半月の探偵

山田湖

文字の大きさ
6 / 53
第一夜 再び登る半月

夢幻の図書館

しおりを挟む
 ……佐倉洋子は犯人には間違いない。
 
 ただ、まだ逮捕するには証拠が足りない。
 警察の調べだと、ミネラルウォーターには毒が入っていて、それを飲んで、夫の佐倉健は死に至った。
 そしてその時、妻は買い物に出ていた。もう一度家に戻ってから殺すこともできるがリスクが大きい。
 彼は家に帰ってからもこの事件の全てが書かれた手帳を見ながらずっと考え続けた。
 時計の単針は数字を二つまたぐ。

 その手帳を見た時に夫の部屋の本を思い出した。確か、あの作者の書いた本なら3冊は持っていたはずだと。自分の家の本棚から本を引っ張り出し、何となく読んでいると、あるページが目に入った。
 森を飛び回っている小さな昆虫を捕まえる方法だ。衝突板を使った罠で、森にプラスチックの板を設置し、飛び回っている昆虫がその板に衝突し、下にある箱の中に落ちる。その箱にはエタノールが入っているのだ。
 

 それを見た瞬間、彼は目を見開いた。
 誰もいない時に毒を飲ませる方法、恐らくそれは……。

「違う、毒はミネラルウォーターに入っていたんじゃない」

 それに気付いた時、目の前に黒い霧のようなものがあるのがわかった。その霧は彼の意識を飲み込んだ。
 次に目を見開いた瞬間、それが鍵となったかのように轟音を立てながら、そして金色の光を出しながら、本棚が形成されていき、本も形作られた。横を見ると机や椅子、彼の万年筆まで形成されていた。それを確認し、彼は推理を開始した。この感覚を味わうのも久しぶりだった。
「多分、毒が仕掛けられた場所ミネラルウォーターじゃない。湿だ。犯人はフグの肝臓を手袋やマスクをしたうえでミキサーにかけた。フグ毒レベルの強い毒だったら水に入れて薄まることも考えて2~3匹用意すれば十分なはず。それに加湿器だったとしたら水槽の中のめだかが全滅したことも納得できる。餌の消費期限は、3日後になっていたから世話はしっかりされていた。だけど加湿器から飛んだテトロドトキシンは、水槽の中に落ち、全滅したんだ」
 彼の周りには本が飛び交い、そして推理を助けるであろうページを自動的にめくってくれた。万年筆も自動的に動き、紙に文字を刻む。

「テトロドトキシンの毒の効果が出るのは摂取してから4~6時間なはず。まず、部屋の天井以外をビニールシートで覆い、加湿器のタイマーをセットして、自分が買い物に行っている間に加湿器を動かし毒を散布する。この時、加湿器の風向きを上に設定して、エアコンを同時に作動させておけば蒸気は、天井を塗装している被害者の方へと飛んでいくはず。部屋いっぱいに充満したら片付けは面倒だからな。……だとしたらエアコンと加湿器から見て正面の方に衝突板の罠、と言ってもただ斜めにブルーシートをかけただけだろうけど、それを設置しておけば効率的に毒を含んだ蒸気の回収ができる。蒸気は水だから斜めに設置させておけば下に落ちるはずだからな。その後、夫をどこかに行かせている間に罠と壁の周りのブルーシートを片付け、加湿器も洗浄する。あの壁の跡はブルーシートを剥がした時にできたものだったんだ! 後は毒が効いて瀕死になる少し前を見計らってもう一度買い物に戻ればいい」

 だから、あんなに沢山ビニールシートが捨てられていたのだ。これが日常生活であれば、被害者は怪しむだろうが、生憎壁の塗装中だ。疑問はあるだろうが怪しむまでには至らない。
「犯人が先に壁から塗り、夫に天井をやらせたのも、加湿器とエアコンから衝突板までの間に被害者が100%いるようにしたからだろうな」

その間も万年筆は彼の推理を書き留め続ける。

「ゴミ収集の作業員が死んだのはブルーシートに付着していたテトロトドキシンを吸ってしまったからだろうな。大きめのフグ1匹だけでも10人は殺せるような猛毒だからな。そして、ミネラルウォーターに毒を入れて捜査を撹乱した。多分毒は被害者の服にも付着しただろうけどテトロトドキシンの性質を考えたらミネラルウォーターを被害者の服にかければ問題ない」

 毒の強さが今回の殺人を助けたのだ。
 

 ただ、分からないことが一つあった。
――それは毒の入手先だった。警察のサイバー犯罪対策局はそこも調べただろうが、結局証拠は出なかったらしい。


 彼はその点を徹底的に考えることにした。

 そして、取調室の一幕、そこで覚えた違和感を思い出す。


 すると、彼の推理を助けるが如く、一つの本が飛んできた。

 その本を読んだとき、彼は一つの核心――真実へとたどり着く。
「そうか、だからあの時……。これなら簡単に毒を手に入れることができる」
 全てが分かった時、万年筆によって紙に刻まれた文字が浮かび上がり、回転しながら一つの形を形作った。
 それは黄金色に光る鍵だった。

 彼はそれを指先で持って回した。まるで家のドアの鍵を回すかのように普通に。
 




 部屋のドアが音を立てながら開き、背後の図書館も塵が風に吹かれるが如く消えていく。

 この事件はここに解決した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末

松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰 第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。 本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。 2025年11月28書籍刊行。 なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。 酒と肴と剣と闇 江戸情緒を添えて 江戸は本所にある居酒屋『草間』。 美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。 自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。 多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。 その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。 店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...