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Ⅵ 女王

神話の終わり ⑭ 流星Ⅱ 前

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「ああぁ、千岐大蛇ちまたのかがちが本当に目の前にっ!?」

 猫呼ねここ七華しちか五華いつかは他の全員に逃げよと言っておきながら、最後まで戦っている父王大猫乃主おおねこのぬしを見守る猫呼に引きずられて足が動かず、巻き込まれそうな程の近くで、今や全高700Nメートルを越えた巨大なモンスターを茫然と見ていた。

「くおおおおーーーーんん?」

 と、そこに陸地に最も接する千岐大蛇の巨大な首の一本が、立ち尽くす猫呼と七華とリコシェ五華に気付き襲い掛かった。

「きゃあああああ!?」
「猫の子さん!?」
「お姉さまっ怖いっ」

 砂緒やセレネと違って武闘派でも冒険者でも何でも無い三人は、身動き出来ずに襲い来るチマタノカガチの顔を見ているだけだった……

「猫呼ちゃん危ないっ!!!」
「ついでに女の子達もやでっ」

 カガチの牙がガチッと嚙み合って喰われる直前で、物凄い速さでウェカ王子が猫呼の華奢な細い腰を掴んで走って行く。同様に瑠璃ィるりぃキャナリーが七華五華を両手に抱えて走り去った。

「きゃうっ」
「あらら」
「ギャーーーッ」

 それぞれ三人を抱えたまま、二人は後退する同盟軍と王族達に合流出来た。

「危なかったね猫呼ちゃん!」
「あ、ありがとうございますウェカ王子……」

 咄嗟とっさの事とは言え、猫呼の華奢で柔らかい腰を掴んだウェカ王子と腰を抱かれた猫呼は急に意識して恥ずかしくなって、バッと離れて二人は頬を赤らめて下を向いた。

「はぁ~~見てらんないですワー」

 メアは肩をすぼめ両手を広げて横を向いた。

「それよか千岐大蛇ですわ、これからどうなりますのよ?」

 七華は妙齢な熟女に助けられた事を多少つまらなく思いながら軽く頭を下げた。

「そうやそうや、このままやったらスポンと飛んで逃げるだけやろ?」

 人々は超巨大ヌッ様の脚元を見上げた。しかしそれを防ぐ為に今も最後の力を振り絞り、猫乃は水中で闘い続けていた……
 ズドーーン、ドボーーーーーン!!
 立て続けに上がる水柱。それを見て猫呼は決心した。

「皆さん、これからセレネと砂緒があの……千岐大蛇に天空から爆撃をするわ……多分命中する。その大爆発に巻き込まれない為に……もう一度海の見える神殿まで後退しましょう! ……ううっ」

 言葉を詰まらせ途切れ途切れになりながら、目に涙を貯めて猫呼は言い切った。

「猫呼ちゃんどうしたの??」
「な、何でも無いの」

 ウェカ王子が気遣ったが、彼女は気丈に振舞った。その猫呼を七華が抱き締めた。

「貴方偉いわ。お父様があの中にまだ?」
「……ううっお父様の為にも、皆さんの避難を完遂させるわ、行きましょう!」
「猫呼……さま、よく分らんが大丈夫なのかよ」

 シャルは多少仲間はずれな気がした……

「よし皆の衆、猫呼さまの言葉に従いましょうぞっ!」
「よ~~し、やろう共行くぞぉ!」
「そうとなりゃ急げ急げ」
「わいわい」

 七華に肩を抱き締められ歩き出す猫呼の後ろを心配しながらシャルが付いて行き、大アリリァ乃シャル王の言葉を合図に皆が魔車や魔戦車に便乗して再避難を開始した。

「おいおい大丈夫なんかよコレ? マジでリュフミュランと東の地がくっついちまったじゃね~かよ。一番狭い場所で泳いで渡れんじゃね~か? 急いで国境固めなきゃなんねーよトホホ……」

 一番最後に、ようやく衣図ライグから解放され魔戦車の砲塔上に座る有未うみレナード公が、振り返って千岐大蛇が挟まれ新たに出現した海峡を眺めながら頭を抱えた。

「何だお前でも悩む事があるのか」

 パシィッ
 と、言いながら馬に乗ったイェラが鞭を打ち、その先を駆けて行った……


 ―ヌッ様内。

『千岐大蛇、完全に海峡に挟まれましたっ!』

 魔法モニターを見ながらフゥーが報告をした。しかし彼女は次に何をすれば良いか分かっていながらそれに逡巡していた……

『フゥーちゃん、最後の仕上げよ……』

 それを承知で雪乃フルエレ女王が辛い顔で念を押した。

『でも……あそこには、大猫乃主おおねこのぬし様が……』
 
 まだまだ上がり続ける水柱を見て、フゥーが戸惑って振り返り王の子猫弐矢ねこにゃを見た。

(気遣ってくれてありがとうフゥー。父上、僕は強く生きていくよ……)

 猫弐矢は無言でフゥーとフルエレを見て頷いた。

『でも、その王様の想いと努力を無駄には出来ないわよ』

 一連の猫弐矢の表情に気付いていない美柑みかが、冒険者として戦う者のケジメとしてカタを付ける事の重要さを知っていて、方言も忘れてキッパリと言った。

『冷たい様だけど美柑さんの言う通りね。あの方の行為を無駄にしない為にも早くしてあげましょう……』

 雪乃フルエレは知らない内に強くなっていたのか、猫弐矢の前で悪役に見える様な事を言って、逡巡するフゥーの心の痛みを和らげようと努め、彼女の肩に優しく触った。

(お姉さま……こういう事が事情を知らない人から、冷たい人だとか恐ろしい人だとか、誤解されるのかも知れない)

 美柑は雪乃フルエレは恐ろしい女王という噂を鵜呑みにした過去の自分を少し反省した。

『………………はい、その通りです。私はフルエレさまが本当は泣きたいくらいに辛い事も分かっています。だって、親友の猫呼さまのお父様が……』
『ありがとう、その言葉で充分よ』
『私も、心を一つにします』
(父上……)

 四人はただ操縦桿を握るだけでは無く、気持ち掌を重ねる様に合わせて握った。

『……ヌッ様……これで最後です……暴れる千岐大蛇の身体に国引きの光の綱で……貫いて陸地と結んでっっ!』

 ビシュウウウウウウウッッ!! ビキィイイイイイイイイイ!!!
 フゥーが祈ると、遂に全高300Nメートル側の実体のヌッ様の指先から何本もの光の綱が飛び出し、シュバシュバと千岐大蛇の身体の隅々と新たに出来た海峡の陸地とを糸で縫う様に貫いて行く……
 ズバズバズバズバ……
 最終的に光の綱は竹籠目の様に、陸地と挟んで千岐大蛇の身体を雁字搦めにしてしまった。

「ぐうおおおおおおおお~~~~~~~んんん!?」

 水中のル・ツー漆黒ノ天との闘いに熱中していた所に、突然体中を影縫いの術の様に貫かれ身動きが取れなくなって、慌てて体中を震わせて暴れようとする。
 グサグサグサグサグサッッ!!!
 が、それは水中でも同じ事が起こっていて、丁度チマタノカガチの頭と格闘中だったル・ツーの片手と両足を運悪く貫いてしまった。

「むおおお!? ぐはっ」

 ドシューーッ
 それを最後に今度こそル・ツー漆黒ノ天は光を失い海の底に泡を吹き出しながら沈んで行った……それと同時に猫呼の父、大猫乃主は永遠に海の中に姿を消した。


「くおおおおおーーーーーーーーーーーーーんん!」

 東の地(中心の洲)のアナの地の砂浜からも、青白く妖しく光りながら輝く光の綱に身体じゅうを貫かれ、身動き出来なくて無数の頭だけを不気味にのたうち回る千岐大蛇の姿は見えていた。
 ヒュンッカカッッ!!
 と、身動き取れなくなった無数の頭達が光の綱を切ろうとしているのか、赤い光線の滅多撃ちを始めた。
 ドカーーーンッ!! ドドーーーンッッ!!
 あらぬ方向の山やアナの地の市街地に流れ弾が当たって、夜空を真っ赤に染めてあちこちで大爆発が起きる。

「めちゃくちゃだぁ」
「危ない! 逃げてっ」
「わーーっ」
「助けてーーー」

 突然の惨事に超巨大ヌッ様を見上げていた住人達は一気にパニックに陥った。

『大変よっ兎幸ちゃん、早く乗って!!』
「ふえ?」

 猫乃の気配を見失い、ぼーっと個人用UFOの背に乗って、その壮絶な光景を眺めていた兎幸の元に、何故か白鳥號はくちょうごうに乗り込んだメランがハッチを開け腕を伸ばした。

『早く白鳥號に乗って、魔ローンの盾であれを防いで! 早くして』
『早くしてくれないかっ僕からも頼むよ』

 甲板上のGSXから脱出したメランは偶然居合わせた神聖連邦帝国軍魔戦車から、白鳥號の紅蓮アルフォードに通信して魔呂ヒッチハイクしたのであった。

「ほいほい」
『よいしょっ』

 メランの手を取り、白鳥號に乗り込んだ兎幸は大急ぎで魔ローンの盾を放出させ、慌てて千岐大蛇の赤い光線を防ぎ始めた。
 カキィイイイーーーン ギィイイーーーーン!!
 夜空に魔ローンが跳ね返した赤い光線が輝いて消えて行く。


『危ない!? あの盾が防いでくれてるのですね、でも急がないと……』

 国引きで千岐大蛇の固定化に成功した今、フゥーは雪乃フルエレ女王の顔を見た。今度はフゥーからフルエレの役目にバトンタッチする時がやって来ていた。

『そうね……宇宙の砂緒とセレネに攻撃要請ね……』

 千岐大蛇の最後の時が迫って来ていた……

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