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秀抜な男性と偶発的を装った何らかの力が働いた計画的出会い。
第3話ー3
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なぜだろうか、どこかで?
ぼうっと見ていたせいで挨拶が一瞬遅れてしまった。が、詳しい自己紹介は必要なかった。この国でリティアの事を知らない人はいないのだ。
「では」
「ええ、私もすぐに参ります」
シュベリー卿はすぐに行ってしまい、リティアは彼の後ろ姿を追った。そんなリティアに、レオンが耳打ちする。
「はは、リティ。彼すごくミステリアスでかっこいいだろ? 」
リティアはかぁっと頬が熱くなるのを感じた。
「そ、そんなこと。んんっ、確かに素敵だけど、見ない顔だなって思っただけ」
「ああ、何でも彼の母上が東国の出身とかで、顔立ちが異国情緒漂う、雰囲気のある人だ」
「……」
「ま、あんまり見とれないで」
からかうレオンに言い返そうかと思ったが、言い返しても彼を喜ばせるだけだと判断したリティアは別の方法を試すことにした。
「そうね、でもあなたの方が素敵よ、レオン。太陽みたいなその髪、湖みたいに済んだ瞳、皆を明るくさせる性格」
あと、何だっけな。と、リティアは考えた。その悩む仕草にレオンはこれが反撃だと察したらしい。くすくすと笑った。
「わかったよ、リティ。じゃ、本物の太陽によろしくね」
レオンは紳士とはいいがたい幼い仕草でリティアに手を振ってシュベリー卿の後を追った。
「もう、賑やかなんだから」
呆れるやら、変わらない関係にホッとするやらでリティアは微笑んだ。
それにしても、さっきの。シュベリー卿の風貌は、なぜ懐古的な気持ちにさせるのだろうか。一瞬見ただけの彼の姿を思い出しながら長い廊下を歩いた。
すらりと高い背、一つにまとめられた肩より少し長い艶やかな黒髪は青みを帯びていた。切れ長の目から見えた深黒の瞳。……ああ、確かに素敵な人だった。あんな素敵な人なら一度見たら忘れないはず。
そんなことを考えているといつのまにか王太子の執務室の前に到着していた。今までの楽しかった気持ちが少しばかり陰ったが、リティアはすうっと息を吸って気持ちを切り替えた。ヴェルターに会いに来たのだから。リティアに気づいた侍従は当たり前のようにドアを開けてくれた。
ヴェルターはノックにもドアの開閉にも顔を上げず、執務机の書類に目を落としていた。綺麗な顔の眉間に皺が寄っていた。忙しいのだろう。リティアは早くも立ち寄ったことを後悔した。事前に連絡すれば良かったのだが、そうすれば必ず寄らなければならなくなり、かつ正式な訪問になる。つまるところ、少し、ほんの少しだが、寄らずに済めば……という逃げ道を残しておいたのだった。
ドアが開いたのに何も言わないことにしびれをきらしたのか、ヴェルターは視線も上げずに言い放った。
「今は、一人にしてくれと言わなかったか」
低い声だった。
「ご、ごめんなさい。あの、直ぐに出て行くわ」
リティアが謝罪すると、ヴェルターはぱっと顔を上げた。ヴェルターの目はそこにいるのがリティアであることを認識し、一瞬眉間の皺はさらに深くなった。
「ああ、驚いた。君だったのか」
そう言って向けられたのは、いつもの――柔らかな笑顔だった。来るんじゃなかった。リティアはそう思った。目の前にいるのがリティアだとわかるとヴェルターの眉間の皺がほんの一瞬だがさらに深くなったのをリティアは見逃さなかった。
「すぐに、お茶の用意をさせよう」
ヴェルターはにこやかな表情を保ったまま椅子から立ち上がった。リティアは直ぐに、視線を外されたのだと気が付いた。
「いいえ、ヴェルター、少し、顔を見に来ただけだから」
ヴェルターはリティアの隣でぴたりと動きを止めたが、前を向いてるリティアとドアに体を向けたヴェルターとでは視線が合うこともなく、リティアはヴェルターがまだ微笑んでいるかを知ることは出来なかった。
「そんなわけにはいかないよ、リティ。ゆっくりしていってくれ」
ヴェルターの声から、感情を読み取ることは出来なかった。だが、リティアはいつものヴェルターの社交辞令に従ったことを後悔していた。通じないやつだと思われている気がした。
ヴェルターの勧めてくれる椅子に腰を落とすのも憚られたが、こうなればヴェルターもリティアに対応するつもりなのだろう。
「忙しかったんじゃないの、ヴェル」
「なぁに、君の訪問ならいつでも歓迎だよ」
ヴェルターはにこやかに返す。
「……うそつき」
「え……? 」
「いえ、何も。無理はしないでね」
「うん。ありがとう。どのみち、そろそろ休憩しろってエアンが煩く言う頃だったんだ」
「そう? ではちょうど良かったわね」
エアンはヴェルター付きの高位執事であるが、ヴェルターにはっきりと進言できる稀なる存在である。年のころは、ヴェルターと倍ほどちがうくらいのベテラン執事だ。リティアはヴェルターの優しい笑顔を前に、薫り高い紅茶を口に入れた。
いい香り。文句なしに美味しい。ここへ来る時には必ず入れてくれる変わりない味。久しぶりに味わって懐かしい気持ちになる。ふと、まだ楽しかったころの事が思い出された。ほんの数年前、あれ……?
リティアは記憶が部分的に出てきたあたりから、ヴェルターと結婚しない未来を考えて、ついここへは足が遠のいてしまった。だが、ヴェルターはどうだろうか。リティアの態度から悟られ、それから気まずくなった……のではない。
ぼうっと見ていたせいで挨拶が一瞬遅れてしまった。が、詳しい自己紹介は必要なかった。この国でリティアの事を知らない人はいないのだ。
「では」
「ええ、私もすぐに参ります」
シュベリー卿はすぐに行ってしまい、リティアは彼の後ろ姿を追った。そんなリティアに、レオンが耳打ちする。
「はは、リティ。彼すごくミステリアスでかっこいいだろ? 」
リティアはかぁっと頬が熱くなるのを感じた。
「そ、そんなこと。んんっ、確かに素敵だけど、見ない顔だなって思っただけ」
「ああ、何でも彼の母上が東国の出身とかで、顔立ちが異国情緒漂う、雰囲気のある人だ」
「……」
「ま、あんまり見とれないで」
からかうレオンに言い返そうかと思ったが、言い返しても彼を喜ばせるだけだと判断したリティアは別の方法を試すことにした。
「そうね、でもあなたの方が素敵よ、レオン。太陽みたいなその髪、湖みたいに済んだ瞳、皆を明るくさせる性格」
あと、何だっけな。と、リティアは考えた。その悩む仕草にレオンはこれが反撃だと察したらしい。くすくすと笑った。
「わかったよ、リティ。じゃ、本物の太陽によろしくね」
レオンは紳士とはいいがたい幼い仕草でリティアに手を振ってシュベリー卿の後を追った。
「もう、賑やかなんだから」
呆れるやら、変わらない関係にホッとするやらでリティアは微笑んだ。
それにしても、さっきの。シュベリー卿の風貌は、なぜ懐古的な気持ちにさせるのだろうか。一瞬見ただけの彼の姿を思い出しながら長い廊下を歩いた。
すらりと高い背、一つにまとめられた肩より少し長い艶やかな黒髪は青みを帯びていた。切れ長の目から見えた深黒の瞳。……ああ、確かに素敵な人だった。あんな素敵な人なら一度見たら忘れないはず。
そんなことを考えているといつのまにか王太子の執務室の前に到着していた。今までの楽しかった気持ちが少しばかり陰ったが、リティアはすうっと息を吸って気持ちを切り替えた。ヴェルターに会いに来たのだから。リティアに気づいた侍従は当たり前のようにドアを開けてくれた。
ヴェルターはノックにもドアの開閉にも顔を上げず、執務机の書類に目を落としていた。綺麗な顔の眉間に皺が寄っていた。忙しいのだろう。リティアは早くも立ち寄ったことを後悔した。事前に連絡すれば良かったのだが、そうすれば必ず寄らなければならなくなり、かつ正式な訪問になる。つまるところ、少し、ほんの少しだが、寄らずに済めば……という逃げ道を残しておいたのだった。
ドアが開いたのに何も言わないことにしびれをきらしたのか、ヴェルターは視線も上げずに言い放った。
「今は、一人にしてくれと言わなかったか」
低い声だった。
「ご、ごめんなさい。あの、直ぐに出て行くわ」
リティアが謝罪すると、ヴェルターはぱっと顔を上げた。ヴェルターの目はそこにいるのがリティアであることを認識し、一瞬眉間の皺はさらに深くなった。
「ああ、驚いた。君だったのか」
そう言って向けられたのは、いつもの――柔らかな笑顔だった。来るんじゃなかった。リティアはそう思った。目の前にいるのがリティアだとわかるとヴェルターの眉間の皺がほんの一瞬だがさらに深くなったのをリティアは見逃さなかった。
「すぐに、お茶の用意をさせよう」
ヴェルターはにこやかな表情を保ったまま椅子から立ち上がった。リティアは直ぐに、視線を外されたのだと気が付いた。
「いいえ、ヴェルター、少し、顔を見に来ただけだから」
ヴェルターはリティアの隣でぴたりと動きを止めたが、前を向いてるリティアとドアに体を向けたヴェルターとでは視線が合うこともなく、リティアはヴェルターがまだ微笑んでいるかを知ることは出来なかった。
「そんなわけにはいかないよ、リティ。ゆっくりしていってくれ」
ヴェルターの声から、感情を読み取ることは出来なかった。だが、リティアはいつものヴェルターの社交辞令に従ったことを後悔していた。通じないやつだと思われている気がした。
ヴェルターの勧めてくれる椅子に腰を落とすのも憚られたが、こうなればヴェルターもリティアに対応するつもりなのだろう。
「忙しかったんじゃないの、ヴェル」
「なぁに、君の訪問ならいつでも歓迎だよ」
ヴェルターはにこやかに返す。
「……うそつき」
「え……? 」
「いえ、何も。無理はしないでね」
「うん。ありがとう。どのみち、そろそろ休憩しろってエアンが煩く言う頃だったんだ」
「そう? ではちょうど良かったわね」
エアンはヴェルター付きの高位執事であるが、ヴェルターにはっきりと進言できる稀なる存在である。年のころは、ヴェルターと倍ほどちがうくらいのベテラン執事だ。リティアはヴェルターの優しい笑顔を前に、薫り高い紅茶を口に入れた。
いい香り。文句なしに美味しい。ここへ来る時には必ず入れてくれる変わりない味。久しぶりに味わって懐かしい気持ちになる。ふと、まだ楽しかったころの事が思い出された。ほんの数年前、あれ……?
リティアは記憶が部分的に出てきたあたりから、ヴェルターと結婚しない未来を考えて、ついここへは足が遠のいてしまった。だが、ヴェルターはどうだろうか。リティアの態度から悟られ、それから気まずくなった……のではない。
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