かりそめの永遠ーアナタに逢えてよかった

てるる

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act41 このままずっと

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「せんせい、もう帰っちゃうの?」


恵瑠那だった。


うん、帰るよ


「もう来ないの?」


もう来ないよ


「ふーん」



恵瑠那はつまらなさそうな顔をした。
150㎝くらいだろうか。
いつもは見上げる立場の蛍子が少し見上げられる格好だ。


本当にdollだな、と蛍子は思った。
囲み目の濃いアイメイクがアヴリル・ラヴィーンを思わせる。
そのお人形さんが唐突に、


「ねえ、触ってェ?」

と、茶色い髪をかき上げ、甘えた声で蛍子に言う。
触るように言ったのは、首のリンパ節のことのようだ。
女教師だからといって、みだりに生徒に触れていいものではない。
目視で蛍子が、子どもはリンパが目立つ子も多いみたいだから、
あまり気になるようなら、お医者に行くように伝えると、
まだ触るようにとしつこい。

キスマークのような破廉恥な傷のない、象牙のようなまばゆい首である。
首筋は蛍子の体の部位でも匠の唇の好むところで、それを
思い出しても、気が引けるものだ。
そんなことは知る由もない恵瑠那は、蛍子の手を掴み、
自分の首に誘った。
しっとりとした柔らかい肌に指を滑らすと、指先から全身に電流が
駆け抜けるような感覚が走った。



抱きたい



いや、違う



抱っこしたい、だ。


蛍子は自分に甘えかかる小さな従弟たちのことを思い出した。
これは、子どもが大人に甘えたいという気持ちの顕れ。


なるほど、世に教師の生徒との醜聞が絶えないわけである。
生徒のほうから誘ってきたなどとは体のいい言い訳に過ぎない。
親から真っ当な愛情を受けていない子どもが、
父や母の愛を求めて縋ってくるのを、どう恋愛感情と
すり替えることができるのだろうか。
教員の多くは教育大学出身者で、そうでなくても
児童心理学や教育心理学などを修めている。
それにも関わらず、なんというお粗末な判断をするものか。
己の劣情の原因を相手に求めるなど、性犯罪者の典型である。
護られたくて、本来護るべき立場の大人に裏切られ、傷つく子どもの
気持ちを考えたことがあるのだろうか。
あるまい。
そんな想像力があれば、不埒な真似に及ぶわけがない。

恵瑠那は「お母さん」に心配してほしいだけなのだろう。
蛍子はまだ母ではないけれど、立場上そう認めてもらえるのは
光栄なことだと思う。


うん、ちょっとグリグリがあるけど、
あたしはお医者さんじゃないから、
気になるなら、ちゃんと病院に行ったらいいよ。

重ねてそう言うと、蛍子は恵瑠那の顔をしっかり両手で包み込み、
恵瑠那の眼を見据えた。


絶対高校卒業するんだよ?
困ったことがあったら、ここの先生に相談するんだよ?


せっかく心を開いてくれた今、恵瑠那を手放したくない。
このままずっと傍に居てその成長を見守りたい。
だがそれは叶わない。
非常勤講師の悲しさ。
あるいは専任であっても同じことかもしれない。
自分の子どもでさえも、ずっとつきっきりではいられない。
今自分ができることは、これだけだ。
蛍子は切なる思いで言い聞かせた。



「わかったー」


恵瑠那の眼の中にもう険はない。
幼すぎる15,6歳の少女の眼差しだ。


すると突然思い出したように、


「せんせい、えるな、チャラいのやめる。
チャラいとチャラ男しか寄ってこないから」

そう力強く宣言すると、蛍子の腕の中に飛び込んできた。


小さく柔らかい身体を抱きとめると、
蛍子は、恵瑠那の決意をその身に封じ込めるように
しっかりと腕を巻き締めて応えた。


「せんせい、ばいばい」


恵瑠那は蛍子から身を放すと、パンツの見えそうな
短いスカートを翻し、またパタパタとスリッパを
鳴らして駆け去った。
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