Forever Friends

てるる

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イノダの工藤くん

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工藤くんがシュミで小説を描くことを知ったのは、
マンガ・ミュージアムでばったり出くわしたときだったかな。
ふたりとも同じマンガを同じように読むことが
わかって意気投合したんだけど、そのとき、
ついうっかりという体で、工藤くんが創作活動を
していることを漏らしたのでした。

毎年発行される部誌に寄せる工藤くんの文は、
軽やかでユーモアに満ちて、とても面白いものだった。
今もそうだけど。
よく本を読んで、よく咀嚼して自分のものにしているのが
見て取れた。


工藤くんは、どうして小説を描くようになったのでしょう。


それはとても愚かな質問かも知れない。

そこに山があるから、登るように、
そこに原稿用紙があるから描くのです。
多分。
知らんけど。

うちらがどうして弓道をしてるのか、と訊かれて
返答に困るのに似ているかも。
あたしは運動音痴だし、何もカッコいいこと
できなかったけど、弓道ならできるかな、と何故か
思ってしまったのね。
大きなカンチガイでしたね。
でも、弓術としても弓道としても、学ぶところは
多いし、部活は楽しかったし、何より、
ダンナさまや、工藤くんに会えたからよかったと思う。


工藤くんが何で小説を描いているか、それは
読んだら自明だと思う。

でも。
いや、だから、かな。
恥ずかしがり屋さんの工藤くんは
身内には誰も読ませないんだって。
教え子さんには身バレしてえらい目に遭ったそうだけど、
一緒に創作談義して楽しかったそうだし、
あたしの知る限り、その子と工藤くんとあたしの
3人だけの秘密らしい。
奥さんすら知らないんじゃなかったっけ?

直接自分の言葉で語らずに表現するひとは、
語りたくない、語れないからこそ、その表現の手段を
使うんだろうから、理由なんか訊かれても
答えられないだろうな。
ひょっとしたら、自分たちも、なんでかわからなくて、
でも、楽しかったり苦しかったりして、
何か得るものがあったり、なかったりするんだろうと
想像する。
あたしには未知の、途方もない世界だわ。

そんな謎のような工藤くんの活動の端っこに
居させてもらえるのは、ちょっと面映ゆい。
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