4 / 4
性格の悪いシャーペン
しおりを挟む
大学の講義の最中、教壇で教授が長々とつまらない話をマイクに語りかけていた。席の右側の中央に陣取る僕は、ふと左のせきを眺めた。スマホを触る奴に、舟を漕いでいる奴、真面目に聞いてる奴はほとんどいない。
僕は自分で言うのもなんだか真面目な方だ。だから、周囲と違って教授の発言をメモしようとレジェメに視線を落としながら、右手でペンケースの中を漁る。
その時、どこからか急に、
「おい、こっち見ろボウズ。ワイの方を見んかい」
おそらく関西弁だろうと思う、荒々しい大きな声が聞こえてきた。
「………………!」
僕は突然の大声に身体をびくつかせ、周囲をキョロキョロと見渡す。けれど、周りは何も聞こえていないかのようにいつも通りだ。
僕は首を傾げて、気のせいかと再度レジェメに視線を落とそうとして、
「おいボウズ! こっちやゆうとるやろ!」
またしても同じ声が鼓膜に響いてくる。僕は気のせいじゃないと周囲を再び見渡して、足元に一本のシャーペンが落ちていることに気がついた。
僕はさっき落としたのかなとシャーペンを拾い上げようとして指先が触れた瞬間、
「そうやボウズ、やっと気づいたか」
「うわぁ!!」
シャーペンが手から溢れた。その反動で後頭部が机の下にぶつかる。ガンッという鈍い音に、周囲の視線が集まってくるのを感じた。
「そこの君、何かあったのかね」
「え、いやいや、なんでもないです! すみません」
教授に話しかけられて、慌てて謝る。周りのなんだコイツという目つきに僕は俯いた。
そんな僕を気にした様子もなく、
「おいボウズ、大丈夫か?」
相変わらず大きな声で、僕に話しかけてくる何か。ここまで来れば鈍い僕でも流石にわかる。
シャーペンが話しかけてきていたのだ。
僕は信じきれない気持ちと共に、非日常を体験してワクワクした心持ちだった。
「ぼっ僕は大丈夫です。……あっあのあなたは?」
僕は左手でシャーペンを隠しながら、小声で話しかけた。
「ワイか? ワイはシャーペンや。よろしゅうなボウズ」
このシャーペンは自分のことはなんの捻りもなくシャーペンと名乗った。その堂々した名乗りに僕は思わず口を開けて、本当に喋ったと心の中で呟いた。
「それにしてもボウズ。この講義つまらんのお。真面目に聞かんくてもええやろ?」
「ええっ?」と煽ってくるシャーペンに僕は、
「でっでも、お金払ってるし……」
学費を親に払ってもらっている僕は、真面目にしたほうがいいと一般論を語る。が、シャーペンは「はぁっ」盛大にため息をつき、
「おいボウズ、そんなんやからお前はモテへんねん。大学生ならぱあっと遊べ、ぱあっと!」
シャーペンは微動だにせず声だけは陽気だ。もしこのシャーペンが人だったなら、大きく腕を広げていることだろう。
「でっでも、留年したくないし……」
「任しとき」
「えっ?」
「だから、任せときゆうたんや」
いったいシャーペンに何を任せろというのだろうか。そんな僕の気持ちに気づいたのか、シャーペンは疑問に答えるように、
「ボウズ、ワイを持ってみい」
「うっうん」
僕は言われるがままにシャーペンを手に持つ。すると、シャーペンを持つ右手がまるで意志を持ったようにスラスラと動き出した。
「…………!」
勝手に動く右手を不気味に思いながらも、書かれた内容に目を見開く。
「わかるかボウズ」
「うん、これ」
レジェメの空白には今聞いている内容がわかりやすく要約されていた。しかも、パソコンで打ったかのように綺麗だ。
「ボウズ、わいは役に立つやろ。テストでもレポートでも使えるで」
目には見えないけど、シャーペンがニヤリと笑ったように感じた。これがあれば僕は留年することもなく卒業できる。
「シャーペン!」
「誰がシャーペンやねん。さん、な」
ドスの効いた声音だったが、僕は興奮のあまり気にならない。
「シャーペンさん!」
「――それでええんや」
あまりにも素直に頷く僕に、シャーペンさんは戸惑ったようだった。
教授の話を聞き、勝手に動く手を眺めるだけ。それだけで内容が要約されてわかりやすいものになる。これがあればテストだって簡単だ。
「では、今日はここまでです。お疲れ様でした」
教授が壇上から降りた。周囲が騒がしくなり、生徒が一斉に立ち上がり始める。
「どや?」
手元のシャーペンさんがニヤニヤとした声音で問いかけた。
「すごいですよ! これがあれば僕は――」
テストでは無双できると言いかけた瞬間、それはやってきた。
「――――――――!」
右小指に激痛が走る。指がのけぞっているような鋭い痛みに、思わず左手で押さえる。
「はは」
「……?」
シャーペンさんの声がする。が、痛みでそれどころでない。彼の声が遠い。けど次の瞬間にははっきりと、
「はははっーー! 自分おもろいわぁーー!」
ゲラゲラと嘲るように笑うシャーペンさん。僕によくしてくれた彼からは考えられないような悪意のある声。
「シャーペンさん……?」
「はははっ! お前、ワイみたいな便利なの、何の代償もなく使えると思ったんか? 甘いわー」
「…………」
捲し立てる彼に、自然と口が開いていく。それから彼はこう言った。
「ワイはな。使うと小指がつるシャーペンなんや。お前みたいな痛がってる奴を見るのが楽しくてのぉ」
ワハハと悪役のように哄笑を上げるシャーペンさん。僕はその笑い声を聞きながら、激痛に悶えるのだった。
僕は自分で言うのもなんだか真面目な方だ。だから、周囲と違って教授の発言をメモしようとレジェメに視線を落としながら、右手でペンケースの中を漁る。
その時、どこからか急に、
「おい、こっち見ろボウズ。ワイの方を見んかい」
おそらく関西弁だろうと思う、荒々しい大きな声が聞こえてきた。
「………………!」
僕は突然の大声に身体をびくつかせ、周囲をキョロキョロと見渡す。けれど、周りは何も聞こえていないかのようにいつも通りだ。
僕は首を傾げて、気のせいかと再度レジェメに視線を落とそうとして、
「おいボウズ! こっちやゆうとるやろ!」
またしても同じ声が鼓膜に響いてくる。僕は気のせいじゃないと周囲を再び見渡して、足元に一本のシャーペンが落ちていることに気がついた。
僕はさっき落としたのかなとシャーペンを拾い上げようとして指先が触れた瞬間、
「そうやボウズ、やっと気づいたか」
「うわぁ!!」
シャーペンが手から溢れた。その反動で後頭部が机の下にぶつかる。ガンッという鈍い音に、周囲の視線が集まってくるのを感じた。
「そこの君、何かあったのかね」
「え、いやいや、なんでもないです! すみません」
教授に話しかけられて、慌てて謝る。周りのなんだコイツという目つきに僕は俯いた。
そんな僕を気にした様子もなく、
「おいボウズ、大丈夫か?」
相変わらず大きな声で、僕に話しかけてくる何か。ここまで来れば鈍い僕でも流石にわかる。
シャーペンが話しかけてきていたのだ。
僕は信じきれない気持ちと共に、非日常を体験してワクワクした心持ちだった。
「ぼっ僕は大丈夫です。……あっあのあなたは?」
僕は左手でシャーペンを隠しながら、小声で話しかけた。
「ワイか? ワイはシャーペンや。よろしゅうなボウズ」
このシャーペンは自分のことはなんの捻りもなくシャーペンと名乗った。その堂々した名乗りに僕は思わず口を開けて、本当に喋ったと心の中で呟いた。
「それにしてもボウズ。この講義つまらんのお。真面目に聞かんくてもええやろ?」
「ええっ?」と煽ってくるシャーペンに僕は、
「でっでも、お金払ってるし……」
学費を親に払ってもらっている僕は、真面目にしたほうがいいと一般論を語る。が、シャーペンは「はぁっ」盛大にため息をつき、
「おいボウズ、そんなんやからお前はモテへんねん。大学生ならぱあっと遊べ、ぱあっと!」
シャーペンは微動だにせず声だけは陽気だ。もしこのシャーペンが人だったなら、大きく腕を広げていることだろう。
「でっでも、留年したくないし……」
「任しとき」
「えっ?」
「だから、任せときゆうたんや」
いったいシャーペンに何を任せろというのだろうか。そんな僕の気持ちに気づいたのか、シャーペンは疑問に答えるように、
「ボウズ、ワイを持ってみい」
「うっうん」
僕は言われるがままにシャーペンを手に持つ。すると、シャーペンを持つ右手がまるで意志を持ったようにスラスラと動き出した。
「…………!」
勝手に動く右手を不気味に思いながらも、書かれた内容に目を見開く。
「わかるかボウズ」
「うん、これ」
レジェメの空白には今聞いている内容がわかりやすく要約されていた。しかも、パソコンで打ったかのように綺麗だ。
「ボウズ、わいは役に立つやろ。テストでもレポートでも使えるで」
目には見えないけど、シャーペンがニヤリと笑ったように感じた。これがあれば僕は留年することもなく卒業できる。
「シャーペン!」
「誰がシャーペンやねん。さん、な」
ドスの効いた声音だったが、僕は興奮のあまり気にならない。
「シャーペンさん!」
「――それでええんや」
あまりにも素直に頷く僕に、シャーペンさんは戸惑ったようだった。
教授の話を聞き、勝手に動く手を眺めるだけ。それだけで内容が要約されてわかりやすいものになる。これがあればテストだって簡単だ。
「では、今日はここまでです。お疲れ様でした」
教授が壇上から降りた。周囲が騒がしくなり、生徒が一斉に立ち上がり始める。
「どや?」
手元のシャーペンさんがニヤニヤとした声音で問いかけた。
「すごいですよ! これがあれば僕は――」
テストでは無双できると言いかけた瞬間、それはやってきた。
「――――――――!」
右小指に激痛が走る。指がのけぞっているような鋭い痛みに、思わず左手で押さえる。
「はは」
「……?」
シャーペンさんの声がする。が、痛みでそれどころでない。彼の声が遠い。けど次の瞬間にははっきりと、
「はははっーー! 自分おもろいわぁーー!」
ゲラゲラと嘲るように笑うシャーペンさん。僕によくしてくれた彼からは考えられないような悪意のある声。
「シャーペンさん……?」
「はははっ! お前、ワイみたいな便利なの、何の代償もなく使えると思ったんか? 甘いわー」
「…………」
捲し立てる彼に、自然と口が開いていく。それから彼はこう言った。
「ワイはな。使うと小指がつるシャーペンなんや。お前みたいな痛がってる奴を見るのが楽しくてのぉ」
ワハハと悪役のように哄笑を上げるシャーペンさん。僕はその笑い声を聞きながら、激痛に悶えるのだった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる