月影の剣士と白き竜の約束 〜滅びの王国をめぐる旅〜

usako

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第8話 騎士団との遭遇

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灰冠の山を越えた先に、広大な平原が広がっていた。風が草を波のように揺らし、遠くに白い城壁が陽を弾いて輝いている。王都ルディアン――かつて王国の中心だった場所。だが近づくにつれて、城壁の上に黒い旗が翻っているのが見えた。王の紋ではない。代わりに刻まれたのは、黒い月と竜の影。リオンの背筋に嫌な寒気が走る。

「まさか……王都は占拠されてるのか?」カイルが額に手をかざして呟いた。  
リナが険しい顔をして頷く。「影の王の印……噂は本当かもしれない。王都内部で“黒月騎士団”が動いている。」  
「黒月騎士団?」  
「王国が滅びる直前、亡き王の命に逆らい、竜の力を封じようとした裏切りの騎士団よ。滅びたはずなのに……誰かが復活させたのね。」

三人は山を下りながら、街道沿いの小さな宿場に入った。荒野の風に削られた木製の看板が音を立て、旅人の姿はまばらだ。宿屋の主人は小柄な老人で、疲れた表情をしていた。  
「王都へ行くのかい?やめときな。黒い鎧を着た連中が城門を封鎖してる。入ろうとした旅人は全員、消息を絶った。」  
カイルは銅貨を一枚渡して訊ねた。「彼らは何者だ。王都を乗っ取って何をする気だ?」  
「知らんよ。ただ最近は、月が赤く見える夜になると、城の上から竜のような鳴き声が聞こえるって話だ。」  

リオンは拳を握った。心臓が妙に熱を帯びている。竜――白竜の記憶が微かに疼く。シェリアが何かを訴えているような気配がした。  
「行くしかないな。避けて通るわけにいかない。」  
「まったく、無茶ばかりだ。」カイルが苦笑し、リナは杖を握り直した。「でも今度は私も戦う。影の気配が強い。おそらく王都に滅びの力が封じられている。」

翌日、三人は町を出て王都へ向かった。道中、焦げた村、崩れた街道、そして黒い鎧の兵の姿が点々と見える。彼らは規則的に巡回しており、まるでこの地全体を監視しているようだ。  
「ここまで組織だった動き……普通の盗賊団じゃないな。」カイルが低く呟く。  
リナは冷たい声で言った。「“影の契約”を繰り返そうとしているのかもしれない。滅びを再現する儀式――邪法に近い。」  

やがて、城門を見渡せる丘にたどり着いた。黒月騎士団の兵たちが列を成し、城門前を封鎖している。槍の先が月光を受けて鈍く光った。斬りかかるわけにはいかない。正面突破は自殺行為だ。  
リオンが地を見つめながら呟く。「別の入口を探す。」  
「裏門があるはずだ。」カイルが北側の森を指した。「昔の戦で使われた抜け道がある。王城に仕えていた知人から聞いたことがある。」

夕刻、森の陰に潜み、彼らは夜を待った。リナが焚き火に指をかざし、低く唱える。「風よ、我らを包み、影に溶けよ。」灯りがふっと弱まり、三人の姿が薄れる。彼女の魔法で気配が隠れるのだ。  
「便利だな、その魔法。」カイルが笑う。  
「無駄口叩かないで。集中が途切れるわ。」リナは冷たく言うが、その頬はかすかに赤く染まっていた。  

夜になり、王都の城壁が青白く照らされた。空に浮かぶ半月の下、黒月騎士団の巡回が交差している。リオンたちは音を立てずに森を抜け、古い石造りの壁の影までたどり着いた。その時、鉄の靴音が近づく。  
「隠れろ!」カイルが小声で言い、三人は石の陰に身を潜めた。黒鎧の騎士が数人、松明を持って通り過ぎていく。鎧の隙間から漏れる赤い光が不気味に揺れていた。  

「滅びの王は近い」  
「儀式は三日後だ。王の魂を呼び覚ます。黒竜を解き放たねば……」  
「王の魂……?」リオンの鼓動が止まる。一瞬、頭の奥で激しい痛みが走った。断片的な記憶の中で、燃える玉座、膝をつく兵士たち、そして黒い竜の影を見た。  

「リオン、大丈夫?」リナが腕を支える。  
「平気……ただ、思い出した。黒竜は俺の――“もう一つの竜”だ。」  
「どういう意味だ?」カイルが眉をひそめる。  
「滅びの王ルシエルには二体の竜が仕えていた。白竜シェリアと、黒竜ヴェルト。白は光、黒は死を司る。王国滅亡の夜、ルシエルは黒竜を制御できず、王国を焼いた。」  
「その黒竜が……復活するってのか。」  

会話を遮るように、遠くで鐘の音が響いた。城内から赤い光が立ち上り、空を染めた。騎士たちが一斉に走り出す。  
「始まった!」  
リオンは立ち上がった。「もう待てない、行くぞ!」  
「馬鹿、今突っ込んだら――」カイルが止める暇もなく、リオンは走り出していた。胸の奥の光が激しく脈打つ。「今、誰かが黒竜を呼び覚まそうとしてる。止めなきゃ……!」

リオンが城門近くまで駆け寄ると、闇の中から騎士が現れた。黒い槍が閃き、彼の行く手を塞ぐ。  
「滅びの王よ。ようやくお出ましか。」  
声の主は銀髪の男だった。黒月騎士団を率いる将、リゼルと呼ばれる人物。碧眼が鋭く光る。  
「お前が“滅びの血”を継ぐ者だな。王の魂は我らが手で完全に甦る。」  
「そんなことはさせない!」  
リゼルが笑う。「では確かめよう。千年前に果たせなかった戦いを――今、この手で。」

リゼルの槍が走り、リオンは短剣で受けた。衝撃が爆ぜ、金属が火花を散らす。数合の応酬ののち、リオンの刃が光を帯びた。白竜の気配が背に立つ。  
「シェリア、力を!」  
光が爆ぜ、リゼルの槍を弾き飛ばす。だが男はすぐに体を回転させ、踵でリオンの腹を蹴り飛ばした。  
「見事だ。だが、まだ浅いな。王の力も竜の加護も、我らの黒月の前では霞む。」  
リゼルが槍を天へ掲げると、空気が震えた。黒い魔法陣が城上空に現れ、炎柱が立ち上る。  
リナとカイルが駆け寄ろうとするが、幻影の壁が二人を弾き返した。  

「リオン!」リナの叫びが響く。  
光と闇がせめぎ合う中、リオンは膝をつきながら顔を上げた。  
「シェリア……見せてくれ。王ではなく、人として戦う力を!」  
短剣が眩く輝く。蒼い光が夜を裂き、天を貫いた。黒い陣が弾け、リゼルが一瞬、目を見開く。  
「この光……契約の証か!」  

衝突の閃光。その余波が街を照らす。騎士たちがざわめき、城の上の黒月の旗が焦げ、破れた。  

リゼルは剣を収め、唇を歪めた。「面白い。今は退こう。だが次は、“黒竜”と共に迎え撃つ。」  
そう言い残し、男の体は霧となって消えた。  

残されたリオンは膝をつき、蒼い光が手の中で淡く揺れた。  
「黒竜ヴェルト……必ず止めてみせる。」  
リナが駆け寄り、カイルが息を整えながら笑った。「ほんと無茶ばかりだな。」  
リオンは疲れたように微笑んだ。「でも、ようやく見えた……滅びの輪の中心が。」

遠く、城の奥から低い咆哮が響いた。まるで巨大な獣が目を覚ますように。  
空の月が赤く染まり、風が吹き荒れる。  

「間に合うか……」リオンは剣を握りしめ、燃える王都の方を見据えた。  
影と光がまもなく、再びぶつかり合う。  

(続く)
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