半月の探偵

山田湖

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第二夜 金の軍団

放送と予兆

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 隣で殺人事件があった2週間後。その日、彼の家には彼の友人2人が来ていた。
「さーてと、一狩り行きますか」
「とりあえず、ラージャンはいっときたくね?」
 彼と坂上純はコントローラーを手にテレビに向き合っていた。二人の手はこれから始まる長期戦への興奮で汗ばんでいる。

「おーい。紅茶入れてきたぞ」と五十嵐洋介がトレイを手に部屋へ入ってくる。トレイの上には紅茶と洋介が持ってきたお持たせのシフォンケーキが乗っている。どうやらシフォンケーキは洋介の手作りらしい。

「オー、待ってました」と彼と洋介は傍らのフォークを無視し手づかみでケーキを食べる。瞬間、彼らの口内にスポンジの甘みと紅茶の香りが押し寄せる。
「うんま!!」
「……野蛮人共め。あーそういえば匠、最近あいつとはどうなんだ?」
 あいつ、というフレーズが出た途端、ぐるんという音が出てもおかしくない速度で彼は洋介の方に顔を向ける。意識がコントローラーから洋介の方に向き、純との連携が崩れた。「ああ、おいっ」と純から声が上がるが関係ない。あいつ、とは彼と同じクラスの女子生徒の事だ。
「いやさーこの前数学教えてって言われて教えてたじゃん。あれ、絶対お前の事すきだぜ?」
「え、まじ!!? いやーでもまあ、ねえ。……ねえ?」
「まあ、楽しめや。命短し恋せよ乙女だ」
 洋介が彼の肩をポンポンとたたきながら耳元で囁くようにして言う。その顔は「むふふ」という擬音が合いそうなゲス顔だ。
「いざ、ベットを共にする時、お前が毎晩見てるコレクションの中の女の人たちと同列に考えたらがっかりするって、体験談に書いてあったぞ」
「ん? コレクション?」
「そーそ。大量に隠し持ってんだろ? 公園とかから拾ってきたやつ。あのお前の部屋の鍵付きの部屋に」
「んんん?」

 すると、洋介と彼の会話のタイミングを縫うが如く、「現在、詐欺事件が多発しております。区民の皆様は……」と放送が聞こえてきた。窓を閉めても聞こえてくる。
「うるせえーー! 今いいとこなんだ」とその放送を流した人がいたらビックリするであろう大声で純が叫んだ。
「そういうとこ直せば普通にモテるのにな」と彼は半分呆れながら言った。純は別に顔立ちは悪くない。3枚目俳優という部類に入って来るのではなかろか。









 それから2時間後、二人が帰った後、彼の携帯が着信音とともに震えた。
 見ると、白谷からメールで
「大規模盗難が発生した。なんの前触れもなく3件の銀行口座から計8000万円が消えたらしい。至急協力頼む」と来ている。
 件数こそ3件であるものの8000万円とはかなりの大金である。そして、なんの前触れもないとは。
 普通で有れば刑事局が詐欺で動くことはない。これは相当大規模な事件になるに違いないと彼は読み、灰色のコートを羽織って警視庁に向かった。


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