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Ⅵ 女王
神話の終わり ⑮ 流星Ⅱ 後
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目の前で陸地が動き、さらに全高700Nメートルを越えそうな千岐大蛇が突然光の綱に貫かれ、身動き取れなくなるという異様な光景を目の当たりにして、猫名は姿を消した父大猫乃主にしばし想いを馳せていた。そして気が付けば周囲にひしめいていた大型船から避難した神聖連邦帝国軍達も居なくなっていた……
ズバアアアアアア!! キュイイイイイイイインンン! カギィイイーーーーーン
さらに苦し紛れに乱発されるチマタノカガチの瞳から照射される赤い光線を、兎幸の魔ローンが跳ね返して行き、その度に夜空が真っ赤に染まって行く。
「カオスだな」
スタタタ……
聞こえる軽快な足音に猫名は振り返った。
「うおおーーーい、スピネルさぁーーーーーーん!!」
と、そこへ間抜けなくらいに明るい笑顔のサッワが大きく手を振りながら走って来た。
「おお、サッワではないか」
まおう軍内で三魔将スピネルと呼ばれる猫名は、道で知人にばったりと出会ったかの様に落ち着いて返事をした。
「もーぅ、サッワではないか……では無いですよ! 酷いじゃないですかっ何でグルグル巻き放置なんですかっプンスカ!」
サッワは両手拳を額に当てるポーズで激怒感を表した。
「そう怒るな私の目的の為には貴様は邪魔だったのだ、あれが一番お前が生き残る可能性だと考えた」
「おかしいですよスピネルさん! 何で敵の真っただ中に置いてけぼりなのが一番良いんですか! 怒りますよっ」
「現に今こうして無事ではないか」
サッワがいくら激怒りしてもスピネルには一向に響かない。
「もーぅまったく……スピネルさんあっちの岸に乗って来たボートを隠してあります、それに乗ってセブンリーフまで帰りましょう!」
サッワはまさに千岐大蛇が縛られてうにゃうにゃしている岸に指を差した。
「貴様は死ぬ気か? 辺りから人気が消えた。恐らくあの砂緒とか言う化け物が空から落ちてくる。それで皆避難したのだろう。大爆発が起きても今度は先程の様に庇ってやらんぞ!」
「ええ!? どうしたら良いんですか??」
サッワは大袈裟に驚く。
「……とにかく同心円的にあの千岐大蛇からなるべく離れるよう走るしかないな」
「えーーーー、だったら急ぎましょうよ早く!!」
サッワはもうランニングの体制で足踏みし始めた。
「そうだな、行くぞっ! と、その前に乾いた所って何だ?」
「今そんな事聞いてる場合ですかーーっ!?」
二人はそんな事を話しながら必死に走って行った……走りながらスピネルは結局帰る所はまおう軍しか無いのだなと自嘲的に笑いつつ、家で待つエカチェリーナの顔を思い出していた。
―少し前、制止衛星軌道高度三万八千Nキロメートル。
砂緒とセレネは手を繋ぎ目を閉じて肩を寄せ合いおでこを合わせ、無重力空間となった蛇輪の下の操縦席内を、言葉を交わす事も無くただぷかぷかと漂っていた。ハッチと潜水服が吹き飛んだ上の操縦席に繋がるシャッターは、セレネの氷魔法でガチガチに留められ今の所は大丈夫そうであった。
「……セレネ」
唐突に砂緒が口を開いた。
「はい」
「セレネさんとセレネとどっちの呼称の方が良いでしょう?」
お互い目を閉じたまま会話を続ける。魔法モニター上には宇宙空間が広がっていた。
「どっちでも良いです、どうぞ」
「……じゃあこれまで通りセレネどんと呼びます」
「却下で。もし呼んだら殺す」
「セレネに殺されるなら仕方無いですね」
と言った所で二人とも瞳をゆっくりと開けると、横並びで身を寄せ合う状態から向かい合い再び見つめ合った。相変わらずセレネのさらさらの長い髪は無重力でふわぁ~~と広がり浮いている。
「恥ずかしい」
「恥ずかしくありません!」
再び黙り込む二人。
フィーフィーフィー
と、丁度そこへ地上のヌッ様からの通信の知らせが入った。二人は魔法通信を切った状態にしていたので、慌ててパネルを操作し通信を受け取り開けた。
『はいはい、何でしょう? 今丁度また良い感じだったのですが……』
『よけーな事言うな、フルエレさん何ですか??』
砂緒の発言をセレネが慌てて遮った。
『ちょっと! 何してたのよ……下はずっと大変だったのよ』
フルエレの声は呆れている。
『上は上で大変でした……』
『だからよけーな事言うな』
セレネは砂緒の顔が歪む程にむぎゅーっと押しのけて黙らせた。
『もういいわよ! 皆聞いてるのよ。遂にフゥーちゃんがヌッ様で千岐大蛇を縛り付ける事に成功したわ! いつまで持つか分からないのよ、もう今すぐに爆撃を要請するわ! 砂緒セレネお願いよ』
その言葉で戦闘意欲旺盛なセレネの顔色が変わった。
『待ってましたっ!! フルエレさんの努力を絶対に無駄にしませんよ、今度こそ当てて見せましょう』
セレネは低い胸を張った。
『エ~~~私はもう少しこうしていたい気分でしたね~~~』
『黙れ、とっとと行くぞ!!』
もうさっきまでのイチャイチャしていたセレネとは違った。もはや砂緒のコンディション等無視して、いつまで持つか分からないというフルエレの言葉に触発され、一気に鳥型の機首を地表に向けてもう降下を始めた。先程まで静かであった宇宙の景色がスーッと流れていく。
「ぬわっ」
ドサッ!
機体が急降下を始めた為に、浮いていた砂緒だけ取り残されて壁にぶち当たる。
『砂緒、二分くらいで接敵するからな! 今から心の準備しとけよっ!』
「急~~~ですね、さっきまでのフワフワしてたセレネさんが良かったです……カムバーック」
等と言っている間にもぐんぐんと降下を開始するが、前回と変わらず断熱圧縮による熱も光も発生せず、スムーズにスーーーッと地表に向けて滑り落ちて行き、航空地図の様な地表が迫って来る。
『もう半分まで来たぞ! 時間無いぞ!!』
「じゃあ仕方無いですね、もう一回短時間イチャイチャチャレンジしましょうよ~~」
『お前、話聞いてるか?』
等と言っている間にも高度1万5000Nキロを切っていた。
『高度8000Nメートルでお前を放出して、直後にあたしが氷を張る……ぶつぶつ』
操縦桿を握りながらセレネが独り言を言い始めた。
「何ぶつぶつ言ってるんですか? 壊れたんですか??」
『イメージトレーニングだよ』
「もっと気楽に行って下さい……」
『気楽に行っちゃダメだろ……』
遂に高度100Nキロを切った……その頃には地上から光る蛇輪の姿が見えていた。
「来たあああ!!」
「流星だっ!」
「あれが多分、蛇輪……」
兵士達が口々に叫んだ。セブンリーフと東の地両側の主要人物達からもその流れ星ははっきりと見えていた。流れ星と言っても燃えている訳では無く、蛇輪の銀色のメッキ調の装甲が月明りを反射していたり、魔法識別灯が輝いて見えているだけではあるが……
「砂緒さま、ご無事で……」
「砂緒セレネ、しっかり当てて……お願い」
七華に肩を抱かれる猫呼もスーーッと千岐大蛇に向かって落ちてくる流れ星に祈った。
「スピネルさんあれっ! ハァハァ」
「はっはっ、むぅヤバイな急いで走ろう」
「ハイッ!!」
必死に走るサッワとスピネルの後ろにも蛇輪の流星は迫っていた。そして遂にグングン落ち行く蛇輪は全高10Nキロの幻想の超巨大ヌッ様に接近しつつあった。
(※超巨大ヌッ様10Nキロメートル=10000Nメートル、砂緒放出予定8000Nメートル)
『お、おい砂緒、なんか地上にヘンな物が立ってるんだけど!?』
「なんじゃとて? 淡〇島の観音さんですか?」
いぶかしがる二人に向けて、超超巨大ヌッ様はどんどんと接近して来る。いや、蛇輪がヌッ様に接近していく。
『凄いな……これがヌッ様の国引きかぁ』
セレネが下を見ると、超巨大ヌッ様の両手指先から無数の太い光の綱が地上のあちこちに網の目の様に伸びている。あたかもそれは我々が見る地上の夜景の様にも見えた。
「ぼーっと眺めてて良いんですか? 丁度あれの腕を間を抜けたら私の放出ですよ」
『お前に言われとうないわっ!』
等といいつつも砂緒に言われるまで一瞬忘れていた。そして遂に超超巨大ヌッ様の頭部に到達した……
ズバアァアアアアアア
蛇輪は全高10Nキロの幻想ヌッ様の頭を通り過ぎた。超巨大な両腕に抱かれた瞬間、セレネは砂緒を放出しようと決心した。もちろんこれらは全て全行程時間約2分の中の一瞬の出来事である……
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