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II メドース・リガリァと北部海峡列国同盟

北部海峡列国同盟締結 8 魔ローダー、ル・ワンの特殊スキル瞬間移動(短)

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 サッワのエリミネーターに壊されかけた、最後の一機のメタリックブルーの魔ローダーSRVに操縦者が乗り込み、ゆっくりと立ち上がり始めた。そこに地上の兵士から伝令が入った。

「報告です! セレネ様が撃破した機とは別に、残り二機の魔ローダーが舞台周辺にまだいます!」
「お前は大量発生したゴーレムを攻撃してくれている魔戦車隊をサポートしろ! 舞台の魔ローダー達は私一人で倒す!!」
「ハッ!!」

 自分の腕に絶対の自信を持つセレネは締結の舞台に一機で走り、動き出した一般魔導士の乗るSRVは魔戦車隊を探した。

「アルベルト様、異常な数のゴーレムです。何故突然これ程のゴーレムが発生したのでしょうか?」
「分からない、けれど今は一匹でも多く倒すしか無い。絶対にフルエレ君達が居る場所に近寄らせてはいけない!」

 アルベルト達が乗る魔戦車が率いる三両の魔戦車隊は、じりじり接近してくる圧倒的多数のゴーレムを一体一体地味に倒しながらも、自分達もじりじり後退を始めていた。

「とにかく撃って撃って撃ちまくれ!!」

 アルベルト率いる魔戦車隊は物理弾をひたすら撃ちまくった。
 グシャッ!! バシャッ!!
そこに突然巨大な剣と巨大な足がゴーレムを蹴散らして行く。セレネに命令されて走って来たSRVだった。

「凄い!! これが魔ローダーの威力か」
「遅れて申し訳ありません! この面のゴーレムは私が全て引き受けます! 締結の舞台に魔ローダーが現れました! 要人が心配です。どうか避難の補助に行って下さい!」
「なんだって?? それはいけない、ありがとうすぐさま向かうよ!!」

 事前に同期していた魔法秘匿通信で舞台上の人々の危機を聞き、アルベルト達三両の魔戦車は急いでフルエレ達の元に向かった。

「全く私とした事が判断ミスでした。常に透明魔法でフルエレ様の近くにいるべきでした。フルエレ様がどうなっているか心配です……」

 逃げ惑う人々の波に巻き込まれ、舞台から少し離れた場所に居た、クレウと猫呼ねこことイェラが焦っていた。

「そんな事言ったって仕方ないでしょう、あの魔ローダー同士のバトルの土煙の中に飛び込むつもり?」
「かなりの数のゴーレムがいるらしいぞ、ここも危ないかもしれないな」

 そこに三両の魔戦車が走って来て通り過ぎる。無言で眺める三人。と、思いきや一両後進で戻って来た。パカリとキューポラが開く。

「やっぱりキミ達か? 僕達は今から舞台上のフルエレ君達を強行避難させる、どうするかね?」
「アルベルトさん! それ私達も行きます! ね?」
「行く行く絶対行くぞ」
「行きましょう!!」
「よし来た、上に乗ってくれ」

 三人は魔戦車の上に飛び乗ると、魔戦車はすぐさま動き出した。
 ドスンドスンドスン……

「なに? なに??」
「セレネだ、今からフルエレさんを救いに行く! イェラお姉さま達も気を付けて!」

 走り出した三人が便乗する魔戦車の上を、大股でセレネのSRVⅡルネッサが追い越していく。追い抜きざまにセレネは三人に気付き、外部スピーカーで一言叫んで行った。

「おおーーい! 頼むぞーーーー!!」

 イェラは大声で手を振った。


 ガシーーーン!! ガキーーーン!!
瑠璃ィるりぃ砂緒すなおが乗る魔ローダー蛇輪と、ココナツヒメが乗る魔ローダール・一ルワンが幾度となく激しく剣の打ち合いをする。その度に激しい火花が飛び散る。

「相手の透明、強いのですか瑠璃ィ?」
「む、なかなかの使い手やな、腕がいいわ。でも私よりは少し劣るやろ、いずれ勝てるわ」

 その瑠璃ィの言葉が偽りで無い事を証明する様に、瑠璃ィの激しい剣圧によって、次第にココナツヒメのル・一は追い詰められていく。

「凄いわ! あの魔ローダーに乗った、オバ、いえお姉さま、凄い人の様ね!」
 
 砂緒に無視された美魅ィみみいが目を見張った。

「瑠璃ィ様は凄く強い人なんですよ! あ、美魔女、もういいか……」
「瑠璃ィさん? ……あれ、砂緒と砂浜に居た時に絡んで来た??」
 
 メアの言葉を聞き、フルエレは戦闘を見上げながら思い出していた。

「そこまでだ! 大切な同盟の締結の舞台を台無しにしてくれた罪、絶対に許さん、死んで償わせる!!」

 そこに剣を構えたセレネのSRVが現れた。

「なんですの? 二機で一機を倒すなんて、卑怯な人々ですこと……」

 操縦席に乗るココナツヒメは、片腕をもがれて以降、動かなくなったデスペラード改をちらっと見た。自分達が魔ローダーで生身の人間を攻撃した直後だという事は棚に上げていた。

「どうするのです? 正々堂々と一機で倒すとセレネに伝えますか?」

 砂緒は瑠璃ィに聞いてみた。

「いんや、別に元々正々堂々とした試合でも何でもないんや、これ以上不測の事態を起こさない為にもさっさとカタ付けた方がいいやろ。二機でちゃっちゃっとやっつけたろか!」
「そういう合理的な考え好きです。出会いは最悪でしたが仲良くしましょう」
「え、最悪やったんか? 何が最悪やったん??」
(う、余計な事を言ってしまいましたか……)
「うおりゃああああああ!!」
 
 二人の会話など知る由も無く、セレネのSRVⅡルネッサがル・一に斬りかかる。

「よし、我々も仕掛けましょう!!」
「よっしゃ!! がってん承知の助!!」

 セレネに合わせて蛇輪もル・一に攻撃を始めた。二機の魔ローダーが斜め二方向から走って斬りかかる。
 スカッ!! ビュンッ!!

「あれ!?」
「どういう事!?」

 ほぼ挟み撃ちを実行した二機の剣は、寸前で空を切って空振りした。

「あらあら、二機で攻撃してながら、一体どこを斬ってらっしゃるの? ダサいですわね、おほほ」

 ココナツヒメは手首を顔に当て、魔ローダーでお嬢様の勝ち誇りポーズを取った。

「何故だ! もう一度!!」
「よっしゃウチらも行くで!!」

 再び二機が走って攻撃するが、やはり寸前でル・一は消えた。

「あらあら、貴方達では永遠に私に攻撃を当てる事は出来なさそうですわね、ではこちらから攻撃して差し上げましょうか?」

 ココナツヒメが言った直後、ル・一はシュッと消え、突然セレネのルネッサの後ろに現れると、背中を思い切り蹴った。

「ぐはっ!!」
「なんでや??」
「おほほほほほ。これが偉大なる王永嶋フィロソフィー様より受け継し私の魔ローダー、ル・一の特殊スキル、瞬間移動(短)ですわ。一日九十九回まで実行可能ですの」

 もちろんココナツヒメが操縦席で話している事は砂緒達は知らない。

「そらそらそら!!!」

 ココナツヒメは瞬間移動を繰り返して、弄ぶ様に二機を攻撃し始めた。

「痛っ! なんやねんこれはっ」
「何なんだ、何が起こっている??」

 セレネも砂緒も瑠璃ィも戸惑う。

「最初は優勢に戦っていたはずなのに、一体何が起こっているの??」
「砂緒さまがんばってくださいましっ!!」

 下から見上げるフルエレ達は逃げるタイミングを見失い、固唾を飲み戦闘を眺めていた。七華はとにかく必死に手を振った。

「瑠璃ィ、どうやら敵は瞬間移動出来る様です。闇雲に戦っても意味ないでしょう」
「瞬間移動やて?」
「はい、それで締結の舞台上空に突然現れた説明が付きます」
「なる程なーでも分かったからってどうにもならへんやんか~~」
「そうですが……」
「うがっ!! また蹴られた」

 後ろから蹴られて蛇輪は四つん這いになった。
 ドオオーーン!! ドドン!! ドドーーン!!
その時突然ココナツヒメのル・一の透明の装甲に魔法と物理弾が直撃し、小さな爆発が連続的に起こった。戻って来たアルベルトの率いる魔戦車隊が魔ローダーを攻撃開始したのだった。

「ふざけるのじゃないですわっ!! 魔戦車風情の攻撃など効く訳無いでしょうに!!」

 いままでの余裕の態度が消え、魔戦車に攻撃された事でココナツヒメがカッとなった。

「そこだっ!!」
 
 ガシッ!!
その隙を見逃さず、セレネが物凄い瞬発力で斬りかかった。寸での所で剣で防ぐル・一。

「私らもいくでっ!!」
「ちょっと待って下さい!!」
「はい?」
「あそこの魔戦車の上に乗っかってる、黒い服を着た、人相の悪い貧乏そうな悪人風の男を回収して、私の操縦席に入れて下さい??」
「はあ? なんやそれそれなんやそれ?」 
「いいから早くっ!!」

 砂緒が手を焼く人物も珍しいが、瑠璃ィは言われるまま、セレネとココナツヒメの戦闘を後目に、魔戦車に手を伸ばすと、黒い服の男を掴んだ。

「うわああ何だ? 味方だろう??」
「砂緒君これは一体??」
「きゃーーーーー一体何?」

 驚く魔戦車上のメンバーを無視して、クレウを回収した蛇輪は、ぽいっと砂緒が乗る下の座席に投げ入れた。幸運にもココナツヒメには見つからなかった様だ。

「何ですか砂緒殿! 私は貴方が嫌いです何でこんな密室で二人きりにならなければ行かぬのです?」
「私もお前が大嫌いだが良く聞け、お前のあの消えるスケベ魔法は、魔ローダーにはきくか?」
「スケベ魔法じゃない!! ききませんよ。こんな巨大な物には」
「そうかーでは私にかけてもらいたい。それで私があれに飛び移って攻撃する」
「……嫌ですね」
「はあ? こんな時に言い合いしてる場合か?」
「違います。私も一緒に透明になって張り付きます」
「好きにすれば良いでしょう。話聞きましたか瑠璃ィ? 我々は透明になれます。後は上手くあいつに私らを貼り付けて下さい」
「なんやそれ? 透明化?? ほんまかいな……」
「クレウ掛けて! 瑠璃ィ、下の操縦席を覗きに来て下さい!!」
「ほえ? どらどら……ほんまやっ! 消えとる……」
 
 瑠璃ィが下の操縦席を覗くと、声はすれども姿は見えずだった。

「よっしゃあ、なんとかしてあんたら二人をアレに貼り付けたろ、死になや!!」

 瑠璃ィはココナツヒメに一方的に攻撃を受けるセレネのルネッサを後目に、そっと下の操縦席を開け、掌をかざす。

「乗った? 本当に乗った??」
「乗りました! 潰さない様に握って下さい」
「うわ難しいやんそれ……」

 瑠璃ィは決して二人を潰さない様に二人を巨大な掌で包み込んだ。

「うはー、男二人さらに密着の地獄」
「砂緒殿、それを言わないで頂きたい。私の方こそ地獄ですから」

 そうした中、アルベルトの魔戦車はとうとうフルエレ達に合流した。

「フルエレ君無事かい? 皆も一緒だよ!!」
「あああ、アルベルトさん、不安で不安で!!」
「やっほー私もいるよー」

 猫呼が手を挙げた。

「やれやれ、砂緒もがんばっている事を忘れてはいけないな……」

 イェラは砂緒らが乗っているハズの蛇輪を見上げた。しかしその近くでは倒したはずのデスペラード改がぴくぴくと再び動き始めていた。
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