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I ニナルティナ王国とリュフミュラン国
冒険者ギルドを復活! 4 勝利の女神 .
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「おらあああ~~いっけぇーーー!!」
リュフミュラン義勇軍の大将衣図ライグが巨大馬を乗りこなして、陣を包囲しようと進撃していたニナルティナ軍の北の部隊にみるみる肉薄して行く。砂緒による魔戦車への異様な攻撃により中央の主力部隊が浮足立ち、士気の低下が起こり始めている事同様に、北の包囲部隊も同じ様な状態になっていた。最初魔戦車部隊が易々と中央の陣を突破し、それに呼応して北側から陣を破って村に突入したり、あるいは一か八かで魔戦車の威力を把握していないリュフミュラン軍が打って出た場合も、やはり北側から包囲殲滅する予定であった。
しかしそれがいつまで経っても戦場中央で凄まじい砂塵と爆炎を上げるだけで、何の作戦も始まらない事に各指揮官は状況が把握出来ず苛立ち始めていた。こうした敵軍の混乱状況になった背景には、偶然にも砂緒が魔戦車隊の隊長が乗る車両を子泣き爺作戦で最初にぺしゃんこにし、砂緒の意思とは無関係に部隊長が流れ弾で消滅即死した事による。
「うっらあああ、ぶち破れーーー!!」
「ひゃっはーーーー!!」
衣図に率いられた騎馬部隊の先頭集団が、ならず者の様な雄叫び声を上げて遂に一気に北の一軍の盾を並べた戦列に殺到を始める。衣図が手に入れてすぐさま乗りこなしている雪乃フルエレが偶然手に入れていた軍用巨大馬が、盾を持ち重い鎧を着用した集団をいきなり3,4人も吹き飛ばす。それを発端に次々となだれ込むリュフミュラン側の騎馬部隊。運の悪い事に必殺の最新兵器、魔戦車の突撃力を騎馬隊と同様かそれ以上の物とみなし、実際の騎馬部隊を率いていなかったニナルティナ軍には、巨大なエネルギーで突っ込んで来る騎馬隊の突撃を止める術が無かった。
「いっけるぞおらー! 魔法瓶投擲!! 仲間に当てるなよ!」
走りながら巨大な剣で敵をばっさばさ切り捌きながら、大声で魔法瓶という例え魔法攻撃が使用出来ない者でも同様の威力で攻撃出来る、魔力が込められた瓶を投げつける部下たち。部隊の外周に向けて魔法防御や物理防御を施していても、内部に突入された状態で攻撃を受けるとひとたまりも無い。北側の部隊のあちこちで吹き飛ぶ敵兵達。衣図ライグはいけるという手応えを感じていた。
「よし! ある程度蹂躙したら今度は中央主力に向かう! 余力を残せ!」
士気に関わる為誰にも言っていないが、衣図は中央の前衛魔戦車部隊が行動不能に陥った時点である程度勝てると踏んでいた。恐らく北側の部隊もひと揉みして混乱をきたせば、組織的な戦闘力は急速に下がりわざわざ陣に襲い掛かる事は、もう無いと予測していて実際そうなりつつあった。
「よし、全員抜けろ! 走ってる奴は置いてかれんなよ!」
叫びながらも巨大な剣で敵兵を切り裂きながら自軍の様子を観察し、この場の突破そして中央主力部隊側面への突撃を指令する衣図ライグ。騎馬では無く自分の足で戦う連中もなんとか乱れずに後に続く。
「わわわ、みんな行っちゃうどうするのよ」
辺りに散らばる死体や武器や銃。衣図の騎馬隊に突撃を受け、かなりの損害を被り指揮系統が崩壊し陣への突入はもはや行われないだろう北部隊だが、全員が逃走するばかりでは無く、その場でまだ部隊を維持しようと努める少数の兵達もあった。そんな所にフルエレが追いかけるおじいさん部隊十数人がようやく到着する。見るからに明らかに弱そうなおじいさん部隊に向かって敵兵が殺到した。
「危ない!」
銃を握りしめた死体を踏まないように、縫うようにフルエレのサイドカー付き魔輪が寸での所でおじいさん部隊を追い抜き、飛び降りると心の中で防御を願った途端に先程リズから受け取った、魔力で防御陣を展開する腕輪が発動して巨大な光の壁が現れた。本来通常の魔導士なら自分一人分が精いっぱいのはずだが、十数人が隠れる程の大きな壁が現れる。
雪乃フルエレは当然これは腕輪の凄い性能だと思い込んだ。ガンガンと打突武器が跳ね返される。すぐさま騎馬隊の難から逃れて体勢を立て直した、魔導士や銃を持つ兵が続けて射撃を開始する。バンバンと壁に弾かれる攻撃。実は防御力も魔力の量に比例するのだが、本来ならこれ程までに完璧な防御など出来ないのが普通だった。フルエレの目前でバチバチと光が弾ける。
「ちょ、ちょっとこれどうするのよ」
「よし、皆今じゃ! 投げまくれ!」
おじいさん達が袋に沢山持ってきた魔法瓶を猛烈に投げまくる。筋力が落ちているおじいさん兵だと、投げてもポトリと近場に落ちてしまいフルエレの目前で魔法が炸裂し、フルエレに閃光と激しい衝撃をお見舞いした。
「ちょ、ちょっと皆さん」
慌てて後ろを振り向くフルエレ。閃光の中で想像するのも恐ろしい光景が繰り広げられているだろう。砂緒に兵を殺さないでと言いながら、今は間接的に殺戮に加担していた。足元には騎馬隊突撃でやられただろう転がる銃を再び手にしようとして、寸前で力尽きた若い兵の死体が目に入った。
「うおう何じゃぐわっ」
フルエレが地面に転がる死体を見つめ、戦場を忘れている瞬間だった。当然ながら魔法シールドの裏側に回り込んで来た一人の敵兵が、最後尾にいたおじいさん兵をけり倒し剣を振りかぶって切り殺そうとしていた。
バンッッ!!
フルエレは片手で防御魔法陣を立て掛けつつ、地面を見つめていた屈む姿勢のまま無意識で片手で銃を拾い、おじいさんを襲う後ろの若い兵の心臓を正確に撃ち抜いていた。
「あ…………」
今度こそ間接的な物では無い、フルエレ自身による殺人だった。フルエレはまたもや時が止まってしまったが、周囲ではおじいさん部隊が後ろの側にも魔法瓶を投げつけ出し、炸裂音が鳴り響き続けた。
同じ頃、中央主力部隊の側面から突撃を開始していた、大将衣図ライグは多少苦戦し始めていた。当然ながら北部隊が突撃を受け、壊滅的被害を受けた事が伝わり警戒感が高まっていた事と、やはり数の差が大きく先程の様に騎馬隊の突破力だけでごり押し出来る状況では無かった。このまま普通に戦えば敵に打撃を与えられても自分たちも大変な損害を出すだろう。そうなれば林に居る伏兵が出て来たり、残存部隊を糾合して陣や村への突入を実行されかねない。
「甘かったかな?」
大きな剣を振り上げ、次々に敵をなぎ倒しながらも不安感が増大しているまさにその時だった。
ギョバアギャアアアアアアアアア
異様な駆動音と共にバックのまま、猛烈な勢いで魔戦車が中央部隊に飛び込んで来る。その上には腕を組んで落ちない様に、バランスを取る事を楽しんでいる砂緒の姿があった。最初の3台くらいまでは良かったが、4台目5台目ともなると回避行動の必死さが格段に上がり、上に乗っかるのも大変な作業となっていた。ようやく最後の6台目にのっかった時、最後の魔戦車の中の魔導士達は恥も外聞も無く後続部隊の混乱も考慮せず、全速後退で振り落とそうとして、とうとう重い鎧をまとう重装歩兵部隊の所まで到達してしまった。そのまま重い無限軌道で味方を踏み潰して行く。見るのも恐ろしい場面だった。
「なんだああ?」
もはや決死の覚悟で陣への帰還撤退を決断しようか迷う衣図の目前に、後ろから魔戦車が飛び込みその上で陣取る目つきの悪い少年がしゃがんだ瞬間、べこべきと砲塔部分から大きくひしゃげて行く。あの少女、雪乃フルエレが言っていた『砂緒』としか考えられなかった。
「トモダーチ! トモダーチ!! フルエレ、ほら雪乃フルエレちゃんの!」
とにかく一番最初に声を掛けなければと思った衣図は、思い付く限りの友好アピールをした。魔戦車をひしゃげさせていた少年は、全てペタンコにするのかと思いきや、割と中途半端な所でひょいっと降りると、ちらっとこっちを見てシュッと片手を上げると、すぐに無言で魔戦車が突入して轍が出来て、無人の道になった方に小走りに走っていった。
「な、なんだ? 何で行っちゃうかなあ、一緒に戦おうぜ~~」
しばらく後ろから突入して来た砲塔がひしゃげ、擱座している魔戦車を中心に戦っている最中だった、あちこちで敵兵が吹き飛びだした。
「今度はなんだぁ?」
実は砂緒は魔戦車をひっくり返してみようとして、全くびくとも動かなかった事などがあったりして、自分の腕力が超パワーでも何でもない事に気付き、重い鎧を着た敵兵を一人づつ地味に殴り続けても効率が悪いなと考え、一旦後ろにバックして助走をつけ、走りながら徐々に重量を増加して慣性で敵兵にぶつかるという戦い方を思案して、それを実行していたのだった。地味だが威力は絶大だった。敵兵の列にぶつかると、ボウリングの様に敵兵がなぎ倒されて行く。
「なんだか良く分からんが、化け物は味方だ! 野郎ども、体勢を立て直し重装兵は無視して魔導士を出来るだけ倒し、そのまま今度は林に向かう!」
化け物等と本音が飛び出たが、その方が可愛い野郎どもに伝わると思ったのだった。再び混乱に陥り出した後列部隊をなんとか蹂躙し、散り出した味方をまとめ上げると先程の言葉通り深追いはせずに中央部隊を抜け、最後のゴールとも言うべき林に向かった。イェラが率いる『伏兵を倒す伏兵』の準備が整ってなければ、わざわざ地獄に自分から飛び込む様な無様な結果が待っている。
「間に合ってくれよ~~」
ニナルティナ軍の参謀であり、今回の作戦を献策し今は伏兵の指揮を担当していた有未レナードも困惑していた。絶対に撃破される事は無いと思い込んでいた魔戦車隊が壊滅し、全体の指揮官からの命令も無い。もはや伏兵が有機的に活躍する様な場面はないだろう、かと言って無傷で撤退してどの様な責任を取らされるか。しかし本当は実は陣の中はほぼ無人であり、自部隊だけでも一挙に陣に突撃していれば結果は変わったかもしれない。しかし咄嗟には思いつかなかった。
「ヤバイ、もうヤバイ。マジでヤバイ」
美形の外見とは裏腹に多少残念な部分があるこの男は、少数の兵で何度も衣図ライグと戦いを繰り広げていた。今回は初めて大規模な部隊での侵攻であり、必殺の策と兵器の前準備で臨んだ物だったが事態は悪化の一途を辿っていた。
「団長なんか衣図の騎馬隊がこっちに向かって来てます! 真正面から正確に!」
「ええ、なんで?」
副官の背がちっこい眼鏡女が慌てて報告に来る。え、どういう事だ? なんでこちらの位置が分かってるみたいに正確に突っ込んで来る? 何の為? と混乱したがすぐに頭を切り替える。
「魔導士や銃隊は木の陰に隠れて射撃の準備、突撃して来よう物なら撃ちまくれ。同士討ちに気を付けろよ! 気付かず通り過ぎるならば併せて剣で後背を突く。今回の戦で手柄を立てられる最後の場面だ! 頑張れよ」
指令すると息を潜めた。案の定、衣図の騎馬隊は自分たちの陣に帰還しようとしてか、自分たちが潜む林の目前で大きくUターンを始めた。いけるっと瞬間的に思った。
「よし、攻撃開始!!」
潜んでいた兵達が射撃を始め様と木の陰から現れる。所が衣図達の部隊は焦るどころか最初から分かっていた様に、くるりと引き返して防御を張り応戦を始める。しかしこちらには魔導士や銃隊がいる有利だと思った瞬間だった。逆に林の奥から襲撃を受けた味方部隊のうめき声があちこちで聞こえる。
「げえっ」
顔の中央部に黒い斜線が複数入り、絶句する有未レナード。陣から派手に出撃する部隊の影で村の抜け道からこそこそと出撃し、息を潜めて進軍していたイェラの部隊が間に合っていたのだった。衣図の部隊とイェラの部隊の挟撃を受け、即座に撤退を決意した。
「撤退! 一人でも逃げろ! お前も早く逃げろ!」
眼鏡の副官を乱暴に馬に載せ、尻を蹴り走らせる。自らは騎馬のまま最後まで殿で戦う……事はせずに怪力の衣図と張り合っても意味無いだろうと見切りを付けて逃げにかかる。
「まて! 卑怯者が!」
手柄を立てようとイェラが新たに騎馬で追いかけて来る。
「なんだコイツは~~~」
剣でいなしながら、なおも逃げようとする有未。イェラが猛然と接近して剣を振りかざし、火花を散らして切り結び合う。走りながら鍔迫り合いし、戦いではありえない程顔と顔が接近した。
「う、美しい……」
「な、なに!?」
突然の言葉に唖然としている内に馬を蹴られ、あらぬ方向に進んでしまうイェラ。
「はい、残念でした~~べーーー。あ~~屋台行きたいなあ……」
愚痴りながら、隙をついて有未は森の中へ消え去った。
もはや戦いは最終盤だった。今度は逆に守勢側だったリュフミュランが残敵を掃討する場面になっていた。そうなるとフルエレは敵兵を撃った衝撃も蘇り、戦いに参加する意欲を急激に失っていた。そんな時だった、リュフミュラン軍に交じって進む砂緒をようやく見つけた。
「あ、砂緒クーーン! おーーい! 来ちゃった!」
ほっとして涙交じりの満面の笑みで叫ぶフルエレ。
「あー~~? 来てたのですかフルエレ」
やはり感動の薄い砂緒の反応だった。なおも笑顔の大声で砂緒を呼ぶフルエレ。
「フルエレ~~?」
砂緒は擱座した魔戦車の上に乗ると、手を振りもう一度大声で呼んでみた。
「フルエレーーーーーー!!!」
突然砂緒の周囲の男共が同調して叫び出す。
「フルエレ! フルエレ! フルエレ!」
「フルエレ! フルエレ! フルエレ! フルエレ! フルエレ!」
どんどん声は多く大きくなり、勝どき代わりのフルエレの大合唱となった。
「エ、エーー? これ何展開? 名前連呼やめてー。アッ」
自分の手を見てようやく気付いた。緊張のまま銃を手放さず、両手で大きく銃を振り回していた。戦場のただ中、ドレスで金髪を振り乱し、銃を掲げて近寄って来る姿は勝利の女神その物だった。
リュフミュラン義勇軍の大将衣図ライグが巨大馬を乗りこなして、陣を包囲しようと進撃していたニナルティナ軍の北の部隊にみるみる肉薄して行く。砂緒による魔戦車への異様な攻撃により中央の主力部隊が浮足立ち、士気の低下が起こり始めている事同様に、北の包囲部隊も同じ様な状態になっていた。最初魔戦車部隊が易々と中央の陣を突破し、それに呼応して北側から陣を破って村に突入したり、あるいは一か八かで魔戦車の威力を把握していないリュフミュラン軍が打って出た場合も、やはり北側から包囲殲滅する予定であった。
しかしそれがいつまで経っても戦場中央で凄まじい砂塵と爆炎を上げるだけで、何の作戦も始まらない事に各指揮官は状況が把握出来ず苛立ち始めていた。こうした敵軍の混乱状況になった背景には、偶然にも砂緒が魔戦車隊の隊長が乗る車両を子泣き爺作戦で最初にぺしゃんこにし、砂緒の意思とは無関係に部隊長が流れ弾で消滅即死した事による。
「うっらあああ、ぶち破れーーー!!」
「ひゃっはーーーー!!」
衣図に率いられた騎馬部隊の先頭集団が、ならず者の様な雄叫び声を上げて遂に一気に北の一軍の盾を並べた戦列に殺到を始める。衣図が手に入れてすぐさま乗りこなしている雪乃フルエレが偶然手に入れていた軍用巨大馬が、盾を持ち重い鎧を着用した集団をいきなり3,4人も吹き飛ばす。それを発端に次々となだれ込むリュフミュラン側の騎馬部隊。運の悪い事に必殺の最新兵器、魔戦車の突撃力を騎馬隊と同様かそれ以上の物とみなし、実際の騎馬部隊を率いていなかったニナルティナ軍には、巨大なエネルギーで突っ込んで来る騎馬隊の突撃を止める術が無かった。
「いっけるぞおらー! 魔法瓶投擲!! 仲間に当てるなよ!」
走りながら巨大な剣で敵をばっさばさ切り捌きながら、大声で魔法瓶という例え魔法攻撃が使用出来ない者でも同様の威力で攻撃出来る、魔力が込められた瓶を投げつける部下たち。部隊の外周に向けて魔法防御や物理防御を施していても、内部に突入された状態で攻撃を受けるとひとたまりも無い。北側の部隊のあちこちで吹き飛ぶ敵兵達。衣図ライグはいけるという手応えを感じていた。
「よし! ある程度蹂躙したら今度は中央主力に向かう! 余力を残せ!」
士気に関わる為誰にも言っていないが、衣図は中央の前衛魔戦車部隊が行動不能に陥った時点である程度勝てると踏んでいた。恐らく北側の部隊もひと揉みして混乱をきたせば、組織的な戦闘力は急速に下がりわざわざ陣に襲い掛かる事は、もう無いと予測していて実際そうなりつつあった。
「よし、全員抜けろ! 走ってる奴は置いてかれんなよ!」
叫びながらも巨大な剣で敵兵を切り裂きながら自軍の様子を観察し、この場の突破そして中央主力部隊側面への突撃を指令する衣図ライグ。騎馬では無く自分の足で戦う連中もなんとか乱れずに後に続く。
「わわわ、みんな行っちゃうどうするのよ」
辺りに散らばる死体や武器や銃。衣図の騎馬隊に突撃を受け、かなりの損害を被り指揮系統が崩壊し陣への突入はもはや行われないだろう北部隊だが、全員が逃走するばかりでは無く、その場でまだ部隊を維持しようと努める少数の兵達もあった。そんな所にフルエレが追いかけるおじいさん部隊十数人がようやく到着する。見るからに明らかに弱そうなおじいさん部隊に向かって敵兵が殺到した。
「危ない!」
銃を握りしめた死体を踏まないように、縫うようにフルエレのサイドカー付き魔輪が寸での所でおじいさん部隊を追い抜き、飛び降りると心の中で防御を願った途端に先程リズから受け取った、魔力で防御陣を展開する腕輪が発動して巨大な光の壁が現れた。本来通常の魔導士なら自分一人分が精いっぱいのはずだが、十数人が隠れる程の大きな壁が現れる。
雪乃フルエレは当然これは腕輪の凄い性能だと思い込んだ。ガンガンと打突武器が跳ね返される。すぐさま騎馬隊の難から逃れて体勢を立て直した、魔導士や銃を持つ兵が続けて射撃を開始する。バンバンと壁に弾かれる攻撃。実は防御力も魔力の量に比例するのだが、本来ならこれ程までに完璧な防御など出来ないのが普通だった。フルエレの目前でバチバチと光が弾ける。
「ちょ、ちょっとこれどうするのよ」
「よし、皆今じゃ! 投げまくれ!」
おじいさん達が袋に沢山持ってきた魔法瓶を猛烈に投げまくる。筋力が落ちているおじいさん兵だと、投げてもポトリと近場に落ちてしまいフルエレの目前で魔法が炸裂し、フルエレに閃光と激しい衝撃をお見舞いした。
「ちょ、ちょっと皆さん」
慌てて後ろを振り向くフルエレ。閃光の中で想像するのも恐ろしい光景が繰り広げられているだろう。砂緒に兵を殺さないでと言いながら、今は間接的に殺戮に加担していた。足元には騎馬隊突撃でやられただろう転がる銃を再び手にしようとして、寸前で力尽きた若い兵の死体が目に入った。
「うおう何じゃぐわっ」
フルエレが地面に転がる死体を見つめ、戦場を忘れている瞬間だった。当然ながら魔法シールドの裏側に回り込んで来た一人の敵兵が、最後尾にいたおじいさん兵をけり倒し剣を振りかぶって切り殺そうとしていた。
バンッッ!!
フルエレは片手で防御魔法陣を立て掛けつつ、地面を見つめていた屈む姿勢のまま無意識で片手で銃を拾い、おじいさんを襲う後ろの若い兵の心臓を正確に撃ち抜いていた。
「あ…………」
今度こそ間接的な物では無い、フルエレ自身による殺人だった。フルエレはまたもや時が止まってしまったが、周囲ではおじいさん部隊が後ろの側にも魔法瓶を投げつけ出し、炸裂音が鳴り響き続けた。
同じ頃、中央主力部隊の側面から突撃を開始していた、大将衣図ライグは多少苦戦し始めていた。当然ながら北部隊が突撃を受け、壊滅的被害を受けた事が伝わり警戒感が高まっていた事と、やはり数の差が大きく先程の様に騎馬隊の突破力だけでごり押し出来る状況では無かった。このまま普通に戦えば敵に打撃を与えられても自分たちも大変な損害を出すだろう。そうなれば林に居る伏兵が出て来たり、残存部隊を糾合して陣や村への突入を実行されかねない。
「甘かったかな?」
大きな剣を振り上げ、次々に敵をなぎ倒しながらも不安感が増大しているまさにその時だった。
ギョバアギャアアアアアアアアア
異様な駆動音と共にバックのまま、猛烈な勢いで魔戦車が中央部隊に飛び込んで来る。その上には腕を組んで落ちない様に、バランスを取る事を楽しんでいる砂緒の姿があった。最初の3台くらいまでは良かったが、4台目5台目ともなると回避行動の必死さが格段に上がり、上に乗っかるのも大変な作業となっていた。ようやく最後の6台目にのっかった時、最後の魔戦車の中の魔導士達は恥も外聞も無く後続部隊の混乱も考慮せず、全速後退で振り落とそうとして、とうとう重い鎧をまとう重装歩兵部隊の所まで到達してしまった。そのまま重い無限軌道で味方を踏み潰して行く。見るのも恐ろしい場面だった。
「なんだああ?」
もはや決死の覚悟で陣への帰還撤退を決断しようか迷う衣図の目前に、後ろから魔戦車が飛び込みその上で陣取る目つきの悪い少年がしゃがんだ瞬間、べこべきと砲塔部分から大きくひしゃげて行く。あの少女、雪乃フルエレが言っていた『砂緒』としか考えられなかった。
「トモダーチ! トモダーチ!! フルエレ、ほら雪乃フルエレちゃんの!」
とにかく一番最初に声を掛けなければと思った衣図は、思い付く限りの友好アピールをした。魔戦車をひしゃげさせていた少年は、全てペタンコにするのかと思いきや、割と中途半端な所でひょいっと降りると、ちらっとこっちを見てシュッと片手を上げると、すぐに無言で魔戦車が突入して轍が出来て、無人の道になった方に小走りに走っていった。
「な、なんだ? 何で行っちゃうかなあ、一緒に戦おうぜ~~」
しばらく後ろから突入して来た砲塔がひしゃげ、擱座している魔戦車を中心に戦っている最中だった、あちこちで敵兵が吹き飛びだした。
「今度はなんだぁ?」
実は砂緒は魔戦車をひっくり返してみようとして、全くびくとも動かなかった事などがあったりして、自分の腕力が超パワーでも何でもない事に気付き、重い鎧を着た敵兵を一人づつ地味に殴り続けても効率が悪いなと考え、一旦後ろにバックして助走をつけ、走りながら徐々に重量を増加して慣性で敵兵にぶつかるという戦い方を思案して、それを実行していたのだった。地味だが威力は絶大だった。敵兵の列にぶつかると、ボウリングの様に敵兵がなぎ倒されて行く。
「なんだか良く分からんが、化け物は味方だ! 野郎ども、体勢を立て直し重装兵は無視して魔導士を出来るだけ倒し、そのまま今度は林に向かう!」
化け物等と本音が飛び出たが、その方が可愛い野郎どもに伝わると思ったのだった。再び混乱に陥り出した後列部隊をなんとか蹂躙し、散り出した味方をまとめ上げると先程の言葉通り深追いはせずに中央部隊を抜け、最後のゴールとも言うべき林に向かった。イェラが率いる『伏兵を倒す伏兵』の準備が整ってなければ、わざわざ地獄に自分から飛び込む様な無様な結果が待っている。
「間に合ってくれよ~~」
ニナルティナ軍の参謀であり、今回の作戦を献策し今は伏兵の指揮を担当していた有未レナードも困惑していた。絶対に撃破される事は無いと思い込んでいた魔戦車隊が壊滅し、全体の指揮官からの命令も無い。もはや伏兵が有機的に活躍する様な場面はないだろう、かと言って無傷で撤退してどの様な責任を取らされるか。しかし本当は実は陣の中はほぼ無人であり、自部隊だけでも一挙に陣に突撃していれば結果は変わったかもしれない。しかし咄嗟には思いつかなかった。
「ヤバイ、もうヤバイ。マジでヤバイ」
美形の外見とは裏腹に多少残念な部分があるこの男は、少数の兵で何度も衣図ライグと戦いを繰り広げていた。今回は初めて大規模な部隊での侵攻であり、必殺の策と兵器の前準備で臨んだ物だったが事態は悪化の一途を辿っていた。
「団長なんか衣図の騎馬隊がこっちに向かって来てます! 真正面から正確に!」
「ええ、なんで?」
副官の背がちっこい眼鏡女が慌てて報告に来る。え、どういう事だ? なんでこちらの位置が分かってるみたいに正確に突っ込んで来る? 何の為? と混乱したがすぐに頭を切り替える。
「魔導士や銃隊は木の陰に隠れて射撃の準備、突撃して来よう物なら撃ちまくれ。同士討ちに気を付けろよ! 気付かず通り過ぎるならば併せて剣で後背を突く。今回の戦で手柄を立てられる最後の場面だ! 頑張れよ」
指令すると息を潜めた。案の定、衣図の騎馬隊は自分たちの陣に帰還しようとしてか、自分たちが潜む林の目前で大きくUターンを始めた。いけるっと瞬間的に思った。
「よし、攻撃開始!!」
潜んでいた兵達が射撃を始め様と木の陰から現れる。所が衣図達の部隊は焦るどころか最初から分かっていた様に、くるりと引き返して防御を張り応戦を始める。しかしこちらには魔導士や銃隊がいる有利だと思った瞬間だった。逆に林の奥から襲撃を受けた味方部隊のうめき声があちこちで聞こえる。
「げえっ」
顔の中央部に黒い斜線が複数入り、絶句する有未レナード。陣から派手に出撃する部隊の影で村の抜け道からこそこそと出撃し、息を潜めて進軍していたイェラの部隊が間に合っていたのだった。衣図の部隊とイェラの部隊の挟撃を受け、即座に撤退を決意した。
「撤退! 一人でも逃げろ! お前も早く逃げろ!」
眼鏡の副官を乱暴に馬に載せ、尻を蹴り走らせる。自らは騎馬のまま最後まで殿で戦う……事はせずに怪力の衣図と張り合っても意味無いだろうと見切りを付けて逃げにかかる。
「まて! 卑怯者が!」
手柄を立てようとイェラが新たに騎馬で追いかけて来る。
「なんだコイツは~~~」
剣でいなしながら、なおも逃げようとする有未。イェラが猛然と接近して剣を振りかざし、火花を散らして切り結び合う。走りながら鍔迫り合いし、戦いではありえない程顔と顔が接近した。
「う、美しい……」
「な、なに!?」
突然の言葉に唖然としている内に馬を蹴られ、あらぬ方向に進んでしまうイェラ。
「はい、残念でした~~べーーー。あ~~屋台行きたいなあ……」
愚痴りながら、隙をついて有未は森の中へ消え去った。
もはや戦いは最終盤だった。今度は逆に守勢側だったリュフミュランが残敵を掃討する場面になっていた。そうなるとフルエレは敵兵を撃った衝撃も蘇り、戦いに参加する意欲を急激に失っていた。そんな時だった、リュフミュラン軍に交じって進む砂緒をようやく見つけた。
「あ、砂緒クーーン! おーーい! 来ちゃった!」
ほっとして涙交じりの満面の笑みで叫ぶフルエレ。
「あー~~? 来てたのですかフルエレ」
やはり感動の薄い砂緒の反応だった。なおも笑顔の大声で砂緒を呼ぶフルエレ。
「フルエレ~~?」
砂緒は擱座した魔戦車の上に乗ると、手を振りもう一度大声で呼んでみた。
「フルエレーーーーーー!!!」
突然砂緒の周囲の男共が同調して叫び出す。
「フルエレ! フルエレ! フルエレ!」
「フルエレ! フルエレ! フルエレ! フルエレ! フルエレ!」
どんどん声は多く大きくなり、勝どき代わりのフルエレの大合唱となった。
「エ、エーー? これ何展開? 名前連呼やめてー。アッ」
自分の手を見てようやく気付いた。緊張のまま銃を手放さず、両手で大きく銃を振り回していた。戦場のただ中、ドレスで金髪を振り乱し、銃を掲げて近寄って来る姿は勝利の女神その物だった。
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