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小話
世界について〜ハッサリア、サンジェ間〜
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「キトシュさんって本当に竜?」
沈黙。アイナの寝息と耳を打つ風だけが静かに鳴り続ける。
つい、聞いてはならないだろう禁断の質問をした。
僕の中では竜とプライドは同義語と言っていい。それでも好奇心には勝てず、その存在意義たる種族の話題に切り込んだ。まさに好奇心は身を滅ぼす。
「ん、ああ。そだよー」
キトシュさんは軽やに答えた。
「あー怖かった」
「あんたが勝手にビビってるんじゃないかい!?」
「竜って言ったら決して相容れない王の風格、生物の頂点、孤高、最強、見栄とプライドと傲慢みたいなイメージだったので」
「あんた、後半はドラゴンじゃなくとも怒るわよ」
キトシュさんはあきれた、と言いながら喉を鳴らす。体格が体格だけに腹に響く音だ。怒りつつも、多分笑ってくれている時の反応だろう。
「一口にドラゴンと言っても始祖種、恐鳥種、サラマンダー種と色々あるから。人間でも北方、中央、砂漠、浮島と人種が違うだろ?」
「家の中で勉強ばかりして世間には疎くて」
転生した事は長くなるので適当にごまかした。
「あら、そうなのかい。道理でお坊ちゃんな振る舞いだと思ったよ」
「後学の為、どんな種族がいるか教えて下さい!」
「そうだねぇ……街で気を付けておくべきは平原オーク、パープルスタッシュ、ボギ、ルナティックあたりだね」
「街の中だけでこんなに?」
「平原オークは小振りだからすぐわかるさ。目が血走ってたら離れるんだね。パープルスタッシュ、ボギなんて幽鬼はアンタなら大丈夫。ルナティックに関しては運次第だからねぇ」
あー駄目だ。幽霊だけは駄目だ。はいおしまい。
「幽鬼ね。幽鬼は強力で実体を伴う反面対処が明確な物が多い。幽霊は基本無害な物が多いのが違いさね。レッサーヴァンプ、ゾンビ、グール。みんな気味が悪い腐臭に濡れた闇の眷属さ」
「ふ、普通の種族は?」
「うんー? 御三家以外ならリザードマン、エント、ランプフォーン、ケトルヘッドあたりかいね。種族に普通なんて無いわよー。誰もが違うからこそ、それが普通」
詳しい解説によると、街には純人間以外にに亜人(定義は人型かどうからしい。アバウトだ)と呼ばれる半人半魔、純粋な魔物に分けられる。
街の危険、魔物の幽鬼類は特殊な状態でなければお目にかかる事は少ないとの事だ。
深夜の馬小屋に水浴び道具を持って近付く、乞食に六枚以上の金貨を恵む等かなり状況が限られていた。
「慢性的鉛拒絶、水に依存した生活、金を受け取れない呪い、左足から以外歩き始められない呪い。違いはそれぞれあるけどさぁ、アンタら人間族だって私達からすれば年中発情期だし、異常にもろい体だよ? 普通なんてないわさ」
肌色の違い程度で差別だなんだと騒いでいるのがバカみたいだ。外見、生態、文化、違いは180度どころの騒ぎではない。
「そう言う私も田舎育ちでね。昔気質の母親からは『外の世界には餌か貴女を餌にする奴の二種類しかいない』なんて教わってたモンさ。今の親友に出会えなきゃ坊っちゃんもその娘も餌にしか見えなかったんだろうよ。10年前旅客便を始めた頃は、人を背に乗せる竜族なんて私位だったねぇ」
「あなたは都会的な今時キャリアウーマンって感じなんですね!」
「やだよぉ! そんなおべっかは!」
キトシュさんは嬉しそうに体をゆさゆさ揺らす。
「おかげで知り合いも多くなったし、地理にも詳しくなった」
「キトシュさんはどこ出身なんですか?」
「ダナハン連邦の北部地方、ナージャ岩窟だよ」
「ダナハン……」
南は砂塵のダナハン、北は大雪山ボラス、西の亡国テナ。中央北部から東部全域をその手に納めるのが最大勢力である帝国イーリス」
「覚えられるかな」
「ちびちゃん達にもアンタみたいな人間族を見せたいねぇ。人間にもいい奴はいるって」
「あ、いいですね! ちびドラ!」
「シナチ大砂漠のからあげ蠍が特産だから、坊っちゃんにはぜひソフトシェルの時期に食べて貰いたいねぇ」
「蠍を……食べる?」
「なんだい、アンタら人間だってエビなんか食べるんだ、大丈夫だろう? 私にはあんな虫みたいなのを有り難がる神経が分からないよ」
「蠍は虫そのものですけどね」
お互い慣れない食文化は奇妙に映るんだろうなと感心した。
「でも後半年は来ない方がいい。コルドー様のご息女が人質期間を終え、学園入学する時期に入ったから周辺諸国が苛立ってるのさ。国境警備隊や執行官も不安定で危なっかしいったらありゃしない。この間も領空ギリギリの場所であやうく射られそうになったんだよ?」
「一人入学するだけですよね?」
「コルドー一家は私達魔物や亜人の象徴さ。人間第一な人類主義者の帝国は、亜人の反目を押さえる為に亜人共和連合筆頭と目されるコルドー一家の子を人質にして牽制を謀っていてね。肝っ玉の小さい奴らだよ」
戦国時代にもそういう事はあったらしい。莫大な借入の担保、条約の保険として親族を相手方に差し出す習わし。人の命すらもそんな道具なんだという世の常。
「あーあー、硬い話はやめやめ。坊っちゃんが興味ある事は他にないかい?」
「やっぱり、剣や魔術ですね!」
「オスってのは種族関係無しになーんでコレばっかりかねぇ」
「武器に心踊らない男なんて男じゃない」
「そうさねぇ、武器はあまり詳しく無いけど魔術や
魔石なら少しは知ってるよ。商売柄、バカな空賊や警備隊、魔物に攻撃されるからね」
「切実ですね」
キトシュさんは苦笑いをすると話を続ける。
「魔石にもグレードや用途があって、外見で判断できる事が多い。面の数はジェム1つのスロット、格納魔術の数に関係している。三角形以上なら面数-1の魔術格納数の場合が大半さ。面数より格納が少ない事はあれど、多い事はない。丸型なら1つ、三角なら2つ、四角なら3つ。分かりやすいだろ? 」
「なるほど」
「魔術の方は、どれ、魔力を目に溜める位は出来るだろ? やってみなよ。魔力視野が出来ないと説明も難しいからさぁ」
「溜める?」
「んー、私も専門家じゃないからねぇ。こう、目に力んでみな! 頑張るのさ!」
キトシュさんの説明はもう、勢いだけだった。
そして力んだら、なんか見えるようになった。
根性論的態度を初めて役に立つと思えた。
「これ……見にくい」
「出来たんだね。鮮やかだろう? 上手く調整すれば濃淡や凹凸からかなり色んな事が分かるんだよ」
「んー、うるさ」
アイナはそう小さく呟くと僕の脇へ頭を埋める。
白熱した講義へ抗議の声というわけだ。どや。
「頭おかしくなりそう」
というのも、鮮やかというよりもけばけばしいからだ。色の法則性のないサーモグラフィ画像を見ているみたいだ。極彩色で、薬物中毒性者の前衛芸術みたいな視界になってしまっている。
「キトシュさんは茶色、土属性かな」
「坊っちゃん本当に凄いねぇ! 欺瞞被膜まで見破って見せるなんて」
「チェック柄の膜の中に茶色く光るキトシュさんが見えたからそうかなって」
「ちっ、やっぱり安物は駄目だ。次の給料日が買い換え時だよ……」
キトシュさんはそう言って目をつむると、僕の周囲に4つの光が現れた。それぞれ色が違う。
乱回転する風はうっすら緑、鋭い針は黒み掛かった茶、赤い火炎玉と青い氷の結晶と色鮮やかだ。
魔術の周りだけは周囲と違って統一された色使いだからほっとするというか、目が休まるというか。
調整が上手くいかない魔力視界はアメリカケーキみたいな毒々しいマーブル模様なので気持ち悪くなってくる。
「左からゲイル、アーススパイン、フレアボルト、シュガーグレイン。属性相性無視で詠唱できる普及された六等級攻撃魔術だよ」
現代と違いこっちは自分の属性以外も扱えるのか! 沢山習得しよう。原因はやっぱり世界にあるマナの濃さかな。
「めったに出回らない軍用規格のジェム、宮廷指南役レベルの攻性魔術師の魔術を除いて十分対応可能なんだ。私が身に付けてるセレオカスの三番は勿論、一型ビゾフにシライシの浮雲・乙。こういう市販される魔力装甲や被膜用ジェムなら魔術の直撃でも死ぬ事は少ない」
シライシ、白石、日本人の名前だ! いるんだ。会ってみたいな。
そう、そう言えば思い出した。僕の記憶が確かなら同軸世界線の異世界には資源争奪戦回避の為に複数のダイバー投下は禁止されているはず。
かなりの事情通で同じ世界出身のギズモフさんは、実はフリーダイバーではないんじゃないか? そう考えるとアイナの存在も謎に思えてくる。
「あと、常識だしお節介だとは思うが、これも教えとこうかね……昇る巫、屍拾いの双つ影。悲涙は塵染め、血は芥を孕ませり。殉ずる古王よ無辜を編め。フォージ!」
キトシュさんの頭部辺りに2つの短剣が現れる。短剣が現れる場所が歪む前、微かに線が走ったのが見えた。
「第五等級の土属性魔術を1つは詠唱あり、一人は省略詠唱で唱えた。何かと馬鹿にされる通常詠唱は、省略するよりも魔力消費、精度、強度、アレンジのしやすさでは優れるんだ。私は好きだよ?」
一般に人間や魔物で魔術を使えるのは半数、高い適正を持つ者は更に少ないはず。
魔術を普通に使えるよう矯正・習熟しているのは現代高校教育と医療の賜物だね……あれ、魔術使っていいのって体育館とかだけだっけ? ここらへんの常識も間違えると厄介そうだ。現代に戻った時には記憶が戻る事を祈ろう。
「魔術も使えるって、実は凄い人?」
「曲がりなりにも竜だからさ。ここいらじゃめっきりアルコンも見なくなったし、ジェムなし常用できる種族は精霊種とエルフくらいかね」
この世界での血統魔術ってどうなんだ、とふと考える。僕の血統魔術、親から遺伝されるワードはまだ発現してないから気になってもいる。判別とか選択方法ないかな。
僕の一家のワードは字面だけはカッコいい『誓い』だ。父さんは誓約書の内容強制、おじいちゃんは特定範囲での能力強化だっけか。イマイチ一貫性がないワード能力だよなー。
僕は魔術討論で興奮し、少し見せびらかしたい気分になった。
「僕はここでは特殊な部類かもですね」
「へー、どれ、見せてみな? おばちゃんが採点してやろうかね。学者さんなら六等級の1つや2つは」
僕は省略、四重詠唱でフレイルディストーション、ヒートリケージ、急所を意識したプロテクト2セットとメルトフォース詠唱する。
フレイルディストーションは大気魔力の吸収と発散の繰り返しによる魔力場歪曲、ヒートリケージは手の平で継続した指向性小爆発の発生、プロテクトは対物理に特化した防御術式だ。既詠唱で万能なメルトフォースもストックに仕込んでおく。
キトシュさんは魔力に驚いたのか数度、飛行体制を崩す。
「……アンタ」
「凄いでしょ! 防具ありの組み手で良く使ってたんです。感知機能や回路に働きかけて術式の先読み防止とスペル構成阻害、対生物で継続火力と瞬間火力が両立した攻撃術式、プロテクトは定番ですよね。防御剥げた時用にも」
「そうかい。坊っちゃんが例の奴隷貴族だね? そしてそのお嬢ちゃんが」
遮るようなキトシュさんの話し声。
「ギズモフさんから聞いてたんですね」
「もういいよ。これ以上は」
「あの」
「お互いの為さ」
急に距離を取られてしまった。何か悪い事でもしたのだろうか。
「すまないね、私もコルドー様一家には感謝してるよ。でも」
キトシュさんの言葉が詰まる。
「……もう少しですよ、お客さん」
言い知れぬ空気が会話を遮断する。到着するまで、こうして不安、悲しみ、少しの恨み。ネガティブな感情だけが心に溢れていくばかりだった。
沈黙。アイナの寝息と耳を打つ風だけが静かに鳴り続ける。
つい、聞いてはならないだろう禁断の質問をした。
僕の中では竜とプライドは同義語と言っていい。それでも好奇心には勝てず、その存在意義たる種族の話題に切り込んだ。まさに好奇心は身を滅ぼす。
「ん、ああ。そだよー」
キトシュさんは軽やに答えた。
「あー怖かった」
「あんたが勝手にビビってるんじゃないかい!?」
「竜って言ったら決して相容れない王の風格、生物の頂点、孤高、最強、見栄とプライドと傲慢みたいなイメージだったので」
「あんた、後半はドラゴンじゃなくとも怒るわよ」
キトシュさんはあきれた、と言いながら喉を鳴らす。体格が体格だけに腹に響く音だ。怒りつつも、多分笑ってくれている時の反応だろう。
「一口にドラゴンと言っても始祖種、恐鳥種、サラマンダー種と色々あるから。人間でも北方、中央、砂漠、浮島と人種が違うだろ?」
「家の中で勉強ばかりして世間には疎くて」
転生した事は長くなるので適当にごまかした。
「あら、そうなのかい。道理でお坊ちゃんな振る舞いだと思ったよ」
「後学の為、どんな種族がいるか教えて下さい!」
「そうだねぇ……街で気を付けておくべきは平原オーク、パープルスタッシュ、ボギ、ルナティックあたりだね」
「街の中だけでこんなに?」
「平原オークは小振りだからすぐわかるさ。目が血走ってたら離れるんだね。パープルスタッシュ、ボギなんて幽鬼はアンタなら大丈夫。ルナティックに関しては運次第だからねぇ」
あー駄目だ。幽霊だけは駄目だ。はいおしまい。
「幽鬼ね。幽鬼は強力で実体を伴う反面対処が明確な物が多い。幽霊は基本無害な物が多いのが違いさね。レッサーヴァンプ、ゾンビ、グール。みんな気味が悪い腐臭に濡れた闇の眷属さ」
「ふ、普通の種族は?」
「うんー? 御三家以外ならリザードマン、エント、ランプフォーン、ケトルヘッドあたりかいね。種族に普通なんて無いわよー。誰もが違うからこそ、それが普通」
詳しい解説によると、街には純人間以外にに亜人(定義は人型かどうからしい。アバウトだ)と呼ばれる半人半魔、純粋な魔物に分けられる。
街の危険、魔物の幽鬼類は特殊な状態でなければお目にかかる事は少ないとの事だ。
深夜の馬小屋に水浴び道具を持って近付く、乞食に六枚以上の金貨を恵む等かなり状況が限られていた。
「慢性的鉛拒絶、水に依存した生活、金を受け取れない呪い、左足から以外歩き始められない呪い。違いはそれぞれあるけどさぁ、アンタら人間族だって私達からすれば年中発情期だし、異常にもろい体だよ? 普通なんてないわさ」
肌色の違い程度で差別だなんだと騒いでいるのがバカみたいだ。外見、生態、文化、違いは180度どころの騒ぎではない。
「そう言う私も田舎育ちでね。昔気質の母親からは『外の世界には餌か貴女を餌にする奴の二種類しかいない』なんて教わってたモンさ。今の親友に出会えなきゃ坊っちゃんもその娘も餌にしか見えなかったんだろうよ。10年前旅客便を始めた頃は、人を背に乗せる竜族なんて私位だったねぇ」
「あなたは都会的な今時キャリアウーマンって感じなんですね!」
「やだよぉ! そんなおべっかは!」
キトシュさんは嬉しそうに体をゆさゆさ揺らす。
「おかげで知り合いも多くなったし、地理にも詳しくなった」
「キトシュさんはどこ出身なんですか?」
「ダナハン連邦の北部地方、ナージャ岩窟だよ」
「ダナハン……」
南は砂塵のダナハン、北は大雪山ボラス、西の亡国テナ。中央北部から東部全域をその手に納めるのが最大勢力である帝国イーリス」
「覚えられるかな」
「ちびちゃん達にもアンタみたいな人間族を見せたいねぇ。人間にもいい奴はいるって」
「あ、いいですね! ちびドラ!」
「シナチ大砂漠のからあげ蠍が特産だから、坊っちゃんにはぜひソフトシェルの時期に食べて貰いたいねぇ」
「蠍を……食べる?」
「なんだい、アンタら人間だってエビなんか食べるんだ、大丈夫だろう? 私にはあんな虫みたいなのを有り難がる神経が分からないよ」
「蠍は虫そのものですけどね」
お互い慣れない食文化は奇妙に映るんだろうなと感心した。
「でも後半年は来ない方がいい。コルドー様のご息女が人質期間を終え、学園入学する時期に入ったから周辺諸国が苛立ってるのさ。国境警備隊や執行官も不安定で危なっかしいったらありゃしない。この間も領空ギリギリの場所であやうく射られそうになったんだよ?」
「一人入学するだけですよね?」
「コルドー一家は私達魔物や亜人の象徴さ。人間第一な人類主義者の帝国は、亜人の反目を押さえる為に亜人共和連合筆頭と目されるコルドー一家の子を人質にして牽制を謀っていてね。肝っ玉の小さい奴らだよ」
戦国時代にもそういう事はあったらしい。莫大な借入の担保、条約の保険として親族を相手方に差し出す習わし。人の命すらもそんな道具なんだという世の常。
「あーあー、硬い話はやめやめ。坊っちゃんが興味ある事は他にないかい?」
「やっぱり、剣や魔術ですね!」
「オスってのは種族関係無しになーんでコレばっかりかねぇ」
「武器に心踊らない男なんて男じゃない」
「そうさねぇ、武器はあまり詳しく無いけど魔術や
魔石なら少しは知ってるよ。商売柄、バカな空賊や警備隊、魔物に攻撃されるからね」
「切実ですね」
キトシュさんは苦笑いをすると話を続ける。
「魔石にもグレードや用途があって、外見で判断できる事が多い。面の数はジェム1つのスロット、格納魔術の数に関係している。三角形以上なら面数-1の魔術格納数の場合が大半さ。面数より格納が少ない事はあれど、多い事はない。丸型なら1つ、三角なら2つ、四角なら3つ。分かりやすいだろ? 」
「なるほど」
「魔術の方は、どれ、魔力を目に溜める位は出来るだろ? やってみなよ。魔力視野が出来ないと説明も難しいからさぁ」
「溜める?」
「んー、私も専門家じゃないからねぇ。こう、目に力んでみな! 頑張るのさ!」
キトシュさんの説明はもう、勢いだけだった。
そして力んだら、なんか見えるようになった。
根性論的態度を初めて役に立つと思えた。
「これ……見にくい」
「出来たんだね。鮮やかだろう? 上手く調整すれば濃淡や凹凸からかなり色んな事が分かるんだよ」
「んー、うるさ」
アイナはそう小さく呟くと僕の脇へ頭を埋める。
白熱した講義へ抗議の声というわけだ。どや。
「頭おかしくなりそう」
というのも、鮮やかというよりもけばけばしいからだ。色の法則性のないサーモグラフィ画像を見ているみたいだ。極彩色で、薬物中毒性者の前衛芸術みたいな視界になってしまっている。
「キトシュさんは茶色、土属性かな」
「坊っちゃん本当に凄いねぇ! 欺瞞被膜まで見破って見せるなんて」
「チェック柄の膜の中に茶色く光るキトシュさんが見えたからそうかなって」
「ちっ、やっぱり安物は駄目だ。次の給料日が買い換え時だよ……」
キトシュさんはそう言って目をつむると、僕の周囲に4つの光が現れた。それぞれ色が違う。
乱回転する風はうっすら緑、鋭い針は黒み掛かった茶、赤い火炎玉と青い氷の結晶と色鮮やかだ。
魔術の周りだけは周囲と違って統一された色使いだからほっとするというか、目が休まるというか。
調整が上手くいかない魔力視界はアメリカケーキみたいな毒々しいマーブル模様なので気持ち悪くなってくる。
「左からゲイル、アーススパイン、フレアボルト、シュガーグレイン。属性相性無視で詠唱できる普及された六等級攻撃魔術だよ」
現代と違いこっちは自分の属性以外も扱えるのか! 沢山習得しよう。原因はやっぱり世界にあるマナの濃さかな。
「めったに出回らない軍用規格のジェム、宮廷指南役レベルの攻性魔術師の魔術を除いて十分対応可能なんだ。私が身に付けてるセレオカスの三番は勿論、一型ビゾフにシライシの浮雲・乙。こういう市販される魔力装甲や被膜用ジェムなら魔術の直撃でも死ぬ事は少ない」
シライシ、白石、日本人の名前だ! いるんだ。会ってみたいな。
そう、そう言えば思い出した。僕の記憶が確かなら同軸世界線の異世界には資源争奪戦回避の為に複数のダイバー投下は禁止されているはず。
かなりの事情通で同じ世界出身のギズモフさんは、実はフリーダイバーではないんじゃないか? そう考えるとアイナの存在も謎に思えてくる。
「あと、常識だしお節介だとは思うが、これも教えとこうかね……昇る巫、屍拾いの双つ影。悲涙は塵染め、血は芥を孕ませり。殉ずる古王よ無辜を編め。フォージ!」
キトシュさんの頭部辺りに2つの短剣が現れる。短剣が現れる場所が歪む前、微かに線が走ったのが見えた。
「第五等級の土属性魔術を1つは詠唱あり、一人は省略詠唱で唱えた。何かと馬鹿にされる通常詠唱は、省略するよりも魔力消費、精度、強度、アレンジのしやすさでは優れるんだ。私は好きだよ?」
一般に人間や魔物で魔術を使えるのは半数、高い適正を持つ者は更に少ないはず。
魔術を普通に使えるよう矯正・習熟しているのは現代高校教育と医療の賜物だね……あれ、魔術使っていいのって体育館とかだけだっけ? ここらへんの常識も間違えると厄介そうだ。現代に戻った時には記憶が戻る事を祈ろう。
「魔術も使えるって、実は凄い人?」
「曲がりなりにも竜だからさ。ここいらじゃめっきりアルコンも見なくなったし、ジェムなし常用できる種族は精霊種とエルフくらいかね」
この世界での血統魔術ってどうなんだ、とふと考える。僕の血統魔術、親から遺伝されるワードはまだ発現してないから気になってもいる。判別とか選択方法ないかな。
僕の一家のワードは字面だけはカッコいい『誓い』だ。父さんは誓約書の内容強制、おじいちゃんは特定範囲での能力強化だっけか。イマイチ一貫性がないワード能力だよなー。
僕は魔術討論で興奮し、少し見せびらかしたい気分になった。
「僕はここでは特殊な部類かもですね」
「へー、どれ、見せてみな? おばちゃんが採点してやろうかね。学者さんなら六等級の1つや2つは」
僕は省略、四重詠唱でフレイルディストーション、ヒートリケージ、急所を意識したプロテクト2セットとメルトフォース詠唱する。
フレイルディストーションは大気魔力の吸収と発散の繰り返しによる魔力場歪曲、ヒートリケージは手の平で継続した指向性小爆発の発生、プロテクトは対物理に特化した防御術式だ。既詠唱で万能なメルトフォースもストックに仕込んでおく。
キトシュさんは魔力に驚いたのか数度、飛行体制を崩す。
「……アンタ」
「凄いでしょ! 防具ありの組み手で良く使ってたんです。感知機能や回路に働きかけて術式の先読み防止とスペル構成阻害、対生物で継続火力と瞬間火力が両立した攻撃術式、プロテクトは定番ですよね。防御剥げた時用にも」
「そうかい。坊っちゃんが例の奴隷貴族だね? そしてそのお嬢ちゃんが」
遮るようなキトシュさんの話し声。
「ギズモフさんから聞いてたんですね」
「もういいよ。これ以上は」
「あの」
「お互いの為さ」
急に距離を取られてしまった。何か悪い事でもしたのだろうか。
「すまないね、私もコルドー様一家には感謝してるよ。でも」
キトシュさんの言葉が詰まる。
「……もう少しですよ、お客さん」
言い知れぬ空気が会話を遮断する。到着するまで、こうして不安、悲しみ、少しの恨み。ネガティブな感情だけが心に溢れていくばかりだった。
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