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act29 ふたりの危機
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週3日蛍子が通う学校は、最寄り駅からバスで30分ほどのところにある。
蛍子たちが住む2LDKのアパートから、駅まで徒歩10分ほど。
ドアトゥドアで、1時間弱の小旅行である。
気分の切り替えにはちょうどいい時間だと蛍子は思う。
匠の通勤時間も同じようなものだ。
転勤で日本各地を飛ぶことはなさそうなので、いずれ子どもが生まれたら、
交通至便で環境のいいところにマンションを買おうかと考えている。
今日の天国が終われば、3日挟んで、あと1週間の辛抱である。
たった16時間ばかりだというのに、長かったこと!
最後の最後が天国で終わるのが、本当にありがたい。
お給料は、匠と遊ぶのにちょっとずつ使いましょう。
自分ご褒美に何かいいものをひとつくらい買ってもいいかしら。
バスの窓から流れる景色を眺めながら、蛍子はぷつぷつと
わきあがる楽しいイメッヂを愉しんだ。
就職活動は満足にせず、実家から通える私立高校を受けたら採用された。
受からなかったら、匠と結婚して非常勤講師でもしようと思っていたのに、
学校の名前のおかげか、専任として採用され、
「働くお母さんのロールモデル」という
思い描いていた未来予想図に一歩踏み出した気分だった。
匠とは遠距離恋愛を続けることになるが、結婚するまでは、仕方がない。
「働くお母さん」は、匠が近くに転勤してくれないと実現しないわけだが、
異動の希望は出してもらえるだろう。
初年度は教科担当として充実した毎日を送ることができて、
蛍子は、これぞ天職と喜んだものである。
ところが、2年目。
初めて担任を持つことになり心躍らせたものの、
それが学校史上前代未聞のクラスで、2年間がんばったが、
5人退学者を出すに至り、3年生に上がるところで校長判断で
担任を外された。
本来、感謝すべき措置なのだが、卒業まで自分で預かりたいと思っていたので、
蛍子はひどく落ち込んだ。
努力が実を結ばない、人生初の挫折経験かもしれない。
今思えば、それこそが蛍子のエゴである。
いくら自分が育てたいと思っていても、膠着状態になっているときは、
生徒のためにこそ、手放さなくてはならないことがある。
教師が生徒を私物化してはならない。
仕事がうまくいかないときは、プライベートもうまくいかないものだ。
逆もまた然り。
多くの遠距離恋愛の先輩の指南で、匠とは月に1度は逢う約束をしていたが、
お互い忙しく、半年近くすれ違いが続くこともあった。
旅行がてらデートを重ねるのだったが、久々に逢った夜、
匠が意外なことを言いはじめた。
「職場の先輩に言い寄られてる」
蛍子たちが住む2LDKのアパートから、駅まで徒歩10分ほど。
ドアトゥドアで、1時間弱の小旅行である。
気分の切り替えにはちょうどいい時間だと蛍子は思う。
匠の通勤時間も同じようなものだ。
転勤で日本各地を飛ぶことはなさそうなので、いずれ子どもが生まれたら、
交通至便で環境のいいところにマンションを買おうかと考えている。
今日の天国が終われば、3日挟んで、あと1週間の辛抱である。
たった16時間ばかりだというのに、長かったこと!
最後の最後が天国で終わるのが、本当にありがたい。
お給料は、匠と遊ぶのにちょっとずつ使いましょう。
自分ご褒美に何かいいものをひとつくらい買ってもいいかしら。
バスの窓から流れる景色を眺めながら、蛍子はぷつぷつと
わきあがる楽しいイメッヂを愉しんだ。
就職活動は満足にせず、実家から通える私立高校を受けたら採用された。
受からなかったら、匠と結婚して非常勤講師でもしようと思っていたのに、
学校の名前のおかげか、専任として採用され、
「働くお母さんのロールモデル」という
思い描いていた未来予想図に一歩踏み出した気分だった。
匠とは遠距離恋愛を続けることになるが、結婚するまでは、仕方がない。
「働くお母さん」は、匠が近くに転勤してくれないと実現しないわけだが、
異動の希望は出してもらえるだろう。
初年度は教科担当として充実した毎日を送ることができて、
蛍子は、これぞ天職と喜んだものである。
ところが、2年目。
初めて担任を持つことになり心躍らせたものの、
それが学校史上前代未聞のクラスで、2年間がんばったが、
5人退学者を出すに至り、3年生に上がるところで校長判断で
担任を外された。
本来、感謝すべき措置なのだが、卒業まで自分で預かりたいと思っていたので、
蛍子はひどく落ち込んだ。
努力が実を結ばない、人生初の挫折経験かもしれない。
今思えば、それこそが蛍子のエゴである。
いくら自分が育てたいと思っていても、膠着状態になっているときは、
生徒のためにこそ、手放さなくてはならないことがある。
教師が生徒を私物化してはならない。
仕事がうまくいかないときは、プライベートもうまくいかないものだ。
逆もまた然り。
多くの遠距離恋愛の先輩の指南で、匠とは月に1度は逢う約束をしていたが、
お互い忙しく、半年近くすれ違いが続くこともあった。
旅行がてらデートを重ねるのだったが、久々に逢った夜、
匠が意外なことを言いはじめた。
「職場の先輩に言い寄られてる」
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