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Ⅴ 千岐大蛇(チマタノカガチ)

カガチ後① いきなり再会

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 全速力で飛び続けた、鳥型形態かつ背中にル・ツー漆黒ノ天を乗せ、両足に猫弐矢ねこにゃ貴城乃たかぎのシューネらが乗る内魔艇を抱えた蛇輪へびりんは、凄まじい速さでクラウディア王国に到達した。

『よし、言ってた西の浜に船を投下してしまおう!』

 下の操縦席からセレネが、上の操縦席の雪乃フルエレ女王に提案した。

『ダメよ投下なんて……そっと置かなきゃ!』
『一刻も早く仮宮殿に向かわないとダメなんじゃないのですか』
『でも、確か千岐大蛇チマタノカガチとかって夜にならないと活動しないんでしょ?』
『もういいでしょ! 早くしないと西の浜通り過ぎますよ! 地面に船を突き刺す気ですか??』

 確かにグングンと進む蛇輪の飛ぶ上空からは、西の浜がみるみる近付いて来た。

『仕方ないわね、えぃっ!』

 フルエレは蛇輪を急降下させると、魚雷でも投下する様にぽちゃっと海面に内魔艇を置いた。しかし基本のスピードが速いので、猛烈な勢いで海面に叩き付けられた内魔艇の中は、転覆する様な揺れに見舞われた。

「うわ~~いきなり着水させられたぁ!?」
「あの女王! なんて乱暴なっ航海士なんとか体勢を立て直せ! 沈めるなよっ」

 猫弐矢とシューネは揺れる船内で壁や椅子に必死に手足を突っ張って耐えた……その上空を蛇輪達はすっ飛んで行ったのだった。


 ―クラウディア王国西側中央、仮宮殿。

『よしあれが仮宮殿だな、フルエレさん静かに降り立って下さい。メランさんもガシャガシャ言わせないでそっと降りて下さい!』
『あら、セレネって割と常識人だったのね』

 メランが意外、という顔で言ったのでセレネはムッとした。

『あたしをどんな風に見てるんですかっ』
『でもセレネの言う通りね、みんなでそっとお城に入りましょう!』
『……門番とか居ないんですか? 猫弐矢さんとか待たなくていいんでしょうかね』

 しかしそれは杞憂であった。そっと降り立ったつもりであったが仮宮殿から溢れ返る避難民の人々には丸見えで、それでも巨大なチマタノカガチに追われる人々には新たに魔ローダーが飛んで来ようが、あっ新たな増援か? くらいにしか興味を引く物では無かった。しかも特に門番も居ないというか、判別出来ないくらい混乱中の人で溢れ返った仮宮殿には難なく中に入る事が出来た。

「ザルだないいんか? 国の中心の政庁だろうに」
「それくらい大変だっていう事でしょ。戦える人達は昼夜逆転で今は皆寝てるのよ」
「でもまさか中枢的な部分には入れないんじゃないの~~?」

 雪乃フルエレ女王、セレネ、メランの三人は観光気分で宮殿の中を進み、その後ろを一応暴漢などに警戒してライラが無言で続いた。しかしどこまで行ってもセキュリティや門番らしき物は無く、猫呼ねここや猫弐矢のクラウディア王国という物が本当に元々平和国家なのだなと思った。

「うーん、宮殿の中枢ていうか台所的な所に来ちゃったなあ?」
「そうだっおにぎりあるから食べちゃおっか!」
「二人ともダメでしょ、避難民の方達の物よっ!」

 セレネとメランが余りにもお気楽なので、二人に比べるとまだ性格が大人しいフルエレがたしなめる。無言のライラ含めて四人は迷いに迷い宮殿の台所的な場所に来ていた。と、そこには不運な少女の先客が一人居たのであった……

「う~~ん、眠れ無いわぁ……猫弐矢さん達が先導して来るんだろうけど、お姉さまが本当に来るのかな……不安。どうせ私の事には気付かないでしょうし、会うつもりも無いけどね」

 本来なら次の戦いに備えて休息中の美柑ミカノーレンジだが、どうしても恐れている姉の来訪を聞いてそわそわ興奮して眠れず、用心の為に妖しいパピヨンマスクを装着して、この地下の台所に水を飲みに来ていたのであった。その上不運な事に此処が地下の為に、静かに着陸した蛇輪には一切気付いていない。

「ふぅもう部屋に戻ろっと……ブフーーーーーーーッッ!!」

 一口水を含んだ美柑がふと何気に振り返ると、丁度給水所にフルエレ達四人がゾロゾロと入って来て目が合い、驚いた美柑はいきなり思わず飲んでいた水を勢いよく噴水の如く吹いた。

「うわっ何よこのメイドさん!?」
「噴水の様に水を吹いたわっ!!」
「何だかあたしたちを見て吹いたんじゃないの?」
「変なパピヨンマスクを付けてます、凄く怪しい」

 四人は一目見て妖しげな格好に異様な行動をするメイド少女に釘付けとなった。ライラは警戒して背中の仕込み鎌に手を掛ける仕草をしたがフルエレがそっと制止した。

「ゴメンなさいね、私達は決して怪しい者じゃないの。セブンリーフから猫弐矢様に呼ばれて来た増援なのよ。もう少しすれば彼らも追い付くと思うのだけど」

 雪乃フルエレ、つまり美柑こと依世いよの姉夜宵やよいが非常にフレンドリーに優しく話し掛けて来た。此処で邪見にすればそれこそ怪しい人物に指定されてしまうだろう。

「ごほっごほっおいどん、新人メイドごわす。城の詳しい事は他のメイドに聞いてくれもんそ」

 小声のダミ声で美柑はぼそぼそ言うと、そそくさと出て行こうとした。

「この喋り方、Y子ちゃんにそっくりだなあ?」
「怪しいです。凄く怪しい」

 セレネとライラはいよいよ疑り始めた。

「失礼よっ! 私雪乃フルエレ女王だぞよ、ねえ貴方はお名前は??」

 一瞬固まったが、嘘は余計怪しまれると思った。

「……美柑と言います。おいどんはこれで」

 またそそくさと出て行こうとした時だった。突然フルエレが物凄い勢いで走り出し美柑の手首を逃さずガシッと掴んだ。

「もしかして貴方っ超S級冒険者の美柑ノーレンジちゃんという方じゃないの!?」
「ヒィッ!?」
(何で食いついてくるのっ!? 何で私の名前を知ってるのよ~~~~~)

 美柑はマスクの下で恐れおののいた。

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