30 / 60
疑似恋愛
第7話ー2
しおりを挟む
「私は使ったことがないのに、人に、ましてや意中の人に勧めることは出来ないよ」
リティアは、“真面目か”と言いたくなるのをぐっと吞み込んだ。そうだ、と自分の持ってきたオイル瓶の蓋を開けると、ウォルフリックに手を出すように言った。ウォルフリックの騎士らしい手の平に数滴たらすと自身も手に取った。
ウォルフリックは手を受けたもののどうしていいかわからないといった様子で、手に擦り込むリティアをじっと見ていた。
「ウォル? オイルが垂れてしまうわよ」
「え、ああ。うわ、ど、思ったよりベタベタぬるぬるする」
「肌馴染みがいいオイルだからしばらく擦り込んでたらしっとりしてくるから」
「こう? 」
手を擦り合わすウォルフリックが小動物のようでリティアは吹き出す。
「ええ。指の間も、この水かきのところね。爪の生え際も」
「リティア、やはり少し量が多かったのでは? 」
なかなか肌に馴染まないようでウォルフリックは真剣に刷り込んでいた。
「ふふふ、ウォル、そんなに怖い顔で刷り込まなくても。多かったなら私に分けて。あら、このあたりもう少し伸ばした方がいいんじゃないかしら」
「ああ、申し訳ない」
リティアは何も考えずにウォルフリックの手を取り、余ったオイルを引き受け、ウォルフリックの塗り残した部分にオイルを自らの手で擦りこんだ。ウォルフリックもリティアのその行動に疑問を持たずにされるがままであった。が、数秒後、はた、と目を合わせた二人は慌てて背を向けた。
「ごめんなさい。はしたないことを」
「いや、こちらこそ」
二人はそれぞれに息を整えると向きなおった。
「ほんとうにごめんなさい。べルティーナ嬢に見られたら誤解されるところだったわ」
リティアはきょろきょろ周りを見渡した。幸い、近くに人はいないようだった。
「いや、私こそ。それこそ冗談でなく殿下に決闘を申し込まれるところだ」
ウォルフリックの言葉に、今度はリティアも笑えなかった。リティアは誰にも見られていなくてよかった、と自分の意識の低さを恥じ、人の恋路に浮かれているからだと自分を戒めた。が、誰にも見られていないわけではなかったらしい。
「君たち、ここで逢引きするのはお勧めしないなぁ」
後ろから声を掛けられて、リティアは飛び上がり、ウォルフリックの顔はさっと青ざめた。
「ふ、ははは! そんなに驚かなくても」
「レオン! 」
声の主はリティアには笑顔を、ウォルフリックには騎士同士の挨拶をした。
「誤解を招くような行動をして申し訳ないですが、フリューリング卿、私たちは……」
レオンは、わかっている、というようにウォルフリックの言葉を説明は必要ないと手で制止した。そして、ウォルフリックとリティアどちらも手を擦り合わしていることに気が付くと怪訝な目で二人を交互に見た。さすがにこれは説明が必要だ、とリティアは思った。
「手荒れのオイルをね、塗り過ぎちゃって……」
レオンはますます怪訝な目をしたが、二人の手を再び交互に見ると、大きな大きなため息を吐き、おおよそ納得したようだった。
「あー……俺も、ここが切れちゃって、剣持つ時に痛いんだ。良かったら塗っていただけませんか? 」
レオンはそう言ってリティアの方に手を差し出して来た。オイルはもうほとんど残っていなかったが、リティアは形ばかり塗った。
「では、こちらの手はシュベリー卿にお願いして」
レオンは反対の手をウォルフリックに差し出した。それをにこりともしないでやり遂げるのだから、奇妙な光景だった。
「ラン! お前も手が荒れてるって言ってたよな? 」
レオンが声を張り上げた先に、ランハート・ヴェッティンの姿があった。ランハートは忌々しそうに舌打ちをしたが、おもむろにこちらに合流した。
「まあまあ、さ、手を出せ」
レオンはランハートの右手をリティア、左手をウォルフリックに預けた。
「今から書類を持つというのにオイルなど塗ったは紙にシミができるだろうが」
「はは、もうオイルなんて残ってないさ。パフォーマンスさ。わかってるくせに自分だけ通り過ぎようったってそうはいかないぜ。一部始終、聞いてたくせによ」
“く”“せ”“に”“よ”と一文字づつ区切って都度ランハートの胸を叩くもので、ランハートは顔をしかめた。そして、顔をしかめたままくるりとリティアの方へ体を向けると苦言を呈した。
「次期王太子妃が、自ら手を取って侍女のようにオイルを塗る。いかがなものかと」
「申し訳ありません」
リティアは素直に謝った。
「この人通りの多い場所で」
「はい」
リティアはしゅんと俯いた。ランハートの言う通りなのだから何も言えなかった。
「申し訳ございません。私がリティア嬢にアドバイスを求めたせいで。誤解されても仕方がない行為でした」
ウォルフリックはリティアを庇った。ここ最近、ここでリティアと会っていたことも含め、軽率だったと反省の弁を口にした。
うん、とレオンは頷き、ランハートの顔を伺う。ランハートはやれやれと嘆息した。
「いや、大丈夫だ。あなた方の仲を疑う人間はこの王宮にはいない」
レオンは落ち着いた声で言った。
リティアは、“真面目か”と言いたくなるのをぐっと吞み込んだ。そうだ、と自分の持ってきたオイル瓶の蓋を開けると、ウォルフリックに手を出すように言った。ウォルフリックの騎士らしい手の平に数滴たらすと自身も手に取った。
ウォルフリックは手を受けたもののどうしていいかわからないといった様子で、手に擦り込むリティアをじっと見ていた。
「ウォル? オイルが垂れてしまうわよ」
「え、ああ。うわ、ど、思ったよりベタベタぬるぬるする」
「肌馴染みがいいオイルだからしばらく擦り込んでたらしっとりしてくるから」
「こう? 」
手を擦り合わすウォルフリックが小動物のようでリティアは吹き出す。
「ええ。指の間も、この水かきのところね。爪の生え際も」
「リティア、やはり少し量が多かったのでは? 」
なかなか肌に馴染まないようでウォルフリックは真剣に刷り込んでいた。
「ふふふ、ウォル、そんなに怖い顔で刷り込まなくても。多かったなら私に分けて。あら、このあたりもう少し伸ばした方がいいんじゃないかしら」
「ああ、申し訳ない」
リティアは何も考えずにウォルフリックの手を取り、余ったオイルを引き受け、ウォルフリックの塗り残した部分にオイルを自らの手で擦りこんだ。ウォルフリックもリティアのその行動に疑問を持たずにされるがままであった。が、数秒後、はた、と目を合わせた二人は慌てて背を向けた。
「ごめんなさい。はしたないことを」
「いや、こちらこそ」
二人はそれぞれに息を整えると向きなおった。
「ほんとうにごめんなさい。べルティーナ嬢に見られたら誤解されるところだったわ」
リティアはきょろきょろ周りを見渡した。幸い、近くに人はいないようだった。
「いや、私こそ。それこそ冗談でなく殿下に決闘を申し込まれるところだ」
ウォルフリックの言葉に、今度はリティアも笑えなかった。リティアは誰にも見られていなくてよかった、と自分の意識の低さを恥じ、人の恋路に浮かれているからだと自分を戒めた。が、誰にも見られていないわけではなかったらしい。
「君たち、ここで逢引きするのはお勧めしないなぁ」
後ろから声を掛けられて、リティアは飛び上がり、ウォルフリックの顔はさっと青ざめた。
「ふ、ははは! そんなに驚かなくても」
「レオン! 」
声の主はリティアには笑顔を、ウォルフリックには騎士同士の挨拶をした。
「誤解を招くような行動をして申し訳ないですが、フリューリング卿、私たちは……」
レオンは、わかっている、というようにウォルフリックの言葉を説明は必要ないと手で制止した。そして、ウォルフリックとリティアどちらも手を擦り合わしていることに気が付くと怪訝な目で二人を交互に見た。さすがにこれは説明が必要だ、とリティアは思った。
「手荒れのオイルをね、塗り過ぎちゃって……」
レオンはますます怪訝な目をしたが、二人の手を再び交互に見ると、大きな大きなため息を吐き、おおよそ納得したようだった。
「あー……俺も、ここが切れちゃって、剣持つ時に痛いんだ。良かったら塗っていただけませんか? 」
レオンはそう言ってリティアの方に手を差し出して来た。オイルはもうほとんど残っていなかったが、リティアは形ばかり塗った。
「では、こちらの手はシュベリー卿にお願いして」
レオンは反対の手をウォルフリックに差し出した。それをにこりともしないでやり遂げるのだから、奇妙な光景だった。
「ラン! お前も手が荒れてるって言ってたよな? 」
レオンが声を張り上げた先に、ランハート・ヴェッティンの姿があった。ランハートは忌々しそうに舌打ちをしたが、おもむろにこちらに合流した。
「まあまあ、さ、手を出せ」
レオンはランハートの右手をリティア、左手をウォルフリックに預けた。
「今から書類を持つというのにオイルなど塗ったは紙にシミができるだろうが」
「はは、もうオイルなんて残ってないさ。パフォーマンスさ。わかってるくせに自分だけ通り過ぎようったってそうはいかないぜ。一部始終、聞いてたくせによ」
“く”“せ”“に”“よ”と一文字づつ区切って都度ランハートの胸を叩くもので、ランハートは顔をしかめた。そして、顔をしかめたままくるりとリティアの方へ体を向けると苦言を呈した。
「次期王太子妃が、自ら手を取って侍女のようにオイルを塗る。いかがなものかと」
「申し訳ありません」
リティアは素直に謝った。
「この人通りの多い場所で」
「はい」
リティアはしゅんと俯いた。ランハートの言う通りなのだから何も言えなかった。
「申し訳ございません。私がリティア嬢にアドバイスを求めたせいで。誤解されても仕方がない行為でした」
ウォルフリックはリティアを庇った。ここ最近、ここでリティアと会っていたことも含め、軽率だったと反省の弁を口にした。
うん、とレオンは頷き、ランハートの顔を伺う。ランハートはやれやれと嘆息した。
「いや、大丈夫だ。あなた方の仲を疑う人間はこの王宮にはいない」
レオンは落ち着いた声で言った。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる