かりそめの永遠ーアナタに逢えてよかった

てるる

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act16 初恋

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このときのことを、蛍子はあまりよく覚えていない。
まったく思いがけないことに不意打ちを喰らった体で、
むやみに心拍数が上がり、頭が真っ白になってしまったのだ。
記憶にあるのは、自分の下宿に戻ってから、おずおずと
ケータイを開いたとき、どうやら匠が自分に「告白」をしたのが
ゲンジツであることを知って、
心臓の震えが止まらなくなってしまったことだけである。


「嫌われているのかと思った」

例年より気温が低く、足元から冷気が這い上がるような年明け。
初詣の道中、匠が苦笑い混じりに蛍子に言う。
年末の告白以来、初めて顔を合わすふたりである。

「すごい勇気出したんだよ?」

もし自分がフラれることがあっても、それは甘受する。
しかし、これがきっかけとなって、
大事なキーボードを失うことになれば、
バンドとしても大きな損失であるから、
メンバーから責めを負うことになる。
それでも、勝算はほとんどなかったものの、
自分の気持ちを抑えられずに、決行したのだという。

「僕じゃ無理だと思ったけど、
原さん、誰にも渡したくなかったから」

これだけ男女問わず支持の厚い匠が何を言うことかと
蛍子は驚いた。
おつきあいというものは中高とそれぞれしたことは
あるらしいが、恋愛はしたことがないと言う。
まあ、10代の子どもなどそんなものであろうと、
蛍子も思うわけだが、
それはつまり、自分が「初恋の相手」ということで
いいのだろうか?
蛍子は顔が熱くなった。


二礼二拍手一礼。

話すことも思いつかなかったので、蛍子は、
ありきたりだが、何をお願いしたか訊いてみた。
まったく、なんてつまらないことを訊くのだろうと
自分を責めたくなった。
でも、気の利いたことなど思いつかない。
世の恋人たちは、こういうとき
何を話しているのだろうか。


「願いごとは言ったら叶わなくなるんだよ?」

そういえば、そうだった気がする。
蛍子は顔を赤らめた。


「ウソ」

匠が笑う。


「原さんと出逢わせてくれてありがとう」

そうお礼を言ったという。

蛍子は手を伸べて、匠の手を掴んだ。
多分今自分は完熟トマトみたいな顔をしているに
違いない、と蛍子は思った。
匠は目を合わすことなく、きゅっと握り返してきた。
ギターで鍛えたタコだらけの指だ。
いつもギターを愛しんでいるこの手で、
いつか蛍子の肌も温められるのだろうか。


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