アキとユズ～いただきますを一緒に～

アキとユズ＊第五章

uneasy night＊３

　程なくして病院について、救急受付で名前を告げると、すぐ手前の待合のスペースで待っているように言われた。そこには俺ら以外誰も居なくて、整然と並べられた長椅子に並んで腰かけてぼんやりとアキくんを待った。
　結構長いこと待っていたようで、実際のところ１０分と少しぐらいしか座っていなかったのかもしれない。無機質な白い病院の廊下の壁や天井やしらしらと降り注ぐ灯りを眺めていると、ちっとも時が経たない気がした。
　止まっているかのように思える時間に苛立つ気力さえなくぼんやりしていると、ようやく、アキくんが現れた。ちゃんと自分の足で歩いていて、俺と鹿山くんの姿を見つけると、照れたような顔をしてちいさく笑って手を挙げた。

「やー、悪いねぇ、鹿山くん。持って来て貰っちゃってー、荷物。ユズも来てくれたんだ。」
「う、うん…アキくん、大丈夫？」
「うん、まあ、腕以外は。」
「アキさん、歩いて大丈夫なんすか？」
「うん。脚はね、ちょっと打った程度だし。打撲にもなってないし。腕はちょっと骨ヒビいっちゃったけどねー…」
「ヒビ…」
「あ、利き手じゃないから、ユズ。平気、平気。」
「そうっすか…あ、家まで送りますよ。ユズさんも行くでしょ？」
「え、マジで？やったーありがとー」

　ヒビが入ったと言う左腕を三角巾で吊ったアキくんは、なんだかとてもちいさな子どもみたいに見えた。怪我しているのに無邪気に笑っている、擦り傷だらけの横顔を見ていたら、余計にそう思えた。
　腕以外は本当にいつも通りのアキくんで、俺は心底、本当に心底ホッとしていた。不安がもうすっかりどこかへ消えてしまっていた。
　鹿山くんの車にまた乗り込んで、アキくんのアパートに向かった。アパートに向かいながら鹿山くんとアキくんは職場である学校での話をしていた。詳しくは俺に解る事ではなかったけれど、とりあえずアキくんは明日は大事を取って休んでいいと言われた、ということは解った。
　お見舞い代りに夕飯を作ってあげると俺が言うと、アキくんは焼き肉がいいと言った。怪我が早く治るように、肉が食いたいって笑って。
　一応、友達と家呑みをする時なんかに使うホットプレートがあるからそれでやろう、って言うから、鹿山くんに途中スーパーに寄ってもらって材料を買って帰った。
　荷物の事や車で送ってもらったことなんかがあるから、鹿山くんもお礼に誘おうとしたんだけれど、丁重にお断りされてしまった。
　鹿山くんに、なに野暮な事言ってんの？、って呆れたような苦笑したような眼を向けられて、俺は伐悪く苦く笑うしかなかった。確かに、ここまで来て何言ってるんだよって感じだよね。
　また今度、馬越くんも交えて飲み会でもしよう、って話をして、鹿山くんとは別れた。
　薄い葡萄色の夜と色々な家のそれぞれの夕飯の匂いがする宵闇の中にささやかなやさしさがきらきら光っていた。