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2章 歪みの中で出会う者たち
記憶の森、紅蓮の歌
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新たな仲間、マイを加えた一行は、次なる目的地――獣人の国リベリオへ向かっていた。
馬車は三日間、森の間を揺れながら進む。外では小鳥の声が聞こえ、葉のざわめきが夜風に混じる。しかし、車内の空気は重く、誰も口を開かない。窓の外を見つめる者、目を閉じる者、手元にある小物に触れる者。それぞれが思い思いに、内なる緊張を抱えて時間を過ごしていた。
「ねぇ、スイレン。ずっと聞きたかったんだけど……どうして、あなたは私のことを、こんなにも慕ってくれているの?」
スミレの声は控えめだが、確かな熱を帯びていた。
数日しか共に過ごしていないのに、スイレンの細やかな心遣いや視線の先に、確実に彼女への想いがあることが伝わる。
シュンも、口を開いた。
「俺も、思ってた。姉上と長く過ごしていたから、良いところは知ってる。でも……最近会ったばかりのあなたが、なぜ……」
――“あなた”という言葉に、スイレンの瞳が一瞬揺れた。
スイレンは深く息を吸い、遠い記憶を呼び起こすように口を開いた。
◆
森の奥深く、夜の闇に沈む木々の間で。スイレンたちは反逆者として王国の追手に追われていた。
父と離れ、一人になったスイレンの心臓は耳に響き、手足は震え、冷たい夜風が頬を刺す。足元の落ち葉の音が、自分の不安を増幅させる。
「はぁ、はぁ……」
小刻みに体を震わせながら、必死で前へ進む。
追手の気配が近づくたび、胸の奥が凍る。魔法はまだ未熟で、確実に敵を足止めできるわけではない。逃げ場はない――焦燥と恐怖が絡み合う。
「蒼バラの森!」
紙を空に舞わせると、青いバラが雨のように降り注ぎ、追手の足を絡め取る。
「今のうちに……!」
逃げようとするも、その魔法は瞬時に破られ、足止めは叶わない。
「くっ……どうすれば……」
背後からぶつかり、ドサッと音を立てて転倒する。
「あっ……」
振り向く間もなく、追手の影が迫る。
心臓が喉にまで跳ね上がる。――絶望の中、少女の声が響いた。
「なぜ、魔人族が魔人族を?」
車いすに座った小さな少女が、夜の森に立っていた。
「おっ! 女神族じゃないか。一緒に殺せ!!」
(――関係のない子を巻き込んでしまった……)
胸が締め付けられ、手が震える。
その少女の口から信じられないほど強く、そして美しい歌声が流れ出す。
『焔よ、紅蓮に咲き誇れ
傷だらけの翼を焦がし
破れた運命を塗り替え
この手で未来を取り戻す
散ること恐れず、咲き誇れ
私は、紅蓮の華』
弱々しい体から溢れ出る圧倒的な力。
スイレンは、思わず目を見開き、全身の力が引き寄せられるように感じた。
(――この子を、絶対に守る……!)
その直後、アイビスが慌てて駆けつけ、スイレンを連れ去る。
振り返ると、少女は小さな体で静かに立っていた。
胸が痛む。巻き込んでしまった――守るべき者を危険に晒した罪悪感が、胸の奥で燃え上がる。
「あの子……知ってるの?」
「もちろんだ。お前の三つ子の姉だ。よく似ているだろう?」
◆
「そっか……あの時の子はスイレンだったんだね」
スミレの声に、スイレンは少し嬉しそうに微笑む。
「覚えてるの?」
「もちろん。あの時、どこか懐かしい感覚があったんだ。妹だから……なんだね」
スミレの頬が自然に緩む。
その笑顔に、シュンが思わずぶっきらぼうに訊ねた。
「俺とお前、どっちが先に生まれたんだ?」
「私」
フッと笑うスイレンに、シュンは舌打ち。
しかし周囲はそのやり取りに笑い、和やかな空気が広がる。
こうして旅の序盤に束の間の休息が訪れた。
だが、リベリオへの道は険しい。困難を知っている者たちにとって、今の穏やかな時間は、未来への力を蓄える貴重なひとときだった。
そしてスイレンの胸の奥には、あの少女を巻き込んでしまった罪悪感と、守る覚悟が静かに燃え続けていた。
馬車は三日間、森の間を揺れながら進む。外では小鳥の声が聞こえ、葉のざわめきが夜風に混じる。しかし、車内の空気は重く、誰も口を開かない。窓の外を見つめる者、目を閉じる者、手元にある小物に触れる者。それぞれが思い思いに、内なる緊張を抱えて時間を過ごしていた。
「ねぇ、スイレン。ずっと聞きたかったんだけど……どうして、あなたは私のことを、こんなにも慕ってくれているの?」
スミレの声は控えめだが、確かな熱を帯びていた。
数日しか共に過ごしていないのに、スイレンの細やかな心遣いや視線の先に、確実に彼女への想いがあることが伝わる。
シュンも、口を開いた。
「俺も、思ってた。姉上と長く過ごしていたから、良いところは知ってる。でも……最近会ったばかりのあなたが、なぜ……」
――“あなた”という言葉に、スイレンの瞳が一瞬揺れた。
スイレンは深く息を吸い、遠い記憶を呼び起こすように口を開いた。
◆
森の奥深く、夜の闇に沈む木々の間で。スイレンたちは反逆者として王国の追手に追われていた。
父と離れ、一人になったスイレンの心臓は耳に響き、手足は震え、冷たい夜風が頬を刺す。足元の落ち葉の音が、自分の不安を増幅させる。
「はぁ、はぁ……」
小刻みに体を震わせながら、必死で前へ進む。
追手の気配が近づくたび、胸の奥が凍る。魔法はまだ未熟で、確実に敵を足止めできるわけではない。逃げ場はない――焦燥と恐怖が絡み合う。
「蒼バラの森!」
紙を空に舞わせると、青いバラが雨のように降り注ぎ、追手の足を絡め取る。
「今のうちに……!」
逃げようとするも、その魔法は瞬時に破られ、足止めは叶わない。
「くっ……どうすれば……」
背後からぶつかり、ドサッと音を立てて転倒する。
「あっ……」
振り向く間もなく、追手の影が迫る。
心臓が喉にまで跳ね上がる。――絶望の中、少女の声が響いた。
「なぜ、魔人族が魔人族を?」
車いすに座った小さな少女が、夜の森に立っていた。
「おっ! 女神族じゃないか。一緒に殺せ!!」
(――関係のない子を巻き込んでしまった……)
胸が締め付けられ、手が震える。
その少女の口から信じられないほど強く、そして美しい歌声が流れ出す。
『焔よ、紅蓮に咲き誇れ
傷だらけの翼を焦がし
破れた運命を塗り替え
この手で未来を取り戻す
散ること恐れず、咲き誇れ
私は、紅蓮の華』
弱々しい体から溢れ出る圧倒的な力。
スイレンは、思わず目を見開き、全身の力が引き寄せられるように感じた。
(――この子を、絶対に守る……!)
その直後、アイビスが慌てて駆けつけ、スイレンを連れ去る。
振り返ると、少女は小さな体で静かに立っていた。
胸が痛む。巻き込んでしまった――守るべき者を危険に晒した罪悪感が、胸の奥で燃え上がる。
「あの子……知ってるの?」
「もちろんだ。お前の三つ子の姉だ。よく似ているだろう?」
◆
「そっか……あの時の子はスイレンだったんだね」
スミレの声に、スイレンは少し嬉しそうに微笑む。
「覚えてるの?」
「もちろん。あの時、どこか懐かしい感覚があったんだ。妹だから……なんだね」
スミレの頬が自然に緩む。
その笑顔に、シュンが思わずぶっきらぼうに訊ねた。
「俺とお前、どっちが先に生まれたんだ?」
「私」
フッと笑うスイレンに、シュンは舌打ち。
しかし周囲はそのやり取りに笑い、和やかな空気が広がる。
こうして旅の序盤に束の間の休息が訪れた。
だが、リベリオへの道は険しい。困難を知っている者たちにとって、今の穏やかな時間は、未来への力を蓄える貴重なひとときだった。
そしてスイレンの胸の奥には、あの少女を巻き込んでしまった罪悪感と、守る覚悟が静かに燃え続けていた。
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