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I ニナルティナ王国とリュフミュラン国

初めてのお客さま 4 牢の中で初対決、 立場逆転!? .

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 あれからまた数日経った後だった、雪乃フルエレの精神状態がそろそろ限界だという看守の報告を受けた七華しちかリュフミュラン王女は、そろそろ頃合いだと判断して一か月を待たずに地下の牢獄に向かった。

「雪乃フルエレさん! 化けも、いえ砂緒さまっ、ご無事ですかっ! どこにいらっしゃいますか!?」

 もうメンタルが限界に近付いており、ぶつぶつ独り言を言い始めていた雪乃、相変わらずマイペースで普段と変わらぬ砂緒すなお、両人の耳に牢獄では珍しい声が聞こえ激しく反応する。

「……」
「ここです! ここです! 七華さんここですっ!」

 無人島でヘリか貨物船でも近づいた様に最後の力を振り絞って大声を出すフルエレ。軽く無視をする砂緒。魔戦車を燃やしてしまいなさいと言われて以来、あまり好感は持っていなかった。

「おおお、なんという事でしょう。雪乃さん砂緒さま、どうしてこんな事に。心が痛みますわ。直ぐに出して差し上げます。看守、鍵を開けなさい!」

 いつもの砕けた態度とは違い、畏まって直ぐにジャラジャラとぶら下がった、多くの鍵の中から牢の鍵を取り出し、ガチャガチャと開ける。

「うわああああん、しんどかったです。七華~~~」
「おおお、本当にごめんなさいね、どうしてこんな事に。担当の者達を厳しく罰しますわ」
「ぶち込む為の牢屋を建てた家主に出してもらったからと言って、泣いて喜ぶのはいささか腑に落ちませんが」

 泣いて七華に抱き着いたフルエレと違い、砂緒は些かも感謝している様子は無い。

「……ご安心なさい、村の者達の訴えを聞いて、矢も盾もたまらず飛んでまいりました。ささっ、外に出て皆の所に行くのです。それに冒険者ギルドは当然そのままです。今では冒険者で大盛況ですよ」
「え? それはそれとして……でも本当に有難うございます。七華さんにどうやってこのお礼をすれば良いか……」
「お礼なんて良いのですよ、ただ私達の友情があれば良いのです」
「う、う、七華」

 軽く砂緒を無視して感動の対面が続く。もちろん七華が部下に命令してぶち込み、そして今度はまた七華が命令して釈放したに過ぎない。そんな事など露知らずフルエレは感謝しきりだったが、砂緒は終始冷ややかな目線で見ている。

「私も長期間お日様を見ていなくてフラフラですよ。そろそろ出ても良いでしょうか」

 何時まで続くか分からない感動シーンを早く切り上げたい砂緒だった。

「おお、そうですね看守、早くお二人をお連れしなさい」

 砂緒はスタスタと何の余韻も無く歩き出す。フルエレはよろよろと何度も振り返りながらようやく出て行った。

「うふふふ、ふははは、勝った! また勝った! 笑えてしまうわ。あんな簡単にお涙頂戴してしまって良いものかしら。チョロ過ぎですわ」


 ドドドーーン ドドーーン

「キャッな、何! 何なのこれ?」

 フルエレが外に出て、城の広場で久しぶりの日の目を見た瞬間だった。城のあちこちから爆発音と火の手が上がる。

「テロだ! 一体誰が!?」

 案内していた看守が腰を抜かす。砂緒がフルエレの手を引いて逃げようとするが、フルエレが散歩を嫌がる犬の様に踏ん張る。

「どうしました? このような場所に長居は無用でしょう」
「七華が! 七華がまだ地下牢にいるのよ、助けに行かないとだめなのよ!」
「貴方はどこまでお人好しなのですか、あんなのほっとけば勝手になんとかするでしょうに」
「だめ、私が助けに行きます!」

 今度は砂緒がフルエレの手首をぐっと握って制止する。

「はい、ではこうしましょう。あそこは敵国の捕虜だらけです。そんな場所にご婦人を連れて行けません。貴方は看守さんと逃げて下さい。私が一人で探して来ましょう」
「う、うん……そうするよ。二回目だね、私を逃がしてくれるの。有難う。ごめんねっ」

 やはり何の余韻も残さず、フルエレが言い終わるのと同時に振り向かずの手刀を切ると、サクサクと歩き出す砂緒だった。


 七華が勝ち誇って笑った直後だった、屋根の上から凄まじい轟音、爆発音が鳴り響き、地下牢にまで激しい振動が伝わり、屋根からパラパラと小石が落ちる。それがなかなか終わらない。

「あああ、なんですのこれは、スピナはこんな時になにをしているの! 役立たず」

 スピナとは以前冒険者ギルドの館にドレス等を持ってきた、普段は七華にぴったり付いて護衛している美形の剣士だが、彼には七華本人が感動を自分に集中させる為に来るなと命令していた。

「おっと捕まえた! これはどなた様かな?」
「きゃっ、なんですのこれは、ひっ」

 七華は恐怖の余り、音と衝撃が響いた直後に敵軍の捕虜の鉄格子のドアにもたれ掛かっていた。それを見ていた捕虜の魔導士は、手枷が付いた使い辛い手で最大限まで鎖を伸ばし、なんとか長い髪と手首を別々に掴んでいた。

「は、離しなさい。無礼ですよ、この犯罪人が」

 言葉は気丈だが、明らかに普段と違って声が震え始めている。余程恨みが籠っているのか、手首を掴まれた部分がぎりぎり痛む程強い力で掴まれている。

「おおお、柔らかいすべすべの手首だなあ、どんな体してるのかなあ?」
「おや、そんな所にお姫様が? どうした物でしょうかねふふふ」
「誰!? 誰でも良いですから、この無礼者から助けなさい」

 暗闇の中から現れたのは、長身痩躯に灰色い服。男としては長い髪、そしてその髪には三毛猫の耳。さらに顔には大きなマスクが被せてあり、口元しか表情が分からない。完全に不審者だった。

「お初にお目にかかります、私は三毛猫仮面なる怪盗でございます。なんでもお姫様がこれから大変な目に遭うという情報を得ましてやって参りました。おや、私の手にこれは鍵ですかな?」
「ひっ」

 あからさまに怪しい男の手には牢の鍵。七華の全身から血の気が引く。

「おい、何でも良い、勿体ぶるな、早く鍵を開けてくれや」

 三毛猫仮面はにこやかに笑いながら、何の抵抗も無く牢の鍵を開ける。

「や、やめなさい……あっ」

 ぎぎぎっと鉄格子のドアが開く。さらに三毛猫仮面は手枷足枷まで外してしまうサービスの良さ。

「これは……本物のお姫様か? こんな地下牢でも分かるくらいに白い肌にきらきら光る瞳、最高の女じゃねえか」

 捕虜の魔導士は自由になった手で七華を強引に抱き寄せると、顎を持ち上げて品定めをする。

「ひっ、やめなさい! 汚らわしい、離しなさい」
「お楽しみの所申し訳ないが、私は暇つぶしと小遣い稼ぎに某国の工作員も請け負っておりまして、これから他の捕虜も解放して回って参ります。王女はどうなっても良いのですが、額のヘッドチェーンだけは頂きたい。無くしてはいけませんよ。後で貰いに来ますから」
「しっしっ好きにしやがれ」

 三毛猫仮面が歩いていくのを確認すると、捕虜の魔導士は舌舐めずりしながら七華王女の両手を掴んで壁に押し付けると、いきなり豪華なドレスの胸元をびりっと破り裂いた。白い胸とそれを包む高級な下着が露わになった。

「ひっ、止めなさい、お金なら差し上げます。今なら許してあげましょう」
「本気で言ってるのか? こんなの見せられて引き下がれるか!」

 野卑た目で普段は絶対に晒されない王女の素肌を見つめる捕虜の魔導士。次にどの様な行動に移るかは明らかだった。

「や、やめて……ください、お願いします。た、助けて」

 とうとう七華は上から目線では無く、涙を流して懇願し始めた。

「たまらんな……」
「ちょっといいですか、ご歓談の所申し訳無い。七華王女を連れ帰る様に命令されているのですが」

 魔導士が振り返ると、15歳くらいの目つきの悪い少年が。生憎この魔導士は砂緒の魔戦車潰しの場面を肉眼で見ておらず、牢も微妙に離れており事情を全然知らない人物だった。魔法が封印されていても易々と倒せると思い込んでしまった。

「何だこのガキは、今立て込んでんだよ、あっち行け」
「砂緒……?」

 恐怖の只中に居て呆然としていた七華も砂緒の存在に気付く。七華の言葉にふっとそちらに視線が行った砂緒を見て、いきなり魔導士が殴りにかかる。瞬時に砂緒は本能的に真っ白に変化して硬化していた。ボキベキ。思い切りなぐった魔導士の拳が潰れる。

「痛い、なんだこれは、俺たちの上に乗ってた化け物? ひっ」
「殺してお仕舞なさい! 私の肌を汚したこの痴れ者を早く潰してしまうのですよ!」

 すぐに復活して手で無理やり破れた胸元を合わせた七華が命令してくる。

「いやあ、それがなるべく殺しては駄目と言われてますんで。これで。じゃ!」
「待って! 一人にしないでっ。それにあの小娘なら既に兵士を一人射殺しています! 聞いてないですの?」
「…………」

 そんな話は初耳だった。

「分かりました。なんでも時間がかかるのは嫌ですので、はいはい潰しておきましょう」
「ひっ何を言ってるんだ! お願いだ! 助けてくれ! やめろ、ぎゃあ」

 砂緒は無造作に体重を増加させると、力を込めた拳で魔導士の心臓の辺りを殴った。その手は突き抜けて壁にまでひびが入った。だらんとなる魔導士の死体。

「い、いい気味よ」
「おっと何をしているんだね? 君が噂の化け物ですか」

 後ろから声がして本能的に振り返って拳を振る砂緒。声の主、三毛猫仮面にはかすりもしない。

「その攻撃に当たりさえしなければいいのでしょう」

 三毛猫仮面は一定の距離を保ちながら、軽やかな足運びで砂緒の間合いに入り込むと、シュッとレイピアで切り付ける。カキーンとあっさりと折れて飛んでいく刀身。

「おっと、やっぱり攻撃は受け付けない様です。先の戦闘では魔法も無効だったと聞きました」

 その間も砂緒は意地になってパンチや蹴りを繰り返すが、全くかすりもしない。みつめる七華。

「まるで動きが素人じゃないですか。強いというのは硬さと重さだけなのですか」
「うるさいですね! 話し方が似ていて貴方、なんか鬱陶しい!」

 砂緒が必死にパンチを繰り出すが、ひらりと三毛猫がかわすと背中をポンと押す。前にこけそうになる砂緒。

「ははは、もしかしたらお互い立派なエセ紳士なのかもしれませんね! 仲良く出来そうです。しかし私の攻撃が無効で、そちらの攻撃は一切当たらない、これでは永遠に勝負がつきませんね。今日はここら辺でお暇致しましょうか。最初にヘッドチェーンを貰っておくべきでしたねハハハ」

 笑い声と共に消えて行く三毛猫。

「かっこいい……怪○二十○相みたいな奴でしたね」
「何を言っているの? 早くここから連れ出しなさい」

 強気の七華だが、足はがくがくと震え、もつれて上手く歩けないほど精神的にダメージを受けている様だった。

「時間がかかりますね、こうしましょうか」

 ひょいっと砂緒は七華をお姫様だっこにすると歩き出した。七華の方が僅かに身長が高く、アンバランスなお姫様だっこだったが、超パワーで無いにしろ普通の怪力男よりかはまだ力の強い砂緒にとっては軽々と歩く事が出来た。

「こ、こら、やめなさい、降ろしなさい」
「降ろす? なんなら投げ捨てますよ!」
「なっ」

 この者ならやりかねないと思った七華は、それ以上は言わず黙り込んだ。ただ人生でこれまでにないほどの赤面になりかかっていると感じる程顔が熱いので、気付かれない様に砂緒とあらぬ方向に顔を向けた。
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