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III プレ女王国連合の成立
セレネと旅III ゴホウラ貝をもらっちゃった!
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「凄い……星が綺麗だよな……」
「そうですね~~~」
域外の帝国から分裂したクロス王国による、フォルモサ島国侵略を阻止する事に成功した砂緒とセレネと抱悶は、最西の島の人々とアイイから感謝の熱烈接待を受け続けていた。今はセレネと二人で館の庭で満点の星を眺めていた。
「こんなに毎日毎日遊んでご馳走を貰ってて良いのだろうか? あたしなんてぶくぶく太って来て困った」
「太って来たと言えば……遂にセレネが水着に着替えて泳いだ時に、妙なスイッチが入り、あたしを見てッッ!! とか突然口走って血の気が引いたのですが、あれは一体どういう心境なのです? しっかり確認しましたが、言う程お胸の方に脂肪は回らないも」
ガスッ
突然赤面したセレネが砂緒を蹴り倒した。
「逃げまくってる癖に、やっぱりしっかりそういうの見てんじゃん! そんなに興味あるなら逃げなきゃいいじゃん」
「……ち、違いますよ、あくまで戦闘のパートナーとして目視で身体検査してるだけですよ」
「その言い方も普通にエロくて変態だろ……」
砂緒は一瞬言い返せず黙った。
「……でもこれだけは信じて下さい、セレネが瀕死になった時本当に辛くて悲しくて、心の底から生き返って欲しいと思いました。フルエレ以外でそんな心配な気持ちになったの初めてなんです」
今度はセレネが黙った。しかし七華の身も心配になった事があるので、砂緒の言葉には微妙に嘘が混じっていた。
「……それ言うの反則だぞ」
なんとかそう言って、横に座る砂緒の手を優しく握って、うるうるした目でじっと見つめ始めた。
「ふぅーーーい、そろそろ抱悶ちゃんが活動開始し始める時間なので、遊んであげましょうか」
「あ、やっぱ逃げた! なんでだよ!!」
砂緒はそそくさと抱悶の部屋に歩いて行った。
「と、いう訳でそろそろ我々はこの島を出て本来の目的地である、北の無人地帯に出発しようと思うのです! これまでの歓待、痛み入りますぞアイイ殿」
砂緒とセレネは眠る抱悶を既にサイドカーに乗せ、アイイに別れを告げた。
「なんとなんともうお帰りになりますのかえ? わらわとしてはもっともっと、半年でも一年でも……一生でもここに居て、わらわを第二夫人にして欲しかったのじゃが……」
アイイは巨体に似合わぬ整った顔で悲しみの表情を浮かべた。
「ごほん、その様な訳にも行かぬのです。我々二人にはそれぞれの国の特命があるのです」
「そうなんですよー、という訳で第二夫人は無理です」
「そうじゃ、せめてもの別れの悲しみと感謝の印に、何かをそなたらに差し上げようぞ」
(来たーーーーーーーー!!)
砂緒は心の中で飛び上がりガッツポーズをした。
「して、何を頂けるのかな?」(珈琲豆ッ珈琲豆ッッ!!)
「期待顔で聞くなよおい」
「実は…………昔キィーナール群島の各島々と物々交換しておる時に大量にだぶついた、ゴホウラ貝という貝の貝殻があるのじゃが、あれを是非そなたらに腐る程大量に贈りたい!!」
「……貝殻?」
(うわ、地味……)
砂緒の顔から血の気が引いた。
「か、貝なぞ要らぬかえ? わ、わらわが選んだ品なぞ、やはりニナルティナの大都会の高貴な御人にはダサいのじゃな?? わらわは恥ずかしいぞえ、よよよよよよよよ」
アイイは顔を隠しさめざめと泣き始めた。
(自分でだぶついた品と言ってたじゃないかっ!)
「ああ、凄く嬉しいです!! なんと素晴らしいお土産でしょうか? さぞかし高額で捌ける物と思います。私は一躍ビッグビジネスチャンスを掴みましたぞアイイ殿!!」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
(嗚呼、紀伊國屋文左衛門の蜜柑伝説の様な、私のサクセスストーリーよ、さようなら)
砂緒は期待していた珈琲豆売買が上手く行かずがっかりしたが、一転アイイは笑顔になった。
「ではただでその様な素晴らしき品を受け取る訳には行きませぬ。商売人としてこれをアイイ殿に授けようぞ!」
「お前商売人だったか? そんな話し方だったか?」
砂緒はそう言って、突然高額そうな宝石が煌めくペンダントをアイイに渡した。
「こ、これをわらわに……!?」
「ええ、このペンダントは私とアイイ殿との友情と感謝の証、大事にして下され!」
(ゲッ)
その瞬間、アイイは涙ぐみ、セレネは氷の様な冷たい顔になってむすっとした。
村を出て離れてもずっとずっと村人とアイイ達は手を振り続けた。
「うーーむ、アイ村の人々とアイイ殿、最初の第一印象と違って、凄く良い人達ばかりでした。私も軽くウ〇ル〇滞〇記状態ですよ!」
「…………」
セレネは魔輪を運転しながら激しくむすっとしていた。
「どうしたんでしょう? 何か悪い事したでしょうか??」
「……判れよ」
「あのー?」
「これ返すわ!」
運転中のセレネがいきなり片方のイヤリングを突き返そうとする。
「あの……何故?」
「はぁ? 何故?? お前誰でもあんな風にぽっぽっとあげてるのかよ? それに感謝と友情の印ってあたしに言ったセリフとほぼ同じじゃん。それにあたしのイヤリングと同じシリーズの物だろ?」
「ギックッッ」
「はーい? 何か言えよ、これ海に投げてやる!」
「止めて下さいそれ凄く高い物なんですよ。全然意味合いが違います。アイイ殿は宿泊施設の優しい女将さん的な感謝で、セレネは生涯のパートナーになって欲しいな的な感じです」
「それはそれでアイイ殿に失礼だな」
「……難しいですね。これ正解あるんですか?」
それからしばらくセレネの機嫌は悪かった。
サイドカー魔輪とゴホウラ貝の袋をコンテナに搭載すると、すぐに魔ローダー蛇輪は飛び立った。楽しかった、透明度の高い美しい南の海に浮かぶ最西の島が、みるみる小さくなって行く。
「ごほん、そろそろ抱悶ちゃんが邪魔になって来たのでお家に帰してあげましょうか?」
「……」
「んーーなんというか、そろそろ出発した最初の頃みたいに、セレネと二人きりになりたいなって思うのです……」
「ふぅーーーん」
別々の操縦席に居るが、魔法モニターを見ると、むすっとしていたセレネの顔が少し綻んだ。
(ククククク、もう少しですね)
「本当は……セレネの水着姿を目撃した時に、可愛すぎてどきどきしてしまって、上手く話せなかった程なんです……それで抱悶ちゃんに逃げてしまって……」
「そ、そうなのかよ……」
セレネは必死に怒り顔を保とうとしているが、完全に笑顔が誤魔化せない。
「そ、そうだなそろそろ抱悶ちゃんの家の執事達も心配してるだろうな」
という訳で抱悶を家に帰す事にした。
「でもどうやって帰すんだよ? 仮に抱悶ちゃんが本当にまおうだったら帰さず退治するべきなんじゃ?」
「こんな可愛い抱悶ちゃんを退治するとかセレネは鬼ですか? 私は許しませんよ……」
「えらい気に入り様だな」
砂緒は膝の上ですやすや眠る抱悶のさらさらの髪を撫ぜた。
「……しかし北部海峡列国同盟締結時のテロみたいな事もあるので、もし抱悶ちゃんがまおう軍の一員だとすれば、普通に家にお邪魔したら騒ぎになるでしょう……という訳で大火山ファイアバードに降ろすというのはどうでしょう?」
「騙すのかよ……」
しばらく北に向かって飛行した後、セブンリーフ上空に達すると、砂緒は抱悶の少し赤いかわいいほっぺをパンパン叩いた。
「乱暴だなおい、女の子だぞ」
「こら、起きるのです抱悶!!」
「なんじゃなんじゃ、儂はまだ眠いのじゃ……」
「抱悶ちゃん、そろそろ大火山ファイアバードなのですが、観光案内してくれますか?」
「おお、ファイアバードか! 余もあそこは大好きなのじゃ! よし砂緒を遊びに連れてってやるのじゃ!」
(クククククしめしめ)
セブンリーフ大陸中央に存在する、大火山ファイアバードの巨大な輪郭に近付くと、まだ煙をもくもくと上げる火口を避け、ファイアバードの境に接する様な村々の入り口の、絶妙な場所にセレネは蛇輪を着地させた。
「ふぅ~~~抱悶ちゃん、我々は少し疲れたので、村で何か飲み物を入手してくれませんか? はい、これはお金です」
砂緒はお金を渡そうとするが、抱悶に突き返される。
「無礼な! 余は炎の国のまおう抱悶様なるぞ! 儂が行けば誰でも無言で貢よるわ!」
「ははーっそれはご無礼つかまつりまして御座いまする」
砂緒は土下座した。
「よいよい、分かれば良いのじゃ、砂緒は愛いヤツじゃきゃはははははは」
そう言うと抱悶はくるりと踵を返して、黒い可愛いミニスカを揺らしながら、上機嫌でスキップして行った。
「可愛いですね抱悶ちゃん……あんな子供が欲しいですね、セレネ?」
「そ、そそそそ、そうだな、いや変な事言うなよ!」
「しかし、可哀そうですが急ぎましょう……」
「だな」
二人は後ろ髪引かれる思いで蛇輪に飛び乗り急いで飛び立った……
「砂緒~~~名物の火山サイダー貰って来たぞ!! 飲むのじゃ!!」
笑顔で戻って来た抱悶だが既に二人の影も蛇輪も無く、誰も居なかった……
「あれ……砂緒? どこじゃ……砂緒……置いてかれた? うわーーーーーーーー!!! 砂緒のバカーーーーーー!!!」
抱悶は大声で泣き始めた。
―ココナツヒメ領、ココナツヒメ館、魔法レーダー室。
ピーーーーー!!!
「ココナツヒメ様、魔法レーダーに感有り! 領内をかすめ超高速でファイアバードから離れる物体が有ります! 大きさは魔ローダー程度ですが、速度が異常です!! 飛行しているとしか……」
「なんだって飛行!? メッキ野郎かい?」
ぼーっとしていたココナツヒメは突然の報告に驚く。
「あ、魔法レーダー索敵範囲を出ました!! 正体は不明のままです!!」
今度は別の魔導士オペレーターの美少女が、髪を振り乱し椅子ごと振り返る。
「ココナツヒメ様! 第千七百七番魔法カメラに、泣く抱悶様の映像がっ! 凄く可哀そうです!!」
「なんだって!? 抱悶さまが?? 何故ファイアバードに?? 直ぐに回収部隊を、いやル・ワンで私が行く!!」
格納庫に急ぎ走るココナツヒメ。すぐさま抱悶は回収されたが、何故ここで泣いているのか、まおう抱悶はプライドが許さないのか、結局ココナツヒメには明かさなかった。
(砂緒……また会いたいのじゃ……会ってとっちめてやるのじゃ……)
「そうですね~~~」
域外の帝国から分裂したクロス王国による、フォルモサ島国侵略を阻止する事に成功した砂緒とセレネと抱悶は、最西の島の人々とアイイから感謝の熱烈接待を受け続けていた。今はセレネと二人で館の庭で満点の星を眺めていた。
「こんなに毎日毎日遊んでご馳走を貰ってて良いのだろうか? あたしなんてぶくぶく太って来て困った」
「太って来たと言えば……遂にセレネが水着に着替えて泳いだ時に、妙なスイッチが入り、あたしを見てッッ!! とか突然口走って血の気が引いたのですが、あれは一体どういう心境なのです? しっかり確認しましたが、言う程お胸の方に脂肪は回らないも」
ガスッ
突然赤面したセレネが砂緒を蹴り倒した。
「逃げまくってる癖に、やっぱりしっかりそういうの見てんじゃん! そんなに興味あるなら逃げなきゃいいじゃん」
「……ち、違いますよ、あくまで戦闘のパートナーとして目視で身体検査してるだけですよ」
「その言い方も普通にエロくて変態だろ……」
砂緒は一瞬言い返せず黙った。
「……でもこれだけは信じて下さい、セレネが瀕死になった時本当に辛くて悲しくて、心の底から生き返って欲しいと思いました。フルエレ以外でそんな心配な気持ちになったの初めてなんです」
今度はセレネが黙った。しかし七華の身も心配になった事があるので、砂緒の言葉には微妙に嘘が混じっていた。
「……それ言うの反則だぞ」
なんとかそう言って、横に座る砂緒の手を優しく握って、うるうるした目でじっと見つめ始めた。
「ふぅーーーい、そろそろ抱悶ちゃんが活動開始し始める時間なので、遊んであげましょうか」
「あ、やっぱ逃げた! なんでだよ!!」
砂緒はそそくさと抱悶の部屋に歩いて行った。
「と、いう訳でそろそろ我々はこの島を出て本来の目的地である、北の無人地帯に出発しようと思うのです! これまでの歓待、痛み入りますぞアイイ殿」
砂緒とセレネは眠る抱悶を既にサイドカーに乗せ、アイイに別れを告げた。
「なんとなんともうお帰りになりますのかえ? わらわとしてはもっともっと、半年でも一年でも……一生でもここに居て、わらわを第二夫人にして欲しかったのじゃが……」
アイイは巨体に似合わぬ整った顔で悲しみの表情を浮かべた。
「ごほん、その様な訳にも行かぬのです。我々二人にはそれぞれの国の特命があるのです」
「そうなんですよー、という訳で第二夫人は無理です」
「そうじゃ、せめてもの別れの悲しみと感謝の印に、何かをそなたらに差し上げようぞ」
(来たーーーーーーーー!!)
砂緒は心の中で飛び上がりガッツポーズをした。
「して、何を頂けるのかな?」(珈琲豆ッ珈琲豆ッッ!!)
「期待顔で聞くなよおい」
「実は…………昔キィーナール群島の各島々と物々交換しておる時に大量にだぶついた、ゴホウラ貝という貝の貝殻があるのじゃが、あれを是非そなたらに腐る程大量に贈りたい!!」
「……貝殻?」
(うわ、地味……)
砂緒の顔から血の気が引いた。
「か、貝なぞ要らぬかえ? わ、わらわが選んだ品なぞ、やはりニナルティナの大都会の高貴な御人にはダサいのじゃな?? わらわは恥ずかしいぞえ、よよよよよよよよ」
アイイは顔を隠しさめざめと泣き始めた。
(自分でだぶついた品と言ってたじゃないかっ!)
「ああ、凄く嬉しいです!! なんと素晴らしいお土産でしょうか? さぞかし高額で捌ける物と思います。私は一躍ビッグビジネスチャンスを掴みましたぞアイイ殿!!」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
(嗚呼、紀伊國屋文左衛門の蜜柑伝説の様な、私のサクセスストーリーよ、さようなら)
砂緒は期待していた珈琲豆売買が上手く行かずがっかりしたが、一転アイイは笑顔になった。
「ではただでその様な素晴らしき品を受け取る訳には行きませぬ。商売人としてこれをアイイ殿に授けようぞ!」
「お前商売人だったか? そんな話し方だったか?」
砂緒はそう言って、突然高額そうな宝石が煌めくペンダントをアイイに渡した。
「こ、これをわらわに……!?」
「ええ、このペンダントは私とアイイ殿との友情と感謝の証、大事にして下され!」
(ゲッ)
その瞬間、アイイは涙ぐみ、セレネは氷の様な冷たい顔になってむすっとした。
村を出て離れてもずっとずっと村人とアイイ達は手を振り続けた。
「うーーむ、アイ村の人々とアイイ殿、最初の第一印象と違って、凄く良い人達ばかりでした。私も軽くウ〇ル〇滞〇記状態ですよ!」
「…………」
セレネは魔輪を運転しながら激しくむすっとしていた。
「どうしたんでしょう? 何か悪い事したでしょうか??」
「……判れよ」
「あのー?」
「これ返すわ!」
運転中のセレネがいきなり片方のイヤリングを突き返そうとする。
「あの……何故?」
「はぁ? 何故?? お前誰でもあんな風にぽっぽっとあげてるのかよ? それに感謝と友情の印ってあたしに言ったセリフとほぼ同じじゃん。それにあたしのイヤリングと同じシリーズの物だろ?」
「ギックッッ」
「はーい? 何か言えよ、これ海に投げてやる!」
「止めて下さいそれ凄く高い物なんですよ。全然意味合いが違います。アイイ殿は宿泊施設の優しい女将さん的な感謝で、セレネは生涯のパートナーになって欲しいな的な感じです」
「それはそれでアイイ殿に失礼だな」
「……難しいですね。これ正解あるんですか?」
それからしばらくセレネの機嫌は悪かった。
サイドカー魔輪とゴホウラ貝の袋をコンテナに搭載すると、すぐに魔ローダー蛇輪は飛び立った。楽しかった、透明度の高い美しい南の海に浮かぶ最西の島が、みるみる小さくなって行く。
「ごほん、そろそろ抱悶ちゃんが邪魔になって来たのでお家に帰してあげましょうか?」
「……」
「んーーなんというか、そろそろ出発した最初の頃みたいに、セレネと二人きりになりたいなって思うのです……」
「ふぅーーーん」
別々の操縦席に居るが、魔法モニターを見ると、むすっとしていたセレネの顔が少し綻んだ。
(ククククク、もう少しですね)
「本当は……セレネの水着姿を目撃した時に、可愛すぎてどきどきしてしまって、上手く話せなかった程なんです……それで抱悶ちゃんに逃げてしまって……」
「そ、そうなのかよ……」
セレネは必死に怒り顔を保とうとしているが、完全に笑顔が誤魔化せない。
「そ、そうだなそろそろ抱悶ちゃんの家の執事達も心配してるだろうな」
という訳で抱悶を家に帰す事にした。
「でもどうやって帰すんだよ? 仮に抱悶ちゃんが本当にまおうだったら帰さず退治するべきなんじゃ?」
「こんな可愛い抱悶ちゃんを退治するとかセレネは鬼ですか? 私は許しませんよ……」
「えらい気に入り様だな」
砂緒は膝の上ですやすや眠る抱悶のさらさらの髪を撫ぜた。
「……しかし北部海峡列国同盟締結時のテロみたいな事もあるので、もし抱悶ちゃんがまおう軍の一員だとすれば、普通に家にお邪魔したら騒ぎになるでしょう……という訳で大火山ファイアバードに降ろすというのはどうでしょう?」
「騙すのかよ……」
しばらく北に向かって飛行した後、セブンリーフ上空に達すると、砂緒は抱悶の少し赤いかわいいほっぺをパンパン叩いた。
「乱暴だなおい、女の子だぞ」
「こら、起きるのです抱悶!!」
「なんじゃなんじゃ、儂はまだ眠いのじゃ……」
「抱悶ちゃん、そろそろ大火山ファイアバードなのですが、観光案内してくれますか?」
「おお、ファイアバードか! 余もあそこは大好きなのじゃ! よし砂緒を遊びに連れてってやるのじゃ!」
(クククククしめしめ)
セブンリーフ大陸中央に存在する、大火山ファイアバードの巨大な輪郭に近付くと、まだ煙をもくもくと上げる火口を避け、ファイアバードの境に接する様な村々の入り口の、絶妙な場所にセレネは蛇輪を着地させた。
「ふぅ~~~抱悶ちゃん、我々は少し疲れたので、村で何か飲み物を入手してくれませんか? はい、これはお金です」
砂緒はお金を渡そうとするが、抱悶に突き返される。
「無礼な! 余は炎の国のまおう抱悶様なるぞ! 儂が行けば誰でも無言で貢よるわ!」
「ははーっそれはご無礼つかまつりまして御座いまする」
砂緒は土下座した。
「よいよい、分かれば良いのじゃ、砂緒は愛いヤツじゃきゃはははははは」
そう言うと抱悶はくるりと踵を返して、黒い可愛いミニスカを揺らしながら、上機嫌でスキップして行った。
「可愛いですね抱悶ちゃん……あんな子供が欲しいですね、セレネ?」
「そ、そそそそ、そうだな、いや変な事言うなよ!」
「しかし、可哀そうですが急ぎましょう……」
「だな」
二人は後ろ髪引かれる思いで蛇輪に飛び乗り急いで飛び立った……
「砂緒~~~名物の火山サイダー貰って来たぞ!! 飲むのじゃ!!」
笑顔で戻って来た抱悶だが既に二人の影も蛇輪も無く、誰も居なかった……
「あれ……砂緒? どこじゃ……砂緒……置いてかれた? うわーーーーーーーー!!! 砂緒のバカーーーーーー!!!」
抱悶は大声で泣き始めた。
―ココナツヒメ領、ココナツヒメ館、魔法レーダー室。
ピーーーーー!!!
「ココナツヒメ様、魔法レーダーに感有り! 領内をかすめ超高速でファイアバードから離れる物体が有ります! 大きさは魔ローダー程度ですが、速度が異常です!! 飛行しているとしか……」
「なんだって飛行!? メッキ野郎かい?」
ぼーっとしていたココナツヒメは突然の報告に驚く。
「あ、魔法レーダー索敵範囲を出ました!! 正体は不明のままです!!」
今度は別の魔導士オペレーターの美少女が、髪を振り乱し椅子ごと振り返る。
「ココナツヒメ様! 第千七百七番魔法カメラに、泣く抱悶様の映像がっ! 凄く可哀そうです!!」
「なんだって!? 抱悶さまが?? 何故ファイアバードに?? 直ぐに回収部隊を、いやル・ワンで私が行く!!」
格納庫に急ぎ走るココナツヒメ。すぐさま抱悶は回収されたが、何故ここで泣いているのか、まおう抱悶はプライドが許さないのか、結局ココナツヒメには明かさなかった。
(砂緒……また会いたいのじゃ……会ってとっちめてやるのじゃ……)
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