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Ⅵ 女王

夜明けの女王 Ⅶ

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 白鳥號はくちょうごうも飛び上がり、二機揃って少し南下した所で紅蓮アルフォードが、雪乃フルエレ女王に挨拶を入れて来た。

『ではフルエレちゃん、また会いたいな、会えるかな? 僕達はこのまま東の地に行ってしまうけど……』

 トゥルトゥルトゥル……
 美柑みかに睨まれつつ、紅蓮がフルエレに少しでも良い印象に残る様に心の籠った別れの挨拶をしようとした直後、蛇輪へびりんの魔法通信機に呼び出しが掛かった。

『あ、ごめん紅蓮くんちょっと』
『いやどうぞ』
『セレネさん取れ取れ!!』
『ラジャーッ』

 紅蓮の事が気に喰わない砂緒が叫び、同じくセレネが笑顔で通信を受け入れた。

『あら、セレネ王女ご機嫌如何?』
『うげ』

 喜び勇んで取るとそれは魔戦車からセレネの嫌いな七華しちかリュフミュラン王女であった。

『おお七華! こんな朝からどうしましたか?』
『あぁ砂緒さま丁度良かったですわ、フルエレに替わって下さる? 砂緒さまとはまたのお機会に』
『ええもちろんまた、という訳ですフルエレ』

(お、おい長くなるのか?)

 挨拶を途中で中断された紅蓮はやきもきする。

『何なの七華?』
『何なのじゃないですわっ! 貴方今一体何処にいらっしゃるのよ、皆待っているのよっ大迷惑ですわよ』
『はぁ? 何の事よ』

 砂緒や雪乃フルエレ女王がセブンリーフを留守にしている間、取り残された猫呼ねここが暇つぶしにフルエレの北部中部新同盟の女王就任式典のリハーサルを勝手に始めて、その為に呼ばれたフルエレシンパの王族達が、ヌッ様と千岐大蛇ちまたのかがちの戦いを見て右往左往して待っている……

『……という事ですわ。皆さんリュフミュラン海の見える神殿で三角座りして待ってらっしゃるのよ、フルエレがなんとかなさい』

 七華は別にフルエレのファンでも何でも無いので一切女王扱いはしない。当然フルエレ嫌いな父王も来ていない。

『知らないわよ』

 七華もセレネもコケた。

『貴方ね、比喩表現じゃ無くて本当に王族方海の見える神殿の地べたで三角座りして待機してるのよ、いい加減に此処に飛んで来なさい!』
『むっ私は女王なのだぞっなんでアンタに来なさい言われなきゃならないのよっ!』
『はぁ? 知りませんわよ、つべこべ言わずに来なさい!! 貴方こそこの前の劇で女王辞めたい言ってらしたじゃない』

 最後の言葉にカチーンと来てフルエレも意地になる。

『じゃあ絶対行かないで真っ直ぐ帰って寝る』

 それを聞いてさらに魔法通信機の向こう側の七華の美しい顔がどんどん怒気で真っ赤に染まって行く。

『フルエレさん! そこまでにしましょう。王族方に失礼です、一言挨拶だけでも』
『フルエレ今度皆に会う時会い辛くなりますよ、セレネの言う通りです』

 珍しく砂緒が正論を言ってフルエレは彼の言葉に従った。

『うーー、仕方が無いわね……じゃあ良いわよ、行くわよ。それに前から言いたかった事もあるし』
『勝手になさい』

 プチュッ
 七華は横を向いたまま通信を消した。

(前から言いたかった事……? ヤベッまたフルエレさんの悪い癖だ、また辞める辞める言い出す気か。七華のヤツ、本当に要らん事を言う……)

 最後の言葉を聞いてセレネは急に陰鬱になった。しかしその顔を見て砂緒がにこっと笑った。

「まあまあフルエレを信じてみましょう」
「……なんだよ」
(何であたしの心配を察知しやがった? 砂緒のくせにっ!)

 セレネは砂緒と以心伝心だった事で赤面してぷいっと横を向いた。もちろんさらにその横でラブコメを見せ付けられて、ジト目にしたメランが二人を見ていた。

『と、言う事なのよ紅蓮くん、さよ』
『ちょっと待った! そんな面白そうな事なら僕もちらっと見に行くよ』

 紅蓮は食い込み気味に叫んだ。

『あの若君、僕達の事を忘れてませんか?』

 慌てて猫弐矢ねこにゃが紅蓮の肩を触る。

『うん、猫弐矢達はセブンリーフから自力で泳ぐか船とかで帰って?』
『エーーッ』

 紅蓮はまだ若く未完成で聖人君子では無いので、新たに興味が湧いた事の為に猫弐矢らを犠牲する事は一切気にならない。と言ってもちゃんと守るだけの自信はあったが。

(何この人? 本当に姫乃ソラーレ殿下の弟君なの?)

 本当なら同席出来ない程の身分違いの為に、猫弐矢や貴城乃たかぎのシューネ達程は神聖連邦帝国聖帝の息子、紅蓮アルフォードに気楽に話せないフゥーであった。

『ははは、猫弐矢はセブンリーフの仲間達でタコ殴りにしてやりましょうか?』
『砂緒くん、それ冗談に聞こえないから……』

 等と言いつつ、二機は揃って一路リュフミュラン北の海の見える神殿に向かった。



 ―リュフミュラン北の海の見える神殿には、本当に王族達が三角座りで待機していた。そこに蛇輪が着地すると我も我もと立ち上がってフルエレの元に寄り集まって来た。対して白鳥號は一応前回の女王投票会場を滅茶滅茶にした猫弐矢達の安全を考えて、少し離れた場所に着地したのであった。

「砂緒さまっ! ご無事でしたのねっ」

 走って来た七華が砂緒に飛びついて抱き締める。しかし直後に砂緒の視線の先には恐ろしい顔のセレネと冷たい顔をしたイェラの二人が見え、抱き締め返す事をせずにゆっくりと肩を離した。

「後で……すいません、二人が見てて」
「ええ、分かりますわよ。また……」

 二人は目くばせすると離れ、そしらぬ顔をした。

「お前……よく目の前で出来んな?」
「い~え?」

 セレネが睨み付けるが、砂緒は両手を広げて唇を尖らしすっとボケた。それを見て七華は笑い、セレネとイェラはイラッとする。


「フルエレ……色々とご苦労だったわね。ごめんね私の勝手の為に手間を掛けて」

 一晩であっちこっちに移動して自身も大変だった猫呼ねここがフルエレを出迎えた。

「ううん、猫呼こそお父様の事ごめんなさい、大切な命を皆の為に投げ出す様な事を止められなくて……」
「いいえ、お父様ご自身が決めた事だもの、尊敬するわ……」

 二人はお互いの苦労を意識して一瞬黙った。

「そうだっハグしましょハグ」

 フルエレが停滞を打ち破る様に笑顔で提案する。

「うん!」

 二人は両手を広げてガッチリ抱き合った。そしてそのまま少しだけ涙を流してじっとして、お互いの苦労を癒し合った。

「……アルベルトさんの魂に会えたの。猫呼にだけ言うけど誰にも秘密よ」

 唐突にフルエレが猫呼の耳元で囁く。

「う、うん……す、凄いそんな事が、あ、あるのね」

 フルエレに打ち明けられた瞬間、ほのぼのとした心境から一転、猫呼の背中にズーンと重たい物が圧し掛かり、彼女の目が泳いだ。

(い、言わなきゃ……いつかお兄様の事言わなきゃ……)

「どうしたの猫呼?」
「うん……」

 フルエレの問いにも猫呼はなんとも言えない表情で言葉を濁す。

「あ、あの良いですかな? 猫呼殿それ以上フルエレ女王を独占するのはズルいですぞっ!」
「コーディエ……邪魔しないでっ」

 少しだけ頭を下げつつ上気したコーディエが、熱い視線で見つめていてフルエレはウンザリした。

「あ、はいはいごめんなさい」

 しかし猫呼はそそくさと去って行って、フルエレは少しだけ不審に感じた。

「猫呼……何処行くの? んもコーディエのせいよっ!」
「そ、そんな事は」
「いえいえ、皆さんお待ちかねですぞ、何か挨拶の一つでも」
「そうだぜフルエレ嬢ちゃん、もう俺は暇で死にそうだったぜっははは」
「いやーーー俺も早くこの人から離れたいんだよ、頼むよ~~」

 大アリリァ乃シャル王と衣図いずライグと有未うみレナード公が立て続けにフルエレに訴えた。もちろんその後ろにはユッマランド王やタカラ指令や七葉後川流域の王達と、イライザやニィルなどのニナルティナ関係者、それにウェカ王子とメア、瑠璃ィるりぃキャナリーの様な遠方地の者達も多くが混じって揃って見守っていた。

「はい王子~~憧れのフルエレ女王陛下やで~~よう見ときや~~~」
「なんかたまにしか外食に行かない母親みたいな事言うナ~~~」
「まあ年齢的には瑠璃ィさんも」
「なんやて?」
「いえ何でもありません」

 メアは命の危険を感じ即、下を向いた。


(シャル王よ余計な事言うな)

 セレネが冷や汗を掻いた。

「そうね……実は私からも丁度言いたい事があるのよ……皆を集めて頂戴な」

 フルエレが少し神妙な顔で言った。

(きたっフルエレさんまたか……いい加減覚悟を決めてくれよ)
「フルエレさん少し挨拶すれば良いから、ね」

 しかし何故か笑顔の砂緒がセレネの肩に手を置く。

「セレネさんや落ち着きなされ」
「でえいっうるさいわっ!」

 ペシッと手を払ったセレネは苛立っていた。

「よーし野郎共集まれ! フルエレ嬢ちゃんから何かあるぞ、心して聞けやガハハ」
「フルエレ嬢ちゃんはマズイでしょ」

 ラフですら反省の無い衣図ライグに呆れていたが、皆彼の迫力に押されて静かに集まって来た。

「何や何や面白そうやで王子~~」
「近くで顔が見れる良い機会ダナ」
「あの私の玉の輿の事、覚えてます?」
「わいわい」「がやがや」

 等と言いつつ、王族達はフルエレの言葉を固唾を飲んで待った。

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