病弱聖女は生を勝ち取る

代永 並木

文字の大きさ
40 / 42
最終章

病弱聖女は目覚めるか分からない深い眠りにつく(途中から三人称)

しおりを挟む
 吐血の頻度が上がった
 その時々で血の量は変わるが苦しさが長引く

「アナスタシア様」
「大丈夫では無いかなぁ。まぁ仕方ない」

 エルダーグリフォンの時に多少なり無理をしていた
 それが響いたのかも知れない
 これは仕方が無い事
 安静にしている分、酷く悪化している感覚は無い
 医者の判断でエルリカ以外の人とは余り会えていない

 ……ヒナ元気かな

 アルトやレオナルドさんは心配する必要が無いほど元気かなと思いただ心配なのは血の繋がった妹のヒナ
 聖女の役目をたった1人で担当している
 私は自分が聖女として役目を果たすなら無理をするのは当たり前と考えているがヒナには無理をして欲しくは無い
 本当に長生きして欲しい、私は出来そうに無いから

「今日の天気ってどう?」
「今日は軽く雨が降っています」
「雨か……私雨音好きなんだよね」
「そうなんですか」
「うん、心地良い音だから」
「……確かにそうですね」

 安静にしているとやる事が少ない
 エルリカが本を持ってきてくれるから暇は少ないがやっぱり身体を動かしたくなる

 ……まぁ少しの間、動けただけ良いかな。本当なら一生動けなかったかな

 定期的にアルト、レオナルドさん、王様、ヒナが来る

「今日は顔色が良さそうですね」
「今日は少し身体が楽、訓練の調子はどう?」
「今は新魔法の練習をしています」
「どんな?」
「風の弓です」
「風の弓、あぁ、炎聖女の弓リリス・フルールドみたいな」
「そうです。威力重視の遠距離魔法」
「確かに1つあれば戦術の幅は広がる」

 遠距離魔法1つあれば戦い易い

「必ず習得します」
「頑張ってね」
「はい、出来たら見せますね」
「楽しみにしてる」

「調子はどうだ?」
「少し話すくらいなら出来る程度ですね」
「そうか、研究は順調のようだぞ。王様の計らいで研究員も増えて予算も増えている」
「そうなんですね」

 アカリさん1人でやるより研究が進みやすいだろう
 1人だと時間がかかり限界もある

「それでも時間が掛かるようだがな」
「研究は時間掛かりますから」
「こちらでも協力出来る事をやっては見る」
「お願いします」

「動いていないよな?」
「はい、もう外に出る力もないので」
「……そうか」
「外に出られた事自体奇跡みたいな物ですから」
「そうだな。本当に奇跡だったな……」
「そういえば問題行動起こす人って少ないんですか?」
「そんな多かったら俺が胃痛で死んでるわ。短期間で2回も謹慎処置与えるの初めてだったぞ!?」
「皆さんちゃんと守ってるんですね」
「守らないと怖い騎士に捕まるからな」
「あぁ成程」

「お姉ちゃん、なんの本読んでるの?」
「今は地形の本かな」
「地形?」
「この大陸には色んな地形があるんだって」
「へぇ、そうなんだね」
「本は読まないの?」
「本は余り読まないかな。訓練し続けてるから」
「余り無理しちゃダメだよ」
「しっかり休憩も取ってるよ」

 偶に会う彼らを楽しみに日々を過ごしている

「ぐっ……」

 心臓を圧迫されるかのような苦しみが来る
 そして口から大量の血を吐いてしまう
 今まで以上の出来事だ
 エルリカを呼ぼうと道具を使おうとするが力が入らず地面に落としてしまう

 ……届かない

 手を伸ばすが届かずに私は意識を失う

 ~~~

 エルリカが部屋に入ったのはそれから30分後の話であった

「アナスタシア様!」

 すぐに駆け寄り確認するが意識がない
 医者を呼び検査をして貰う
 ヒナ、王様、レオナルド、アルトが集まる

「また進行しています。……ここから2日以内に目覚めなければ目を覚ます事はなく死に至ります」
「……そうですか」
「嘘……お姉ちゃん……」

 ヒナはその場に座り込む
 病気の事は知っていた、悪化している事も知っていた
 だけど早すぎる
 まだ時間があると聞いていた

 ……もっと話したいのに

「どうにかならないのか!」
「今の技術では……」
「延命治療は無理なのか? 特効薬が出来るまで」

 生きていれば薬で治療出来る可能性はまだある

「……この段階に入ると特効薬が作れたとしても治すのは難しいかと……この症状は最終段階です。検査の結果八割以上病が蝕みもし薬で治ったとしても一生目覚めない可能性もあります」
「くっそ!」

 レオナルドが横の壁を殴る

 ……遅かった、遅過ぎた! もっと俺が早く動けば!

 話を聞いた時点で動いていれば、いや最初から病の研究を手伝っていれば間に合ったかもしれない

「私がもっと早く気付けば……」
「まだ目覚めないとは決まっていませんから2日間様子を見ましょう。目覚めたとしてもそう長くはないと」

 2日後、アナスタシアは目覚める事は無かった
 医者の意見が正しければこのまま目覚めずに衰弱して死に至る
 その話はアカリにも届いた
 研究者達が実験を続けているが成果は出ていない

「残念ながらまだ薬は作れていない。急いではいるが……」

 ……最初から間に合うとは思っていなかった。だけどこうも現実を見せられるときついな……

「アカリさん、まだ時間はあります! まだ諦めるのは早い!」
「……そうだな」
「急ぎましょう!」
「あぁ、まだ時間はある!」
「参加出来る奴全員、掻き集めろ!」
「急げ!」

 研究者達は研究を続ける
 周りに呼び掛け一部の研究を止めてまで参加する者も現れた
 残りの時間は短い、関わる皆が動く

「素材が足りるか分からない。覚悟ある者は俺に付いてこい!」
「はい!」

 編成を組んで危険度A、アンティリギアの討伐に赴く
 それぞれが動き出す
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。

石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。 やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。 失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。 愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。

処理中です...