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秀抜な男性と偶発的を装った何らかの力が働いた計画的出会い。
第3話ー4
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いつからだろう。
……いつからか、ヴェルターもリティアによそよそしくなった気がした。いや、明らかにそうなった。以前はこんな風にリティアが目の前にいて目を逸らすことなどなかったのだから。
なぜ?
リティアはそう気づいた瞬間、無意識にすっと顔を上げた。そこには同じくリティアを見つめていたヴェルターの光で照らされた水面のような淡い瞳があった。ヴェルターは心の内を隠すように微笑む。
「来てくれて嬉しいよ」
昔から、ヴェルターはリティアが訪問するとこう言った。同じセリフなのに、いつから心がこもらない社交辞令になってしまったのだろうか
「……本当に? 」
ヴェルターの瞳を伺う。少し瞳を揺らし、ヴェルターは
「もちろんだ」
と、頷いた。リティアはそれ以上追及しても無意味だと、微笑みを返した。リティアもヴェルターにとっても気まずい時間を二人の関係を対外的誇示するために使う時間は居心地の悪いものだった。
「リティ、今日のドレスはいつもと雰囲気が違うね」
「ふふ、あなたもそう言ってくれるのね」
「……あなたも? 」
ヴェルターが首を傾げた。
「ええ。ここまでランハートとレオンがエスコートしてくれたの。久しぶりに会えて嬉しかった。ランハートは相変わらず思慮深いし、レオンは底抜けに明るかった。つまり、二人とも相変わらずってこと」
「確かにそうだな。他には、誰かに会った? 」
「えーっと、レオンと同じ騎士の制服を着た……そうだ、シュベリー卿」
「ああ、黒髪の」
「ええ、そう。とても、」
とても、何を言おうとしたのだろう。リティアはそこで言葉を切った。ヴェルターとリティアの間に短い沈黙が流れた。
「とても、何だい、リティ」
「とても、印象的な風貌だったわ。外国の血が流れてるのね、瞳も黒くて、シャープな顔立ちね。深い、夜のような」
じ、と黙ってリティアの話を聞くヴェルターにいたたまれなくなって考えなしに言葉を発したようだ。こういう時は取り繕おうとしてますます良くないことを言ってしまうものだ。わかっているのに繰り返す。
「あなたと真逆ね」
しまったと思った時には、ヴェルターの口角を上げただけの微笑みが残っていた。
「そうか。確かに、彼はそうかもしれないね」
言葉尻にわずかな消沈が感じられ、リティアはヴェルターが気落ちしないよう必死で彼を誉めたてた。元より、自らの言葉にヴェルターを下げる意味合いなど全くないのだから。
「単純にあなたの瞳や髪は白く、彼は黒いってことが言いたかったの。あなたが光なら彼は夜空のようで、どちらもとても素敵よ。ヴェル、あなたは今日も、いつも、すっごい素敵だわ」
いつのまにか前のめりになっていたらしく、ヴェルターは目を丸くしてリティアの勢いに体を後ろに反らしていた。ヴェルターははしばらく呆気に取られていたがくすくす笑い出した。
「ありがとう、リティ。でも大丈夫だよ。彼を見て、ハンサムじゃないなんて言う人はいないのだから」
リティアがヴェルターを褒めたのは、形の上とはいえ婚約者の前で他の男性を褒めてしまった罪悪感ゆえだと思われたのだ。リティアは顔を赤くした。
そうだ、何を勘違いしたのだろう。自分が他の男を褒めるとヴェルターが落ち込むと思っただなんて、何ておこがましいんだろう。リティアはそれに気づいて自らを恥じた。きまりわるく膝の上でもじもじと手遊びをしていると、ドアがノックされた。
「殿下、失礼します」
入って来たのは王太子付きの補佐官だった。ヴェルターは音もなく彼の前に立つ。
「マルティン・アルデモート。来客中だ」
来客の予定があっただろうかと不審な顔をするマルティンは視線の先にリティアを認めるとサッと身を屈め挨拶をした。
「これは失礼、レディ……」
慌てて立ち上がろうとしたリティアをヴェルターは手で制すとマルティンはそのまま出て行ってしまった。マルティンはアカデミー時代もその後の教育機関でも常に主席の頭脳明晰な人で、代々文官の家系で父は宰相である。だが、そうは見えない可愛らしい風貌だった。
「お忙しいのではないかしら」
ヴェルターがソファーに静かに腰を落ち着けたのを見て、リティアは伺う。
「いや、ああ、構わない」
ヴェルターはリティアの様子を確認するように視線を投げると、すっとティーカップへと視線を落とす。自然なようで不自然な仕草に、リティアは帰る旨を伝えた方がいいと思った。正直、マルティンのお陰で気まずさから逃げられると思ったのも事実だ。
「すっかり長居をしてしまいました。そろそろお暇いたします」
「……もうかい? 」
「ええ。やはり前もって連絡する方が良かったわね。アルデモート補佐官にもまともにご挨拶もせずに……」
「構わない」
ぴしゃり言われると、それ以上言えなくて、ヴェルターの顔色を窺ったが、いつもの優しい笑顔だった。
「……では」
「君の馬車を王太子宮のファサードまでつけるように侍従に言いつけよう。それまではここで待つといい」
「ええ、ありがとう」
ヴェルターはドアの外にいる侍従に馬車の手配を命じた。また少し気まずい時間が延ばされた。いつからだろうか。リティアはこの静寂の中、この沈黙が永遠に続くのではないかという錯覚にとらわれた。
「そうだ、リティ、次の君との面会は時間が取れなくなりそうでね」
ヴェルターに申し訳なさそうにそう言われたが、リティはほっとしてしまった。
「ええ、わかったわ」
リティアが了承すると、ヴェルターはいつものように微笑んだ。
……いつからか、ヴェルターもリティアによそよそしくなった気がした。いや、明らかにそうなった。以前はこんな風にリティアが目の前にいて目を逸らすことなどなかったのだから。
なぜ?
リティアはそう気づいた瞬間、無意識にすっと顔を上げた。そこには同じくリティアを見つめていたヴェルターの光で照らされた水面のような淡い瞳があった。ヴェルターは心の内を隠すように微笑む。
「来てくれて嬉しいよ」
昔から、ヴェルターはリティアが訪問するとこう言った。同じセリフなのに、いつから心がこもらない社交辞令になってしまったのだろうか
「……本当に? 」
ヴェルターの瞳を伺う。少し瞳を揺らし、ヴェルターは
「もちろんだ」
と、頷いた。リティアはそれ以上追及しても無意味だと、微笑みを返した。リティアもヴェルターにとっても気まずい時間を二人の関係を対外的誇示するために使う時間は居心地の悪いものだった。
「リティ、今日のドレスはいつもと雰囲気が違うね」
「ふふ、あなたもそう言ってくれるのね」
「……あなたも? 」
ヴェルターが首を傾げた。
「ええ。ここまでランハートとレオンがエスコートしてくれたの。久しぶりに会えて嬉しかった。ランハートは相変わらず思慮深いし、レオンは底抜けに明るかった。つまり、二人とも相変わらずってこと」
「確かにそうだな。他には、誰かに会った? 」
「えーっと、レオンと同じ騎士の制服を着た……そうだ、シュベリー卿」
「ああ、黒髪の」
「ええ、そう。とても、」
とても、何を言おうとしたのだろう。リティアはそこで言葉を切った。ヴェルターとリティアの間に短い沈黙が流れた。
「とても、何だい、リティ」
「とても、印象的な風貌だったわ。外国の血が流れてるのね、瞳も黒くて、シャープな顔立ちね。深い、夜のような」
じ、と黙ってリティアの話を聞くヴェルターにいたたまれなくなって考えなしに言葉を発したようだ。こういう時は取り繕おうとしてますます良くないことを言ってしまうものだ。わかっているのに繰り返す。
「あなたと真逆ね」
しまったと思った時には、ヴェルターの口角を上げただけの微笑みが残っていた。
「そうか。確かに、彼はそうかもしれないね」
言葉尻にわずかな消沈が感じられ、リティアはヴェルターが気落ちしないよう必死で彼を誉めたてた。元より、自らの言葉にヴェルターを下げる意味合いなど全くないのだから。
「単純にあなたの瞳や髪は白く、彼は黒いってことが言いたかったの。あなたが光なら彼は夜空のようで、どちらもとても素敵よ。ヴェル、あなたは今日も、いつも、すっごい素敵だわ」
いつのまにか前のめりになっていたらしく、ヴェルターは目を丸くしてリティアの勢いに体を後ろに反らしていた。ヴェルターははしばらく呆気に取られていたがくすくす笑い出した。
「ありがとう、リティ。でも大丈夫だよ。彼を見て、ハンサムじゃないなんて言う人はいないのだから」
リティアがヴェルターを褒めたのは、形の上とはいえ婚約者の前で他の男性を褒めてしまった罪悪感ゆえだと思われたのだ。リティアは顔を赤くした。
そうだ、何を勘違いしたのだろう。自分が他の男を褒めるとヴェルターが落ち込むと思っただなんて、何ておこがましいんだろう。リティアはそれに気づいて自らを恥じた。きまりわるく膝の上でもじもじと手遊びをしていると、ドアがノックされた。
「殿下、失礼します」
入って来たのは王太子付きの補佐官だった。ヴェルターは音もなく彼の前に立つ。
「マルティン・アルデモート。来客中だ」
来客の予定があっただろうかと不審な顔をするマルティンは視線の先にリティアを認めるとサッと身を屈め挨拶をした。
「これは失礼、レディ……」
慌てて立ち上がろうとしたリティアをヴェルターは手で制すとマルティンはそのまま出て行ってしまった。マルティンはアカデミー時代もその後の教育機関でも常に主席の頭脳明晰な人で、代々文官の家系で父は宰相である。だが、そうは見えない可愛らしい風貌だった。
「お忙しいのではないかしら」
ヴェルターがソファーに静かに腰を落ち着けたのを見て、リティアは伺う。
「いや、ああ、構わない」
ヴェルターはリティアの様子を確認するように視線を投げると、すっとティーカップへと視線を落とす。自然なようで不自然な仕草に、リティアは帰る旨を伝えた方がいいと思った。正直、マルティンのお陰で気まずさから逃げられると思ったのも事実だ。
「すっかり長居をしてしまいました。そろそろお暇いたします」
「……もうかい? 」
「ええ。やはり前もって連絡する方が良かったわね。アルデモート補佐官にもまともにご挨拶もせずに……」
「構わない」
ぴしゃり言われると、それ以上言えなくて、ヴェルターの顔色を窺ったが、いつもの優しい笑顔だった。
「……では」
「君の馬車を王太子宮のファサードまでつけるように侍従に言いつけよう。それまではここで待つといい」
「ええ、ありがとう」
ヴェルターはドアの外にいる侍従に馬車の手配を命じた。また少し気まずい時間が延ばされた。いつからだろうか。リティアはこの静寂の中、この沈黙が永遠に続くのではないかという錯覚にとらわれた。
「そうだ、リティ、次の君との面会は時間が取れなくなりそうでね」
ヴェルターに申し訳なさそうにそう言われたが、リティはほっとしてしまった。
「ええ、わかったわ」
リティアが了承すると、ヴェルターはいつものように微笑んだ。
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