【本編&番外編完結】末っ子令息が魔王の生活改善をしたら、執着溺愛されました

伊藤あまね

文字の大きさ
9 / 60
*4 いつわりの花嫁の初夜

4-2

「っひ、ひぃ……っや、やだ……やめ、やめて……」

 魔王の城に来たのだから、何か得体のしれない何かがはびこっているだろうとは思っていたが、まさか寝首をかかれるような真似をされるとは思わなかったのが正直なところだ。
 両手首をつかまれ、黒いそれはじっとニコラを見下ろしてくる。舐めるような眼差しは鳥肌が立つほど不気味で、ただただ恐ろしい。
 歯の根も合わないほど震えあがるニコラに、それはぴたりと動きを停めて呟く。

「……こっちだって好きでお前なんかに触れているわけじゃない。今宵は結婚初夜だから。致し方なくお前に触れているだけだ」

 憮然とした声につぶっていた目をそっと開けると、闇色の目が不機嫌にニコラを見下ろしていた。
 魔王だと気づき、何か得体のしれない化け物ではないと言う安堵を得はしたものの、先程あんなに不機嫌になった魔王が、こうして自分の許にやってきて覆い被さり組み敷いている意味がわからない。しかも、男は花嫁としては認めないと言いつつも、今宵は結婚初夜だからと言う。
 それはいささか矛盾するのでは? と、問うかどうか迷っていると、すうっと魔王がニコラの上に覆い被さるように重なり、そのまま耳朶に舌を這わせ始めた。

「ッふ、ンぅ……っや、や、め……」
「男は花嫁にはならないが……慰めにはなるかもしれん。人間、今宵の私の相手をしろ」

 そう言ったが早いか、魔王はニコラをグッと寝台の縫い付けるように押し付け、大きな身体で圧し掛かってくる。ニコラは逃げ出そうにも逃げ出せず、ただ震えながら見上げる。
 その内に、魔王は激しい口付けを始め、ニコラの口中の蹂躙じゅうりんしていく。

「ん、ンぅ! っや! いや! ああッ!」

 折角ブランが直してくれたドレスが、再び乱暴に引き裂かれてニコラの薄い胸元が露呈する。薄い肌着だけを身に着けたそこをめくり上げられ、魔王の長い舌が這って行く。それが、ニコラにはたまらなく恐ろしい。ふとした弾みに胸元からがぶりと牙を立てられて喰われてしまう気がしてならないからだ。
 組み敷かれ、魔王の下でニコラは震えながら魔王の愛撫を受け止めるしかなく、ただただ泣き出しそうなのを堪える。ここで再び魔王の機嫌を損ねれば、今度こそ命がないだろう。

「ッは、ああ……っひ、ううぅ……」
「おい、少しは体の力を抜け。それとも手酷くされたのか?」
「ッや、やぁ……イヤ、いやぁ……」
「私の話を聞いておるのか? おい、人間」

 魔王に間近に迫られて恐怖が頂点に達しているニコラの耳に、魔王の言葉は聞こえていない。わずかに施された愛撫は快感よりも恐怖心を煽るばかりで、ニコラは魔王の下で震えて泣きじゃくるしかない。

「ごめんなさい……ごめんなさい……怒らないで……」

 頂点に達した恐怖は、ニコラに古い蓋をしていたはずの記憶をよみがえらせる。ダヴィッド家に来たばかりの頃、不慣れな習慣に馴染めなかった彼は、躾がなっていないとひどく義母に叱られたものだった。
父の手前、義母は浮気相手の子であるニコラを引き取ってはくれたものの、快く迎えてくれたわけではない。躾はただの口実で、本当はニコラが憎くて仕方なかったのだろうと、十八になった今ならわかる。
だからあの幼い頃の記憶には蓋をして、何でもないふりをして義母や義兄姉らのご機嫌を取るようにしよう。そうすればきっと、たとえ半人前でも屋敷には置いてもらえる――そんな記憶の断片が、魔王への恐怖でよみがえってしまったのだ。
半ば過呼吸状態に陥りそうになっているニコラの意識は朦朧とし、ただすがるように目の前で唖然としている魔王に手を伸ばしていた。その姿は、手負いの獣よりも哀れに見えたのか、魔王は愛撫の手を止め、身を離し、そっと手を取った。

「ごめん、なさい……次は、失敗しないから……」

 涙でにじむ視界に映し出されている魔王は、ニコラの言葉に顔をわずかに歪め、頬を伝う雫を救って呟いた。

「……お前が謝ってどうなることでもない。もう泣くな」

 そうして何かがそっと頬に触れる。やわらかでやさしいその感触は、頬に触れると甘い花のようなにおいもする。
 いいにおいだ……そう、認識した途端、ニコラはすぅっと意識を失い、眠りの中に落ちていった。



感想 1

あなたにおすすめの小説

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

正義の味方にストーカーされてます。〜俺はただの雑魚モブです〜

ゆず
BL
俺は、敵組織ディヴァイアンに所属する、ただの雑魚モブ。 毎回出撃しては正義の戦隊ゼットレンジャーに吹き飛ばされる、ただのバイト戦闘員。 ……の、はずだった。 「こんにちは。今日もお元気そうで安心しました」 「そのマスク、新しくされましたね。とてもお似合いです」 ……なぜか、ヒーロー側の“グリーン”だけが、俺のことを毎回即座に識別してくる。 どんなマスクをかぶっても。 どんな戦場でも。 俺がいると、あいつは絶対に見つけ出して、にこやかに近づいてくる。 ――なんでわかんの? バイト辞めたい。え、なんで辞めさせてもらえないの? ―――――――――――――――――― 執着溺愛系ヒーロー × モブ ただのバイトでゆるーく働くつもりだったモブがヒーローに執着され敵幹部にも何故か愛されてるお話。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと

mayo
BL
王宮騎士(24)×Cランク冒険者(36) 低ランク冒険者であるカイは18年前この世界にやって来た異邦人だ。 諸々あって、現在は雑用専門冒険者として貧乏ながら穏やかな生活を送っている。 冒険者ランクがDからCにあがり、隣国の公女様が街にやってきた日、突然現れた美青年騎士に声をかけられて、攫われた。 その後、カイを〝番〟だと主張する美青年騎士のせいで今まで何をしていたのかを文官の前で語ることを強要される。 語らなければ罪に問われると言われ、カイは渋々語ることにしたのだった、生まれてから36年間の出来事を。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

贖罪公爵長男とのんきな俺

侑希
BL
異世界転生したら子爵家に生まれたけれど自分以外一家全滅という惨事に見舞われたレオン。 貴族生活に恐れ慄いたレオンは自分を死んだことにして平民のリオとして生きることにした。 一方公爵家の長男であるフレドリックは当時流行っていた児童小説の影響で、公爵家に身を寄せていたレオンにひどい言葉をぶつけてしまう。その後すぐにレオンが死んだと知らされたフレドリックは、以降十年、ひたすらそのことを悔いて生活していた。 そして十年後、二人はフレドリックとリオとして再会することになる。   ・フレドリック視点は重め、レオン及びリオ視点は軽め ・異世界転生がちょいちょい発生する世界。色々な世界の色々な時代からの転生者の影響で文明が若干ちぐはぐ。 ・世界観ふんわり 細かいことは気にしないで読んでください。 ・CP固定・ご都合主義・ハピエン ・他サイト掲載予定あり

腐男子♥異世界転生

よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。 目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。 トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。

花屋の息子

きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。 森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___? 瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け の、お話です。 不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。 攻めが出てくるまでちょっとかかります。