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III プレ女王国連合の成立

渡河作戦! Y子到着、余計に混乱悪化する事態……

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「出来ればそのイヤリングはセレネが一生大事に持っていて欲しいのです……」

 砂緒は少し伏目がちにぼそっと言った。

「えっ……それって……つまり?」
(ちょっとちょっと、戦闘中だよ?)

 少し溜めて砂緒は応えた。

「それ凄く高かったんですよ! なんと言っても物を大事にする事が大切なんです。だから王族生まれのセレネにもぽいぽい物を捨てるでは無くて、しっかり物を大切にする事を知って欲しいのですよ!」
「……それだけ?」
「それだけですよー他に、何が?」

 砂緒は可愛く首を傾げながら満面の笑顔で言った。
 ポカッ
いきなりセレネは砂緒の頭を殴った。

「あうっ、何をするのですか?」
「紛らわしい言い方するなよ」
「何がですか? よく聞いて下さい、むかし昔ある所に靴がぼろぼろになって破れてしまった少年が居たんです。その少年は早速その靴を捨てようとすると、その母は勿体無いと言ってその靴を糸で縫って修理したのですよ……所が! なんと言う事でしょう、その美しき母は人間を剥製にするという恐ろしい機械の貴族に射殺されてしまったのです……なんという悲劇!」
「何い!? にんげんをはくせいに?? なんて奴許せんっその魔機械の貴族とやらあたしが成敗してくれるわっ!!」

 等と言いつつスピネルの言葉は完全に無視された。スピネルはリラックスして二人を見つめた。

(ふむ……まあ良いもう少し放置してみよう)

「……所で何の話してたんだっけ?」
「あー二人のラヴラヴトークでしたっけ?」
「いや……なんか敵の男が砂緒の知ってる奴に似てて、そいつが何か言って来た? あー」

 セレネはポンと手を打った。

『あーあー、すまんすまん、敵の男よ何を言っていたのだ? 聞いていなかった』

『わがメドース・リガリァ女王アンジェ玻璃音はりね陛下は平和を尊び……貴軍にはこれを人道上の観点から見過ごしてもらいたい!!』

 スピネルは文句も言わずきっちり全文再び言い直した。

「なる程一理ある! あのバカ王女の全責任ですね」
「あーーーそんな事かあ? あ、じゃああたしが返答するわ」

 そう言うとセレネは再び魔法外部スピーカーをオンにした。

『あーあーそれでは返答する。んな事知るか! 今から貴様を倒し、船への攻撃を開始する。それが嫌ならば今すぐ武器を全て放棄して投降せよ!!』

 セレネは無表情のままいつもの居丈高な口ぶりで言い切った。横で砂緒は無言のまま微妙な顔でセレネを見つめた。

「何か言いたいのか?」
「い、いええ。所で最近セレネさん眼鏡掛けていませんね、視力とか大丈夫なんですか? あの眼鏡掛けた姿も可愛くて好きなんですけどね」
「そ、そう? あたしとしては割とコンプレックスなんだけどな。でも魔力で視力矯正出来るから……じゃない! また引き延ばそうとしただろ!! その手には乗らんぞ。砂緒はどっちの味方なんだよ」

 その言葉を聞いて砂緒は手をわしっと掴む獣のポーズにしてセレネに迫った。

「なんだよソレ……」
「もう最後の手段です……セレネの低い乳を揉みます。これだけはやりたく無かった……」
「おおーーやってみいや、揉んでみいや」

 セレネは言いながら低い胸を突き出した。等と言いながら結局さらに砂緒の引き延ばし工作に引っ掛かってしまうセレネだった。

(……致し方無い……ここまで来たら本当に揉んでしまうしか無い! 果たしてセレネにどの様な化学変化が起きてしまうのでしょう……)

「はぁはぁ……ごくり」
「ど、どうした? 逃げも隠れもせんぞ……」

 両手を獣のポーズのまま固まる砂緒と低い胸を突き出したセレネ、剣の達人同士の決闘の様に、蛇輪の操縦席内には緊張が走っていた。

(何なのだこれは)

 その様子を無言で見つめるスピネル。その瞬間、三者は周囲の喧騒から隔絶した空間に居た。

「だめぇえええええええええええええええええ」

 ドカーーーーン!!!

「あうーーーーーーー」
「ぎゃーーーーーーー」

 その時突然南から猛スピードで走って来たY子の魔ローダー黒い稲妻Ⅱが蛇輪に思い切りタックルして、蛇輪はそのまま横から七葉後川にドボンと落ち、開いたハッチから少し水が入る。当然高い水しぶきが上がり大波が起きて近くに居た数隻の小船が激しく揺られ沈みそうになる。スピネルはあっけに取られて呆然と見ている。

「あっ」
「いやっ」

 転げ落ちて川に半身が沈みザーッと水が流れ込む蛇輪の操縦席では、落ちた拍子に砂緒の両手は偶然セレネの低い胸をがっしりと掴んでいた……

「あ、すすすすすすす、すいません。本当にはする気は無かったんです」

 ぱっと手を離した砂緒が頬を赤らめて必死に謝った。

「別に謝らなくていーわ。二回目だろ、今回もちゃんと胸あっただろーが」
「……は、はい確かに。すいません……でも少し膨らんだかも!?」
「……バカ」

 セレネは一瞬目を閉じると少し頬を赤らめたが、すぐに操縦桿を握り直して蛇輪の体勢を立て直す。途端に操縦席の後部に開いた排出口からシュゴーッと水が排出されて行く。

「と、そんな事は良いんだ」
『Y子殿何をするか! 今のは軍法会議物だぞ! それに今の大波で船が沈み掛けたぞ!!』
『知らないわよ!! 貴方こそただ避難する兵士達を踏もうとしてたじゃないか!』
『ハァ? どんな目をしている?? 今敵軍の士官と交渉していた所だ!!』
(あわわわわわわわわ)

 砂緒は大好きなフルエレの意を受けたY子の到着を待っていたが、Y子が想像以上に滅茶苦茶な人物だと分かって頭を抱えた。

『嘘付くな! 血走った目で今にも踏み潰そうとしていた!!』
『本当にどんな目をしている? ていうか今来たばかりで見て無いだろ!!』
『見て無くてもわかるっセレネ殿はグルメタウンを灰燼に帰したではないかっ!』
『ハァ? どんな幻みてるんだよ! 誰が焼くか!』

 Y子は酷い偏見でセレネを見ていた……

「何だあれは……敵機か? 魔ローダーがもう一機増えたぞ」
「いや、でも何か川に突き落としてないか??」
「内輪揉めか? それとも我が軍の機体か??」
「此処に居て大丈夫なのか?」
「俺達は何時船に乗れるんだ?」

 Y子の魔ローダー黒い稲妻Ⅱの登場は船に乗る順番を待っていた兵士達に大きな動揺を与えた。帰還する兵士達を無事に見逃したいというY子の中の雪乃フルエレ同盟女王の想いは完全に裏目に出てしまっていた。

『皆の者動揺するな! 引き続き渡河作業を続けるのだ! 皆が渡り切るまでは私が絶対にこの場を守る!!』
(あのル・ツーに乗っているのは、声色を低く装ってはいるが雪乃フルエレか? 穏健派の彼女なら必ず此処の兵士達を見逃すはず……)

 スピネルは冷静に状況を判断していた。

『そこの黒い騎士殿、今しがた交渉していた所だ、わが女王は和平をお望みだ、その証にこの兵士達は戦わずただ逃げ帰るだけ、これを見逃して頂きたい!』

 スピネルは早速Y子に語り掛けた。

(あれ……スピナさん?)

 Y子こと雪乃フルエレもデスペラード改のハッチを開けて訴える男スピネルの姿を一目見てスピナに似ているというか本人だと思った。しかし当然その事は聞く事が出来ない。

『私は女王陛下の名代、こうした場面を穏便に済ませる様に特命を受けて来た』
(ふふ、やはり)

 スピネルは渡河作戦の成功を確信した。

『黙れ! Y子殿、この場の指揮官はこの私総司令官のセレネである! 貴官は黙っていて頂こう』

 デスペラードに語り掛けようとした黒い稲妻Ⅱの前に蛇輪が立ちはだかった。

『はあ? 貴方こそだまらっしゃい! 女王様の名代を何と心得るか!!』
(だまらっしゃい、心得るか? Y子殿は黄門さまか??)

 砂緒はセレネとY子の言い合いを冷や汗を流し固唾を飲んで見守った。
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