悪女さま、手筈は整えております

西原昂良

文字の大きさ
7 / 60
秀抜な男性と偶発的を装った何らかの力が働いた計画的出会い。

第3話ー2

しおりを挟む
「リティ? 」
 再び名前を呼ばれ、リティアははっと二人を見上げた。
「どうかしたのか? 」
 レオンは金髪に碧眼というこの世界ではそう珍しくない髪色と瞳の色にも関わらず、ひときわ目を引いた。華があるのだ。柔らかで話しやすそうな雰囲気。それでいてひとたび剣を持つと人が変わったように凛々しくなると噂で聞いていた。

「ええ。二人、久しぶりだなって懐かしくなっちゃって。その、素敵ねレオン。騎士団の制服姿」

 見てみたいな、レオンの剣を持つところ……。

 レオンはランハートと違い、感情のまま目を大きく見開くと、リティアではなくランハートの方へバッと音がするくらいの勢いで顔を向けた。ランハートは苦笑いをしてレオンの驚きには答えなかった。

「リティ? しばらく会わない間に雰囲気が変わったな。以前みたいになかなか宮廷にも顔を出さなくなったし」
 レオンにまで指摘され、リティアは安易に褒めたことを後悔していた。

「そんなことないわ。久しぶりだからそう思うんじゃない? 」
「うーん。そうか、確かにドレスの趣味が変わったか? えー、ヴェルターの趣味か? あいつに会いに来たんだもんな」
 矢継ぎ早になされるレオンの会話に、リティアは一つだけ答えることにした。

「ええ、まあ、そうね」
 リティアは、にこり笑顔を作ったがうまく笑えていなかった。加えてレオンは違和感を黙認する性格では無かった。

「なんだ、ヴェルターとうまくいってないのか。それで、宮廷から足が遠ざかっているんだな? 」
 ランハートがガンッとレオンの脛を蹴り、レオンはぐっと息を詰めた。きょろきょろと青い瞳を探るように動かし周りに誰もいないことを確認すると息を吐いた。チッとランハートが咎めるように舌打ちをする。リティアは二人のやり取りにくすくす笑った。

「ヴェルターとリティアの関係にうまくいくも何もないだろう」
 ランハートが声を低くして最もなことを言う。それはそうだ。二人は恋人ではなく王国の大人たちが対外的に判断し、決めた婚約者なのだから。でも、とレオンは反論したが、リティアもランハートに同意した。

「ええ、そんなことはないわよ、レオン。彼とはちゃんと定期的に会ってるわ」
「ということは……」
 レオンは分析するように顎に手を当てて考えている。そして、ぱっと気が付いたように綺麗な瞳をリティアに向けた。
「ヴェルターは変わらずリティに会いに行ってるのに、リティはそうじゃないってことだ! 」
「……レオ! 」
 ランハートが制止し、レオンはわかったよと肩をすくめた。
「ま、何かあるなら男女の事はランより俺に相談すべきだね」
「まだ、何も言ってないだろ、憶測で口を開くな」
「何だよ、ラン。お前も引く手あまただってのに誰にもなびかないと俺の耳にまで届いてるぞ? 」
「お前が軽薄すぎるんだ」

 二人が言いあっている間にリティアは大反省をしていた。些細な事だと思っていた自分の言動に久しぶりに会った人まで気づかれたのだ。ヴェルターへの気持ちが冷めたのではない。冷める冷めないの感情は元々持ち合わせていないのだ。ここは、否定すべきところだが、ヴェルターに感情があると思われてしまえば、婚約破棄後、自分に向けられるのは多大なる同情心だろう。憐れに思われてしまえば、この気のおけない友人たちは表向きは王家に忠誠を誓っているが、友人としてはヴェルターをなじり、ヴェルターも心を痛めるだろう。そんなことは望んでいなかった。

 優しい人たちに自分のために心を痛めて欲しくなかった。リティアはどうしたものかと考えあぐね、二人の会話に微笑むにとどめていた。

「リティ、止めて悪かったね。早く行かないと。彼が待っているだろう」
 ランハートがそっと視線をヴェルターがいるだろう方向へ向けた。特に約束はしてないって、そう言いかけたのを飲み込んだ。もう余計なことは言わない方がいい。
「ああ、じゃあ、ここからは俺が送るよ」
 ランハートの代わりにレオンが腕を差し出し、
「ええ、では失礼するわね。ありがとう、ラン」
 リティアが礼を言うとランハートは、少しばかり心配そうな目でリティアを追ったあと背を向けた。

「リティ、本当に何かあったなら……」
 レオンは口を開いたが、前から来る人影にそこで言葉を止めた。
「大丈夫よ、レオ。本当に」
 事実、リティアはこの上なく大丈夫だった。レオンはリティアの言葉に素直に笑顔を向けた。

「フリューリング卿」
 すっと横に避けたその人はレオンに用があるようで、リティアは遠慮することにした。
「レオ、ここからは大丈夫。ありがとう」
「ああ。じゃあ、失礼するよ。おっと、その前に」
 
 レオンは側に立っていたレオンと同じ制服の男性に視線を移した。それに気づいた男性が
「私は先に行っていましょう」
 と顔を上げたのをレオンがいや、と制止した。
「紹介、まだだったから。こちらは、ウォルフリック・シュベリー卿。私たちとは年も近い」
 
 リティアは言われて、自己紹介をしようとすると目の前の男性が先に礼を尽くした。
「初めまして、オリブリュス嬢」

 どこか、懐かしさを感じさせる人だった。
 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...