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秀抜な男性と偶発的を装った何らかの力が働いた計画的出会い。
第3話ー2
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「リティ? 」
再び名前を呼ばれ、リティアははっと二人を見上げた。
「どうかしたのか? 」
レオンは金髪に碧眼というこの世界ではそう珍しくない髪色と瞳の色にも関わらず、ひときわ目を引いた。華があるのだ。柔らかで話しやすそうな雰囲気。それでいてひとたび剣を持つと人が変わったように凛々しくなると噂で聞いていた。
「ええ。二人、久しぶりだなって懐かしくなっちゃって。その、素敵ねレオン。騎士団の制服姿」
見てみたいな、レオンの剣を持つところ……。
レオンはランハートと違い、感情のまま目を大きく見開くと、リティアではなくランハートの方へバッと音がするくらいの勢いで顔を向けた。ランハートは苦笑いをしてレオンの驚きには答えなかった。
「リティ? しばらく会わない間に雰囲気が変わったな。以前みたいになかなか宮廷にも顔を出さなくなったし」
レオンにまで指摘され、リティアは安易に褒めたことを後悔していた。
「そんなことないわ。久しぶりだからそう思うんじゃない? 」
「うーん。そうか、確かにドレスの趣味が変わったか? えー、ヴェルターの趣味か? あいつに会いに来たんだもんな」
矢継ぎ早になされるレオンの会話に、リティアは一つだけ答えることにした。
「ええ、まあ、そうね」
リティアは、にこり笑顔を作ったがうまく笑えていなかった。加えてレオンは違和感を黙認する性格では無かった。
「なんだ、ヴェルターとうまくいってないのか。それで、宮廷から足が遠ざかっているんだな? 」
ランハートがガンッとレオンの脛を蹴り、レオンはぐっと息を詰めた。きょろきょろと青い瞳を探るように動かし周りに誰もいないことを確認すると息を吐いた。チッとランハートが咎めるように舌打ちをする。リティアは二人のやり取りにくすくす笑った。
「ヴェルターとリティアの関係にうまくいくも何もないだろう」
ランハートが声を低くして最もなことを言う。それはそうだ。二人は恋人ではなく王国の大人たちが対外的に判断し、決めた婚約者なのだから。でも、とレオンは反論したが、リティアもランハートに同意した。
「ええ、そんなことはないわよ、レオン。彼とはちゃんと定期的に会ってるわ」
「ということは……」
レオンは分析するように顎に手を当てて考えている。そして、ぱっと気が付いたように綺麗な瞳をリティアに向けた。
「ヴェルターは変わらずリティに会いに行ってるのに、リティはそうじゃないってことだ! 」
「……レオ! 」
ランハートが制止し、レオンはわかったよと肩をすくめた。
「ま、何かあるなら男女の事はランより俺に相談すべきだね」
「まだ、何も言ってないだろ、憶測で口を開くな」
「何だよ、ラン。お前も引く手あまただってのに誰にもなびかないと俺の耳にまで届いてるぞ? 」
「お前が軽薄すぎるんだ」
二人が言いあっている間にリティアは大反省をしていた。些細な事だと思っていた自分の言動に久しぶりに会った人まで気づかれたのだ。ヴェルターへの気持ちが冷めたのではない。冷める冷めないの感情は元々持ち合わせていないのだ。ここは、否定すべきところだが、ヴェルターに感情があると思われてしまえば、婚約破棄後、自分に向けられるのは多大なる同情心だろう。憐れに思われてしまえば、この気のおけない友人たちは表向きは王家に忠誠を誓っているが、友人としてはヴェルターをなじり、ヴェルターも心を痛めるだろう。そんなことは望んでいなかった。
優しい人たちに自分のために心を痛めて欲しくなかった。リティアはどうしたものかと考えあぐね、二人の会話に微笑むにとどめていた。
「リティ、止めて悪かったね。早く行かないと。彼が待っているだろう」
ランハートがそっと視線をヴェルターがいるだろう方向へ向けた。特に約束はしてないって、そう言いかけたのを飲み込んだ。もう余計なことは言わない方がいい。
「ああ、じゃあ、ここからは俺が送るよ」
ランハートの代わりにレオンが腕を差し出し、
「ええ、では失礼するわね。ありがとう、ラン」
リティアが礼を言うとランハートは、少しばかり心配そうな目でリティアを追ったあと背を向けた。
「リティ、本当に何かあったなら……」
レオンは口を開いたが、前から来る人影にそこで言葉を止めた。
「大丈夫よ、レオ。本当に」
事実、リティアはこの上なく大丈夫だった。レオンはリティアの言葉に素直に笑顔を向けた。
「フリューリング卿」
すっと横に避けたその人はレオンに用があるようで、リティアは遠慮することにした。
「レオ、ここからは大丈夫。ありがとう」
「ああ。じゃあ、失礼するよ。おっと、その前に」
レオンは側に立っていたレオンと同じ制服の男性に視線を移した。それに気づいた男性が
「私は先に行っていましょう」
と顔を上げたのをレオンがいや、と制止した。
「紹介、まだだったから。こちらは、ウォルフリック・シュベリー卿。私たちとは年も近い」
リティアは言われて、自己紹介をしようとすると目の前の男性が先に礼を尽くした。
「初めまして、オリブリュス嬢」
どこか、懐かしさを感じさせる人だった。
再び名前を呼ばれ、リティアははっと二人を見上げた。
「どうかしたのか? 」
レオンは金髪に碧眼というこの世界ではそう珍しくない髪色と瞳の色にも関わらず、ひときわ目を引いた。華があるのだ。柔らかで話しやすそうな雰囲気。それでいてひとたび剣を持つと人が変わったように凛々しくなると噂で聞いていた。
「ええ。二人、久しぶりだなって懐かしくなっちゃって。その、素敵ねレオン。騎士団の制服姿」
見てみたいな、レオンの剣を持つところ……。
レオンはランハートと違い、感情のまま目を大きく見開くと、リティアではなくランハートの方へバッと音がするくらいの勢いで顔を向けた。ランハートは苦笑いをしてレオンの驚きには答えなかった。
「リティ? しばらく会わない間に雰囲気が変わったな。以前みたいになかなか宮廷にも顔を出さなくなったし」
レオンにまで指摘され、リティアは安易に褒めたことを後悔していた。
「そんなことないわ。久しぶりだからそう思うんじゃない? 」
「うーん。そうか、確かにドレスの趣味が変わったか? えー、ヴェルターの趣味か? あいつに会いに来たんだもんな」
矢継ぎ早になされるレオンの会話に、リティアは一つだけ答えることにした。
「ええ、まあ、そうね」
リティアは、にこり笑顔を作ったがうまく笑えていなかった。加えてレオンは違和感を黙認する性格では無かった。
「なんだ、ヴェルターとうまくいってないのか。それで、宮廷から足が遠ざかっているんだな? 」
ランハートがガンッとレオンの脛を蹴り、レオンはぐっと息を詰めた。きょろきょろと青い瞳を探るように動かし周りに誰もいないことを確認すると息を吐いた。チッとランハートが咎めるように舌打ちをする。リティアは二人のやり取りにくすくす笑った。
「ヴェルターとリティアの関係にうまくいくも何もないだろう」
ランハートが声を低くして最もなことを言う。それはそうだ。二人は恋人ではなく王国の大人たちが対外的に判断し、決めた婚約者なのだから。でも、とレオンは反論したが、リティアもランハートに同意した。
「ええ、そんなことはないわよ、レオン。彼とはちゃんと定期的に会ってるわ」
「ということは……」
レオンは分析するように顎に手を当てて考えている。そして、ぱっと気が付いたように綺麗な瞳をリティアに向けた。
「ヴェルターは変わらずリティに会いに行ってるのに、リティはそうじゃないってことだ! 」
「……レオ! 」
ランハートが制止し、レオンはわかったよと肩をすくめた。
「ま、何かあるなら男女の事はランより俺に相談すべきだね」
「まだ、何も言ってないだろ、憶測で口を開くな」
「何だよ、ラン。お前も引く手あまただってのに誰にもなびかないと俺の耳にまで届いてるぞ? 」
「お前が軽薄すぎるんだ」
二人が言いあっている間にリティアは大反省をしていた。些細な事だと思っていた自分の言動に久しぶりに会った人まで気づかれたのだ。ヴェルターへの気持ちが冷めたのではない。冷める冷めないの感情は元々持ち合わせていないのだ。ここは、否定すべきところだが、ヴェルターに感情があると思われてしまえば、婚約破棄後、自分に向けられるのは多大なる同情心だろう。憐れに思われてしまえば、この気のおけない友人たちは表向きは王家に忠誠を誓っているが、友人としてはヴェルターをなじり、ヴェルターも心を痛めるだろう。そんなことは望んでいなかった。
優しい人たちに自分のために心を痛めて欲しくなかった。リティアはどうしたものかと考えあぐね、二人の会話に微笑むにとどめていた。
「リティ、止めて悪かったね。早く行かないと。彼が待っているだろう」
ランハートがそっと視線をヴェルターがいるだろう方向へ向けた。特に約束はしてないって、そう言いかけたのを飲み込んだ。もう余計なことは言わない方がいい。
「ああ、じゃあ、ここからは俺が送るよ」
ランハートの代わりにレオンが腕を差し出し、
「ええ、では失礼するわね。ありがとう、ラン」
リティアが礼を言うとランハートは、少しばかり心配そうな目でリティアを追ったあと背を向けた。
「リティ、本当に何かあったなら……」
レオンは口を開いたが、前から来る人影にそこで言葉を止めた。
「大丈夫よ、レオ。本当に」
事実、リティアはこの上なく大丈夫だった。レオンはリティアの言葉に素直に笑顔を向けた。
「フリューリング卿」
すっと横に避けたその人はレオンに用があるようで、リティアは遠慮することにした。
「レオ、ここからは大丈夫。ありがとう」
「ああ。じゃあ、失礼するよ。おっと、その前に」
レオンは側に立っていたレオンと同じ制服の男性に視線を移した。それに気づいた男性が
「私は先に行っていましょう」
と顔を上げたのをレオンがいや、と制止した。
「紹介、まだだったから。こちらは、ウォルフリック・シュベリー卿。私たちとは年も近い」
リティアは言われて、自己紹介をしようとすると目の前の男性が先に礼を尽くした。
「初めまして、オリブリュス嬢」
どこか、懐かしさを感じさせる人だった。
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