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太陽りんご
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「瑠夏見て?」
瑠夏は綾香の指差す先を追う。少し古ぼけた一軒家の塀を越えて木が伸び出していた。
「……りんごの木ね。珍しくも何ともないわ」
「でも今は4月よ? 時期が早すぎるわ」
「そうなの、詳しいのね」
瑠夏はどうでも良さげにスマホに視線を落とす。画面にはネットの記事が映っており、「とっても甘い太陽りんご!」というタイトルがデカデカあった。
たまたまその画面を開いた瑠夏はスマホを綾香に見せながら、
「もしかしてこれじゃない? いつでも出来るみたいよ」
「ほんとだわ! これよこれ!」
「あっちょっと!」
まじまじと画面を見つめる綾香は、突然瑠夏からスマホを奪い取る。奪い取ったスマホと目の前の真っ赤なりんごを見比べて、跳ねるように大声を上げた。
「太陽りんごは太陽に当たると甘さが強くなって、大きさも増すんですって!」
「じゃあ、これも大きくなるの?」
「そう、そうみたいね」
記事を興奮気味に読み上げる綾香に、瑠夏は冷静に尋ねる。スマホを取られた怒りよりも、やれやれという呆れが強くなっていた。
「じゃあ、そろそろスマホ、返してくれる?」
「あっ、ごめんごめん。はい」
手のひらを差し出した瑠夏に、綾香は軽く謝りながらスマホを手渡す。
「もういいわね? そろそろ行かないと間に合わないわ」
手渡されたスマホの時刻を確認しながら、瑠夏がそう言った。
「あっほんとだわ! 早く行きましょう!」
「あっ、ちょっと待って!」
綾香は調子のいいことに瑠夏の手を引いて走り出す。瑠夏はモツれる足を上手くバランスをとって着いていく。
「ほら、早くして瑠夏! 映画始まっちゃうわ!」
5月になって二人が太陽が強くなってきた道を歩いていると、
「見て瑠夏! 前より大きくなってるわ!」
「ほんとね。一ヶ月でこんなに大きくなるものなのかしら? それに赤すぎるわ、赤過ぎて目がチカチカする」
「それはわかんないけど……これは太陽リンゴだからそういうこともあるわよ」
綾香がそう言った瞬間、強い突風が二人の間をすり抜けるように突き抜けた。
綾香のスカートが翻り、瑠夏は帽子を両手で押さえた。
「あぶない、飛ばされるところだったわ」
瑠夏は帽子を被り直しながら、ふうと息を吐いた。
「パンツ見えるところだったー」
綾香はスカートを叩きながら、そうぼやいた。
風が和らいで、二人が落ち着いた時に、ハッと気づく。
リンゴが落ちそうになっている。
茎と枝がまるで千切れかけの縄のように危ういバランスを保っている。
「あれ、やばいよね」
「そうだけど……私たちにはどうしようもできないわ」
瑠夏がそう言い終わった瞬間、ぶちっという音を立ててリンゴがぼとりと落ちる。
「どっどうする?」
「このまま置いとくと腐ると思うわ。敷地に落ちたなら家の人がどうにかしたんでしょうけど……」
「そうだよね……そうだ!」
二人でどうするか悩んでいると、急に綾香が何か思いついたように顔を上げた。
「……? どうしたの?」
瑠夏が首を傾げながら尋ねると綾香がまるでいい考えだと言わんばかりに、
「持って帰って食べましょう!」
「え?」
二人は周囲に誰もいないことを確かめながら、リンゴを手に取って走り出した。二人とも悪いことかも、と思いながらも太陽りんごの味が気になっていた。
駅の近くにある瑠夏の家を息も絶え絶えに滑り込む。
「じゃあ、それ洗って切りましょうか」
「うん!」
リビングへ入り、息を整えた瑠夏がリンゴを綾香から取り上げて水道を蛇口を捻る。
その間に綾香が包丁を取り出して、準備もできた。
二人ともどんな味がするのかと興味津々で目を輝かせて、リンゴを切った。
「えっなにこれ?」
綾香が目を丸くする。瑠夏も同じように目を丸くしながらも、嫌悪感を剥き出しにした。
「これ、虫だよね」
「……そうね、虫食い状態だわ」
満を持して刃を入れた太陽りんごの中は穴だらけで、芋虫のような虫が居座っていた。
瑠夏は今までの期待と不安が一気に解消されたせいでただ呆然と立ち尽くすだけだった。
「あー! 私の太陽りんごがぁー!!」
隣で綾香が叫んでいたが、何を叫んでいたかは覚えていなかった。
後で見た記事によると、甘過ぎてちゃんと管理しないと虫が湧くらしい。
瑠夏は綾香の指差す先を追う。少し古ぼけた一軒家の塀を越えて木が伸び出していた。
「……りんごの木ね。珍しくも何ともないわ」
「でも今は4月よ? 時期が早すぎるわ」
「そうなの、詳しいのね」
瑠夏はどうでも良さげにスマホに視線を落とす。画面にはネットの記事が映っており、「とっても甘い太陽りんご!」というタイトルがデカデカあった。
たまたまその画面を開いた瑠夏はスマホを綾香に見せながら、
「もしかしてこれじゃない? いつでも出来るみたいよ」
「ほんとだわ! これよこれ!」
「あっちょっと!」
まじまじと画面を見つめる綾香は、突然瑠夏からスマホを奪い取る。奪い取ったスマホと目の前の真っ赤なりんごを見比べて、跳ねるように大声を上げた。
「太陽りんごは太陽に当たると甘さが強くなって、大きさも増すんですって!」
「じゃあ、これも大きくなるの?」
「そう、そうみたいね」
記事を興奮気味に読み上げる綾香に、瑠夏は冷静に尋ねる。スマホを取られた怒りよりも、やれやれという呆れが強くなっていた。
「じゃあ、そろそろスマホ、返してくれる?」
「あっ、ごめんごめん。はい」
手のひらを差し出した瑠夏に、綾香は軽く謝りながらスマホを手渡す。
「もういいわね? そろそろ行かないと間に合わないわ」
手渡されたスマホの時刻を確認しながら、瑠夏がそう言った。
「あっほんとだわ! 早く行きましょう!」
「あっ、ちょっと待って!」
綾香は調子のいいことに瑠夏の手を引いて走り出す。瑠夏はモツれる足を上手くバランスをとって着いていく。
「ほら、早くして瑠夏! 映画始まっちゃうわ!」
5月になって二人が太陽が強くなってきた道を歩いていると、
「見て瑠夏! 前より大きくなってるわ!」
「ほんとね。一ヶ月でこんなに大きくなるものなのかしら? それに赤すぎるわ、赤過ぎて目がチカチカする」
「それはわかんないけど……これは太陽リンゴだからそういうこともあるわよ」
綾香がそう言った瞬間、強い突風が二人の間をすり抜けるように突き抜けた。
綾香のスカートが翻り、瑠夏は帽子を両手で押さえた。
「あぶない、飛ばされるところだったわ」
瑠夏は帽子を被り直しながら、ふうと息を吐いた。
「パンツ見えるところだったー」
綾香はスカートを叩きながら、そうぼやいた。
風が和らいで、二人が落ち着いた時に、ハッと気づく。
リンゴが落ちそうになっている。
茎と枝がまるで千切れかけの縄のように危ういバランスを保っている。
「あれ、やばいよね」
「そうだけど……私たちにはどうしようもできないわ」
瑠夏がそう言い終わった瞬間、ぶちっという音を立ててリンゴがぼとりと落ちる。
「どっどうする?」
「このまま置いとくと腐ると思うわ。敷地に落ちたなら家の人がどうにかしたんでしょうけど……」
「そうだよね……そうだ!」
二人でどうするか悩んでいると、急に綾香が何か思いついたように顔を上げた。
「……? どうしたの?」
瑠夏が首を傾げながら尋ねると綾香がまるでいい考えだと言わんばかりに、
「持って帰って食べましょう!」
「え?」
二人は周囲に誰もいないことを確かめながら、リンゴを手に取って走り出した。二人とも悪いことかも、と思いながらも太陽りんごの味が気になっていた。
駅の近くにある瑠夏の家を息も絶え絶えに滑り込む。
「じゃあ、それ洗って切りましょうか」
「うん!」
リビングへ入り、息を整えた瑠夏がリンゴを綾香から取り上げて水道を蛇口を捻る。
その間に綾香が包丁を取り出して、準備もできた。
二人ともどんな味がするのかと興味津々で目を輝かせて、リンゴを切った。
「えっなにこれ?」
綾香が目を丸くする。瑠夏も同じように目を丸くしながらも、嫌悪感を剥き出しにした。
「これ、虫だよね」
「……そうね、虫食い状態だわ」
満を持して刃を入れた太陽りんごの中は穴だらけで、芋虫のような虫が居座っていた。
瑠夏は今までの期待と不安が一気に解消されたせいでただ呆然と立ち尽くすだけだった。
「あー! 私の太陽りんごがぁー!!」
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