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Ⅵ 女王

最終・夜明けの女王、美しい姉妹

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「何だろうね、フルエレちゃんが何か言うみたいだよ。うっ猫弐矢何してるの?」

 猫弐矢は両手に葉っぱの付いた小枝を持ち身を屈めていて、フゥーと加耶クリソベリルが呆れて見ていた。

「カモフラージュです。此処は敵地ですので」
「敵地じゃ無いでしょ! 君達が余計な事したからだろ? 大丈夫だよ僕が守るからさ」

「そろそろ始まるみたいだよっ! ちょっと静かにして……」
夜宵やよいお姉さま?)

 ようやく姉と距離を取れると安心していた美柑も、再び多少ドキドキしつつ待機していた。

 コツコツコツ……
 急遽、みかんの木箱で作った壇上に雪乃フルエレ女王が静かに登って行く。かなり高度が上がって来た朝日が、背中から照らしていて眩しい。

「あードキドキするフルエレさん余計な事言うなー」
「静かに」

 セレネが砂緒にたしなめられ面白く無い。


「皆さん今朝は、いえ此処数日無理に集まってもらってごめんなさい。皆さんもとても大きなヌッ様や千岐大蛇ちまたのかがちの姿を見たと思いますが、私達は東の地で禍々しい魔物を退治して来てその帰りなのです。私自身多少混乱してる部分があって……皆さまには後日必ず詳細をお伝えしますね、本当にごめんなさい」

 フルエレは深々と頭を下げた。

「めっちゃただの業務連絡じゃない」
「ホッとしたわ」

 メランと同様、セレネも胸を撫で下ろし掛けた……

「それとは別に前から話したいと思っていた事があります……聞いて下さい」

 急にフルエレがさらに神妙な顔になった。セレネが激しく落ち込む。

「やっぱり来たーーっアレ言う気だろ」
「まあまあ」
 
 砂緒がなだめ、客席からも声が上がる

「何なのーっ?」
「うるさい横の奴、黙れオラー」
「なんだよお前こそ黙れ」

 気が立っている者も多くいた。

「少しだから聞いて。前から……私なんて女王に向いていない、女王を辞めたいって。前の女王投票でも相応しい人がいたら、いつでも辞めたいと言っていました……」

 またか……とセレネ以外にも多くの人が思った。

「けど、今日千岐大蛇を砂緒セレネと一緒に倒して、詳しくは言えないけどもっと色々な事があって……少し気持ちが変わりました」

(え?)

「私なんかって……私なんて女王に向いていないって思う事は、もしかしたら傲慢だったかもしれないって。今も私に凄い力があるとは思っていないけど、人を助ける力があるのに、それを求める人の声に耳を貸さずに、ただ自分の気持ちだけに従って役目から避ける事は傲慢……じゃないかなって」

(フルエレさん……)

「でもそれだけじゃないの。久しぶりにとても大切な人と再会出来て……その人になんて言われていたか忘れていた。その人からは私が皆のニナルティナと同盟を守るんだよって言われていたの。それなのに私の為に……命を落とした人も居るのに、そんな事も忘れて自分の事ばかり考えていました」

(……)

「カガチを倒して、思いがけず本当に久しぶりに大切な人と再会して……思ったんです。私、まだまだ女王をやってみたいと。こんな私の力でも求めている人がいるなら、少しでも力になってみたい。だからなんだか辞めたく無いって。あれだけ辞めたい辞めたい言っていた癖に、皆さんにお願いします。許されるなら私、これからも同盟の女王を続けても良いでしょうか? もし許されるなら、自分から北部海峡列国及び中部七葉後川流域国家群新同盟の女王になりたい!」

 フルエレの表情も迷い無く姿勢も声もきっぱりとさっぱりとした物だった。

「喫茶猫呼にお迎えに行った時から……そのお言葉を……ずっとお待ちしておりました……ぐおおーーーーーー」

 フルエレの傍らで立っていたセレネが腕で顔を隠し突然号泣してしまった。

「やだっもう友達じゃない! 何でセレネが泣いてるのよ、まだ皆からの許しが……」
「ぐおおおおーーーーおおーーー」

 フルエレがセレネの肩を抱くが、彼女は一向に泣き止まない。それどころか大号泣になる。

「皆からの許しなど要りません。フルエレの願いなら私が強制的に聞かせます」
「ダメよ砂緒」

 等と言いつつ、壇上で泣きじゃくるセレネを中心に三人は抱き合った。それを見かねた大声が海の見える神殿に響く。

「誰か文句のある奴いるかーーっ? 居たら俺がぶちのめす!」
「俺も賛成だーーーーーははは」

 衣図ライグとレナード公がいち早く賛成した。しかしそれは二人に促されるまでも無く、セレネの大泣きにあっけに取られただけで、会場に集まる者達の意思は同じであった。

「私もっ!」
「ワシもだっ!!」
「誰も反対などしないぞっ」

 大アリリァ乃シャル王始め、列席した王族達が次々に賛成した。その周囲でシャルや近習の者達や護衛の兵士達も拍手をして賛成した。残念ながら東の地に置いてけぼりのライラは此処に居ないが同じ気持ちであろう。

「ありがとう皆……私、頑張るよ」
「ぐおーーーー」
「セレネさん泣き過ぎです」
「うるさいわっ」

 人々がフルエレの壇上を中心に集まり、次々に笑顔で話し掛けている。フルエレが突如リュフミュランに現れた昔話などに、次々にどっと笑いが起きて集まった人々は新しい女王の誕生を祝い続けた。

「ふんっ面白くありませんわ。私だけは安易にフルエレに騙されない! いつか見返してやりますから覚えてらっしゃい!」

 七華は腕を組んで遠巻きにフルエレを見つめて言い放った。

「もうお姉さまも砂緒さんみたいに素直になって下さい!」
「な?」

 妹のリコシェ五華いつかに言われて、余計に腹の立つ七華であった。



 紅蓮達は、わいわい言う歓声をさらに遠巻きで見ている

「ほら、今日のお姉さんめちゃめちゃ凄く機嫌がいいよ」
「もう……帰ろう」

 紅蓮が呼び掛けるが、美柑が背を向けようとする。
 パシッ
 だが紅蓮が美柑の細い手首を掴んだ。

「今日、お姉さんに会ってみようよ。夜宵やよい依世いよ姉妹としてさ。素直な気持ちで話し合うんだ」
「嫌ッ」

 しかし紅蓮は笑顔だが意思の固い顔で手首を離さない。加耶とフゥーと猫弐矢は訳も分からずだが、何か重要な事なんだと二人を見守った。

「ちょっと会うだけっ!」

 紅蓮がにこっと笑う。

(お姉さま……千岐大蛇を倒す為に危険も顧みず魔ローダーに乗り、悲しい別れをしたフィアンセの魂と再会して涙を流す、強く優しい女性……私が恐れていた氷の心の雪乃フルエレ女王はもう居ない。だけど……足がすくむよ。きっと私の事を夜宵お姉さまは恨んでいて嫌っているのに違いない……でも、この機会が最後のチャンスかも知れない。はぁ紅蓮……の奴に言われるまま……行くか)

「もう……何よう! わかったわよ。 おねーさまーー」

 美柑はそっとパピヨンマスクを外し小声で言った。

「それじゃ聞こえないよ?」
「もうっ!」

 フェレットが興奮して肩で走り回る。

「もっと大きな声で」
「おねーーーさまーーーーーーー」
「さぁ」
「夜宵、おねーーーーさまぁーーーーーーー!!」

 ヤケになって大声で叫んだ。だがわいわい言う群衆には当然聞こえない。


「ん、どうした砂緒?」
「どうしたの砂緒??」

 何故か人々越しに一点を見つめる砂緒を、フルエレとセレネが訝しくおもった。

「んーーどうも向こうで、フルエレを97%くらいに縮小した美少女が叫んでましてな。おねーさまーーとか」
「えっ!?」
(やっぱりあの子、依世だったんだわ……)

 フルエレは突然顔色を失った。

「フルエレさん?? 97%に縮小? 何だよそれ」
「私、もう言い終わったから帰る!」

 フルエレはくるりと背を向けようとする。
 パシッ
 しかし砂緒が逃さず手首を掴んだ。

「いえ、今日は居て下さい」

 砂緒は笑顔だった。

「なんでっ!?」
「一回くらい私の言う事も聞いて下さい。なんだか面白そうだ」
「もうっ!」

 姉妹で全く同じ反応であった。


「ほらっ飛んで行って!!」
「わかったわよ、おねーーさまーーーーー!」

 美柑は飛行魔法でふわりと飛んで行く。


「おーーーミニフルエレが飛んで来ました」
「えーーーー!?」

「おねーーーさまーーーーーやよいおねーーーさまーーーーーー!!」

 突然叫びながら、ひらひらした可愛い衣装で飛んで来た、天使の様な美少女の登場に皆が驚いて見上げた。

「アッアッアッいいい依世ちゃん実在したーーーーーッッ!!!」

 シャキーーーーンッ
 ウェカ王子が自分の真上を再会を願い続けた依世姫が通り過ぎた直後に叫んで凍り付いた。

「あちゃーーー王子凍っちゃいましたねえ。今の内婚姻の捺印させちゃいますか」
「自分で実在したーっ言うて、実は自分で信じてなかったんや? 可愛いやんかー」

 その間もふわふわと依世は人々の上を飛び続けた。

「おねえーーーさまぁーーーーーーーー!!!」

「依世っっ!!」
「夜宵お姉さまっ!!!」

 飛んで来た依世を夜宵は受け止めて、何回もクルクル回って抱き締め合った。その傍らには物凄い速さで連続ジャンプして来た紅蓮も突然居た。

「何で貴様が!?」

 穏やかな表情であった砂緒が一転して睨み付ける。

「ほっといてもらおう」
「それよかフルエレさんだ! あの二人を見ろっ」

 セレネが二人の天使の様な美少女二人の抱擁を号泣して指差した。居並ぶ王族達もなんとなく状況を把握して笑顔で囲んだ。

「依世! ごめんなさい、私貴方に辛い思いを。凄く自分勝手だった……」
「いいんです、私こそ夜宵お姉さまに……」
「ううんいいのいいのよ、今砂緒やセレネや猫呼やシャル、一言で言えないくらいの人達に囲まれているの。だから占いは外れたわ! それで良いの」
(アルベルトさん……)

 一瞬フルエレは上を見てから依世を見直した。彼女は泣いていたがフルエレも泣いていた。

「有難うお姉さま……」
「ええ」

 そんな二人の横で砂緒は紅蓮と火花を散らし睨み合いながらも、せわしなくまた首の向きと表情を変え、にこにこしながら美しい姉妹の再会をいつまでも見守り続けた。





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みんなの感想(1件)

インク猫
2023.07.16 インク猫

う~ん、主人公…人ですらなかったのか
どっちかと云うと、百年経ってますから「付喪神」が近いんですかね?

佐藤うわ。
2024.01.22 佐藤うわ。

ありがとうございます。
長期間放置してしまっていて気付くのが遅くなりましたすいません。
なろうで書いてた版が第一部完してしまったので、こちらも更新再開致しますのでよろしければ読んで頂けると幸いです!!

どっちかと云うと、百年経ってますから「付喪神」が近いんですかね?

はい、実はなろうで一時期「九十九神」という文字を含むタイトルで書いていました;
(今は変更しています)

解除
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