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Ⅳ セブンリーフ新北中同盟女王選定会議

猫弐矢と貴城乃シューネ 下 返し矢

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 しばらくして、黄金色のド派手なプレートアーマーをそのまま二十五Nメートルに巨大化した様な魔ローダーが片膝を付き、中から貴城乃シューネが降りて来た。同じ様にピンク色の魔呂からは夜叛モズが降りて来た。

「なんですかあの人、怪し気な鳥の仮面を付けてますが……あからさまに不審者ですよ」
「しっあの方は夜叛やはんモズ様だ、あれでかなりの高位の御方だから失礼の無い様に」
「しかし……お話しには聞いてましたが、貴城乃シューネ様、本当に砂緒さんに似てますね」
「うん、実は僕も数回式典とかですれ違う程度で、顔をまじまじと見た事は無かったんだけど、本当に似ているね。でも年齢は少し上に見えるけど」

 クラウディア元王国の代表猫弐矢ねこにゃと秘書の伽耶の会話の通り、夜叛モズは怪しげな鳥の仮面を装着し、貴城乃シューネは十五歳の砂緒を二十代前半の青年に成長させた様なそっくりというか同じ顔をした人物だった。この二人は共に未知の東の地の神聖連邦聖帝や姫乃殿下と拝謁する事が可能な大幹部だった。この二人がわざわざ揃って地方に巡察に来たのだった。

「うむ、出迎えご苦労だな、君が猫弐矢殿かよろしく頼むぞ」

 貴城乃シューネは頭を下げる事無く、片手をぴっと上げたが、猫弐矢や伽耶らクラウディア一同は一斉に深々と頭を下げた。

「貴城乃シューネさま、夜叛モズさまにはこの様な辺境の地に視察の段ご苦労さまで御座います。どうかゆるりとお過ごし下さい」
「よろしく頼むよ」
「うむ」

 猫弐矢は顔色一つ変えず、二人を出迎えた。

「どうだね、君達辺境の者達はあんな巨大な魔ローダーなんて見た事ないであろう?」

 夜叛モズは二機の魔ローダーを指さして自慢した。

「い、いえ恐れながら魔ローダーなら我が国にも以前旗機のル・ツー漆黒ノ珠という立派な機体がありましたが……」
「ほほう、ル・ツー漆黒ノ珠とな? ではお見せ頂こうか」

 夜叛モズがニヤリと笑った。

「それが今は行方不明なのです……お恥ずかしい」
「兄と共にですかな? フフ」
「は、はあ」

 猫弐矢はこの連中はどこまで知っているのだろうかと冷や汗を掻いた。


「新しい神殿がなかなか完成しない物でして、古臭い所で申し訳ないのですがどうぞごゆっくりして下さい」

 猫弐矢は神聖連邦帝国からのお客人に対してさらりと嫌味を交えながら旧宮殿に案内した。宴会場には山海の珍味や酒が並んでいる。

「いやいや我らは遊びに来た訳では無いし、此処に聖都以上の物があるとも期待していないのでご安心を」

 夜叛モズが子供の様に嫌味で返した。

「神殿と言えば、我ら神聖連邦帝国を構成する一派の中でも中心の大陸の東の奥地からやって来た者達は、深い森の中で天にも届く様な高い木を神として崇めて来た。我ら神聖連邦が友好の証にこのクラウディアに進呈して建造する新たな大神殿は、その天にも届く高い木の信仰に倣って高い塔の神殿と致そうと思っております。期待して待って頂きたい」

 逆に貴城乃シューネは自慢で返した。砂緒達主人公連中のセブンリーフ島住人が自分達の島を大陸と呼ぶ様に、未知の東の地の人々も自分達の島を中心の大陸と呼んでいて、ややこしい事にその東の深い森の地をさらに東の地と呼んでいた……誰も彼も自分達の住む地を世界の中心と思いがちという事だったが、さらに西の域外の帝国からはまとめて東の島国と呼ばれていた。

「ははぁ、天にも届く木に倣った高い塔の神殿ですか? 我らクラウディア人は古くから海のカミや稲妻、ヌ様などを信仰して来ましたが、それをいきなり宗旨替えしろと言われ、戸惑う事は全く無く嬉しくて涙がちょちょぎれております。それにしてもはて何時になったら完成します事やら。僕はいつも何も無い建設予定地で本を読むのがはかどっております」

 いつも朗らかに静かに本を読んでいるのが好きな猫弐矢もあまりにもつまらないやり取りに切れ掛けて来て、横にいる伽耶が冷や汗を掻く。

「そう……ヌとは、山よりも巨大で陸を引っ張りまくったという伝説の神の魔ローダーだとか」
「ハハハ、そんな物が実在する訳は無い、只の伝説にござろうハハハ」
「ナヌッ?」

 ブチッ
 猫弐矢がとても熱烈に信奉している超超巨大魔ローダー・ヌの事を侮辱されて、彼がブチ切れる音がした気がして伽耶は焦りに焦った。

(な、なんとか話題を転換しなくっちゃ!!)
「そうだっ猫弐矢さまはとても線が細い美形の優男に見えますが、実はこう見えてもとても弓矢の名手なのですよ!」
「ハハハ、線が細い美形の優男ですかな、こりゃいいですなっ」

 夜叛モズが腹を抱えて笑った。

「……ええ、行方不明の兄の様に荒事は苦手なのですが、せめて弓矢くらいは上手くなろうと練習しました……」

 ちょっとムッとした猫弐矢が構わずに、伽耶の気持ちを汲んで正気に戻って続けた。

「猫弐矢殿、その弓矢決して神聖連邦帝国に向けては射ぬ様にな、もし神聖連邦帝国に向けて矢を射たならば、その矢はくるりと反転して其方の心臓に命中するであろう」

 突然貴城乃シューネは真顔で訳の分からない事を言った。

「……シューネさま、結構ファンタジックな事を言うタイプの御方だったのですね、そんな風に見えなくて驚きました」
「いやいや、君が本が好きだとか言うので、そういうおとぎ話的な感じが好きなのだろうと言ってみたまで」
「なるほど、はははははははは」
「うむ、ハハハハハハハハハ」

(疲れる会話……)

 近距離で真顔で見つめ合って笑い合う猫弐矢と貴城乃シューネの間で伽耶は冷や汗を掻き続けた。

「そうそう打ち解けた所で良いかな?」
「はい?」
「猫弐矢殿は私にそっくりな顔をした十五歳くらいの少年の事を知らないかな?」

 ブフーーーッッ!!
 突然の貴城乃シューネの問いに、伽耶は今飲んだばかりの牛乳を吹いた。
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