5 / 8
1章 家族
『普通の』散歩作戦
しおりを挟む「……今日は、外に出たいな」
朝食後、私はぽつりと呟いた。
昨日は読書室での「普通作戦」が失敗に終わった。ならば今日は、もっとシンプルに。外を歩くだけ。散歩なら、豪華さも必要ないし、静かに一人で考え事もできるはずだ。
「ビーちゃんが散歩!?なんて………なんて健気で可愛い願いなんだ!」
父様の瞳がきらめく。嫌な予感がする。
「スミス!すぐに護衛隊を百人呼べ!道を清め、花を敷き詰めろ!ビーちゃんの足が汚れるなどあってはならん!魔法師を呼び虹を作れ!風邪をひかないように気温は20℃、湿度は60%にするんだ!!」
「えっ!?私はただ、庭を……」
私の声は、父様の過保護にかき消された。
「ベティ、散歩するなら僕が手を繋いでいてあげる。危険な石も、風も、虫も、鳥も、魔物も君に近づけさせない。僕が守ってあげる。」
アレス兄様が冷静に宣言する。翡翠色の瞳が、まるで世界を敵視しているかのように鋭い。
(散歩に行くだけですよ??大袈裟すぎやしませんかね、あ、でも虫から守ってくれるのはかなりありがたいです。)
「ベティ!俺も一緒に行く!散歩なら俺が肩車してやる!そうすれば疲れない!景色の良いお気に入りの場所があるんだ!!教えてやる!」
ライ兄様は尻尾をぶんぶん振りながら、すでに私を持ち上げようと腕を伸ばしてきた。
(いやいやいや!散歩って歩くから散歩なんだよ!?肩車は違うでしょ!?)
◆
結局、私の「普通の散歩」は、護衛隊百人+使用人+オーケストラ+父様+兄二人+スミス執事、そしてなぜかクス爺(ほんとになんで??あーそうですか、怪我した時のため…)の大行列になった。
もちろん私は地上にはいない。ライ兄様に肩車されている。庭の小道は花びらで敷き詰められ、楽団まで演奏を始めている。まるでパレードだ。
「ビーちゃん、疲れてない?椅子を持ってこようか?」
父様が心配そうに尋ねる。
(歩いてないので疲れようがないです。ただ心は疲れました…ははは)
「ベティ、風が強い。僕が防風結界を張る」
アレス兄様が呪文を唱え、庭全体が無風になった。
(あ…外の新鮮な空気が…)
「ベティ!俺が歌ってやる!散歩には音楽が必要だろ!」
ライ兄様が大声で歌い始め、護衛隊が拍手で応える。
(……これ、散歩じゃなくてもはやパレードだよね!?)
ライ兄様は意外に歌が上手だった。だが、私を肩車したまま歌っていたので、あまり感動はしなかった。
◆
「もうやめてください!」
私は立ち止まり、声を張り上げた。はい、デジャヴ。
行列が一斉に静止する。
「私は……普通に歩きたいだけなんです。肩車も、結界も、楽団もいらない。自分の足で、静かに歩きたいんです!」
涙がにじむ。前世では誰にも言えなかった本音を、また口にしてしまった。
沈黙の後、父様が深く頷いた。
「ビーちゃん……そんなに願うなら叶えよう。だが……」
「だが?」私は身構える。
「散歩専用の庭園を作ろう!最高級の石畳、季節ごとの花を植え、鳥たちを調教して歌わせよう!夜は星も鑑賞できるようにベッドも用意しよう!快適に過ごせるように常に温度を調節する結界を張ろう!!スミス!今すぐ工事を!」
「ええええええええっ!?」
アレス兄様は冷静に微笑む。
「その庭園は僕が管理する。1人で寂しくないように兎やリス、ひよこ、猫なんかも必要だね。ベティが一人で歩けるよう、僕が常に監視しよう」
(アレス兄様、いつも可愛いもの追加してくるのなんなんですか!!?)
ライ兄様は尻尾を振りながら叫ぶ。
「俺はその庭園の門番になる!誰もベティに近づけさせない!」
(……結局、溺愛が強化されただけじゃないかぁぁぁ!)
「む、虫は排除してください~~!!」
◆
その日の夜、私は新しく作られた「ビーちゃん専用散歩庭園」に案内された。
確かに美しい。花々が咲き乱れ、鳥が歌い、可愛い小動物がいて、石畳は歩きやすい。
だが、門の外には父様と兄たちが常に待機していて、私が一歩進むたびに「可愛い!」と歓声が漏れてくる。
(……目良すぎじゃない??それに遠くまで声が聞こえてくるなんてテレパシーなのでは?愛の力ですか??)
私は空を見上げ、心の中で叫んだ。
「ピーマンのない世界に来たかっただけなのに……なんでこんなに溺愛パレードなの……!」
こうして、私の「普通の散歩作戦」も失敗に終わったのだった。
94
あなたにおすすめの小説
女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます
ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。
前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。
社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。
けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。
家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士――
五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。
遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。
異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。
女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
恋愛
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。
さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった!
しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って?
いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた
いに。
恋愛
"佐久良 麗"
これが私の名前。
名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。
両親は他界
好きなものも特にない
将来の夢なんてない
好きな人なんてもっといない
本当になにも持っていない。
0(れい)な人間。
これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。
そんな人生だったはずだ。
「ここ、、どこ?」
瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。
_______________....
「レイ、何をしている早くいくぞ」
「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」
「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」
「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」
えっと……?
なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう?
※ただ主人公が愛でられる物語です
※シリアスたまにあり
※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です
※ど素人作品です、温かい目で見てください
どうぞよろしくお願いします。
転生したら4人のヤンデレ彼氏に溺愛される日々が待っていた。
aika
恋愛
主人公まゆは冴えないOL。
ある日ちょっとした事故で命を落とし転生したら・・・
4人のイケメン俳優たちと同棲するという神展開が待っていた。
それぞれタイプの違うイケメンたちに囲まれながら、
生活することになったまゆだが、彼らはまゆを溺愛するあまり
どんどんヤンデレ男になっていき・・・・
ヤンデレ、溺愛、執着、取り合い・・・♡
何でもありのドタバタ恋愛逆ハーレムコメディです。
魔王の娘に転生した私は、恐れられるどころか世界一の美貌で恋愛ルート確定でした
月影みるく
恋愛
目を覚ましたら、私は異世界で――
恐怖と絶望の象徴・魔王の娘として生まれていた。
この世界で魔王の血を引く者は、恐れられ、忌み嫌われる存在。
孤独な運命を覚悟していたはずなのに、なぜか周囲の反応がおかしい。
父である魔王は超美形で娘に激甘。
魔族たちは命がけで守ってくる。
さらに人間側の勇者や王子、騎士までもが、次々と私に惹かれていき――。
どうやら私は、世界一の美貌を持って生まれてしまったらしい。
恐れられるはずだった魔王の娘・セラフィナ・ノワールの人生は、
気づけば溺愛と恋愛フラグだらけ。
これは、
魔王の血と世界一の美貌を持つ少女が、
数多の想いの中から“運命の恋”を選ぶ、
甘くて危険な異世界恋愛ファンタジー。
主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?
玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。
ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。
これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。
そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ!
そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――?
おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!?
※小説家になろう・カクヨムにも掲載
幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい
ゆずまめ鯉
恋愛
通勤途中、猫好きではないのに轢かれそうな黒猫をうっかり助けてしまい、死んでしまった主人公──水縞あいり(26)
鳥の囀りで目を覚ますとそこは天国……ではなく知らない天井だった。
狭い個室にはメイド服がかかっている。
とりあえず着替えて備えつけの鏡を見ると、そこには十代前半くらいの子どもの姿があった。
「この顔……どこか見覚えが……」
幼馴染みで漫画家、ミツルギサイチ(御剣才知)が描く、人気漫画「悪役令嬢が断罪されるまで」の登場人物だということに気がつく。
名前はミレア・ホルダー(本名はミレア・ウィン・ティルベリー)
没落貴族の令嬢で、現在、仕えているフランドル侯爵によって領地と洋館を奪われ、復讐のために、フランドル侯爵の長女イザベラが悪役令嬢になるのを止めず、むしろ後押しして見事断罪されてしまうキャラだった。
原作は未完だが、相談を受けていたのでどういう結末を迎えるのか知っている。
「二期アニメもまだ見てないし、どうせ転生するなら村人Aとかヒロインの母親がよかった……!!」
幼馴染みの描く世界に転生してしまった水縞あいり=ミレアが、フランドル侯爵家で断罪回避するべく、イザベラをどうにかお淑やかな女性になるように導いている途中。
病弱で原作だと生死不明になる、イザベラの腹違いの兄エミールに、協力してもらっているうちに求愛されていることに気づいてしまい──。
エミール・ディ・フランドル(20)×ミレア・ウィン・ティルベリー(18)
全30話の予定で現在、執筆中です。2月下旬に完結予定です。
タイトルや内容が変更になる場合もあります。ご了承ください。
この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!
キムチ鍋
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。
だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。
「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」
そこからいろいろな人に愛されていく。
作者のキムチ鍋です!
不定期で投稿していきます‼️
19時投稿です‼️
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる