SSランクの二人

りゅー

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白い空間

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  360°どこを見渡してもただ広がる白。
  私の意思で具現化したテーブルと椅子、ティーセットと大きな鏡。この鏡はこの白い世界を映さない。映るのは…私を神と崇める世界。その崩れていく様子だけだーー
  なんとかバランスを戻さなくては…。





  菓子屋の仕事のあと、一人で帰ろうと歩く。明日はどっちも休みだし、ゆっくり寝ようかな…。
  私達SD社員は社内に自室をもって暮らしている。もちろんランクによって待遇は違うけど、それなりに住みやすい部屋だ。仕事であまり部屋に居ないので、荷物の量も多くはない。
『そっちの仕事、明日休みか?』
  頭の中にσシグマの声が響いた。
  いわゆるテレパシーのようなもの。でもなぜかσシグマとしか使えない、私の力の中でも謎が多い力。
『休みだけど…明日はゆっくりしようとーー』
  ズキンっ…
  …?…なんか…頭が…
『あしーーだかーーでーー』
  σシグマの言葉が理解できない…
  そのまま私の意識は途切れた。





  白い…眩しい…?
  目が覚めた時に目にはいったのは白。壁が白い訳でもなく、どこをみても景色の先が白い。
「なに…ここ…」
  身体に硬い感触。地面に寝転んでいる事に気付き、起き上がり呟く。
「 ん……θシータ…?」
  振り向くとそこにσシグマが倒れている。
  仕事帰りにσシグマと話してて…そうだ、頭が急に…。
  σシグマもゆっくりと体を起こし、頭を押さえている。私と同じく、状況が把握できないでいるらしい。

《目が覚めましたか?》

  突然かかった声に前を向く。白いドレス…?見上げると淡いブロンドの髪に同色の瞳を持つ女がいた。
  直後、私達は後ろに大きく跳び距離を取る。
  何…この女これ…。
  私達だから…いや、私だから判る。この女これは人間じゃない。こんな気配、人間に出せる訳がない…。こんな…力の塊みたいな……

《さすが、と言うべきですね。この短時間で目を覚まし、私を理解し…何より、神域ここで動けるとは》

「あんたは…?」
  警戒を解かずσシグマが問いかける。女は悲しげに微笑んだ。

《私は何者でもありません。ただ世界を見守る為に具現した魔力の塊…。そして…あなたがたをこちらへ連れ出した張本人です》

  私達を…連れ出した?

《ええ。私の見守る世界が今、崩れ始めています。均衡を保てなくなり、瓦解する…。それを止めてもらうため、あなたがたに介入していただきたいのです》

「当然のように心を読めるってとこはとりあえず置いといて…よくある、異世界転生、のようなことかしら?」

《その通り。地球から、私の世界への転生を》

「拒否権は…無いんだろうな。もうすでに、こんなとこに連れてきてるってことは」

《はい。本来は転生者として選ばれた者と私が直接会うことはありません。しかしあなたがたは地球人としては異例の力を持っているので、人間としてそのまま転生させることができなかったのです》

  女が私達に片手をかざした途端、頭に情報が流れ込んできた。理解する、というよりはもはや、吸収したような感覚。現状を把握し、ようやく私達は警戒を緩めた。

《そのなかから種族を選んで下さい。それぞれの能力をより活かせるでしょう。また、人間以外の種族に黒髪黒目はおりません。髪と瞳の色も選んで下さい》

  トントン拍子に話が進む。この状況を受け入れている私達もどうかしている。σシグマを見ると同じように私を見ていた。肩をすくめ、選ぶしかない、と伝える。
  妥当なのはエルフ…魔族…。種族による差別もなく、しがらみもない世界らしい。

《どちらかと言えば、θシータさんがエルフ、σシグマさんが魔族に合う力を持ってますね。寿命はどちらも似たようなものですし、お好きな方を》

「それじゃあ私はエルフでいいわ。それと…髪はシルバーグレーのロング、瞳は深いブルーで」
「俺は魔族で。髪と目は目立たない色で任せる」

《わかりました。容姿はお二人が好きなときに変えられる様に設定しておきます。それとせめてものお詫びと感謝を込めて、この場で一つ、転生後一つ、それぞれの願いを叶えます。何を求めますか?》

  願い…
「俺は何も思い付かない。俺の分もθシータが使えよ」
  そんなのアリなの?と口にする前に頷かれる。なら…
「元さん…私達がいた会社の社長に、私達がもう戻れないって伝えて。死んだとか言っても構わない。行方不明じゃ困るの。はっきり、戻れないって伝えてほしい」
  あの会社において行方不明者が見つからないなんてあり得ない。いつまでも捜されるのも、私達が抜けた穴を守られるのも困る。
「もう一つは…転生後の私達に、新たな力を付与しない、っていうのはどう?」

《新たな力…とは、戦闘に使う力のことですか?》

「そう。言語とか、基礎知識とかの刷り込みはしてもらいたいけど、よくある、ステータスが異常とか、特殊な能力が、とか、そういうの要らないわ」
  いいよね?とσシグマを振り返ると彼も頷いた。
  私達のやり取りをみて、彼女も頷く。

《それでは、その二つの望みを叶えましょう。転生後の願いは、決まり次第私を奉る協会で祈ってください。おそらくどの集落にもあるはずです。あとは…あなたがた二人の他にあと二人、同時にこちらの世界に招いています。どちらもあなたがたとの相性の良い人間です。接触するかしないかは任せます》

《質問や要望はありませんか?なければまもなく、新しい世界へ向かうことになりますが》

  私とσシグマは顔を見合わせ、そして頷いた。

《では。お二人の行く末に、幸多からんことをーー》

  そしてまた、私の意識は途切れた。

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