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国境シュテンヘルムへ。
第5話ー6(紅の女王)
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宮殿の案内が終わるとアデルモは、
「このシュテンヘルムはなかなかに美人が多い。君たちも今日が終わるとゆっくりしていくといい。羽目も多少は外さないとな」
と若い青年たちに声を掛けた。
「叔父上、……まったく。女性に慣れてらっしゃらないのかと心配しましたのに」
「わはは、素晴らしい女性ばかりで選べんのだ」
夫婦の寝室は妻しか入れないが、といったとこか。ヴェルターは安心したように呆れたようにため息をはいた。
「まったく」
「ヴェルター、お前の方が結婚は早いかもしれないな」
そう言われて、ヴェルターはうかつにも体を強張らせてしまった。一瞬の出来事だったが勘のいいアデルモには気づかれてしまった。
「何だ。リティア嬢とうまくいってないのか? 」
「そんなわけないじゃないですか」
ヴェルターは半ば自分に言い聞かせるように言った。
「……そうか。お前たちは幼馴染だからな、男女の意識がなかなか変わらないのかもしれないな」
「いえ、そういうわけでは」
「ん、じゃあ、体の相性か? 」
「叔父上! 結婚もしていないのにそんなわけないでしょう! 」
「は、ううむ。まだなのか? 」
ヴェルターはカッと顔を赤くした。
「婚約者は結婚するまで関係は持てないのか? いや、でもお前たちは恋人でもあるんじゃないのか? 」
マルティンはまた話を振られては困ると聞いてない振りをした。もっとも、聞いていいのかわからない話ではある。
「とにかく、私とリティアはまだ、ごほん、慎重に、結婚してからで構いません」
「そうか。まぁ、もう一年てところだもんな。元気か、リティア嬢は」
「……ええ、元気ですよ」
元気か聞かれただけだ、元気と応えればよいものを。ヴェルターは自分の未熟さを疎む。返答に一拍置いてしまった。
「そうか。ならいい。私はお前の幸せを祈ってる。聞き分けが良いのもお兄ちゃんとしては心配なのだ」
「大丈夫です。大丈夫ですよ、僕とリティアは」
ヴェルターは自分に言い聞かせるように、半ば懇願するようにその言葉を言った。
「そうか、それならいいんだ」
アデルモは理解ある大人のように頷いた。
しばし、静かな空気が流れたが
「まぁ、俺に男女のことはわからん。だが寝所のことなら聞いてくれ」
と言ってヴェルターに睨まれたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
隣国の王女アン=ソフィ・ラゥルウント一行は驚くほど軽装でやってきた。女王を入れて僅か数人だ。武器を持つ者はたった一人しかいない。あとは侍従だ。
鮮やかな紅い髪、意思の強そうなきゅっと上がった目じり。髪と同じ色の長い睫毛に縁どられた瞳は初めて見る美しい宝石のような深紫。その場にいた誰もが息をのんだのがわかった。ものすごい美人だ。
「紹介しよう、アン。私の甥であるヴェルターだ。横はマルティン。それから……」
と、こちらの騎士もすべて紹介が終わるとアデルモはヴェルターたちに挨拶の間も与えずに続けた。
「私の友人のアンだ。目を見張るほどの美人だろう? それからペール」
「よろしく」
アンだと紹介されたアン=ソフィ・ラゥルウントは、にこやかに微笑んだ。
ペールと呼ばれた男は大柄で唇から顎にかけて傷があった。この男、ペール=オロフは寡黙で近寄りがたい雰囲気だった。相手にこう出られてはこちらも大仰な挨拶は出来ず、ヴェルターは彼女の手を取るべきか思い悩み、一歩進んだ時だった。ぞわり、身の毛だつほどの殺気に、騎士たちは剣に手を掛けた。アンの制止が無ければ誰かは剣を抜いていただろう。
「ペール、止めてちょうだい。ごめんなさいね。あなた方があまりに、ふふ、精鋭揃いなものだから。殺気立ってしまったようね」
相当の手練れであることがわかった。だからこそ剣を持つのはペール一人だけなのだろう。
「ヴェルター様。お願いがございます」
アンのいきなりの本題に、ヴェルターはごくり、喉を鳴らした。が、すぐに拍子抜けすることになった。
「王都、ルーイヒを見せていただきたいのです。そこで、王都育ちのあなたに案内をお願いできないかと思いまして」
要求事態は簡単なものである。ただ、わざわざ直接王太子であるヴェルターに頼むという事は別の意図もあるのだろうか。あまり、深読みが相手に伝わってはまずいとヴェルターは快諾をした。
「ええ。勿論です。ですが、それでしたら国賓として正式にご招待いたしますが」
「国賓でしたら自由がきかないでしょう? 」
「自由、ですか? 」
「そう。例えば、勉強の時間なんかでも親が見に来るってわかってたら子供はいい子にしているものでしょう? 」
「なるほど。ありのままの姿が見たいということですね」
「そういうこと。ああ、でもあなたの容姿は目立つわね」
ヴェルターは一目で王族だとわかる外見をしている。それを差し引いても浸透した気品ある立ち居振る舞いで平凡な人間には見えないだろう。だが、アンほどではないだろうとヴェルターは複雑な心境だった。
「瞳の色は向かい合わない限りそこまで目立たないわ。問題は髪ね。フードで隠せるにしても限界があるわね。色、変えましょうか。目立たない色ってブラウンかしら」
「黒……」
ヴェルターは無意識にそう言っていた。アンが、はて、と首を傾げてヴェルターを見つめた。……黒は比較的珍しい色だった。
「このシュテンヘルムはなかなかに美人が多い。君たちも今日が終わるとゆっくりしていくといい。羽目も多少は外さないとな」
と若い青年たちに声を掛けた。
「叔父上、……まったく。女性に慣れてらっしゃらないのかと心配しましたのに」
「わはは、素晴らしい女性ばかりで選べんのだ」
夫婦の寝室は妻しか入れないが、といったとこか。ヴェルターは安心したように呆れたようにため息をはいた。
「まったく」
「ヴェルター、お前の方が結婚は早いかもしれないな」
そう言われて、ヴェルターはうかつにも体を強張らせてしまった。一瞬の出来事だったが勘のいいアデルモには気づかれてしまった。
「何だ。リティア嬢とうまくいってないのか? 」
「そんなわけないじゃないですか」
ヴェルターは半ば自分に言い聞かせるように言った。
「……そうか。お前たちは幼馴染だからな、男女の意識がなかなか変わらないのかもしれないな」
「いえ、そういうわけでは」
「ん、じゃあ、体の相性か? 」
「叔父上! 結婚もしていないのにそんなわけないでしょう! 」
「は、ううむ。まだなのか? 」
ヴェルターはカッと顔を赤くした。
「婚約者は結婚するまで関係は持てないのか? いや、でもお前たちは恋人でもあるんじゃないのか? 」
マルティンはまた話を振られては困ると聞いてない振りをした。もっとも、聞いていいのかわからない話ではある。
「とにかく、私とリティアはまだ、ごほん、慎重に、結婚してからで構いません」
「そうか。まぁ、もう一年てところだもんな。元気か、リティア嬢は」
「……ええ、元気ですよ」
元気か聞かれただけだ、元気と応えればよいものを。ヴェルターは自分の未熟さを疎む。返答に一拍置いてしまった。
「そうか。ならいい。私はお前の幸せを祈ってる。聞き分けが良いのもお兄ちゃんとしては心配なのだ」
「大丈夫です。大丈夫ですよ、僕とリティアは」
ヴェルターは自分に言い聞かせるように、半ば懇願するようにその言葉を言った。
「そうか、それならいいんだ」
アデルモは理解ある大人のように頷いた。
しばし、静かな空気が流れたが
「まぁ、俺に男女のことはわからん。だが寝所のことなら聞いてくれ」
と言ってヴェルターに睨まれたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
隣国の王女アン=ソフィ・ラゥルウント一行は驚くほど軽装でやってきた。女王を入れて僅か数人だ。武器を持つ者はたった一人しかいない。あとは侍従だ。
鮮やかな紅い髪、意思の強そうなきゅっと上がった目じり。髪と同じ色の長い睫毛に縁どられた瞳は初めて見る美しい宝石のような深紫。その場にいた誰もが息をのんだのがわかった。ものすごい美人だ。
「紹介しよう、アン。私の甥であるヴェルターだ。横はマルティン。それから……」
と、こちらの騎士もすべて紹介が終わるとアデルモはヴェルターたちに挨拶の間も与えずに続けた。
「私の友人のアンだ。目を見張るほどの美人だろう? それからペール」
「よろしく」
アンだと紹介されたアン=ソフィ・ラゥルウントは、にこやかに微笑んだ。
ペールと呼ばれた男は大柄で唇から顎にかけて傷があった。この男、ペール=オロフは寡黙で近寄りがたい雰囲気だった。相手にこう出られてはこちらも大仰な挨拶は出来ず、ヴェルターは彼女の手を取るべきか思い悩み、一歩進んだ時だった。ぞわり、身の毛だつほどの殺気に、騎士たちは剣に手を掛けた。アンの制止が無ければ誰かは剣を抜いていただろう。
「ペール、止めてちょうだい。ごめんなさいね。あなた方があまりに、ふふ、精鋭揃いなものだから。殺気立ってしまったようね」
相当の手練れであることがわかった。だからこそ剣を持つのはペール一人だけなのだろう。
「ヴェルター様。お願いがございます」
アンのいきなりの本題に、ヴェルターはごくり、喉を鳴らした。が、すぐに拍子抜けすることになった。
「王都、ルーイヒを見せていただきたいのです。そこで、王都育ちのあなたに案内をお願いできないかと思いまして」
要求事態は簡単なものである。ただ、わざわざ直接王太子であるヴェルターに頼むという事は別の意図もあるのだろうか。あまり、深読みが相手に伝わってはまずいとヴェルターは快諾をした。
「ええ。勿論です。ですが、それでしたら国賓として正式にご招待いたしますが」
「国賓でしたら自由がきかないでしょう? 」
「自由、ですか? 」
「そう。例えば、勉強の時間なんかでも親が見に来るってわかってたら子供はいい子にしているものでしょう? 」
「なるほど。ありのままの姿が見たいということですね」
「そういうこと。ああ、でもあなたの容姿は目立つわね」
ヴェルターは一目で王族だとわかる外見をしている。それを差し引いても浸透した気品ある立ち居振る舞いで平凡な人間には見えないだろう。だが、アンほどではないだろうとヴェルターは複雑な心境だった。
「瞳の色は向かい合わない限りそこまで目立たないわ。問題は髪ね。フードで隠せるにしても限界があるわね。色、変えましょうか。目立たない色ってブラウンかしら」
「黒……」
ヴェルターは無意識にそう言っていた。アンが、はて、と首を傾げてヴェルターを見つめた。……黒は比較的珍しい色だった。
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