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第35話 パルフェは負けない勝負を持ちかける
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グレイシア国とフローディア国に、チェルシーの元の世界であったようなGPSは存在しない。よって見知らぬ地にいる場合、周りの景色だけで現在地を判断しなければならないのであるが、余程の土地勘がなければ極めて難しい。
それ故重要となるのは道しるべなるもので、例えばグレイシア国では要所要所に石柱が建てられており、旅人や行商人が正しい道に進めているか確認できるようになっている。道中に体を休める事が出来る宿場なんかもその一種であろう。
フローディア国でも似たようなもので、フローディア国では石柱の代わりに木造の櫓が組まれており、夜には火が灯るようになっていた。なおグレイシア国の石柱に火は灯らないが、これは怠惰なのではなく、グレイシア人の方が夜目が効くから必要としないが正解である。些細な違いは違いはあれど、ランドマークを必要とする両国における旅の文化は一緒であった。
ではそうした道しるべを見ないまま移動した場合はどうなるか? 答えは無論迷子である。
意気揚々とグレイシアの新都を出てきたリズベットであったが、途中から寝てしまい、余程疲れていたのかそのまま起きる事はなかった。そんな彼女が目を開けたのは宿場についてからの事で、パルフェに呼びかけられてようやくであった。
リズベットが寝ぼけ眼をこすりながら外を見ると、すでに日もとっぷりと暮れており、目の前に宿がある事以外は分からない状況。真っ先に気になるのは現在地であったが、リズベットは先にパルフェたちに謝罪した。
「気を遣わせたみたいでごめんなさい。私ずっと寝てたのね」
「いいよいいよ。ずっと気を張っていたみたいだし」
「気が緩んで疲れが一気に来ていたのでしょうな」
人に迷惑をかける事を嫌がるリズベットは釈然としないものを覚えつつも、二人の心遣いを無下にするのも本意ではないので、後に改めて道案内と護衛のお礼として返す事を心に決めた。
「ところで今日はどこまで来たのかしら?」
「朝からの移動だったからね。寄り道もなかったし、もう国境は超えてフローディア国に入ってるよ」
「あら? 相当進んでいるわね」
「朝に話した納品先の欲しい物が実は魚なんだよ。いくら塩漬けで日持ちすると言っても、早い事には越した事ないってわけ。こっちの都合で申し訳ないけど」
「そういう事。てっきり私のために無理させているのかと思ったわ」
「そんな姉さんが嫌がりそうな事しないよ私は。旅に無茶は禁物だし、今回もあくまで想定の範囲内さ」
突然いつもと違う事をやろうとすると十中八九失敗する。パルフェはそれを重々に分かっている。特に己の身以外で商品の重さを加味しなければならない商人であれば、己の限界を見極めるのは必須であった。自分が傷ついても、商品が駄目になっても、生死に関わるのだから。
「しかし魚ねぇ……私以外にも物好きがいたのね」
「姉さんは一度自分の影響力を考えた方がいいよ? 姉さんが気に入った物って結構フローディア国では広まっていて、魚というこっちでは未知の物であっても、一緒の物が欲しいってのはそれなりにいるんだよ」
「どうして? シュタイン家の伯爵令嬢だった頃なら分かるけども、今はただのリズベットよ? 落ちぶれた者の真似したって何の得にはならないわ」
「リズベット伯爵令嬢がただのリズベットになったって姉さん自身の価値は変わらないさ」
「え?」
「皆シュタイン伯爵家じゃなくて姉さん自身を見ていたって事。本当の審美眼ってのはさ。理屈じゃないのさ。直観なんだ。過去の物なら学ぶ事でその価値が理解できる。でも新しい物は?」
「要するに前例がないものって事よね」
「そう、前例がないからこそ己で判断するしかない。基準もないし、己の直感だけで判断するしかないんだ。でもそれってリスクがある事だし、センス以上に度胸がある人じゃないと出来ない事なんだ。ここで肝心なのは『どの家』がよりも、『誰が』なんだよね。もちろん〇〇家御用達ってのも効果あるけれども、もっと効果があるのは影響力のある誰かが利用したって事なんだ」「あー、だから魚なのね」
というのも魚はシュタイン家ではなく、リズベット個人の趣向によってパルフェから買われていた。もちろんリズベットとしてもこの味ならばと、魚を領民に手に取ってもらう事も考えたが、未知の食べ物に対して、最初の一歩に勇気がいるのは事実である。
それに塩漬けで日持ちすると言っても、最後には腐ってしまうのは変わらない。悩んでいる内に食べられなくなってしまった何て事は容易に想像出来たし、下手すれば傷んだのを気づかずに食してしまい、食中毒を起こしたなんて事も有り得るわけで。そうなると魚は危険な食べ物と誤認されてしまう可能性大である。
そういった経緯でリズベットは魚の流通は時期尚早と判断し、己の趣向品に留めておいたわけだが、実のところ魚の味を知るのはリズベットだけではなかった。何故ならリズベットは元伯爵令嬢である。シュタイン家専属の調理人はいたし、王族のように毎回必ずという訳ではないが、毒見役もちゃんといた。
初めこそ未知の食材に対し、二人は顔が引きつっていたが、徐々にその美味しさの虜となっていったわけで、しまいには他の使用人達へのまかないなどでも魚が採用されたなと、リズベットは今更ながらに思い出した。
その時説得材料として使われていたのが『あのリズベット様が絶賛した魚』である。リズベットとしてはそれが外で通用するとは考えていなかったが、もし通用するのであればシュタイン家の使用人達が同じ手で広めていった可能性はなくはない。
今シュタイン領はサランデル領となっており、かつての使用人達はそのままサランデル領で働いていると言う。これもまたユーフィリアの計らいであり、彼女の行き届いた心遣いに感謝するとともに、ふと郷愁にかられたリズベットであった。
「私は商売でフローディア国中回った事あるから知っているけど、姉さんの評価って全然落ちていないんだ。それこそ同情の声が上がっていたくらいだよ。つまり姉さんは偉大なる先駆者ってわけだね」
「先駆者って……ただの興味本位だったのに随分と仰々しい事」
呆れた様子のリズベットであったが、それでもにじみ出る嬉しさは隠せないようで、少し顔が赤かった。本来であれば貴族の没落は妬みから喜ばれる側面もあるし、庶民のストレスのはけ口として格好のネタとなる。リズベットがそうならなかったのは彼女を知る者が多かったからだ。現場主義によって顔見知りが多いが幸いし、悪い噂は彼らの判断ですぐに消されていった。
それには単純にリズベットを助けたい思い以外にも、あわよくば欲しい人材であった事もあげられるだろう。王家によってストップされたが、リズベットを受け入れたい者達は沢山いたのである。レナードは当時王太子であるにもかかわらず、王家の独断でリズベットを捕らえたわけだが、処刑を避ける以外にこうしたリズベット争奪戦を防ぐ意味合いもあった。
そうした経緯もあって、『リズベットが利用した』という価値は落ちる事無く、今の今まで続いていた。
「というわけで当パルフェ商会はまだまだ姉さんを利用させてもらうから宜しくね!」
「ふふ、それって表立って言う事かしら」
「隠しておく方が不義理だろ?」
「それもそうね。私でよかったら利用して頂戴。商売が活発になれば皆それだけ潤うわ。それで私以外に魚が欲しいという物好きは誰なのかしら?」
リズベットの問いかけに対し、パルフェはどこか挑戦的な笑みを浮かべる。パルフェの予想外の反応に何事かとリズベットは首をかしげたが、そんなパルフェからの申し出はリズベットをさらに驚かせた。
「姉さん、せっかくだからここはひとつ勝負と行かないかい?」
「勝負ですって? 一体何をするつもり?」
「勝負内容はこれからの行先についてだよ。先に言っておくけど魚が欲しいその物好きはとある領主さんだ。つまりは貴族ってわけ。ルールは単純、目的地に着くのは明後日の朝の予定なんだけど、私は明日の移動中、昼と夜、二回姉さんに質問する。その二回の間に姉さんがどこの領地かを言い当てられたら勝ち。二回とも間違っていたら負けって感じさ。これだったら道中も退屈しないだろう?」
「なるほど、考えたわね。このルールなら私にもチャンスはありそうだわ」
「もし姉さんが勝ったら最高級の皮で作った耳つきフードとつけしっぽを無料で進呈するよ。結構興味あっただろ? その代わり私が勝ったらきちんと買ってもらうよ。ま、姉さんには世話になってるし、割引はするけどね」
「ふふふ、あなた本当に商売上手ね」
「どういう事ですかな?」
それまで傍観していたライネルの疑問にリズベットは答えた。
「考えても見て? パルフェの持ちかけた勝負はお金を払うか払わないかの違いだけで、私が耳付きフードを手にする結果は変わらないわ」
ライネルはリズベットの言った事を吟味し、納得したと手をポンと叩いた。
「ああ、合点がいきました。つまりパルフェ殿はリズベット様を広告塔にしようとしていると」
「ええ、パルフェの言った通り、私、『リズベット』に価値があるのだとしたら、私が耳付きフードを被っていれば同じ物が欲しいって他の人も乗ってくれるってわけね」
「最初損するかもしれないけれども、最後には絶対得をするわけですか。全く策士ですなパルフェ殿は」
「何せ姉さんはフローディア国の流行の発信者だからね。姉さんの影響力を思えば仮に勝負に負けたとしてもはした金さ。品質にはもちろん自信あるし、デザインだって一級品! だから姉さんも絶対気に入るはずだし、義務感じゃなくて己自ら宣伝してくれると私は確信してるよ」
ホクホク顔のパルフェにリズベットは挑発し返す。
「その勝負乗ったわ。でも今だとあなたが得るモノの方が大きすぎると思うの。だから私が勝ったら最高級品を二セットにしてもらおうかしら。私以上に耳付きフードが似合いそうな人に心当たりがあるのよね。もちろん負けたら二セット分支払うわ」
まさかの倍プッシュである。
「お、そう来るんだね。いいよいいよ! 楽しくなってきた! じゃあこれから勝負の始まりだ。そうそう、何だったら誰か別の人に答えを聞いても構わないからね」
「それってもう根回しは済んでいるという事かしら?」
「それはどうかなぁ?」
開始早々仕掛けるパルフェにリズベットは楽しげな表情を浮かべる。
こうしてリズベットとパルフェ、二人の戦いの火蓋が切られたのであった。
それ故重要となるのは道しるべなるもので、例えばグレイシア国では要所要所に石柱が建てられており、旅人や行商人が正しい道に進めているか確認できるようになっている。道中に体を休める事が出来る宿場なんかもその一種であろう。
フローディア国でも似たようなもので、フローディア国では石柱の代わりに木造の櫓が組まれており、夜には火が灯るようになっていた。なおグレイシア国の石柱に火は灯らないが、これは怠惰なのではなく、グレイシア人の方が夜目が効くから必要としないが正解である。些細な違いは違いはあれど、ランドマークを必要とする両国における旅の文化は一緒であった。
ではそうした道しるべを見ないまま移動した場合はどうなるか? 答えは無論迷子である。
意気揚々とグレイシアの新都を出てきたリズベットであったが、途中から寝てしまい、余程疲れていたのかそのまま起きる事はなかった。そんな彼女が目を開けたのは宿場についてからの事で、パルフェに呼びかけられてようやくであった。
リズベットが寝ぼけ眼をこすりながら外を見ると、すでに日もとっぷりと暮れており、目の前に宿がある事以外は分からない状況。真っ先に気になるのは現在地であったが、リズベットは先にパルフェたちに謝罪した。
「気を遣わせたみたいでごめんなさい。私ずっと寝てたのね」
「いいよいいよ。ずっと気を張っていたみたいだし」
「気が緩んで疲れが一気に来ていたのでしょうな」
人に迷惑をかける事を嫌がるリズベットは釈然としないものを覚えつつも、二人の心遣いを無下にするのも本意ではないので、後に改めて道案内と護衛のお礼として返す事を心に決めた。
「ところで今日はどこまで来たのかしら?」
「朝からの移動だったからね。寄り道もなかったし、もう国境は超えてフローディア国に入ってるよ」
「あら? 相当進んでいるわね」
「朝に話した納品先の欲しい物が実は魚なんだよ。いくら塩漬けで日持ちすると言っても、早い事には越した事ないってわけ。こっちの都合で申し訳ないけど」
「そういう事。てっきり私のために無理させているのかと思ったわ」
「そんな姉さんが嫌がりそうな事しないよ私は。旅に無茶は禁物だし、今回もあくまで想定の範囲内さ」
突然いつもと違う事をやろうとすると十中八九失敗する。パルフェはそれを重々に分かっている。特に己の身以外で商品の重さを加味しなければならない商人であれば、己の限界を見極めるのは必須であった。自分が傷ついても、商品が駄目になっても、生死に関わるのだから。
「しかし魚ねぇ……私以外にも物好きがいたのね」
「姉さんは一度自分の影響力を考えた方がいいよ? 姉さんが気に入った物って結構フローディア国では広まっていて、魚というこっちでは未知の物であっても、一緒の物が欲しいってのはそれなりにいるんだよ」
「どうして? シュタイン家の伯爵令嬢だった頃なら分かるけども、今はただのリズベットよ? 落ちぶれた者の真似したって何の得にはならないわ」
「リズベット伯爵令嬢がただのリズベットになったって姉さん自身の価値は変わらないさ」
「え?」
「皆シュタイン伯爵家じゃなくて姉さん自身を見ていたって事。本当の審美眼ってのはさ。理屈じゃないのさ。直観なんだ。過去の物なら学ぶ事でその価値が理解できる。でも新しい物は?」
「要するに前例がないものって事よね」
「そう、前例がないからこそ己で判断するしかない。基準もないし、己の直感だけで判断するしかないんだ。でもそれってリスクがある事だし、センス以上に度胸がある人じゃないと出来ない事なんだ。ここで肝心なのは『どの家』がよりも、『誰が』なんだよね。もちろん〇〇家御用達ってのも効果あるけれども、もっと効果があるのは影響力のある誰かが利用したって事なんだ」「あー、だから魚なのね」
というのも魚はシュタイン家ではなく、リズベット個人の趣向によってパルフェから買われていた。もちろんリズベットとしてもこの味ならばと、魚を領民に手に取ってもらう事も考えたが、未知の食べ物に対して、最初の一歩に勇気がいるのは事実である。
それに塩漬けで日持ちすると言っても、最後には腐ってしまうのは変わらない。悩んでいる内に食べられなくなってしまった何て事は容易に想像出来たし、下手すれば傷んだのを気づかずに食してしまい、食中毒を起こしたなんて事も有り得るわけで。そうなると魚は危険な食べ物と誤認されてしまう可能性大である。
そういった経緯でリズベットは魚の流通は時期尚早と判断し、己の趣向品に留めておいたわけだが、実のところ魚の味を知るのはリズベットだけではなかった。何故ならリズベットは元伯爵令嬢である。シュタイン家専属の調理人はいたし、王族のように毎回必ずという訳ではないが、毒見役もちゃんといた。
初めこそ未知の食材に対し、二人は顔が引きつっていたが、徐々にその美味しさの虜となっていったわけで、しまいには他の使用人達へのまかないなどでも魚が採用されたなと、リズベットは今更ながらに思い出した。
その時説得材料として使われていたのが『あのリズベット様が絶賛した魚』である。リズベットとしてはそれが外で通用するとは考えていなかったが、もし通用するのであればシュタイン家の使用人達が同じ手で広めていった可能性はなくはない。
今シュタイン領はサランデル領となっており、かつての使用人達はそのままサランデル領で働いていると言う。これもまたユーフィリアの計らいであり、彼女の行き届いた心遣いに感謝するとともに、ふと郷愁にかられたリズベットであった。
「私は商売でフローディア国中回った事あるから知っているけど、姉さんの評価って全然落ちていないんだ。それこそ同情の声が上がっていたくらいだよ。つまり姉さんは偉大なる先駆者ってわけだね」
「先駆者って……ただの興味本位だったのに随分と仰々しい事」
呆れた様子のリズベットであったが、それでもにじみ出る嬉しさは隠せないようで、少し顔が赤かった。本来であれば貴族の没落は妬みから喜ばれる側面もあるし、庶民のストレスのはけ口として格好のネタとなる。リズベットがそうならなかったのは彼女を知る者が多かったからだ。現場主義によって顔見知りが多いが幸いし、悪い噂は彼らの判断ですぐに消されていった。
それには単純にリズベットを助けたい思い以外にも、あわよくば欲しい人材であった事もあげられるだろう。王家によってストップされたが、リズベットを受け入れたい者達は沢山いたのである。レナードは当時王太子であるにもかかわらず、王家の独断でリズベットを捕らえたわけだが、処刑を避ける以外にこうしたリズベット争奪戦を防ぐ意味合いもあった。
そうした経緯もあって、『リズベットが利用した』という価値は落ちる事無く、今の今まで続いていた。
「というわけで当パルフェ商会はまだまだ姉さんを利用させてもらうから宜しくね!」
「ふふ、それって表立って言う事かしら」
「隠しておく方が不義理だろ?」
「それもそうね。私でよかったら利用して頂戴。商売が活発になれば皆それだけ潤うわ。それで私以外に魚が欲しいという物好きは誰なのかしら?」
リズベットの問いかけに対し、パルフェはどこか挑戦的な笑みを浮かべる。パルフェの予想外の反応に何事かとリズベットは首をかしげたが、そんなパルフェからの申し出はリズベットをさらに驚かせた。
「姉さん、せっかくだからここはひとつ勝負と行かないかい?」
「勝負ですって? 一体何をするつもり?」
「勝負内容はこれからの行先についてだよ。先に言っておくけど魚が欲しいその物好きはとある領主さんだ。つまりは貴族ってわけ。ルールは単純、目的地に着くのは明後日の朝の予定なんだけど、私は明日の移動中、昼と夜、二回姉さんに質問する。その二回の間に姉さんがどこの領地かを言い当てられたら勝ち。二回とも間違っていたら負けって感じさ。これだったら道中も退屈しないだろう?」
「なるほど、考えたわね。このルールなら私にもチャンスはありそうだわ」
「もし姉さんが勝ったら最高級の皮で作った耳つきフードとつけしっぽを無料で進呈するよ。結構興味あっただろ? その代わり私が勝ったらきちんと買ってもらうよ。ま、姉さんには世話になってるし、割引はするけどね」
「ふふふ、あなた本当に商売上手ね」
「どういう事ですかな?」
それまで傍観していたライネルの疑問にリズベットは答えた。
「考えても見て? パルフェの持ちかけた勝負はお金を払うか払わないかの違いだけで、私が耳付きフードを手にする結果は変わらないわ」
ライネルはリズベットの言った事を吟味し、納得したと手をポンと叩いた。
「ああ、合点がいきました。つまりパルフェ殿はリズベット様を広告塔にしようとしていると」
「ええ、パルフェの言った通り、私、『リズベット』に価値があるのだとしたら、私が耳付きフードを被っていれば同じ物が欲しいって他の人も乗ってくれるってわけね」
「最初損するかもしれないけれども、最後には絶対得をするわけですか。全く策士ですなパルフェ殿は」
「何せ姉さんはフローディア国の流行の発信者だからね。姉さんの影響力を思えば仮に勝負に負けたとしてもはした金さ。品質にはもちろん自信あるし、デザインだって一級品! だから姉さんも絶対気に入るはずだし、義務感じゃなくて己自ら宣伝してくれると私は確信してるよ」
ホクホク顔のパルフェにリズベットは挑発し返す。
「その勝負乗ったわ。でも今だとあなたが得るモノの方が大きすぎると思うの。だから私が勝ったら最高級品を二セットにしてもらおうかしら。私以上に耳付きフードが似合いそうな人に心当たりがあるのよね。もちろん負けたら二セット分支払うわ」
まさかの倍プッシュである。
「お、そう来るんだね。いいよいいよ! 楽しくなってきた! じゃあこれから勝負の始まりだ。そうそう、何だったら誰か別の人に答えを聞いても構わないからね」
「それってもう根回しは済んでいるという事かしら?」
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