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アキとユズ*最終章
はなまるをあげよう*10
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「ユズ、あのさ……ちょっと、まじめな話、いい?」
取り留めのない話をぽつぽつとして、それも途絶えた頃、俺はそう切り出してみた。
いつになく妙に改まった俺の様子を不思議そうに見つめながら、「まじめな話?どうぞ?」と、ユズは俺を促すように言った。
とうとう逃げ場のない所まで来てしまった気がした。腹を決めて自らこの状況を作り出したとはいえ、元々臆病でヘタレな性質の俺にとって、心臓が尋常でない速さで鼓動しているような気分だった。
息を上手く吸って吐いているのかさえ怪しい感じだった。このまま促されるまま話を切り出したら、本当に息が止まるんじゃないかとさえ思えた。まだ何も明かされてはいないのに、本当に胆のちいさい奴だ、俺は……我ながら情けなくて呆れてしまう。
それでも、決めたことはやらなくてはいけない。ちいさく息を吐いて、一瞬だけ俯いて眼を瞑って、もう一度しっかりと顔を上げて正面からユズを見つめた。
「あのさ、ユズ…この間から、仕事してたんだよね?」
「うん、そうだよ?訂正してくれってメール来ちゃって…折角アキくん取ってくれた有休だったのに、一緒に休めなくて、ごめんね…」
「や、その話は良い…というワケじゃないな…なんて言えばいいかな…」
「休めなかったこと、怒ってる?」
「えーっと…それは怒ってないんだけど…そういうんでもなくって……えーっとさ、ユズ。…俺、見たんだよ。」
「見た?何を?」
「うん。見たんだ……この前、ユズが、駅前のスタバじゃない方のカフェにいるとこ。」
「駅前?うーん…いたかなぁ…いつぐらいの話?」
「馬越くんと、いたよね?一昨日の話なんだけど。」
「え……う、うん…」
馬越くんの名前が出た途端、ユズの表情が曇ったような気がした。ほんの僅か、声のトーンも落ちたような気もした。
胃が、キリキリ痛む…こんな事したくて今日を迎えたはずじゃないのに。
切り出した話はもう取り返せない。俺は、ちいさくちいさく息を吐いて、言葉を続ける。
「あと、隣にいたの、誰?…ユズ、仕事中だったんだよね?」
「………うん…」
「あれ、編集の人?違うよね?」
「…………」
「何してたの?馬越くんに、口止めまでして……」
慣れない誘導尋問的な問いかけをしなくてはいけない緊張で、声が何度も震えて上ずりそうになった。
正面からユズを見つめて、彼の表情の変化を観察して嘘をついているかどうか見定めようなんて思っていたけれど、全然そんな余裕なんてなかった。
確かにユズの眼を見据えていた筈なのに、ちっともその表情を読み取ることも読み解くこともできなかった。目の前にいるユズの姿が見慣れた彼の部屋の一部のように景色に溶けてしまって、俺がただ一人で問答をしているような錯覚すらあった。
腹の中は、ついさっきまであたたかでしあわせなもので満たされていた筈なのに、いまは氷の塊を飲み込んだように冷たくなっていた。
俺の言葉が途切れると、長く重たい沈黙が代わりにふたりの間に横たわっていた。
沈黙の重さが、俺の知りたい事の半分は明らかにしていた。覚悟していたとは言え、残酷な現実に、俺は言葉が継げなかった。
想像力が、逞しく物事を悪い方向へと駆り立てられていく。やっぱりユズは浮気をしていて、それは馬越くんの紹介か何かだったんだ、とか。いっそ馬越くんも込みでの浮気なのかもしれない、だとか。根拠もないのに、妙に生々しくリアルに想像は勝手に膨らんでいった。
不安をガソリンにして、裏切られた、傷つけられたという被害者面の免罪符を片手に、俺の想像がどんどん膨らんで肥大していく。
俺の手にも腹にも余るほどのそれは、やがて追求という名の報復へと姿を変えてユズに牙をむき始めた。
俺の追及の牙に、ユズは怯んだのか、口を噤んで俯いたまま黙り込んでいる。正面から見据えていた俺の眼差しを避けるような彼の姿勢が、俺をちいさく苛立たせた。
取り留めのない話をぽつぽつとして、それも途絶えた頃、俺はそう切り出してみた。
いつになく妙に改まった俺の様子を不思議そうに見つめながら、「まじめな話?どうぞ?」と、ユズは俺を促すように言った。
とうとう逃げ場のない所まで来てしまった気がした。腹を決めて自らこの状況を作り出したとはいえ、元々臆病でヘタレな性質の俺にとって、心臓が尋常でない速さで鼓動しているような気分だった。
息を上手く吸って吐いているのかさえ怪しい感じだった。このまま促されるまま話を切り出したら、本当に息が止まるんじゃないかとさえ思えた。まだ何も明かされてはいないのに、本当に胆のちいさい奴だ、俺は……我ながら情けなくて呆れてしまう。
それでも、決めたことはやらなくてはいけない。ちいさく息を吐いて、一瞬だけ俯いて眼を瞑って、もう一度しっかりと顔を上げて正面からユズを見つめた。
「あのさ、ユズ…この間から、仕事してたんだよね?」
「うん、そうだよ?訂正してくれってメール来ちゃって…折角アキくん取ってくれた有休だったのに、一緒に休めなくて、ごめんね…」
「や、その話は良い…というワケじゃないな…なんて言えばいいかな…」
「休めなかったこと、怒ってる?」
「えーっと…それは怒ってないんだけど…そういうんでもなくって……えーっとさ、ユズ。…俺、見たんだよ。」
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「駅前?うーん…いたかなぁ…いつぐらいの話?」
「馬越くんと、いたよね?一昨日の話なんだけど。」
「え……う、うん…」
馬越くんの名前が出た途端、ユズの表情が曇ったような気がした。ほんの僅か、声のトーンも落ちたような気もした。
胃が、キリキリ痛む…こんな事したくて今日を迎えたはずじゃないのに。
切り出した話はもう取り返せない。俺は、ちいさくちいさく息を吐いて、言葉を続ける。
「あと、隣にいたの、誰?…ユズ、仕事中だったんだよね?」
「………うん…」
「あれ、編集の人?違うよね?」
「…………」
「何してたの?馬越くんに、口止めまでして……」
慣れない誘導尋問的な問いかけをしなくてはいけない緊張で、声が何度も震えて上ずりそうになった。
正面からユズを見つめて、彼の表情の変化を観察して嘘をついているかどうか見定めようなんて思っていたけれど、全然そんな余裕なんてなかった。
確かにユズの眼を見据えていた筈なのに、ちっともその表情を読み取ることも読み解くこともできなかった。目の前にいるユズの姿が見慣れた彼の部屋の一部のように景色に溶けてしまって、俺がただ一人で問答をしているような錯覚すらあった。
腹の中は、ついさっきまであたたかでしあわせなもので満たされていた筈なのに、いまは氷の塊を飲み込んだように冷たくなっていた。
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俺の手にも腹にも余るほどのそれは、やがて追求という名の報復へと姿を変えてユズに牙をむき始めた。
俺の追及の牙に、ユズは怯んだのか、口を噤んで俯いたまま黙り込んでいる。正面から見据えていた俺の眼差しを避けるような彼の姿勢が、俺をちいさく苛立たせた。
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