
「そう。言語とか、基礎知識とかの刷り込みはしてもらいたいけど、よくある、ステータスが異常とか、特殊な能力が、とか、そういうの要らないわ」
いいよね?とσを振り返ると彼も頷いた。
私達のやり取りをみて、彼女も頷く。
《それでは、その二つの望みを叶えましょう。転生後の願いは、決まり次第私を奉る協会で祈ってください。おそらくどの集落にもあるはずです。あとは…あなたがた二人の他にあと二人、同時にこちらの世界に招いています。どちらもあなたがたとの相性の良い人間です。接触するかしないかは任せます》
《質問や要望はありませんか?なければまもなく、新しい世界へ向かうことになりますが》
私とσは顔を見合わせ、そして頷いた。
《では。お二人の行く末に、幸多からんことをーー》
そしてまた、私の意識は途切れた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる